脳梗塞後遺症について知りたい|どんな症状やリハビリがある?

公開日:2022.4.13 更新日:2023.12.25

脳梗塞ってよく聞きますよね。脳梗塞の発症率 は40歳以上で10万人に600人と言われており、親族を見渡すと脳梗塞を発症した経験がある人は多いと思います。脳梗塞は医療の発展により後遺症を残さないこともありますが、何かしらの後遺症を残すことが多く、厚生労働省の報告でも介護が必要となる原因の第2位となっています。

 

脳梗塞は怖い病気ではありますが、どんな病気なのか、どのような後遺症が残るのかについてはよく知らない人が多いと思います。ここでは脳梗塞について詳しく紹介しようと思います。


 

脳梗塞について

 

脳卒中のうちの一つが脳梗塞

 

「脳卒中」、「脳溢血」、「脳梗塞」、「脳出血」など様々な用語を聞いたことがあると思います。どれも脳血管疾患を指す言葉にはなりますが、正直よくわからないという方が多いと思います。まずはこれらの用語はどのようなものか説明します。

 

脳梗塞は脳を栄養する血管の狭窄や閉塞により、血流が不足して脳細胞が壊死してしまう病気です。脳出血は脳を栄養する血管が破れることで脳内に出血をしてしまう病気です。脳卒中は「卒然として(急に)邪風に中(あた)る」が語源となっており、脳梗塞と脳出血を合わせた病名です。脳溢血は脳出血とほぼ同義で使われる用語で通称に近いものです。

 

ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、その他に分けられる

 

脳梗塞は脳を栄養する血管(動脈)が細くなったり、血の塊などで閉塞したりすることで発症する病気です。

 

脳梗塞はその原因によって、脳内の小動脈病変が原因となる「ラクナ梗塞」、頸部~頭蓋内の比較的大きな動脈のアテローム硬化(動脈硬化)が原因となる「アテローム血栓性脳梗塞」、不整脈や心筋梗塞、心臓弁膜症など心臓が原因となる「心原性脳塞栓症」、先天性な要因や悪性腫瘍などにより血の固まりやすさが亢進することや静脈の血液が動脈に流れ込む病気(肺動静脈瘻や卵円孔開存症など)などが原因となる「その他」に大きく分けられます 

 

脳梗塞の原因は?

 

脳梗塞はそのタイプ(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、その他)により原因が異なります。

 

ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では高血圧や糖尿病などにより動脈に負担がかかり、動脈硬化や小血管の障害が進行することが大きな原因となります。特にラクナ梗塞は高血圧の関与が大きいといわれています。

 

動脈硬化は生活習慣病の一つとしてもよく知られているため、リスクファクターや予防法についても聞いたことがある方は多いと思いますが、動脈硬化の代表的なリスクファクターは喫煙、飲酒、肥満、高血圧、脂質異常症/高コレステロール血症、糖尿病です。

 

自身でできる予防法としては、禁煙、節酒、食事療法(食べ過ぎに注意する、バランスの取れた食事をする、塩分を控える)や運動療法(1日30分以上の散歩をするなど、各個人の運動機能に合わせた有酸素運動)などがありますが、健康診断で異常を指摘される場合には医療機関で内服治療を受けることも重要です。

 

心原性脳塞栓症の主な原因は心房細動です。心房細動とは心臓を流れる電気信号の乱れによって心房が小刻みに震えて、心拍も不規則となる病気です。

 

心房が小刻みに震えて血液が心房内に滞ることで、心房内に血栓ができ、脳梗塞の原因となります。

 

心房細動は他の不整脈と同じく、不整脈が出ているときに心電図などの検査をうけないと診断ができない病気であり、診断が難しい場合もありますが、重症な脳梗塞の原因となるため心房細動の指摘を受けた場合には抗凝固薬を服用しましょう。

 

心房細動は加齢による影響が大きく、60歳以降で頻度が増加します病気で予防は困難ですが、肥満、多量の飲酒、ストレス、睡眠不足も原因となるため、節酒や規則正しい生活を心がけましょう。

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脳梗塞の完治する確率は?

 

血栓溶解療法や血栓回収療法などの急性期治療の発達により、発症してすぐに治療を受けることで重症の脳梗塞でも後遺症を残さずに退院できるケースも増えてきましたが、一般に脳梗塞を発症するとほぼ完治する人が2割で、約7割は何かしらの後遺症を残すといわれています。

 

厚生労働省の報告では脳梗塞発症後の復職率は5~6割です。脳梗塞の症状の改善にはリハビリテーションが重要で、特に発症から3か月以内の急性期はリハビリテーションにより症状の改善が期待できることから、リハビリテーション後となる発症から3~6か月ごろに復職する人が多いです。一方で復職する人の15%程度は発症の1年後以降に復職しています。

  

なぜ脳梗塞後遺症になってしまうのか

 

脳細胞が壊死してしまう

 

脳梗塞は血流が不足することで脳細胞が壊死してしまうことで発症します。リハビリテーションなどの訓練により残った周囲の神経細胞が壊死した細胞の役割の一部を肩代わりしますが、壊死してしまった脳細胞は再生しないため後遺症が残ります。

 

脳細胞は脳の部位ごとで運動や感覚、記憶などの情報処理などそれぞれの役割を持っており、どこの脳細胞が障害を受けるかにより症状が異なります。脳はいろいろな場所と電気信号をやりとりしながら役割をはたしているため、明確に役割を線引きすることは困難ですが、ここでは簡単に脳の部位ごとの役割と障害されるとどのような症状がでるかについて紹介します。

大脳

 

前頭葉

 

前頭葉の役割は思考力、判断力、集中力、気分のコントロールなど幅広く、運動や言葉の一部の機能もつかさどっています。運動をつかさどる部位(中心前回) や運動の信号を伝える経路(錐体路)が障害されると手足や顔が上手く動かせなくなりますまた言葉をつかさどる部位(Broca野)が障害されると言葉の理解はできるものの発語がしづらくなり、たどたどしい会話になります。特徴的な機能ない部位の障害でも集中力が低下する、怒りっぽくなる、物覚えが悪くなるなどの症状が出現します。

 

頭頂葉

 

頭頂葉は感覚をつかさどっており、体の感覚から集めた情報の処理や計算の役割を担っています。感覚をつかさどる部位(中心後回)や感覚の信号を伝える経路(皮質脊髄路や脊髄視床路)が障害されると、感覚鈍麻やしびれが出現します。

 

その他の障害により障害された脳と反対側を無視してしまう、左右がわからない、計算ができないなどの症状が出現します。

 

側頭葉

 

側頭葉は記憶や本能・情動、言葉の理解に関わる役割を担っています。側頭葉の内側にある海馬は記憶に関して重要な役割を果たしており、アルツハイマー型認知症で障害される場所としても知られています。

 

脳梗塞にはなりにくいですが、一過性の虚血により健忘となることがあります。言葉をつかさどる部位(Wernicke野)が障害されると、言葉が理解できなくなったり、話そうとしても意味不明な単語や文章となってしまったりします。

 

後頭葉

 

後頭葉は視覚をつかさどっています。後頭葉が障害されると、障害を受けた脳と反対側の視野がかけて見えなくなります。

小脳

 

小脳は目的となるような体の動きをスムーズに行えるように調整したり、一連の動作が効率よく行えるようにプログラムしたり、体のバランスをとったりする役割を担っています。

小脳が障害を受けるとめまいがしたり、動作がぎこちなくってものを取ろうとしてもずれてしまったり、体は動かせるけれども思うように動かなかったりします。

脳幹

 

脳幹は大脳からの命令や大脳に送る情報のすべてが通る部位であり、意識や呼吸など生命の維持に直結するような重要な役割を担っています。

中脳・橋・延髄に分けられ、中脳や橋は意識を、延髄は呼吸をつかさどっており、障害を受けることで目が覚めなくなったり、呼吸が止まってしまったりします。また体と大脳とをつなぐ経路の障害により、運動や感覚も障害されます。

 

脳梗塞後遺症の症状

 

麻痺

 

運動に関わる領域に障害を受けると、筋肉に体を動かす命令が出せなくなることで体が動かせなくなります。手足の動きが悪くなれば日常生活に支障があり、顔の動きが悪くなれば後述の嚥下障害や構音障害につながります。また、筋力は改善しても箸を使うことが困難になるなどの巧緻性の低下も問題になります。

 

リハビリテーションを行って動作訓練を繰り返すことでできるだけ症状の軽減を目指すことが重要です。また重度の麻痺では、自発的にはほとんど手足が動かせなくなることもあります。筋肉を全く動かさないと筋肉が固まってしまい(拘縮)、膝を曲げたり肘を曲げたりと関節を動かせなくなってしまうため、拘縮予防のためにリハビリテーションが重要となります。

 

感覚障害

 

感覚の障害は障害の強さによって、全く感覚がわからない(感覚脱失)、感覚があるけど鈍い(感覚鈍麻)、しびれた感覚がある(異常感覚)と症状が異なります。感覚に関わる領域に障害を受けると、重度の障害であれば感覚脱失となり、その後に症状が改善してくるにつれて異常感覚が出現します。

 

後遺症としては異常感覚が問題となることが多く、びりびりとしたしびれや痛みが残ります。市販の痛み止めは効きづらく、気圧や気温の変化などでしびれの程度の変動があり、痛みが慢性化することがストレスとなって痛みが悪化することも少なくありません。神経のしびれや痛みは内服薬のみでは取り除くことが難しい場合も少なくなく、症状がひどい場合にはペインクリニックへの通院が必要です。

 

失語

 

失語とは言葉や文字でものごとを表現したり、理解したりする能力の障害をことです。口や舌が上手く動かないことで言葉をうまく作れない構音障害でもうまく話すことができなくなりますが、文字など他の手段を使えば問題なくコミュニケーションが取れる点で明確に区別されます。

 

失語には大きく分けて言葉の理解ができなくなる“感覚性失語”と言葉を表出することが困難になる“運動性失語”に分けられ、特に感覚性失語では言葉や文字を含めてコミュニケーションが取れなくなるため、介護の負担が大きくなります。

 

視野障害

 

視野障害とは視野の一部が欠損する障害のことで、眼の疾患で起こりやすい視力障害とは異なります。脳梗塞による視野障害では、左右のどちらの目で見ても同じ部分の視野がかける点が眼の疾患と異なります。見えていない部分があることを意識して生活することで日常生活に戻れることが多いです。

 

嚥下障害

 

嚥下障害とは物を飲み込む機能(嚥下機能)の障害です。もともと飲み込む機能が弱くなってきている高齢者で起こりやすく、誤嚥性肺炎の原因となります。食事を一口サイズにしたり、ゼリー状にしたりすることで食事を再開できる場合もありますが、障害が強い場合には口から食べることが困難になることがあります。

 

また、さらに障害が強い場合には唾液の誤嚥などにより、何も食べてなくても誤嚥性肺炎を繰り返してしまうこともあります。嚥下機能は本人の意欲による影響もあり、好きなものであれば食べられる場合もありますが、誤嚥性肺炎を発症するたびに嚥下機能はさらに落ちていくため、注意しましょう。

 

構音障害

 

構音障害とは口や舌が動かせないことで発音が上手くできなくなる症状です。呂律がまわらなくなり、話している内容が聞き取りにくくなりますが、失語と異なり、言葉の聞き取りや文字によるコミュニケーションは問題なく行うことができます。口や舌の動きが大きく関与する嚥下機能にも障害がでることが多いです。

 

高次脳機能障害

 

高次脳機能障害とは脳梗塞を含む脳損傷に起因した認知機能障害全般を指す言葉で、覚える、集中する、順序立てて考える、理性的な行動をするなど社会的な生活をすることに必要な能力が障害されることを指します。

 

以前できていたことができなくなったり、性格が変わってしまったりと社会生活における影響は大きい一方で、特定の何かができないわけではなく、周囲の理解が得られにくい症状でもあります。脳損傷後にこのような症状が起こりうることを理解することが重要です。

 

うつ・感情障害

 

脳梗塞を発症すると高次機能障害による意欲低下や以前行えていたことができなくなることへのストレス、周囲へ負担をかけてしまうことへのストレスから、うつとなることが多いです。

 

脳梗塞の機能改善には十分に栄養を取って、リハビリテーションに取り組むことが重要ですが、うつになると食事が喉を通らなくなり、リハビリテーションにも取り組めなくなってしまうため、うつへの対応は重要です。

 

うつ病の薬は眠気や活動性の低下につながるものも多く、家族からの元気づけや趣味や楽しみを作るなど前向きになれるような取り組みが重要です。

 

リハビリについて

 

リハビリは3段階にわけられる

 

脳梗塞のリハビリテーションには脳梗塞の治療や再発予防を行う急性期、症状の改善や日常生活に戻ることに目標とする回復期、現状の機能を維持することを目標とする維持期(生活期)に分かれます。それぞれ行う場所やリハビリテーションの目標が異なるため、以下で説明いたします。

急性期:病院

 

急性期は脳卒中センターや3次救急病院などの急性期病院に入院し、脳梗塞の治療を行いながら原因を調べ、脳梗塞を再発しないための治療法を決定する期間です。入院後(脳梗塞発症後)2~3週間程度であることが多いです。

 

発症早期は発症した本人もどの程度の行動ができるか理解できていないため、誤嚥や転倒などの問題が起きやすく、また様々な治療薬が開始されることから合併症を起こしやすい時期であり、リハビリテーションは機能評価と機能改善を目的として合併症に注意しながら行います。

回復期:リハビリ専門の病院

 

回復期は急性期治療が終わった後、リハビリテーションを専門とした病院で日常生活に戻ることを目標に生活動作の訓練を行う期間です。症状が軽微な場合には回復期を飛ばしたり、期間を短くしたりすることもありますが、多くの場合には1~2か月かけてリハビリテーションを行います。

 

ここでは退院した後の生活を想定したリハビリテーションを行いながら、どの程度の後遺症が残るかを想定して退院後の生活に必要な社会サービス(介護保険など)の調整を行います。仕事への復帰を目指す場合には仕事に必要な能力を中心としたリハビリテーションを行うなど、個人の能力や生活背景に応じたリハビリテーションを行います。

維持期(生活期):自宅・施設(グループホームや老人保健施設など)

 

維持期(生活期)は病因を退院した後、トイレでの排泄や入浴などが安全に行えるように訓練したり、外出をするなど活動範囲を広げたり、廃用などによる機能低下を予防したりする目的でリハビリテーションを行う期間です。

 

脳梗塞で後遺症が残ってしまうと、退院後にあまり動かずにベッドの上を中心とした生活をしてしまったり、障害のない手足を頼って障害がある手足を使わなかったりしてしまうことが少なくありません。入院中と異なりリハビリテーションの頻度少なくなるため、転倒などには注意しつつ積極的に運動をすることが重要です。

 

西春内科在宅クリニックができる対応

 

西春内科在宅クリニックでは外来診療、定期往診、時間外の緊急往診を行うことが可能で、患者様が望む形での医療の提供を行うことができます。脳梗塞後遺症の症状が変動して心配である場合には電話対応や緊急往診、麻痺や高次脳機能障害が悪化して通院が困難になってしまった場合には定期往診と様々な状況に対応いたします。


 

まとめ

 

急性期治療の発達や積極的なリハビリテーションにより脳梗塞を発症しても元の生活に戻れる人も増えてきましたが、重度の後遺症を残す人も少なくなく、介護が必要となる原因の第2位となっています。後遺症にはよく知られている麻痺や感覚障害だけでなく、あまり知られていないものの生活に大きな影響がある失語や高次脳障害など様々なものがあります。

 

脳梗塞後の後遺症を持つ人は日常生活に困難を抱えており、家族や介助者を含めて周囲の人が症状を理解して対応することが非常に大きな助けになります。また、再発することもある病気ですので新たな神経症状が出現したり、明らかに症状が悪化したりする場合には医療機関に受診してください。

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【参考文献】

この記事の監修医師

監修医師: 脳神経内科 中村医師

監修医師: 西春内科・在宅クリニック 院長 福井 康大


▶︎詳しいプロフィールはこちらを参照してください。

経歴

三重大学医学部医学科 卒業
三重県立総合医療センター 
N2 clinic