高齢者に起きやすい誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)ってどんな病気?熱も出る?

公開日:2022.4.06 更新日:2024.3.06

日本の死因において、肺炎は常に上位に位置する病気です。

高齢者においては、肺炎の中でも誤嚥性肺炎が7割を占めると言われており、とても身近な病気と言えます。早期発見による治療、また誤嚥をしない工夫が大切です。




誤嚥性肺炎(ごんせいはいえん)とは

 

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは、飲食物や唾液を飲み込んだときに気管に入ってしまうこと(誤嚥)で、肺炎を引き起こしてしまった病気のことを指します。

口を開けたとき、呼吸をする空気の通り道も、食べ物の通り道も、一緒であることに疑問を持ったことがある方も多いと思います。

のどの奥は、気管と呼ばれ肺につながる空気専用の管と、胃につながる食道に分かれています。空気は、気管だけでなく、一部は食道や胃にも入るので、ゲップをしてしまうのですが、食べ物がのどを通るときは、のどの奥の神経が察知して、気管の入り口に蓋をし、食べ物が気管に入らないようにしてくれます(嚥下反射)。しかし、誤って空気以外の物が気管に入ってしまうことがあり、それを誤嚥と呼びます。

もし、誤嚥してしまった時には、これまた神経が察知して、咳をするなどして、誤嚥した物を気管の外に出そうとします(咳反射)。いわゆる、むせている状態です。嚥下反射や咳反射の機能が低下することによって、誤嚥しやすくなり、誤嚥によって肺炎を引き起こしてしまった病気を誤嚥性肺炎と呼びます。

 

口腔内の細菌が原因

 

仮に誤嚥してしまっても、誤嚥した物に全く細菌が存在していないのであれば、誤嚥性肺炎にはなりません。しかし、実際にはそのようなことはなく、例えば大人の口腔内には、何百種類の細菌が住み着いており、その数は数千億と言われています。

細菌の中でも、黄色ブドウ球菌や緑膿菌、肺炎桿菌、カンジダ菌、インフルエンザ菌など、体の病気に関わる菌も多数存在しています。

誤嚥した際には、それらの大量の細菌を一緒に肺に取り込むこととなり、肺炎を引き起こしてしまいます。

 

なりやすい人の特徴

寝たきりの高齢者

 

寝たきりの患者さんは、どうしても口の中を清潔に保つのが難しくなってしまいます。

歯磨きをこまめにする人と、全くしない人では、口腔内の細菌の量は10倍前後の差が生まれると言われています。口腔内が清潔に保たれていないと、誤嚥した際には、それらの大量の細菌を一緒に取り入れてしまうこととなり、肺炎を引き起こしてしまいます。

さらに、栄養状態が悪かったり、何らかの理由で免疫が落ちている時などは、誤嚥性肺炎に限らず、細菌に感染しやすくなっているので、より注意が必要です。

 

脳梗塞後遺症の方(嚥下障害)

 

誤嚥を防いでくれる、嚥下反射や咳反射は、脳の神経によってコントロールされています。

脳梗塞になると、梗塞の部位によってはその機能が低下してしまい、誤嚥をしやすくなってしまいます。詳しくは脳梗塞後遺症をご参照ください。

 

パーキンソン病などの神経疾患の方

 

パーキンソン病とは、筋肉の動作の調節が難しくなってしまう病気です。舌など、口の中の筋肉や、咽頭筋と呼ばれる喉の筋肉の動きが悪くなることで、誤嚥を引き起こしやすくなります。

似たような疾患として、レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳基底核変性症などがあげられます。その他、お薬の影響でパーキンソン病と似た状態となってしまう、薬剤性パーキンソニズムなども、誤嚥性肺炎のリスクとなりますので、なりやすい特徴に該当する方は今一度、現在飲んでいるお薬を確認してみましょう。

 

 

誤嚥性肺炎の症状

 

風邪と間違えやすい症状

 

高熱

 

多くの細菌感染症と同様に、誤嚥性肺炎でも発熱が見られます。発熱することで、細菌の増殖が抑えられたり、免疫が活性化するためです。しかし、高齢者の場合は、熱を出す機能そのものが弱っていることもあり、肺炎になっても微熱であったり、熱が出ないこともあります。軽い風邪と油断してしまわないように注意が必要です。

 

激しい咳

 

体の外に細菌を追い出すために、激しい咳がでることがあります。しかし、誤嚥性肺炎になりやすい方の中には、咳反射が衰えている方も多いので、咳が無いからといって肺炎ではないとは言い切れませんので、注意が必要です。

 

黄色いタンが出る

 

肺炎にかかると黄色の痰がみられることがあります。これは、細菌や細菌の死骸、免疫物質などが中に含まれているため、普段とは違う色調の痰が出ます。また、肺炎になると痰の量が増える傾向にありますが、咳反射が衰えている患者さんでは、増えた痰を十分に外に出すことができず、溜まった痰のために、喉の奥の方でゴロゴロと音がしていることがあります。

 

呼吸が苦しい

 

肺炎とは、肺で炎症が起こり、肺の役割を十分に果たせなくなってしまう病気です。肺の主な役割は、体内に酸素を取り込むことですので、肺炎になると十分な酸素を取り込むことができず、呼吸が苦しくなってしまいます。

 

ほかにもこんな症状が

 

元気がない

 

いつもと様子が違うというのは、病気を早くみつけるにあたって大切なポイントの1つです。これまでの医師としての経験においても、「今日は元気がないな」と感じると、翌日発熱し、検査の結果、誤嚥性肺炎であったということは珍しくありません。いつもと違うなと感じたら、注意して様子をみてみてください。

 

食欲がない

 

肺炎のように、体の中で細菌が増えはじめる病気に罹患すると、どんどん体はしんどくなります。普段よりも食欲がないというのも、いつもと様子が違うというサインの1つです。

 

失禁

 

失禁することと誤嚥性肺炎が、直接関係があるわけではないのですが、肺炎になったことで活気が失われ、普段できていた日常生活動作に支障をきたすことがあります。トイレはきちんとできている方が、失禁してしまうことも、いつもと様子が違うサインの1つです。

 

夜中に咳き込む

 

寝ている時であっても唾液は分泌しており、口腔内に溜まった唾液は、無意識に飲み込んでいます。しかし、嚥下反射が衰えることで唾液を誤嚥してしまい、咳き込んでしまいます。睡眠状況によっては、唾液を誤嚥したことに気が付かないこともあり、誤嚥性肺炎になってしまうこともあります。

 

認知症が悪化したなど

 

精神科として勤務していると、高齢者施設のスタッフから「認知症が急に悪化した」と相談を受けることがあります。しかし、一般的な認知症は、ある日突然悪くなることはまれで、ゆっくりと進行することが多い病気です。認知症が急に悪くなったように感じる原因として、何か体の病気が影に隠れている場合があり、その一つが誤嚥性肺炎です。肺炎によってもうろうとし、不可解な言動をしてしまうためです。これらも、いつもと様子が違うサインの1つと言えます。


予防法

 

口腔ケア

 

口腔ケアとは、「歯磨き」のことです。しかし、健康な人が歯磨きをするのと違い、高齢者の口腔ケアを行うには注意すべき事があります。

まず、歯磨き時の水分による誤嚥に注意が必要です。ケア時に水分を多く使用すると、咽頭に水とともに細菌が流れ込み、誤嚥するリスクが高くなります。そこで、水ではなく、口腔ケア用のジェルを使用してブラッシングし、口腔内の汚れと共にジェルを拭き取れば、咽頭への水分の流れ込みを防ぎ、誤嚥のリスクを下げる事ができます。また、吸引を併用することも効果的です。


次に、口腔ケアをする際の姿勢にも注意が必要です。座位が保持できるようであれば、椅子に座って口腔ケアを行うのが望ましいでしょう。また、寝たきりでベッド上での口腔ケアが必要な場合には、可能な限りベッドの頭の角度を90度まで上げて、椅子に座っている姿勢と同じような角度を作るようにします。ベッドの角度を上げるのが難しい場合には、体ごと横に向けて実施します。また、体を横に向けることが難しい場合には顔だけ横に向けて実施します。顔が仰向けの状態では誤嚥するリスクが高くなるため、必ず顔は横に向ける必要があります。

 

食事の改善(とろみをつけるなど)

 

誤嚥を予防するためには、嚥下機能や、咀嚼機能に合わせた食事形態の工夫が必要です。

一般的に、嚥下機能が低下している方は、サラサラの水分や、ボロボロしているパンやひき肉、また、おからなどの口の中でまとまりにくいものが飲み込みにくいとされています。そういった食品を飲み込みやすくするために、とろみをつけるという方法があります。とろみをつけることによって、食品がまとまりやすくなり、咽頭へ流入する速さが遅くなることによって誤嚥を防ぎます。ただし、とろみをつけすぎるとかえって飲み込みにくくなる場合もあるので、注意が必要です。

とろみをつけるには、片栗粉や、とろみ調整剤を利用する方法があります。また、自分でとろみを調整する事が難しい場合には、ユニバーサルデザインフード(UDF)」など、とろみが付いている食品を利用するという方法もあります。

 

胃液の逆流を防ぐ

 

誤嚥性肺炎において誤嚥するものは、必ずしも口から摂取したものとは限りません。

嘔吐など、胃から口へ逆流してくる過程で、その一部が気管や肺の方に入ってしまう誤嚥もあります。起き上がることができる方は、重力によって、食べたものは下へ下へと移動しやすいですが、寝たきりの方はその現象がおきにくい状態です。

後述する食事姿勢を参考に、可能な限り食べたものが逆流しないようにする工夫が必要です。

 

食事の姿勢の工夫

 

食事中の誤嚥を予防するためには、安定した姿勢で食事を摂取する必要があります。安定した姿勢を保つためには、3つのポイントがあります。

1つ目は、頭の角度です。顎を引いてうつむくような角度にすると良いです。顎が上がっている状態だと、咽頭に食物が流れ込み、誤嚥する危険性が高まります。自分で頭の位置を保持できない方の場合は、クッション等を頭の後ろに置くなどして、うつむくような角度を保持する工夫が必要です。

2つ目は、体がまっすぐに安定していることです。麻痺がある等、座位保持が難しい場合には、椅子やベッドにクッションを挟み、できるだけ上半身をまっすぐに保つ姿勢を作ります。ベッド上で食事をとる場合には、体がベッド下方にずれてくることを予防するために、足元や、足を曲げた膝裏にクッションを入れるなどして、体がずれないような姿勢を作ることも必要です。

3つ目は、足裏が何かに設置している状態を作るということです。これを足底接地といいます。足底接地が不十分であると、首回りの嚥下筋に無駄な力が入ってしまい、効率的な嚥下ができない可能性が指摘されています。椅子や車椅子に座っている場合には、地面にしっかりと足が着くよう、足台やフットレストを使用して高さを調整します。また、ベッド上でリクライニングを上げて食事を摂取する場合には、足底が接地するようにクッション等を利用します。

いずれのポイントにおいても、椅子や車椅子に座って食事をすることで、姿勢を保ちやすくなります。食事をする際には、可能な限りベッドではなく、椅子に座って食事をすることで、誤嚥性肺炎のリスクを下げることができるといえるでしょう。

 

治療について

 

少しでも症状が見られた場合はすぐに病院へ

 

誤嚥性肺炎になりやすい方とは、高齢者や脳梗塞の後遺症がある方、パーキンソン病などの神経疾患がある方など、肺炎が重症化しやすい方とも言えます。肺炎は日本人の死因の上位に常に位置する病気です。誤嚥性肺炎になりやすい特徴をお持ちの方はは特に、症状が軽度であっても一度病院で検査してもらうことをお勧めします。

 

薬物治療であるがその後の予防が大切

 

誤嚥性肺炎の基本的な治療は、点滴にて抗菌薬(抗生物質)を投与しつつ、新たな誤嚥をしないように、口から食べ物や飲み物を摂取することを中止し、さらに口腔内を清潔に保つことです。

重症化する前に適切に治療をすることで、十分に改善が見込める病気ではありますが、誤嚥してしまう原因が、嚥下反射や咳反射といった誤嚥を予防する機能の衰えであったり、寝たきり状態であったりすると、何度も誤嚥性肺炎になってしまう場合があります。そのため、誤嚥を繰り返さないように予防していくことがとても大切です。

 

来院が難しい場合は在宅での受診も検討

 

誤嚥性肺炎になりやすい方というのは、高齢や寝たきりといった理由から、病院受診が難しいというケースも少なくありません。しかし、誤嚥を繰り返しているうちに、誤嚥性肺炎が重症化してしまう可能性があります。早めの治療が大切ですので、在宅での受診も選択肢の1つです。

 

西春内科在宅クリニックができる対応

 

西春クリニックでは、誤嚥性肺炎を診断・治療するために必要な、胸部X線(レントゲン)またはCTといった画像検査や、血液検査が可能です。常勤医にはレントゲンやCT画像の読影の専門家である放射線科専門医がおります。

すべての病気について言えることですが、早期発見がその後の経過に影響します。高齢者や、パーキンソン病などの基礎疾患をお持ちの方は、風邪のような症状であっても油断せず、一度受診を検討してみてください。




まとめ

 

誤嚥性肺炎は、誤嚥を防止する機能が落ちてしまった高齢者や、脳梗塞の後遺症がある方、寝たきりの方、パーキンソン病などの神経疾患をお持ちの方に起こりやすい病気です。食事は毎日必要な行為なので、誤嚥をしてしまうリスクは常にあります。そのため、誤嚥性肺炎は早く見つけること、誤嚥を少しでも減らす工夫をすること、この2つが重要と言えます。


【参考資料】

この記事の監修医師

監修医師: 精神科専門医/精神保健指定医 竹下 理

監修医師: 福井 康大