サル痘(さるとう)とは?原因・症状・ワクチン・治療などについて解説

公開日:2025.9.16 更新日:2025.9.16

2022年7月に患者が報告されてから、現在も患者の発生が続いている「サル痘」をご存じですか?

世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を出したこのサル痘ですが、日本でも247例の症例が確認されています。

(現在は世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言を修了しています。)

患者には首都圏の在住者が多く報告されており、最近では首都圏以外の地域でも報告をされています。

今回はこのサル痘とは何かについて詳しく解説します。

サル痘(さるとう)ウイルスとは

サル痘ウイルスの電子顕微鏡写真

(参照:NIID 国立感染症研究所「サル痘とは」

サル痘(mokeypox)は、ウイルス性の人獣共通感染症(動物からヒトに感染するウイルス)で天然痘と同じオルソポックスウイルスの仲間です。

天然痘とは感染してから約2週間後に、39℃以上の高熱・倦怠感・頭痛・嘔吐などの全身症状が現れます。

また、解熱し3~4日後に顔や四肢を中心に強い痛みや灼熱感を伴う斑状の皮疹が現れるのが特徴です。

しかし、天然痘は根絶が確認されていますので、現在ではサル痘が最も重要なオルソポックスウイルスといわれています。

サル痘は、自然界では、リス・ネズミ・ヤマネ・霊長類(サルなど)が保有している可能性があることがわかっています。

サル痘に感染した動物の肉などの動物性食品を十分に調理せず食べることがヒトへの感染の原因です。

ヒトへの感染は、1970年にアフリカのコンゴ民主共和国で初めて確認され、その後は中央〜西アフリカでたびたび感染が確認されています。

アフリカ以外では2003年にアメリカで70人以上の感染を起こしたほか、2018年以降もアメリカ、イギリス、イスラエル、シンガポールなどの国で感染が確認されてきました。

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サル痘(さるとう)は欧米を中心に感染者数が増えている?

サル痘は欧米を中心に感染者数が増えています。

今回のサル痘の感染増加について調査された大きな研究が2つありますのでご紹介しながら、欧米を中心に起こる感染者の増加について説明していきます。

サル痘の研究において、感染者は合計で725人(数人重複)が確認されています。

感染者の背景で特徴とされているものは、以下の通りです。

  • 年齢中央値は38歳
  • 感染者はほぼすべてが男性(1人のみトランスジェンダー、女性は無し)
  • 99%(715人)がゲイ、バイセクシャルなどの男性間性行為者
  • 40%(288人)がHIV感染を併発している

男性間性交渉に始まり、男女間での性交渉で女性にも広がり始めたことで大きな感染の波になってしまったのではないかと考えられています。

日本におけるサル痘(さるとう)の感染者数の推移

2022年5月以降、欧州や米国等、これまで流行がみられなかった複数の国で、渡航歴もなくサル痘患者との疫学的な関連が不明な患者が確認されています

日本国内においては、2022年7月25日に、1例目のサル痘患者発生が報告されました。

その後、患者数は東京都を中心に徐々に増加し、厚生労働省の発表によれば2023年2月2日時点までに報告された感染者数は合計18名です。

全員が男性で、20代が2名、30代が10名、40代が5名、60代が1名でした。

渡航歴のある方は4名(欧州3名、北中米1名)で、1名は在日米軍関係者の方、残りの13名は渡航歴のない方でした。

2024年6月現在も2023年8月をピークに減少しているものの、報告は継続しています。

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サル痘(さるとう)の症状や感染力について

では、サル痘はどこから感染するのか、どんな症状が出たらサル痘を考えるべきなのか、どうしたらサル痘にかからないのかについても詳しく説明していきます。

サル痘の原因や感染経路

サル痘のヒトへの感染経路は、「ヒトからヒトへの感染」と「動物からヒト」への感染の2つが存在します。

「ヒトーヒト感染」は以下のような状況で起こるとされています。

  • 発疹、かさぶた、滲出液との直接接触
  • 感染者の発疹や体液に触れたシーツやタオル、衣類に触れること
  • キス、ハグ、セックス(オーラルセックス、アナルセックスを含む)などの接触
  • 長時間(数時間)の対面での会話、接触
  • 胎盤を介しての胎児への感染

また、精液や膣分泌液を介して広がることは確認されていません。

コロナウイルスのようなエアロゾルによる感染を起こすこともないと考えられています。

一方で、「動物―ヒト感染」は以下のことをすることで感染します。

  • 感染した動物の肉や製品を食べる
  • 感染した動物に引っ掻かれたり噛まれたする

輸入した動物が感染していた場合には、一緒に飼育されていた動物には感染が広がる可能性があります。

感染した動物をペットとして飼育した場合には「ペットからヒトへ感染」する場合があります。

サル痘(さるとう)の症状

サル痘の症状としては、ニキビや水ぶくれのような発疹が全身に出ることが特徴的です。

特に他の発疹が出にくい手のひらや足のうらにも出現します。

サル痘の潜伏期間は 5~24日とされています。

また、サル痘はその他感染に伴う様々な症状を呈します。

サル痘による症状は以下の通りです。

  • 発疹→陰部(73%)、体幹手足(55%)、顔(25%)、手掌足底(10%)
  • 発熱
  • リンパ節腫脹→頸部(85%)、鼠径部(20%)、わき(1%)
  • 粘膜病変→陰部(71%)、口腔内(30%)、目鼻(1%)
  • 疲労感
  • 筋肉痛
  • 頭痛
  • 咽頭痛
  • 直腸肛門炎・痛
  • 倦怠感

サル痘の症状と発生率をグラフにすると以下の通りです。

また、発疹は感染初期から徐々に形態を変えて進行していきます。

発疹の形態の期間とその経過

(参照:CDC「Clinical Recognition

サル痘(さるとう)の重症化リスク

サル痘はときに重症化することがわかっています。

サル痘が重症化した場合、

  • 脳炎
  • 二次皮膚感染
  • 肺炎
  • 眼病(視力低下)

などが引き起こされます。

サル痘の重症化の高リスクとなるのは、以下のような方となります。

  • 免疫不全の人(HIV、血液がん、抗がん剤治療中、など)
  • 小児(特に8歳以下)
  • アトピー性皮膚炎
  • 妊娠、授乳中

今回のサル痘の流行で、アフリカやインド、スペインなどで死者が発生したとのニュースもありますが、致死率は3~6%程度とされています。

サル痘(さるとう)の致死率

サル痘ウイルスは、コンゴ盆地型(クレードⅠ)と西アフリカ型(Ⅱa及びⅡb)の2系統が確認されています。

従来の報告では、コンゴ盆地型による感染例の死亡率は10%程度であるのに対し、西アフリカ型による感染例の死亡例は1%程度とされています。

2022年1月1日から2023年1月15日までに、WHO管轄である全6地域の110か国・地域から報告された積感染者数は84,733人、累積死亡者数は80人です。

今回の流行では、これまでの報告よりも致死率は低い可能性が示唆されます。

2022年以降の流行は西アフリカ型によるものですが、従来の流行で報告されてきた症状とは違う点も見られています。

今回の流行では、男性間の性交渉を行う者での感染事例が多く報告されています。

しかし女性の症例も報告されており、性別によってサル痘の可能性を除外できるわけではありません。

また、

  • 異なる段階の皮疹が同時にみられる
  • 発熱やリンパ節腫脹などの全身症状がなく会陰部や肛門周辺の皮疹のみで発症する
  • 肛門痛、排便時の痛みや下血など直腸炎症状がみられる

といった症状も報告されています。

サル痘(さるとう)になったときの後遺症について

サル痘は発症から2〜4週間で自然によくなることがほとんどです。

しかし、時に皮膚の二次感染、気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜炎などの合併症を引き起こすことがあります。

皮膚に痕が残る、合併症による後遺症(脳炎後のてんかんや角膜炎後の視力障害など)が起きる可能性はあります。

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サル痘と天然痘の違いは?

サル痘は天然痘と症状はよく似ていますが、サル痘は天然痘よりも感染力が弱く、重症化する可能性も非常に低い病気ということが知られています。

また、サル痘と天然痘は共にオルソポックスウイルス属に属するウイルスによって引き起こされる病気ですが、天然痘は1980年に根絶が宣言されています。

サル痘(さるとう)は性感染症と似た症状が出る?

サル痘は、発症初期に見られる発熱・陰部の皮疹や粘膜病変などの症状は性感染症、特に梅毒とよく似ている場合があります。

また、一部のサル痘患者にはHIVだけでなく、淋菌・クラミジア・ヘルペスウイルスなどの性感染症に同時に感染していることがわかっています。

そのため、合併している性感染症に伴う症状が出る可能性もあります。

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 サル痘(さるとう)の予防法は?

サル痘の予防法としては、天然痘ワクチンの接種があります。

天然痘ワクチンには約85%の猿等予防効果があることがわかっています。

現在、天然痘ワクチンは国家備蓄されている状況で、厚生労働省は7月29日にサル痘ワクチンとして承認しました。

1976年まで天然痘ワクチンは接種を実施していましたので、40代後半以上の方は接種歴があると思います。

接種歴がある方はもしかしたらサル痘への免疫が残っている可能性があります。

また、ワクチン以外での私生活での予防法としては以下のものがあります。

  • サル痘感染者・疑い患者や、その使用物に接触しない
  • 石鹸あるいはアルコール消毒を行う
  • アフリカでは動物(げっ歯類、霊長類)との接触を避ける

サル痘の病院での検査や治療・治療薬は?

サル痘の確定診断は、皮膚病変を採取しPCR検査を行なってウイルスのDNAを確認することで診断します。

コロナウイルスで多く用いられている抗原・抗体検査はサル痘の検査として推奨されておりませんので、間違った情報に惑わされないように注意が必要です。

現在、サル痘に対する治療薬はありませんが、天然痘に対する抗ウイルス薬である「テコビリマット(TPOXX)」が有効と言われています。

アメリカの製薬会社が天然痘の治療薬として開発したオレンジ色のカプセル型の飲み薬です。

すでにアメリカやヨーロッパではサル痘の抗ウイルス薬として承認されています。

しかしながら、日本では臨床研究での投与を検討している段階ですので、一般的に使用することは残念ながらできません。

つまり、現在国内で使用できる治療薬はないということです。

また、もし感染が発覚してしまった場合は次のようにして過ごしましょう。

  • 発疹の全ての部分を衣服、手袋、包帯などで覆う
  • 発疹とその他全ての症状がおさまるまで、マスクを着用する
  • 身につけたり、扱ったりしたものは絶対に共有しない
  • 他人との性的接触、身体的接触を避ける
  • 人混みや集会を避ける
  • 発疹に触れた後は石鹸でしっかりと手を洗うか、アルコール消毒を使用する

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まとめ

サル痘について理解いただけましたでしょうか。

男性に多く、また感染者も特徴的であることはわかったと思います。

サル痘は性感染症ではありません。

また、サル痘患者=ゲイ、バイセクシャルというわけでもありません。

誰にでもかかりうる感染症になってきていると考えられます。

現在、日本ではサル痘の患者数も減少してきています。

しかし、欧米のように数千人あるいは数万人の感染者が出る可能性もあります。

患者が触れた場所に触れると間接的に感染リスクがあるため、アルコール消毒などが対策として有効となるしょう。

今後の動向に注目して新たな情報が出た際は、再度記事を書かせていただきます。

【おまけ】根絶された病気「天然痘」のワクチンが存在する理由とは

天然痘は根絶されたはずなのになぜかワクチンは世界中の国々が確保しています。

なぜだと思いますか?

それは、「バイオテロ対策」です。

バイオテロとは、人に害を及ぼすウイルス、細菌、真菌などの病原体及びその産生する毒素を用いて無差別に大量殺人をしようとする行為です。

天然痘は感染力と致死率が非常に高く、致死率は20~50%もあるとされています。

1980年に地球上で初めて人類が根絶させた感染症なのですが、政府レベルの実験室では天然痘はいまだ保管されています。

このように致死率が高いウイルスが実験室から流出してしまった場合やバイオテロに用いられた場合、世界中でパンデミックになることは予想がついていました。

そのための対策として各国は天然痘ワクチンを製造、備蓄しているのです。

天然痘ワクチンの再接種が必要となるかはまだわかりません。

今後、欧米では感染ハイリスクな人々への接種が進んでいくと思われます。

天然痘ワクチンはコロナワクチンと違い、古くから使用されており安全性は担保されています。

必要となった場合は、天然痘ワクチンの接種することをおすすめします。

参考資料

・WHO(世界保健機関)

ttps://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox

・厚生労働省:

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/monkeypox_00001.html

・CDC(アメリカ疾病予防管理センター)

https://www.cdc.gov/poxvirus/monkeypox/index.html

・Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries — April–June 2022

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2207323

・Clinical features and novel presentations of human monkeypox in a central London centre during the 2022 outbreak: descriptive case series

https://www.bmj.com/content/378/bmj-2022-072410

この記事の監修医師

監修医師: 西春内科・在宅クリニック 院長 島原 立樹


▶︎詳しいプロフィールはこちらを参照してください。

経歴

名古屋市立大学 医学部 医学科 卒業
三重県立志摩病院
総合病院水戸協同病院 総合診療科
公立陶生病院 呼吸器・アレルギー疾患内科

資格

日本専門医機構認定 内科専門医