肺がんの気をつけてほしい初期症状や原因、ステージ(進行度)について
はじめに
肺は、機能的に呼吸を通じて酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する役割を生体内では担っております。
通常では左右にひとつずつあり、心臓が少し左側にあるため、左肺は右肺よりも少し小さい構造になっています。
また、右肺は上葉、中葉、下葉の3つに分かれていて、左肺は上葉、下葉の2つに分岐した構成になっています。
このような構造を呈している肺という臓器に悪性腫瘍が形成される「肺がん」については、がん死亡者数第1位(男性1位、女性2位、男女計1位)の疾患です。
一方で、罹患者数で評価してみると、全体の第3位(男性2位、女性4位、男女計3位)となっています。
これらのことから、肺がんは胃がんや大腸がん、あるいは乳がんなどと比較して早期発見が難しく、発見された際にはすでにかなり進行している状況であることが多いです。
ゆえに、肺がんを早期発見することは重要な観点と考えられます。
肺がんについて
がんの死亡者数の中でも肺がんが最も多い?
これまでの統計より、男性は大体10人にひとり、女性はおよそ21人にひとりの割合で、一生のうちに「肺がん」と診断されています。
肺がんと新たに診断される人の数は年々増加しており、2015年には約11万人(男性 約8万人、女性約3万人)が肺がんと診断されています。
男女別では、男性の方が女性の約2倍程度多く罹患しており、年齢が上昇すればするほど罹患率も高くなり、特に60歳以降になると急激に増加すると指摘されています。
2018年の厚生労働省の報告では、肺がんは日本人のがんによる死亡数の第1位を占めているとのことです。
肺がんは現在のところ世界的に増加傾向にあります。
英国、米国では喫煙率の低下に伴い肺がんの罹患率は減少しはじめている一方で、本邦では年々増加する一途です。
すでに我が国の男性では肺がんは胃がんを抜いて死亡率の最も高いがんになっていて、最近では女性にも増えてきている傾向があります。
ほかの臓器に転移しやすい
肺がんは、腫瘍が認められる患側はもちろんのこと、その反対側の肺実質やその他の臓器である脳、骨、肝臓、副腎、リンパ節などに転移しやすいと考えられています。
転移形態は、肺で構成されたがん細胞が血液やリンパ液の循環に乗じて、他臓器に移動して増殖するために引き起こされます。
しかし、特に肺では多くの血管やリンパ管が構造的に張りめぐらされて存在するため、悪性腫瘍が他の臓器に波及しやすいと考えられます。
肺がんの種類について
肺がんは、その組織型の違いによって、「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分類されています。
その中でも、大多数を占めているのは「非小細胞肺がん」であり、さらに「腺がん」、「扁平上皮がん」、「大細胞がん」に分けられています。
腺がん
腺がんというのは、唾液が分泌される唾液腺や胃液を分泌している胃腺など腺組織とよく類似した形状を呈しているがんのタイプであり、多くの場合には肺の比較的末梢に位置する肺野部に認められます。
一般的に、腺がんは女性やタバコを吸わない非喫煙者にできる肺がんの種類であり、その割合は肺がん全体のおよそ半分程度を占めると言われています。
扁平上皮がん
扁平上皮がんは、皮膚や粘膜などを構成する組織である扁平上皮に類似した形状をしているがんのタイプです。
喫煙との関係がとても濃厚とされ、大部分は肺の入口部に近い肺門部に形成されやすく、その割合は肺がん全体のおよそ30%程度を占めます。
大細胞がん
大細胞がんは、腺や扁平上皮などを始めとする身体における正常組織に類似した部分を認めないがんの中で、細胞の大きなタイプを大細胞がんと呼称しています。
多くは腺がんと同様に肺野部に形成されますが、その発症割合は肺がんのなかでも数%を占める程度です。
小細胞がん
小細胞がんは、腺や扁平上皮などを始めとする身体における正常組織に類似した部分を認めないがんの中で細胞の小さなタイプです。
他の組織型と比較して発育成長が速く、他臓器へ転移もしやすいのが特徴的です。
小細胞がんの多くは肺の入口部に近い肺門部に形成されやすく、その割合としては肺がん全体のおよそ10%前後を占めています。
肺がんとなる原因
たばこ
肺がんは一般的に喫煙歴と深い関係にあることが多く、本疾患を予防するうえで禁煙は欠かせません。
何より見逃してはいけない事実として、喫煙は肺がんの危険因子の重要な要素であることです。
喫煙者は非喫煙者と比べて男性で約4倍、女性では3倍近く肺がんになりやすいと言われています。
さらに、喫煙行為を始めた年齢が若ければ若いほど、また喫煙量が多ければ多いほど肺がんを発症するリスクが高くなります。
そして、受動喫煙(周囲に流れるたばこの煙を吸うこと)も肺がんのリスクを2~3割程度高めることが知られてきました。
遺伝
肺がんは、通常では肺細胞の遺伝子に傷がつくことで発生すると考えられています。細胞に傷をつける原因は様々ですが、最大の原因としてたばこの影響が指摘されています。
実際のところ、両親や兄弟、近い親戚などに肺がん発症者がいると、本人も肺がんを罹患する危険性が高くなる理由は解明されていません。
一方で、例えば家族の誰かが喫煙していると他の家族もたばこの煙を吸う機会が多くなる、あるいは同居者の受動喫煙などの影響もあって同様の生活習慣を共有しているという環境因子と肺がん発症リスクとの関連性が示されています。
今後は、もともとの体質に関係する遺伝子タイプ、もしくは遺伝子タイプと喫煙習慣などの環境要因との相互研究を進めることで肺がん発症のメカニズムをさらに解明できることが期待されています。
大気汚染
呼吸器系悪性腫瘍のひとつである肺がんの原因はタバコだけではなく、いわゆるPM10やPM2.5などを始めとする大気汚染物質もその発症リスクになると考えられています。
職業的に石綿などに曝露せざるを得ない状況や大気汚染が肺がんを発生するリスクを高めると言われています。
世界保健機関によると、年間でおよそ120万人の死亡が大気汚染という原因が影響して引き起こされており、肺がんで死亡する人の約10%が大気汚染によると推測されています。
今後は、世界レベルで大気汚染濃度を減少する試みに取り組むことで全体的に公衆衛生課題が改善して肺がんの発症リスクを少しでも低下させることが期待されるところです。
女性ホルモン
近年のさまざまな調査研究から、実は「女性ホルモン」が肺がんのリスク因子として有力視されてきています。
例えば、月経期間が長い女性や、エストロゲン補充療法を受けたことのある女性に、肺がんの発症率が高いことが従来から問題視されてきた経緯があり、これらの事実から肺がんにおけるエストロゲンの関連性についての研究が進められました。
その成果があって、現在ではエストロゲンの体内合成にかかわる遺伝子と、特に肺腺がんとの関係や発症の仕組みが解明されつつあります。
エストロゲンというホルモンに関しては高脂血症や高血圧の予防にも役立つ重要な女性ホルモンである一方で、月経期間の長い女性やエストロゲン補充療法を受けた経験がある女性の場合には、通常よりも肺腺がんのリスクが高くなることを忘れないでおきましょう。
肺がんのステージと生存率
肺がんステージ1
肺がんに伴う症状としては、大きく分けて原発巣やリンパ節転移による症状、あるいは遠隔転移に合併する症状に分類することができます。
肺がん自体が他の悪性腫瘍と比較して自覚症状が出現しにくい疾患として代表的です。
特に早期的な段階であるステージ1では無自覚で経過することが多く、時に初期症状として咳や血痰、食欲減退などが認められることがあります。
がんの生存率は、性別、生まれた年、年齢が同じ人と比べどのくらいかで表示されていて、統計的に5年生存率がよく用いられており、がんと診断されてから5年後に生存している割合を意味しています。
この生存率に応じて、治療効果の指標として捉えることが出来ますし、多くのがん疾患において治療して5年間再発しなければ、今後再発する可能性が低くなるという考え方のもとで、5年という基準を設けられています。
ステージ別の肺がん患者さんの5年生存率は、ステージ1で約77%と考えられています。
肺がんステージ2
ステージ2における典型的な症状としては、慢性的な咳嗽、息切れ、血が混じる痰、顔面や頸部領域の腫脹、体重減少などが挙げられます。
ステージ別の肺がん患者さんの5年実測生存率は、ステージ2でおよそ45%程度であると考えられています。
肺がんステージ3
がんがステージ3まで進行してくると、慢性的に継続する咳嗽、胸部から腕や肩にかけての痛み、長期的に続く血痰、声が枯れる嗄声症状などが現れます。
肺がんの腫瘍そのものが大きくなることで咳嗽や血痰などの呼吸器症状、もしくは転移したリンパ節が近傍の反回神経を巻き込むことで嗄声症状が現れることがあります。
これらは主に胸部内でがん病巣が進展することによって引き起こされる徴候であると考えられます。
ステージ別の肺がん患者さんの5年生存率は、ステージ3で約23%と言われています。
肺がんステージ4
がんが最終段階であるステージ4に進行すると、喘鳴、呼吸困難などを引き起こして、さらに悪化進展すると、胸部痛などに加えて骨転移に伴う疼痛症状、あるいは脳転移に合併して出現する痙攣などを代表とする脳神経症状などが認められます。
肺がん自体の予後が他の悪性腫瘍と比較して不良である理由のひとつは、肺がんそのものによって自覚症状が出現しにくいために、がん病巣がある程度進行して有意な症状が出現して初めて医療機関を受診される患者さんが多いためと考えられています。
ステージ別の肺がん患者さんの5年実測生存率は、ステージ4で約6%と極めて低値であるという統計結果が挙げられます。
これまで述べてきたデータから、より早期に治療を開始した人の方が、5年生存率が明らかに高いことが容易に理解できます。
自分も心配だなと思った時の対処方
何科にいけばいい?
肺がんは早期発見が非常に重要な観点となります。
肺がんでは初期症状として、慢性的な咳嗽、痰(特に血痰)、胸痛、呼吸困難などの症状が認められることが知られています。
ゆえに、このような症状を自覚した場合には早期的に呼吸器内科、あるいは呼吸器外科のある病院またはクリニックに受診して、精密検査を受けるように相談しましょう。
検診でがん発覚のきっかけや早期発見
肺がんを事前に予防する手段として「がん検診」は重要な視点となり得ます。
その目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことであり、何よりもがんによる死亡を減少させることに尽きます。
わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」で各種の検診方法が定められています。
その中でも提唱されているように年齢が40歳以上の方は少なくとも1年に1回は肺がん検診を受けてくださいね。
ほとんどの自治体では、検診費用の多くを公費で賄っており、ごく一部の自己負担で検診を受けることが出来る仕組みが整っています。
検診の具体的なプログラムとしては、胸部X線検査、喀痰細胞診および問診が主要項目となります。
特に問診内容では、
- 自覚症状の有無
- 喫煙歴の長さ
- 妊娠の可能性の有無
- 過去の検診の受診状況
などを確認することになります。
したがって、受診した検診の検査結果が「要精密検査(肺がんの疑いあり)」となった場合には、必ず医療機関などで精密検査を受けるように心がけましょう。
病院での検査と治療について
手術
肺がんに対する治療方法を決定する際には、その組織型やがんの進行度(ステージ)、全身状態、年齢、合併症などを総合的に検討します。
手術治療を行う適応は、Ⅰ期、Ⅱ期の非小細胞肺がん、あるいはⅠ期、ⅡA期の小細胞肺がんという風に比較的早期のがん病巣が対象とされており、手術によって悪性腫瘍を切除しきることができると判断された場合に実施されます。
実際に、手術ができるかどうかについては、術前の全身状態を色々な検査結果に基づいて評価し、術後の順調な回復を目指すために術前には1カ月以上の禁煙を提唱されます。
これまでの一般的な手術方法としては、胸部の皮膚表面を20cm程度切開して、肋骨間からアプローチする開胸手術が実施されてきましたが、近年では胸腔鏡を挿入してモニター画面を見ながら進める低侵襲手術が広く普及しています。
化学・放射線治療
一般的に放射線治療とは、高いエネルギーを有する放射線を照射してがん細胞を狙って病巣を消滅させる効果を期待して行う治療法です。
がん自体の進行抑制として積極的に施行されるケースもあれば、末期がんに伴う身体症状の緩和を目的として実施される場合もあります。
特に、全身状態が良好であれば、抗がん薬を投与できると判断される場合には、放射線治療と同時に化学療法を併用して実施することがあります(化学・放射線療法)。
この場合には、放射線治療と抗がん薬治療を同時期に施行したほうが、時期を分けて使用するよりも治療効果が上がると考えられていますが、急性の副作用が出現して治療を継続できない状態に陥る可能性も指摘されています。
薬物治療
薬物治療とは、薬剤を点滴や内服で体内に投与して、がんの増殖を抑制して病巣進展を遅らせる効果を期待して行う治療となります。
体内に投与された薬物は全身を循環するので、肺実質以外の他の臓器に転移を認める際にも効果的ですし、手術や放射線治療などと組み合わせてがんの再発や転移を予防することを目的として実施されるケースもあります。
その治療効果は、X線検査やCT検査などの画像検査、あるいは簡便に血液検査で判定できる腫瘍マーカーなどを測定して判定することが多いです。
通常では、肺がんの薬物療法で主に投与される薬剤としては、大きく分類すると
- 細胞障害性抗がん薬
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
が知られています。
現実的に、どの薬剤を実際に投与するかは肺がんの組織分類、病期、全身状態などを総合的に考慮して個々の背景によって判断されることになります。
西春内科在宅クリニックができる対応
肺がんは、早期発見により十分に治療が可能な病気です。
万が一、検診や人間ドックで肺がんの可能性を疑われた場合は、可能な限り早期的に精密検査を受けられることをお勧めします。
西春内科・在宅クリニックでは、常勤の内科医師の診察により、肺がんの診断、治療をサポートすることが出来ます。また、健康診断も実施しております。
まとめ
日本人の二人に一人ががんになると言われている時代です。
これまでの研究から年間約8万人が罹患してそのうちの7万人が死亡すると言った具合に全体の癌の中でも最も死亡数が多いのが肺がんという病気です。
肺がんの主な原因はタバコです。
喫煙による肺がんの発症リスクは、喫煙しない人と比較して男性で約5倍、女性で概ね3倍程度とされています。
いわゆるタバコには約60種類の発がん物質が含まれており、肺や気管支が繰り返して発癌性物質に暴露されることにより細胞に遺伝子変異が起こり、この遺伝子変異が積み重なると肺がんになると考えられています。
その他にも、受動喫煙、周囲の環境、食生活、放射線、薬品などがリスク因子として挙げられます。
肺がんは現在のところ、多くの癌のなかで男性では死亡原因の第1位、女性では第2位であり、その他の癌腫と比較すると、発見が遅れがちで死亡率も高く、早期発見および予防対策が非常に重視されています。
本人が禁煙するのはもちろんのこと、家族全体で禁煙に取り組みましょう。
そして、普段から規則正しい日常生活を心掛けて、バランスのとれた食事を摂取するように意識して取り組みましょう。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
1)おしえて肺がんのこと:https://oshiete-gan.jp/lung/about/statistic/
2)肺がんには、どんな種類がありますか?:https://p.ono-oncology.jp/
3)肺がん・治療:https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html
監修医師: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)
プロフィール
平成19年に現大阪公立大学医学部医学科を卒業。初期臨床研修修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科勤務、平成26年より国家公務員共済組合連合会大手前病院で勤務、令和3年より同院救急科医長就任。どうぞよろしくお願い致します。
専門分野
救急全般(特に敗血症、播種性血管内凝固症候群、凝固線溶異常関連など)、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
保有資格
日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、厚生労働省認定緩和ケア研修会修了医、厚生労働省認定臨床研修指導医など