虫垂炎の原因や症状について知りたい!治療や手術は?
盲腸として知られている虫垂炎の原因や症状、なってしまった時の治療や手術について紹介します。
目次
虫垂炎になる原因
虫垂は体の右下腹部に位置する臓器で、成人では2-3mm程度の細長い臓器です。
右下腹部にある小腸と大腸のつなぎ目付近には盲腸と呼ばれる大腸の盲端部分が存在しますが、虫垂はその盲腸から細長い袋が垂れ下がるように存在します。
そして、その虫垂に何かしらの原因で炎症がおきる病気を、“(急性)虫垂炎”と呼びます。
急性虫垂炎の発症原因がすべて解明されているわけではありませんが、虫垂が袋状の構造であることが虫垂炎の発症原因の一つとされています。
虫垂の袋状構造は、盲腸方向に開き口があり、反対方向は行き止まりになっているため、開口部が何らかの原因でふさがると虫垂内部の細菌や圧力の逃げ場がなくなります。
その結果、虫垂に細菌感染が起こることで、急性虫垂炎が発症します。
その開口部の閉塞は、典型的にはもともと存在するリンパ組織の過形成や、糞石という便カスの固まりが原因になると言われています。
時に異物や,さらには寄生虫などがその原因になったという報告もあり様々です。
虫垂炎の症状
①腹痛
急性虫垂炎の代表的な症状の一つに腹痛があげられます。
急性虫垂炎で起きる腹痛は、まず臍周囲や心窩部が痛くなると言われています。
そして、時間の経過とともに徐々に右下腹部方向に痛みが移動しながら、徐々に痛みの程度が強くなることが特徴です。
虫垂が存在している部分の痛みが強くなり、右下腹部のMcBurney点(臍と右側腰骨を結ぶ直線上の外側3分の1の点)が特に痛む場所になると言われていますが、実際には個人差が多く痛一概には言えません。
また腹痛の程度は病状の進行と共に徐々に強くなります。
急性虫垂炎は、発症早期には虫垂自体に炎症が起きますが、徐々に虫垂に収まらず徐々に虫垂外に炎症が波及します。
そうすると、限局性腹膜炎という状態になり、歩行時などで腹部に振動が加わる状況になると右下腹部により強い痛みが響くようになります。
これを腹膜刺激兆候といい、重症化のサインです。
さらに炎症が進行すると、虫垂の一部が壊死し破れ、内部にたまった膿が腹腔内に流れ出ることもあります。
この時には、腹部全体に非常に強い痛みが出現する汎発性腹膜炎という状態で、早急な手術加療を必要とする状態です。
このように腹痛は急性虫垂炎にとって最も一般的な症状ですが、その程度や痛む部位は重症度などによっても異なります。
②吐き気・下痢
吐き気や下痢も腹痛と同じく、急性虫垂炎でよく見られる症状の一つです。
吐き気・嘔吐、下痢は虫垂炎発症初期に腹痛と共に出現する場合が多いです。
虫垂炎では腹痛が多いという印象がある虫垂炎ですが、高齢者などでは吐き気や食思不振が初発症状であることもあるため注意が必要です。
ただし、虫垂炎であれば吐き気や下痢が必ずしもあらわれるわけではないため、このような症状がない場合もあります。
③発熱
発熱は腹痛などと共に急性虫垂炎でよくみられる症状の一つです。
軽症の場合は37-38℃程度の発熱で収まる場合もありますが、炎症が高度で虫垂の周囲に膿の固まり(膿瘍)を形成するなどすると38℃以上の高熱が出現する場合もあります。
関連記事:急性腸炎ってなに?ストレスが関係する?原因や症状について
虫垂炎の発症年齢
急性虫垂炎は統計的には10~30歳代に比較的若い世代に最も多く発症すると言われています。
ただ、小児~高齢者までのあらゆる年齢層で起こりうる疾患であり、発症に性差もないと言われています。
小児や高齢者ではうまく症状が訴えられず、気が付いた時には重症化しているということも少なくないため、注意が必要です。
虫垂炎の診察方法
何科に行くべき?
虫垂炎を専門とする科は外科です。
ただし一般の方が、腹痛や発熱の症状から虫垂炎を疑うことは難しいと考えます。
そのため、何か症状が出現した際にはかかりつけの内科や、小児科を受診していただいて構いません。
その際に、どのような症状があるのか、腹痛ならばどのような痛みかなどの詳細を主治医に伝えるようにしてください。
もし虫垂炎が疑われ、専門的治療が必要と考えられる場合は外科に紹介されます。
血液検査
急性虫垂炎の血液検査では、典型的には白血球増多が認められます。
そのほかにも炎症を反映するCRP値が上昇することがあります。
しかし急性虫垂炎に特徴的な採血検査というのがあるわけではなく、身体所見など含めた総合的判断で診断します。
超音波検査
急性虫垂炎の診断において、超音波検査は非常に有効です。
炎症を起こしている虫垂の腫大や、虫垂壁の層構造の変化などから急性虫垂炎を疑うことができます。
また虫垂穿孔を起こしている場合や、周囲に膿瘍形成している場合は、それらも超音波検査で同定することも可能です。
また腹水の有無や、虫垂炎と同様な症状をきたす周辺臓器の疾患を間接的に検査することもできます。
ただし、超音波検査は検査者の技能によって差が出る検査であることや、腹部の脂肪量によっても検査難易度が大きく異なり、肥満体形の方では全く虫垂が観察できないということも少なくありません。
逆に、幼児・小児などでは比較的脂肪量が少なく観察が容易です。
かつ、超音波検査は放射線被ばくの心配がなく、痛みもない検査であるため小児や幼児に対しては超音波検査を第一選択にしている施設も多くあります。
CT検査
CT検査は虫垂炎を診断する際に、もっとも有効と考えられる検査です。
特に造影剤を用いた造影CT検査は信頼度が高く、年齢・性別や体形によらず正確な検査が可能です。
また周辺臓器含めて広い範囲の観察が可能であるため、虫垂炎以外にも疑う疾患がある場合は、それらの判別にも有効で、腹痛の原因精査にはかかせない検査の一つです。
ただしCT検査では放射線被ばくのデメリットがあるため、小児や妊婦などでは検査の適応は慎重に判断することが必要です。
虫垂炎の治療
急性垂炎の治療方法は、大きく分けて①抗生剤を使用して虫垂の炎症を抑える保存療法と、②虫垂切除を行う手術療法の2つがあります。
①抗生剤治療
抗生剤治療は保存療法とも呼ばれ、手術をせずに虫垂炎を治療することです。
症状の程度によって内服抗生剤を用いた外来治療や、点滴抗生剤で治療を行うため入院を要する場合もあります。
多くの虫垂炎では治療期間に差はあれど、抗生剤治療で改善が見込めることが分かっています。
ただし、虫垂穿孔をきたしている場合などでは抗生剤治療は不適当となるため、治療方針に決定に際しては重症度を確認する必要があります。
また抗生剤治療では、虫垂の炎症が治まったとしても虫垂自体はお腹の中に残るため、今後再発する可能性などもあるため注意が必要です。
②手術
虫垂切除を行う手術方法には、小さい傷で特殊な器具を用いて行う腹腔鏡下手術と、お腹を開けて行う開腹手術の2つがあります。
また手術を行うタイミングも発症早期ではなく、いったん保存加療で虫垂の炎症を落ち着けたのち、期間を空けて手術を行う方法をとることがあります。
これは炎症が強い場合や膿瘍形成している場合などでよく選択され、手術で起きる合併症発生率を下げるためです。
各治療方針には各々メリットデメリットがあるため、治療方針決定の際には主治医とよく相談する必要があります。
①腹腔鏡手術
全身麻酔をかけて行う手術です。
お腹に2-3㎝程度の傷が数個つくだけであり、患者さんにかかる負担が少ない、術後の痛みが少ない、術後の美容面でも傷跡が残りにくいというメリットがあります。
かつては開腹手術が主流でしたが、近年は腹腔鏡手術が主流です。
ただし腹腔鏡手術を行う場合は、特殊は装置が必要になり術者にもそれ相応の技術が求められるため、すべての施設で行うことが出来る手術ではありません。
また、虫垂の炎症が強く周辺臓器と強固な癒着を形成しているときなどは、手術難易度があがるだけでなく、周辺臓器損傷の危険性もあり腹腔鏡手術は適しません。
②開腹手術
開腹手術は腰椎麻酔(下半身麻酔)で行う場合と、全身麻酔をかけて行う場合があります。
かつての虫垂切除術と言えば、右の下腹部を斜めに約3~4cm切って行う手術が一般的で、虫垂炎の炎症が軽い場合では腰椎麻酔で手術を施行することは可能です。
ただし汎発性腹膜炎という重症腹膜炎が疑われる場合、周辺臓器との癒着が疑われる場合などは、虫垂切除だけでなく腹腔内汚染の洗浄や慎重な剥離操作が必要になる場合もあります。
その際は全身麻酔下に大きな開腹手術が必要になる場合もあります。
虫垂炎の手術で伴うかもしれない合併症(10%前後)
急性虫垂炎の手術は簡単な手術だと認識されている場合もありますが、そうとは限りません。
虫垂炎手術の難易度は、患者さんの体形や炎症の程度などによっても様々です。
また手術全般に言えることですが、手術に伴う合併症が起こり得ます。
合併症というのは、手術を行ったことで起きる可能性のある、患者さんにとって不都合な事象の総称です。
具体的な合併症を以下に解説します。
出血
手術を行うため多少なりの出血はあり得ますが、多くは問題にならない程度で、大量に出血し輸血が必要になる場合は極めて稀です。
しかし絶対無いとは言えず、術中術後に輸血が必要になる場合があります。
また、手術自体は順調にすすみ終了したが、術後に再出血し、その止血の為の再手術を行う場合がありますが、これも極めて稀です。
他臓器の損傷
手術中に虫垂以外の腸管(小腸大腸)・膀胱・子宮・卵巣・尿管など周辺臓器を損傷してしまうことです。
炎症が強い場合や、以前にも別の原因で手術されている場合などでは起こりやすいですが、急性虫垂炎の手術においては稀な合併症と考えてください。
創部感染
急性虫垂炎の手術では、虫垂から細菌が漏れ出し、腹腔内が汚染されている場合もあります。
そのような時に手術で作った創部が化膿し膿が出てくる場合があります。
術後すぐに分かることもありますが、1 週間くらいしてから経過してから発症することもあります。
遺残膿瘍
穿孔性虫垂炎など、炎症の程度が強い場合に起こりやすい合併症です。
術後に腹腔内に残った細菌が増殖し、膿の塊となり発熱や腹痛の原因になることがあります。
通常抗生剤の使用により治りますが、時に穿刺などの処置を必要とする場合もあります。
糞瘻形成
切除した虫垂断端が閉じ切らず、そこからお腹の中に便が漏出してしまう合併症です。
治療には絶食や必要となる場合や、再手術が必要になる場合もあります。
虫垂炎になったときの入院期間
入院期間は、虫垂炎の程度によって様々です。
保存加療を選択した場合は、腹痛発熱などの自覚症状の改善、採血結果の改善を治療効果判定に用います。
おおよそ1-2週間程度の入院を必要とする場合が多いです。
手術加療を行った場合は、炎症が軽い段階で手術を行った場合は回復も早いため、手術後3~5日程度と比較的早期に退院可能です。
しかし、炎症が高度であった場合、虫垂穿孔し腹膜炎を起こしていた場合では回復に時間がかかります。
また正常な排ガス排便などが出来るまで腸管機能が回復することに時間を要することが多く、退院まで1-2週間程度かかります。
仮に合併症起きた場合などではそれに限らず、治癒するまでそれ以上に時間を要する場合もあります。
食物繊維は虫垂炎の予防になる?
急性虫垂炎の原因ははっきりとは解明されておらず、おそらく個々人で発症の原因は異なります。
その中でも比較的多い発症原因として考えられるものに、便のカスの固まり(糞石)が虫垂の開口部をふさいでしまうことが挙げられます。
そのため食物繊維を豊富に摂取して便秘を予防する、腸内環境を正常に保つことが発症予防になると考えられています。
しかし、このことはまだ研究段階であるため、また、はっきりとしたことは言えません。
ただ、食物繊維を摂取するなど健康に良い食生活を意識することは、虫垂炎以外の疾病予防にもつながりますので、ぜひ食生活の乱れが気になる方は意識してみてください。
腹痛に悩む人はCT検査をおすすめ
今回は急性虫垂炎に関して説明させていただきましたが、腹痛の原因となりうる疾患は多岐に渡ります。
また腹痛の原因が異なれば、治療方針も異なるため可能な限り正確に診断することが必要です。
そのため腹痛で悩む方にCT検査はおすすめで、腹痛の原因が急性虫垂炎であるかどうか、別の疾患の可能性があるかないかを網羅的に検査することが可能です。
西春内科在宅クリニックができる対応
西春内科在宅クリニックにはCT機器を導入しており、常勤医にはレントゲンやCT画像の読影の専門家である放射線科専門医がおります。
不安な方はご受診いただけましたら、腹部CT検査により虫垂炎を含む治療が必要な腹部の疾患を正確に診断することが可能です。
もし治療が必要な病変が見つかった場合には、手術可能な外科の診療がある病院をご紹介させていただきます。
まとめ
急性虫垂炎は比較的よく見られる疾患ですが、症状は個人差が多く診断に悩むことも少なくありません。
腹痛を安易に放置すると気が付かない間に重症化することもあるため注意が必要です。
急な腹痛に悩む方は、我慢せずに早めに医療機関に相談し、診察・検査を受けることをお勧めします。
参考文献:
エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017
(日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会編)