【治る認知症】高齢者がなりやすい水頭症の症状から原因、治療について解説
公開日:2023.2.08 更新日:2024.9.30
水頭症とは、脳脊髄液⁽*1⁾(のうせきずいえき)が過剰に溜まってしまうことにより、以下などの症状が出現する病気です。
- 歩行障害(ふらつく、歩幅が狭くなる)
- 認知障害(物忘れや注意力の低下)
- 排尿障害(頻尿や尿失禁)
水頭症の症状は脳脊髄液の流れをよくする、または排出させることで改善することができます。
水頭症は治療できる認知症としても知られており、治療により生活の質も大きく変わる病気です。
しかし、症状が比較的ゆっくりと進行するため見落とされてしまうこともあります。
今回は、水頭症になる原因やなりやすい人の特徴、症状、リハビリ、そして寿命への影響について詳しく解説していきます。
脳脊髄液⁽*1⁾=脳や脊髄の周囲を覆う液体 |
目次
高齢者が水頭症になる原因
脳脊髄液は1日に450ml程度作られており、脳の内部や周囲を循環し、吸収されていきます。
水頭症は、脳脊髄液が以下の障害などを起こすことによって発症します。
- 通過障害
- 吸収障害
- 産生過剰
以下、それぞれの原因について説明していきます。
①通過障害
脳脊髄液は、脳室(脳の内部にある空間)内の脈絡叢と呼ばれる部分で産生されています。
以下のような経路で流れ、くも膜下腔にあるくも膜顆粒と呼ばれる組織で吸収されます。
側脳室(脈絡膜) ⇩ モンロー孔 ⇩ 第3脳室 ⇩ 中脳水道 ⇩ 第4脳室 ⇩ マジャンディ孔・ルシュカ孔 ⇩ くも膜下腔(くも膜顆粒) |
脳腫瘍や脳出血、脳梗塞を起こした後に脳がむくんでこの経路が圧迫されると脳脊髄液の流れが悪くなってしまい、圧迫されている箇所の手前で脳脊髄液が溜まっていきます。
特に、脳室とくも膜下腔を繋いでいるモンロー孔や中脳水道などは脳脊髄液を流す管のような構造です。
これらの部位は圧迫されると流れが悪くなりやすいです。
②吸収障害
くも膜下出血や髄膜炎・脳炎、外傷などによって脳脊髄液の吸収が悪くなることで脳脊髄液が溜まります。
また、くも膜下出血や髄膜炎などの病気がない場合でも、加齢とともに脳脊髄液の吸収が低下して水頭症を発症することがあります。
これを特発性正常圧水頭症といいます。
③産生過剰
非常にまれですが、脳脊髄液を産生している脈絡叢の腫瘍(脈絡叢乳頭腫)などで脳脊髄液の産生が増えてしまうことがあります。
そのため、吸収が間に合わなくなると脳脊髄液が貯留していきます。
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高齢者がなる水頭症の症状
水頭症の代表的な症状は、以下の3つです。
- 歩行障害
- 認知障害
- 排尿障害
以下、頻度の高い順にそれぞれ説明していきます。
①歩行障害
94~100%とほとんどの患者さんに以下などの歩行障害の特徴がみられます。
- 歩幅が狭くなる
- 足が上がりにくい
- 足を広げて歩く
水頭症の患者さんは、やや足を開き気味にして小刻みに歩きます。
また、前に出す足が上がらず、段差につまづきやすくなります。
小刻みな歩行に加えて動作が遅くなったり、方向転換する時に不安定になったりします。
症状が似ているためパーキンソン病と間違われることがあります。
パーキンソン病は脳の異常のために、体の動きに障害があらわれる病気です。
足が開き気味となることや、号令や目印などを用いても歩行の改善は少ないことなどの点でやや症状が異なります。
※パーキンソン病では、号令をかけたり床に目印をつけたりすることで、歩行が改善されることがよくあります。
◆パーキンソン病になりやすい人の特徴や症状とは?|原因から治療、社会サービスの解説
②認知障害
78~98%の患者さんにみられます。
話しかけたり何かを頼んだりした時の反応が鈍くなったり、複数のことを同時に処理することが難しくなったりします。
また、言葉が上手く思い出せずに「あれ」や「これ」などといった指示語が会話の中で増えたりします。
物忘れもみられますが、アルツハイマー型認知症と比べると、話した内容を再度伝えると思い出せることが多い傾向にあります。
認知障害以外の症状が目立たない場合は加齢による変化と間違われることもあるため注意が必要です。
また、その他の認知症と同様に、いろいろなことに無関心になったり、落ち込んでしまったり、怒りっぽくなったりと精神的な症状がみられることもあります。
◆認知症における顔つきが変わる理由と初期症状や代表的な種類
③排尿障害
60~92%の患者さんにみられます。
過活動膀胱⁽*1⁾に伴い、急に尿がしたくなり、我慢できずに漏らしてしまうのが特徴です。
水頭症の方は頻尿となり、トイレに間に合わず尿漏れや尿失禁をしやすくなります。
尿意の自覚はありますが、我慢があまりできないため、トイレのことが常に気になってしまうことがあります。
前立腺肥大症などでみられるような残尿感は基本的にはありません。
過活動膀胱⁽*1⁾=膀胱が過敏になり、尿が十分にたまっていなくても意思とは関係なく膀胱が収縮する状態 |
水頭症になりやすい高齢者の特徴
水頭症は、頭蓋内出血や髄膜炎などの病気に続いて発症することが多いです。
また、以下などの場合は発症しやすいと考えられます。
- 過去にそれらの病気になったことがある人
- それらの病気を発症する可能性が高い人(脳動脈瘤がある、免疫抑制剤を使用中である、血圧が非常に高いなど)
- 転びやすい、頭をぶつけやすい人
また、高齢者ではきっかけとなる病気がない特発性正常圧水頭症も多くみられます。
正常圧水頭症では加齢が最も大きなリスクではありますが、その他に高血圧・糖尿病・低HDL(善玉)コレステロール血症など血管障害の原因となる病気があります。
また、緑内障など静脈系の圧調節に異常をきたす病気もリスクになると言われています。
水頭症の検査と手術について
①検査
水頭症を疑った場合は、以下などを行います。
- 画像検査:頭部CT、頭部MRI、脳血流SPECT(脳血流の状態をみる検査)
- 血液検査
- 髄液圧測定、髄液検査、タップテスト、持続ドレナージテスト
脳脊髄液は頭蓋内や脊椎の内側にある液体であり、髄液圧測定や髄液検査、タップテスト・持続ドレナージテストは腰に針を刺して検査を行います(腰椎穿刺:下図)。
②手術
治療は主に脳脊髄液を排出するような手術を行います。
代表的な手術として、以下があります。
- 脳室腹腔シャント術(V-Pシャント):脳室とお腹の中を細いチューブでつなぐ
- 腰椎腹腔シャント術(L-Pシャント):腰骨の中とお腹の中を細いチューブでつなぐ
その他、通過障害による水頭症のみの適応とはなりますが、第3脳室に穴をあけて髄液の流れる道を新たに作る神経内視鏡手術があります。
神経内視鏡手術では、チューブなどの人工物を体内に入れることなく治療を行うことができます。
水頭症による認知症は治るといわれている理由
認知機能低下をきたす脳以外が原因の疾患⁽*1⁾を除き、以下など、多くの認知症では認知機能を改善させることは困難です。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 脳血管性認知症
一方で、水頭症は脳脊髄液が過剰に溜まることによって脳を圧迫することが大きな要因であり、手術などで髄液の圧を下げたり、流れをよくすることで認知機能が改善します。
その他の認知症の合併がなければ、認知障害を含めて症状が著しく改善することから、水頭症は「治る認知症」として知られています。
脳以外が原因の疾患⁽*1⁾=精神疾患、感染症、高アンモニア血症や低血糖といった代謝性疾患など |
水頭症は寿命における影響があるのか
水頭症は、脳卒中や脳腫瘍などにより急性に発症した場合を除き、多くの場合は寿命に直接大きな影響は与えません。
ただし、抑うつやせん妄により食事が食べられない、歩行障害により転倒してしまうなどといった症状が結果的に寿命に影響を与えることは考えられます。
また、脳出血や広範な脳梗塞では、血腫(血のたまり)や脳のむくみによって脳脊髄液の通過障害を起こし水頭症となりますが、頭蓋骨に覆われているため圧力の逃げ場が限られています。
ひどくなると脳ヘルニア⁽*1⁾を起こして全身状態が悪化します。
その際に脳幹⁽*2⁾が圧迫されると呼吸が止まって命に関わります。
このような場合には脳室ドレナージ⁽*3⁾や減圧開頭術⁽*4⁾を行うことがあります。
脳ヘルニア⁽*1⁾=脳の中にある境界や隙間から脳組織の一部がはみ出す病気 脳幹⁽*2⁾=意識・呼吸・循環など生命維持機能に関わる部位 脳室ドレナージ⁽*3⁾=細いチューブを用いて脳室内の髄液を体外に排出する 減圧開頭術⁽*4⁾=頭蓋骨の一部を取り外して減圧する |
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水頭症のリハビリテーションについて
頭蓋内出血や脳腫瘍などに伴う水頭症では原因となる病気に対するリハビリテーションが中心になります。
ここでは原因なく発症する特発性正常圧水頭症のリハビリテーションについて解説します。
特発性正常圧水頭症では、手術とリハビリテーションにより1年で63~84%の患者さんに症状の改善があるとされています。
代表的な3つの症状のうち歩行障害では60~77%、認知障害では56~69%、排尿障害では52%程度で症状の改善があるとされています。
リハビリテーションの一番の目標は日常生活動作をできるようにすること、一人でできることを増やすことです。
水頭症のリハビリテーションでは歩行障害に対するリハビリテーションに重点を置いて行われることが多いです。
リハビリテーションの内容に関しては特に決まったものはありません。
起立・歩行など基本的な日常生活動作の改善および維持を目標に、下肢の筋力訓練やバランス訓練が行われることが多いです。
具体的には、以下などが行われます。
- 背伸び(歩く際の蹴りだしに必要な訓練)
- 腿上げ(歩く際に足を上げるのに必要な訓練)
- スクワット(立ち上がる、座る際に必要な訓練)
- 歩行(実際に歩く訓練)
また、運動機能がある程度保たれている場合は、以下など認知障害の改善や維持を目指した、リハビリテーションも単独あるいは並行して行います。
- パズルを解く
- 日記をつける
- 間違い探しを行う
特発性正常圧水頭症は主に高齢者にみられる疾患であり、水頭症の他に慢性疾患がある人も多くいます。
過去の報告によると、症状の改善が乏しい場合はフレイル・サルコペニア⁽*1⁾、アルツハイマー型認知症などの認知症、脳卒中の後遺症、貧血などの全身性疾患といったその他の併存症による影響も大きいと言われています。
特発性正常圧水頭症の手術やリハビリテーションを行っても症状が改善しない場合は、その他の疾患の合併を疑い病院で評価を受けましょう。
フレイル・サルコペニア⁽*1⁾=加齢や食事量の低下、活動量の低下に伴う意欲低下や筋力低下 |
◆介護が必要になる原因で多いフレイル(高齢による衰弱)とはどんな状態なのか?
◆【加齢による筋肉量の低下】サルコペニアとは?症状やフレイルとの違い、診断基準について
西春内科在宅クリニックができる対応
水頭症は病歴や身体所見のみからでは診断が困難であり、診断にはCT検査などの画像検査が欠かせません。
西春内科在宅クリニックは、小規模クリニックとしては珍しくCT検査装置を有しており、水頭症の迅速な評価が可能です。
水頭症に代表的な症状である歩行障害や認知障害は脳卒中を含め様々な病気で出現しますが、丁寧な診察と迅速な検査により早期に診断を行います。
水頭症は治療で症状の改善が得られることが多い病気ですが、長期間放置してしまうと活動性が下がります。
また、筋力低下も弱ってしまうため、水頭症としてはよくなっても生活に支障が出てしまう場合が少なくありません。
そのため、西春内科在宅クリニックでは画像検査を併用して迅速に診断を行い、確定診断や治療のためにより高度な医療機関への紹介を行っております。
まとめ
今回は水頭症について解説しました。
水頭症は別の疾患をきっかけとして発症することが多いですが、特に高齢者ではきっかけとなるような病気もなくゆっくりと発症する特発性正常圧水頭症があります。
水頭症は治療をすれば症状の改善が見込める病気です。
しかし、水頭症に気付かず活動意欲や筋力の低下が進んでしまうと、治療によって水頭症としての症状が改善しても、生活に困るような症状が残ってしまう可能性があります。
徐々に悪化する歩行障害や認知障害がある場合は、早めに医療機関までご相談ください。
参考文献
・特発性正常圧水頭症診療ガイドライン
・徳洲会グループ「脳神経外科の病気:水頭症」
・近畿大学医学部 脳神経外科「水頭症一般」
・東邦大学医療センター 大森病院 脳神経外科「水頭症」
この記事の監修医師