認知症が一気に進む原因や知っておきたい予防と対策について
皆さん 認知症について深く考えたことはありますか?
認知症は予防法をうまく生活に取り入れておくと、万が一認知症になった後でも、症状の進行がゆるやかになり、生活の質を保つことができます。
いつまでもはつらつとした生活を送りたいですよね。
そこで今回は認知症が進む原因や日頃からできる予防や対策法について詳しく解説します。
目次
なぜ人は認知症になるのか?

認知症とは様々な原因で、身の回りのことを感知して判断する能力である認知機能が低下することにより、日常生活の様々な部分に支障が出る状態のことを言います。
原因として最も多いものはアルツハイマー型認知症です。
これは脳の神経細胞がゆっくりと変性することにより脳が萎縮し、その結果認知機能が低下する病気です。
初期の症状としては物忘れが多く、徐々に症状が進行していきます。
次の多い原因としては、脳卒中と呼ばれる脳梗塞や脳出血などによる血管の障害に続発する、血管性認知症です。
この場合の症状は先に起きた脳卒中の障害部位によって様々なことが起こり得ます。
この点がアルツハイマー型認知症と異なり、一部の認知機能は保たれている「まだら認知症」と呼ばれる状態になります。
ただし症状は徐々に出現することもあれば急速に出現することもあり、その過程でアルツハイマー型認知症を合併することもあります。
その他の認知症の原因としては、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症などが有名です。
レビー小体型認知症は、幻視や手足の震え、前頭側頭型認知症には感情の抑制ができなくなるなどの特徴があります。
いずれの原因にしても認知症は症状が出現する前に認知症になりやすくなる因子(リスク因子)を減らすということ、つまり予防が最も大事です。
次の項目からは認知症になりやすくなると言われている特徴についてみていきましょう。
>>認知症における顔つきの特徴と症状や種類について
認知症になりやすい人の特徴
認知症については数々の研究が世界中で行われています。
現在、認知症を治療し回復させるような特効薬は残念ながらありません。
しかし過去の報告で認知症になりやすい人の特徴はかなりわかってきています。
それらについてみていきましょう。まずは年齢が挙げられ、歳を取るほど認知症になりやすくなります。
これはイメージしやすいと思いますが、歳をとるとみんなが認知症になるわけではありません。
そこで2017年にLancetと呼ばれる学術雑誌に掲載された認知症のリスク因子に関わる研究を紹介します(1)。
それによると、認知症になりやすい 人の特徴との言える認知症のリスク因子として、
高血圧、聴覚障害、喫煙、肥満、うつ病、運動量、糖尿病、社会的孤立、低学歴、過度のアルコール摂取、頭部外傷、大気汚染 |
の12個が挙げられました。
認知症を発症する時期によって重要なリスク因子はやや異なるのですが、そこまで説明すると細かいので本文では省きます。
12個のリスク因子のうち、特に高血圧や糖尿病は肥満や喫煙、運動不足、アルコールの過剰摂取と互いに関係しあった、いわゆる生活習慣病と言われるものです。
これらの12個の因子は修正可能なものであるため、当てはまる人は積極的に改善していく必要があります。
これらの因子に当てはめると、実に全世界の認知症患者の40%がこれに当てはまります。要するに認知症になりやすい 人の特徴とも言えます。
理論的には上記12個の因子を修正すれば認知症の発生リスクを40%も軽減し、また発症したとしても発症時期を遅らせる可能性があります。これは我々現場の医師からすればとてつもない効果です。
また社会的孤立という因子は、さらに詳しくみると性格と深く関わっています。
どのような人が社会的孤立をしやすいかというと、気が短くてイライラしやすい性格の人は時間とともに人との関わり合いが減ってきて最終的に孤立する可能性が高くなります。
他人との協調性が低い人も孤立しやすいため注意が必要です。また他にもマイナス思考でネガティブな口癖をもっているような人はうつ病を発生しやすいので、結果的に認知症のリスクが高いといえます。
自分に当てはまるなと思った方は、将来認知症にならないためにも少し改善が必要かもしれません。
最後に遺伝的な要素についても説明します。
認知症のような多因子が関係している病気には細かい遺伝的要因ももちろん関わっていると考えられますが、中でもアポE遺伝子は有名です。
これはアミロイドβと呼ばれる、認知症を発生する時に蓄積する異常なタンパクに関係します。
アポE遺伝子は両親から一つずつ受け継がれます。
アポE遺伝子にはさらに三種類の多様性がありますが、そのうちε4と呼ばれるタイプのものをどちらの両親からも受け取っていた場合は認知症の発生率は12倍になるといわれています。
これは遺伝子を調べればすぐにわかります。気になる方は専門の機関に相談することも可能ですが、遺伝的に認知症になりやすいからといってみんなが認知症になるわけではありません。
上記の12個の修正可能な因子を改善することが何よりも重要です。
認知症を一気に進めてしまうかもしれない原因
次に症状の進行の速度に注目してみてみましょう。
今まで紹介したような認知症は概ね症状がゆっくりと進行するのが特徴です。
しかし中には急速に症状が進行するものもあります。
急速に進行する認知症を急速進行性認知症(RPD)といいます。
ギリシャの研究者が報告した論文がありますので、紹介します(2)。
こちらによりますと、アルツハイマー病など最初の項目で示したような神経が変性する病気、いわゆる「神経変性疾患」よりも、神経が変性することが原因ではない「非神経変性疾患」の方が早い進行の傾向にあるということがわかりました。
特に免疫の異常が関係している「自己免疫性脳炎」という比較的最近見つかった病気も進行が早いことがわかりました。
このように認知症の研究は日進月歩ですが、この報告でわかったことは、進行が早い認知症も「割合的」にはアルツハイマー病などの神経変性疾患だったということです。
では、同じアルツハイマー病でも、進行の早い人と遅い人は何が違うのでしょうか?
まずはなんといっても早期に発見できたかが非常に重要です。
早期発見には本人よりも周りの人が気付くことが効果的です。身近の人が最近物忘れがひどいなと感じたら物忘れ外来などの病院を受診することをすすめてあげましょう。
どこを受診すればいいかわからない場合は、各地区の地域包括支援センターに連絡をすれば適切な医療機関を紹介してもらえます。
認知症を予防するために上記12個の修正可能な因子を紹介しましたが、認知症を発症してもその12個の項目で当てはまるものがあれば改善し、ストレスをためないように生活することが進行を遅らせるためにも非常に重要です。
我々は医療の現場でよく遭遇することとして、認知症のある人が認知症以外の原因で入院・治療し、入院中や入院後に認知症が一気に進むことをよく経験します。
これは入院でベッド上生活を余儀なくされた結果食事の用意や洗濯・掃除などの日常生活を一時的にしなくて良くなり、その結果認知症が一気に進行すると考えられています。
生活環境の変化に人は非常に敏感です。
認知症になる前から万病の元である高血圧や糖尿病、肥満などを予防し入院する必要がないように、また認知症になってからさらによりいっそう入院にならないような健康管理が重要となるのです。
認知症の症状について
認知症の症状は大きく分けて中核症状と行動・心理症状があります。具体的にみていきましょう。
中核症状
中核症状とは認知症の症状の中心であり、記憶障害や見当識障害が挙げられます。
記憶障害
記憶障害は認知症の症状として最も有名です。
しかし単なる物忘れなのか、問題のある物忘れなのかの判断は意外と難しいと思います。
少しでもおかしいと思ったらすぐに上記のような専門施設に相談して欲しいですが、一つの目安を紹介します。
患者さんでもよく「最近物忘れがひどくて、昨日食べたご飯がなんだったがすぐ思い出せないんです、私って認知症なんでしょうか?」と心配されている方がおられます。
ただ知っておいて欲しいのは、人間は忘れる生き物です。それは普通のことです。
しかし昼ごはんを「食べた」という事実自体を忘れてもう一度ご飯を食べるというのは問題のある物忘れです。
他にも初めてあった人と自己紹介しあったのに名前を忘れたというのは割とあることですが、昔から知っている友人の名前が出てこないのも問題のある物忘れです。
これを専門用語でいうと短期記憶と長期記憶というのですが、短期記憶は忘れて当然なので普通のことですが、友人の名前や自分の電話番号などは長期記憶に分類され、これを忘れるのは問題があります。
これらの例を一つの目安にして、認知症の早期発見に役立ててください。
見当識障害
見当識障害は聞き慣れない言葉かもしれません。
見当識とは現在の日時や時刻、また今自分がどこにいるかなどの状況の把握のことを言います。
我々は意識レベルの評価などに用います。認知症ではこの見当識も傷害されます。
認知症の方に今日の日付を聞くと、日にちを間違えるどころか月を間違えたり、季節を間違えたりすることもあります。
また場所もわからなくなるため普段住んでいる街で道に迷ったり、家に帰れなくなったりすることもあります。
以上のような障害の結果、様々な症状が出現します。
いくつか例をあげましょう。
- 理解力が低下してお金の管理ができなくなる
- 運転がうまくできなくなる
- 今までできていた料理ができなくなったり、味付けなどがおかしくなる
- 家事の段取りができなくなったり、仕事の効率が落ちる
- 身だしなみが疎かになって季節にあった服を選べなくなる
我々人間は記憶や見当識といった能力を日常生活の中で無意識に使っており、これらが傷害されることにより様々な症状が引き起こされるということです。
行動・心理症状
行動や心理症状では、性格の変化が挙げられます。
例えば今まで熱心にやっていた趣味に興味を示さなくなったり、何をするのも面倒くさがったりします。
また一人でいることを異常に怖がったり不安に思う一方で、些細なことで怒ったりイライラすることが多くなったりします。
また被害妄想が多くなり、自分のものが誰かに取られたと疑う「物取られ妄想」をいった症状が出現することもあります。
おそらくこれらは、認知症によって今まで生きてきて獲得した「我慢」など高度な脳機能がうまく働かなくなり、持って生まれた「気質」みないなものが前面に出てしまい、その結果上記のような様々な症状が出るのではないかと思います。
認知症の症状は、本当に人それぞれです。
>>アルツハイマーと認知症の違いは?原因や初期症状、なりやすい人の特徴について
日頃からできる認知症の予防と対策法
認知症の予防や対策法としてはすでに紹介した「修正可能な12個のリスク因子」である、
高血圧、聴覚障害、喫煙、肥満、うつ病、運動量、糖尿病、社会的孤立、低学歴、過度のアルコール摂取、頭部外傷、大気汚染 |
を改善する必要があります。
また、すでに認知症を発症している場合も同様です。1つずつ日頃からできる認知症の予防と対策法についてみていきましょう。
認知症の予防①運動
運動は激しい運動よりも、散歩やジョギングといった有酸素運動が効果的です。
こういった有酸素運動は肥満の改善・予防に役立ちます。
また運動は思いつきで時々やるのではなく、日々できる程度の有酸素運動(頑張らなくてもいい程度)を毎日の習慣にすることが重要と考えます。
これらは認知症の予防だけでなく肥満の解消から高血圧や糖尿病、コレステロール異常などといった生活習慣病の改善にも効果的です。
どうしても「運動しなきゃ!」と思うと頑張りすぎて3日坊主になりがちですが、なんといっても重要なことは習慣化することです。まずはできる範囲で(5分くらいの散歩でも)十分なので、はじめてみましょう。
ここで一つ注意しなければいけない点があります。それは定期的な運動については、先述の「Lancet」の論文によると効果は患者の年齢によって異なるとされています。
一番効果的なのは中年の方と言われています。ちょうど生活習慣病が発症するくらいの年齢です。
それを過ぎて高齢者になりますとやや運動の重要度は下がります。
とはいっても運動がダメなわけではありませんので、自分のできる範囲の軽い運動を是非続けていただきたいと思います。
認知症の予防②社会的孤立を防ぐ
認知症は社会や他者との関わりがなくなると発症しやすく、またすでに認知症の方は症状が早く進行します。
これは社会や他者と触れ合うことは、コミュニケーションなどの様々な脳の活動を無意識に行う必要があり、言うならば最高の「脳トレーニング」になるからです。
人間は社会性を持つ生き物です。趣味などがあるならぜひそれを大事にして、それを通じて社会との関わりを持ち続けましょう。
趣味がこれといってない方は、是非色々な知らない世界を覗いてみて、積極的に趣味を持ちましょう。
どうしてもそういったことができない場合は、指先を使ったような手遊び、例えば裁縫なども脳トレーニングになりますので検討してみてください。
認知症の予防③生活習慣病を治す
上記の修正可能な12個のリスク因子の中に高血圧や糖尿病といった生活習慣病も入っています。
これらの病気は医師による適切な対応が必要ですが、ご自身でも食事や運動習慣の見直しも重要です。
生活習慣病は何か症状が出た時にはかなり進行しています。
普段からバランスの取れた食事を心がけ、運動習慣も持ち適正体重を維持するようにしましょう。
世の中では食事は様々なことが言われており、何がいいかはわかりにくいと思います。
医学的にも確実にこれがいいという食事は実はよくわかっていませんが、日本人にあった対応としては
- 野菜を積極的に撮る
- 外食はし過ぎないようにする(外食は塩分が多い傾向にあります)
- 魚や大豆製品を積極的に食べる(豚肉や牛肉、鶏肉といった動物性脂肪は取り過ぎないようにする)
- 夕食は和食中心にする(夕食は食べ過ぎず、夕食後は食べないようにする)
といったポイントが挙げられます。また喫煙や過度なアルコール摂取の習慣がある方は改善する必要があります。
会社の検診で生活習慣病の疑いがあると言われた場合は放置せず、医療機関を受診することをお勧めします。主婦の方などで会社の検診がない方は時々でも大丈夫なので地域の健康診断を受けてみましょう。
病気は全て、病気になってからの対応よりも早期発見と予防が最も重要です。
認知症の予防④難聴を治す
難聴も認知症のリスク因子の一つです。
難聴はいきなりなるとわかりやすいですが、徐々に進行すると本人は意外と気付かなかったりします。
難聴になると外界からの情報が脳に届きにくくなり、結果として認知症のリスクが高くなります。
検診で聴力の低下を認めた場合は早めに医師にかかるようにしましょう。
最近では様々なタイプの補聴器が出ており、これらの道具を使えば難聴も十分に修正可能です。
難聴も本人だけでなく周囲の人の気付きが重要です。最近聞き返しが多いなと感じたら放置せず、医療機関の受診を勧めてください。
>>物忘れがひどくなる原因は?|認知症との違いや物忘れ対策について
もし家族や身内が認知症になったときの対応
もし身近な人が認知症になった場合、その後の対応がこれまで以上に重要となります。
まずは修正可能な12個のリスク因子について当てはまるものを調べ、それぞれ可能なら医療施設なども受診しながら改善していくことが重要です。
また認知症を診察するための主治医、地域のかかりつけ医を見つけることも重要です。
認知症には進行を遅らせる飲み薬などもあります。
積極的に医学の力も使いながら、適切に対応しましょう。
西春内科在宅クリニックができる対応
当院では認知症・物忘れ外来を設置しております。
当院の医師による問診と心理検査など物忘れ・認知症に関する専門的な検査を受けることができます。
さらに詳しい検査が必要な場合には、頭部CTなど画像検査を使っての検査も行うことができます。
検査の結果を確認し、医師による総合的な診断が行われます。
まとめ
いかがだったでしょうか?本記事を読んで、認知症についての理解が少しでも深まり、その結果自分や身近な人の役にたてば幸いです。
繰り返しになりますが認知症は予防と早期発見が非常に重要です。
そのためには修正可能な12個のリスク因子について、一つでも減らせるように少しずつ生活習慣を見直しましょう。
参考文献
(1) Gill Livingston, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet Journal. 2020 Aug 8;396(10248):413-446.
(2) Petros Stamatelos, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2021;35:315-320.
麻酔科 弓場智雄 (ゆば ともお)
もともと心臓外科を研修していたが、担当した患者さんが集中治療室(ICU)の術後管理で劇的に回復したことをきっかけに麻酔科に転科。
専門は集中治療、手術麻酔、ペインクリニック、無痛分娩。研究は酸化ストレス、慢性痛や術後せん妄、無痛分娩など。
- 2014 大阪大学卒業
- 2014~2016 国立病院機構呉医療センター
- 2016 大阪大学心臓血管外科
- 2017 大阪大学麻酔科集中治療部
- 2018 国立成育医療研究センター麻酔科
- 2019~ 大阪大学麻酔科集中治療部 医員