排尿障害とは?尿が出にくい原因や症状、治し方について解説
頻尿や尿の出にくさ、残尿感など、尿に関するお悩みはありませんか?
これらの症状は排尿障害が原因であることが多く、尿を膀胱内にためる(畜尿)や膀胱内の尿を排出する(排尿)に問題があると考えられます。
40歳以上では約8人に1人はこのような問題を抱えているといわれています。
また、加齢とともに問題を抱える人の割合(有病率)もさらに高くなります。
今回は、多くの人が悩まされている排尿障害の原因や、症状、治し方について解説いたします。
目次
排尿障害になる原因とは?
まずは排尿のメカニズムについて簡単に説明します。
排尿は以下の3つ段階に分けることができます。
- 膀胱に尿をためる(畜尿)
- 尿意を感じる/排尿をこらえる
- 尿を出す(排尿)
①膀胱に尿をためる(畜尿)
尿は腎臓で産生されて膀胱に送られます。
畜尿の段階では膀胱の筋肉(膀胱壁平滑筋ぼうこへきへいかつきん)がゆるむことで、膀胱内の圧が上がることなく尿をためることができます。
この段階では膀胱内の圧が高くならないため、尿意などは感じません。
②尿意を感じる/排尿をこらえる
200~300ml程度尿が溜まると膀胱内の圧が上がり、膀胱内の圧の上昇が自律神経を介して脳に伝わることで尿意を感じます。
尿道には尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)という尿道を閉める筋肉があり、その筋肉の一部(外尿道括約筋がいどうにょうかつやくきん)は自分の医師で動かすことのできる筋肉であることから、尿道括約筋を収縮させることで排尿を我慢することができます。
また、膀胱や子宮を支える骨盤底筋にも尿道を閉める作用があり、力んだ時や咳をしたときなど腹圧が上がった際の尿漏れを予防しています。
③尿を出す(排尿)
排尿の段階では尿道括約筋をゆるめて膀胱内に溜まった尿を排出します。
この時、正常な膀胱では膀胱壁平滑筋が収縮して風船がしぼむような形で膀胱が小さくなり、尿はほとんど膀胱内には残りません。
正常な人では以上のように畜尿~排尿が行われます。
排尿障害は以下などで出現します。
- 膀胱が十分に弛緩できない
- 尿意を感じやすい
- 骨盤底筋が弱いなどの畜尿の障害や尿道が狭い
- 膀胱が収縮しないなどの排尿の障害
排尿障害の主な症状
過活動膀胱(かかつどうぼうこう)
過活動膀胱とは耐えられないような尿意を突然自覚する症状(尿意切迫感)で、尿意を感じてから排尿を我慢することが困難となります。
尿意が心配で頻回にトイレに行くようになったり、実際に尿意を頻回に感じるようになったりして頻尿となり、時に尿失禁をしてしまうこともあります。
脳血管障害、パーキンソン病、脊髄疾患などの様々な神経疾患に合併し、40歳以上の男女では14.1%にみられるといわれています。
腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)
腹圧性尿失禁とは骨盤底筋と呼ばれる子宮や膀胱などの骨盤内臓器を支える筋肉が弱くなることで力んだ時や咳をした時など腹圧が高くなったときに尿漏れを起こしてしまうという症状です。
量はそれほど多くはないですが無自覚に尿が漏れてしまい、陰部の不快感や尿路感染の原因にもなります。
骨盤底筋が弱くなる主たる要因は妊娠や出産であることから、主に女性で問題となります。
夜間頻尿(やかんひんにょう)
夜間頻尿は夜間や入眠中にトイレに1回以上起きなければならないような症状のことです。
尿量自体が多い場合だけでなく、畜尿の障害や排尿の障害(残尿により、結果的に短時間で膀胱がいっぱいになる)がある場合や寝つきが悪くて尿意を自覚しやすい場合にもこの症状がみられます。
前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)
前立腺は尿道を取り囲むように存在する男性の生殖器です。
前立腺肥大症とは加齢とともに前立腺が大きくなり、尿道を圧迫することで尿が出しにくくなってしまう病気です。
膀胱に尿が溜まっても排尿しづらく、また尿が出し切れないことで、以下などの症状が出現します。
- 尿意を感じても尿がなかなか出ない
- 尿の勢いが弱い
- 一回の排尿量が少なく残尿感がある
- 尿を出すのにお腹に力を入れたり下腹部を圧迫したりと補助が必要になる
- 頻回に尿意がある
関連記事:前立腺肥大は自然に治る?原因と症状、予防対策について解説
低活動膀胱(ていかつどうぼうこう)
低活動膀胱とは膀胱の収縮ができなくなり、膀胱がゴムの緩んでしまったゴム風船のような状態となる病気です。
膀胱内から尿を押し出せないため、1回ごとの尿量が減り、尿が出なくなることもあります。
常に膀胱内に尿が残っているため、尿意を感じやすく、また細菌が入った場合には排出されないため尿路感染にも罹患しやすくなります。
膀胱の壁を収縮させる神経の障害が原因となることが多く、薬物的な治療は困難であるため、症状がひどい場合には自己導尿や膀胱留置カテーテルが必要となります。
パーキンソン病になると排尿障害を伴いやすくなる?
パーキンソン病は動作が遅くなったり、歩きにくさがでてきたりすることで気づかれることの多い神経難病の一つです。
神経難病の中では発症率の高い病気で、加齢とともに、特に60歳以上で発症率が急激に増加し、65歳以上では100人に1人程度罹患しているとも言われているため、病名を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
パーキンソン病では動き出しにくくなる、動きが遅くなるという動きにかかわる症状が注目されがちです。
しかし、その他の症状として便秘や起立性低血圧、排尿障害、不眠症なども出現します。
パーキンソン病では過活動膀胱(2-1参照)のような排尿障害を合併しやすく、トイレに移動したり、ズボンを下ろしたりするのに時間がかかってしまうため、間に合わずに失禁してしまうことも少なくありません。
そのため、常にトイレのことを気にしてしまい、頻回にトイレに行ったり、安心して眠れなくなったりしてしまいます。
尿意を感じる前から頻回にトイレに行ったり、老人用おむつを着用したりするなどして対応している方もいるかと思います。
環境調整や薬物治療で症状が改善することも多いのでパーキンソン病の治療中にこのような症状がみられた場合には主治医に相談しましょう。
関連記事:パーキンソン病になりやすい人の特徴や症状とは?|原因から治療、社会サービスの解説
排尿障害を放置するとどうなるのか
排尿障害では頻尿による生活上の支障や不眠、尿意切迫感による転倒などの外傷、残尿や陰部の汚染による尿路感染症などが問題となります。
排尿障害を放置した場合には、トイレを常に気にしてしまうことで頻尿が悪化したり、不眠や尿失禁などのエピソードを繰り返すことで鬱傾向となったりと精神面でも悪影響が出現します。
また前立腺肥大症などで排尿に問題がある場合には、尿路感染症を繰り返す、膀胱がつねに広げられて低活動膀胱を併発するなどの問題が起きてしまうこともあるため、生活に支障のある症状がある場合には泌尿器科で相談しましょう。
関連記事:高齢者の便秘は危険?主な原因や解消方法、病院での治療を解説
排尿障害の治し方
排尿障害はその原因により治療法が異なります。
過活動膀胱
過活動膀胱は行動療法と薬物療法で主に治療を行います。
行動療法は日常生活での工夫やトレーニングで症状の改善を目指す治療法です。
行動療法
過活動膀胱では過度な飲水やカフェインの摂取により症状が悪化するため、それらの摂取を控えることで症状の改善が期待できます。
また外出時にはトイレの位置を確認する、早めにトイレに行くなどにより心理的な負担が軽くなり、症状が改善することがあります。
尿意を感じた後も排尿を我慢して少しずつ排尿間隔を延長する訓練を行うことで排尿間隔を伸ばすことができる場合もあります。
具体的には排尿計画をたてて、15分~60分単位で排尿間隔を延長する形で訓練を行います。
予定時間まで我慢できないこともあるため、いつでもトイレに行ける環境で行いましょう。
また、骨盤底筋のトレーニングことで症状の改善が得られることがあります。
薬物療法
薬物療法では主に以下の薬剤を使用します。
- 膀胱の収縮を抑制する抗コリン薬(ベシケア®、ウリトス®など)
- 膀胱の拡張を促すβ3受容体作動薬(ベタニス®、ベオーバ®)
これらの薬剤が使用できない場合には漢方薬などを使用する場合もあります。
腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁は骨盤底筋のトレーニングにより治療を行います。
改善しない場合には手術を行うこともあります。
骨盤底筋のトレーニングは肛門・膣あたりを締めたり、緩めたりするトレーニングで様々な姿勢で行うことが可能です。
一般的な筋肉トレーニングと同じく、継続して行うことが重要で結果がでるのに時間がかかります(数週間~数か月)が、侵襲のない根本的な治療で、非常に重要な治療法です。
前立腺肥大症
前立腺肥大症は薬物療法または手術で治療を行います。
前立腺肥大症では前立腺の肥大により尿道を圧迫して尿を出しづらくしてしまう病気です。
前立腺には前立腺平滑筋という筋肉があり、交感神経の興奮により前立腺が収縮することも排尿障害に関与しています。
そのため、薬物治療では以下の薬剤により治療を行います。
- 前立腺平滑筋の収縮を抑えるα1遮断薬(フリバス®、ユリーフ®)
- 前立腺平滑筋を弛緩させるホスホジエステラーゼV阻害薬(レバチオ®、ザルティア®)
- 前立腺肥大の原因となる男性ホルモンの作用を抑える5α還元酵素阻害薬(アボルブ®)
これらの薬剤で症状が改善しない場合には、手術で前立腺を切除/核出します。
以前は開腹手術も行われていましたが、現在では主に経尿道的な手術が行われています。
低活動膀胱
低活動膀胱の治療は薬物による治療が中心となりますが、薬物治療で十分な改善が得られない場合には間欠的自己導尿や膀胱留置カテーテルの留置が必要となります。
薬物療法では以下の薬剤により治療を行います。
- 膀胱の収縮を促進するコリン作動薬(ベサコリン®)、コリンエステラーゼ阻害薬(ウブレチド®)
- 尿道を広げるα1遮断薬
薬物治療でも十分な排尿が得られない場合には、尿道の出口から膀胱まで管(尿道カテーテル)を入れて排尿する治療(間欠的自己導尿や膀胱留置カテーテル)が必要となります。
関連記事:膀胱ろうとは?在宅でのカテーテル交換時の注意点を解説
排尿障害におけるトイレの工夫
排尿障害でお困りの場合には以下のような工夫を行うことで症状のコントロールができる場合があります。
① 定期的にトイレに行く
定期的にトイレに行くことで突発的に強い尿意を感じたり、尿漏れを起こしたりすることを予防できる場合があります。
また排尿したという安心感から急に尿意が来るのではないかという不安の解消にもつながります。
② 排尿時に腹圧をかける、下腹部を押すなどして自身にあった排尿方法を行う
排尿の障害がある場合には自然な排尿だけでは十分に排尿ができないため、腹圧をかける、下腹部を押すなどで膀胱を圧迫することにより、よりしっかりと排尿ができる場合があります。
③ 便秘を予防する
直腸と膀胱は近接しており、便秘の方では直腸が膀胱を圧迫することが排尿に悪影響をあたえている場合があります。
緩下剤を使用するなど排便管理を行うことも排尿障害の改善につながります。
④ トイレに行きやすい環境を整える
運動機能に障害のある方ではトイレに行くまでに時間がかかってしまうため、失禁してしまったり、不安でトイレに頻回に行ってしまったりするようになります。
手すりをつける、バリアフリーにする、他人の手を借りるなどでトイレへのアクセスをよくすることで症状の改善が得られる場合があります。
⑤ 排尿日誌をつける
排尿日誌をつけることで自身の排尿状況を正確に把握することができ、排尿間隔をどの程度にすべきかなど生活に支障がないように対策を行うことができます。
また、医療機関に受診をした際の説明にも役立ちます。
西春内科在宅クリニックができる対応
西春内科在宅クリニックでは超音波検査やCTなどの画像検査などを用いて排尿障害の原因検索を行い、生活指導や薬物療法などの治療を行うことができます。
また、診断が困難な排尿障害や手術などのより専門的な治療が必要な場合には適切な医療機関に紹介を行うことができます。
恥ずかしくて相談しづらいこともあるかと存じますが、患者様によりそった医療を心がけておりますので、お気軽にご相談ください。
まとめ
排尿障害はコントロールができない尿意や尿失禁などの症状があり、日常生活への支障が大きい疾患です。
また日常生活に支障があるだけでなく、いつ尿意が来るかが不安でいつもトイレを気にするようになってしまい、精神的にも悪影響を及ぼします。
排尿障害は原因ごとに適切に対応すれば、一定の症状改善が期待できる症状であるため、排尿の問題でお困りの際にはお気軽に医療機関でご相談ください。
参考文献
日本老年医学会雑誌
浜辺の診療所HP
名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室「過活動膀胱」
名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室「過活動膀胱 治療法」
名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室「前立腺肥大症の治療法のいろいろ」
過活動膀胱診療ガイドライン
神経治療 vol.39 No.2
日本泌尿器科学会
利根中央病院HP