認知症の検査方法と費用について|治療の副作用は?|検査を拒むときはどうすればいい?

公開日:2022.7.20 更新日:2023.12.25

はじめに

「認知症」、「介護」という言葉についてどこか他人事のような気がしていませんか?

昨今の高齢化に伴い、認知症の発症率や有病率は世界的に増加しています。

たとえば、認知症の分類形の一つであるアルツハイマー型認知症の有病率は、全世界で約4,700万人と報告されています。 1) 

別の研究では、93歳まで生きていた人のうち、まったくもって正常の認知機能を保つことができていたのは19人(約12%)だけだったと報告されています。 2)

 このように認知症は近年ますます身近なものとなってきていますが、身の回りの方が認知症になった時のことについて考えたことがある方は少ないと思います。

そんな方のために、この記事では「認知症の症状や検査、治療」について概説していきますので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。

>>物忘れがひどくなる原因は?|認知症との違いや物忘れ対策について

認知症の症状について

 



さて「認知症」ときいて一番に思い浮かべる症状は何でしょうか。

おそらく「物忘れ」という方が大半でしょう。

イメージの通り物忘れは認知症の大変重要な症状です。

ただ認知症のパターンによっては物忘れがあまり目立たずに、以下のような点で困っていることも多いです。 3)

  • 新しい情報を記憶する(例:出来事を思い出すのが難しい)
  • 複雑な作業の処理(例:お金の管理ができない)
  • 推理力(例:予期せぬ出来事に対処できない)
  • 空間的能力および方向性(例:見慣れた場所で迷子になる、交通事故を起こす)
  • 言語能力(例:単語探し)
  • 日常生活動作(例:ご飯を食べたかわからない、お風呂に入らない)
  • 心理症状(例:無気力、すぐに怒る)
  • 性的嗜好、清潔の問題(例:性的な発言が増える、開放的な行動をする)


様々な症状について詳しく知りたいという方は、

>>認知症における顔つきの特徴と症状や種類についてをご参照ください。

認知症の病院での検査について

 


「せんせー、症状はいいから、いざとなったらどんな検査したらいいのか教えてよ!」という方もいらっしゃるでしょう。

日本発祥で世界的にも使用されている長谷川式認知症スケールをはじめ、様々な検査が認知症の診断に有用です。

ここからは認知症の検査について詳しく解説していきます。

認知症の検査の種類


まず一番は
面談/診察をします。

検査じゃないじゃん!と言われるかもしれませんが、認知症の診断において非常に重要であることは否定できません。

家族など身近な人からの情報提供が、着実に診断に近づけてくれます。

認知機能や日常の行動の変化が大事なのです。

またお薬が原因で認知症のような症状がでることもあるので、お薬手帳はぜひ診察にもっていくのがよいでしょう。

診察の中で、以下のような心理テストの検査が行われることもあります。

  • 改訂 長谷川式認知症スケール(HDS-R)
  • ミニメンタルスケール検査(MMSE)
  • モントリオール認知評価(MoCA)


などが代表例です。いずれも外来診察中に行うことができて、認知症のスクリーニングに非常に有用な検査です。
4)

ホルモンの異常やビタミン不足、梅毒などにより認知症のような症状が出ることがあるため、血液検査も最初に行うことが多いです。

また頭部CTや頭部MRIなども有用です。

脳の萎縮を見ることができる他、認知症もどきになりやすい慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症という疾患の除外も可能です。

さらに別の角度から認知症を評価する検査として、SPECTPETが挙げられます。

SPECTでは脳のどの部分によく血流が流れていてどの部分にあまり流れていないかを見ることにより、機能が落ちている部分を評価することができます。

PETでは、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイド蛋白の沈着具合を画像にして評価することができます。

認知症の検査にかかる費用


「けど、PETとか聞いたことない検査、お金かかるんじゃないの?」という心配もごもっともです。

たしかにMRIやSPECT、PETなどはどこでも撮影可能な検査ではないですが、保険制度により少しでも負担が減るようにできています。

参考までにまとめてみました。3割負担の方であれば、検査にかかる費用はそれぞれ

  • 改訂 長谷川式認知症スケール(HDS-R) 240円
  • 頭部MRI 3,990~4,860円
  • SPECT 5,400円
  • PET-CT 21,000~27,000円


ほどになります。撮影状況により前後するので参考程度に考えていただければと思います。

認知症で入院が必要なケース


認知症の多くは入院を必要とせず、
外来での通院の形式をとることが多いです。

しかし、認知症の進行により通常の生活が送れずに身体的な不調も併発してしまった場合や、極度の興奮状態で自他の傷害の恐れがある場合などは入院での加療を選択することもあります。

もの忘れ外来

認知症の治療に使われる薬について

 

「せんせー、どこが光って見えるとかよりもさ、治るの?どうしたらいいの?そこんトコロ教えてよ!」とお考えの方もたくさんいらっしゃることと思います。

お気持ちは大変よくわかります。

自分が認知症だと言われると非常に辛い気持ちに陥ることが予想されます。

そしてご家族の方も、これからどうやってサポートしていったらいいんだろうと、心配されていますよね。ここからは認知症の治療について解説していきます。

認知症の薬の種類


現在、認知症の治療の中心は
対症療法になりますが、認知症の進行を抑える治療薬については開発されています。


他には、
精神・行動症状(BPSD)を緩和する薬剤などもあります。

認知症診療で使用される薬剤の例としては、

  • コリンエステラーゼ阻害薬(例:ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)
  • NMDA受容体拮抗薬(例:メマンチン)
  • 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(例:パロキセチンなど)
  • その他の一部の抗うつ薬
  • 漢方薬(例:抑肝散など)


などが挙げられます。

認知症の薬の効果


コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬は、
脳の神経の伝達を保護することで認知機能の低下を抑える効果が期待できます。


またSSRIを含む一部の抗うつ薬は、
精神状態の動揺や妄想症状を改善するのに役立つと考えられています。


他には
漢方薬がよく効く場合もあります。抑肝散は、神経が昂ったりすぐに怒ってしまったりする場合に、感情の高ぶりを穏やかにしてくれます。

認知症の薬の副作用や危険性は?


通常、開始用量で副作用が強く出ることはあまりありませんが、
肝臓の機能や腎臓の機能が損なわれている場合には副作用が現れることがあります。

代表的なものとして、コリンエステラーゼ阻害薬では吐き気・下痢などの消化器症状や徐脈・失神などの症状がでることがあります。

NMDA受容体拮抗薬では不穏、昏迷、幻視などの精神症状がでることがあります。

認知症の薬を使わない治療は?


認知症のマネージメントにおいて、
機能をサポートするための環境操作も非常に重要です。


リハビリテーションを行うことで、認知機能が低下しないように、また
一度低下した認知機能を少しでも回復できるようにサポートすることができます。


今後も研究していく必要があると結論付けてはいるものの、認
知刺激プログラムが認知機能においてプラスに働くという可能性が示唆されています。 5)


日常生活の中で様々な刺激に触れて脳を回転させるという行為が、
認知機能低下を予防すると考えられます。


諸説ありますが、
人と会話するというのはその最たるものではないでしょうか。


日常生活の中でたくさん会話をしたり、
デイケア、デイサービスなどでたくさんの人と接することが非常に有用だと考えます。

>>認知症かな?と思った方は認知症外来・もの忘れ外来へ

認知症治療で完治や改善の期待はできる?

 


世界中の研究者たちの膨大な研究によって、認知症などの神経変性疾患の病態については確実に解明が進んでいます。


しかしながら、悔しいことに特効薬というのはまだ見つかっていません。


老廃物が脳細胞や神経細胞に沈着して劣化していくのを止めて、
脳の機能を元に戻せるような治療薬は2022年7月現在、存在しません。


現在、
認知症の治療の中心は対症療法になりますが、認知症の進行を抑える治療薬については開発されています。


他には、
精神・行動症状(BPSD)を緩和する薬剤などもあります。


現状、完治というのは難しいですが、今の日常生活をできるだけ続けられるように改善することは期待できると思います。

認知症と寿命の関係性はある?


認知症が寿命を短くするということは数々の報告で明らかになっていますが、実際に
どの程度寿命に影響するかということに関しては未だ議論の余地があります。


一例としてカナダのある研究では、認知症と診断されてから3年ちょっとで約半数の方がなくなられたと報告されています。
6) 


別の研究では65歳の時に診断された人の半数が9年間生存し、90歳で診断された人の半数が3年間生存したと報告されています。
7)

 
認知症において、認知症それ自体で入院するというよりも、
肺炎や尿路感染症、転倒による骨折などその他の疾患で入院する頻度が高く、そのためにバラツキが生じていると考えられています。


認知症になったから余命何年というような考え方をする必要はまったくないと思います。

>>
認知症が一気に進む原因や知っておきたい予防と対策について

認知症でプライドが高い人への対応の仕方は?

 


いったん医学的なことは置いときまして。よく相談されるのが「そもそも診察に行くことを拒否していて通院が始められないんですけど、、。」というお悩みです。

患者様本人のプライドが邪魔して通院できないという場合がよくあります。

これは昔よく言われていた「痴呆(ちほう)」という表現に責任の一端があります。

そもそも認知症という病名が広まったのは平成に入ってからのことです。

それまでは「痴呆」という言葉でよく表現されていました。

「痴」も「呆」も侮蔑的な意味を含んでいるため、自分が「痴呆」と思われることに強い抵抗を覚えられる方が多いのです。l

では、そういうプライドが高い認知症の方への接し方をみていきましょう。

検査に行くことや薬を飲むことを拒む場合の対応は?


では、
プライドが高い認知症の方へはどのようにサポートすればよいのでしょうか。


これには
認知症の症状の傾向を考えることが有用です。


認知症では大人になる中で
獲得した記憶力や社会適応能力、認知機能などが障害されていきます。


それにより「新しく記憶する」ことが困難になる反面、昔のこと、幼少期の記憶などについては覚えていることが多いです。


そして子どもの頃に培った、感情に関する事柄も保たれることが多いです。


したがって、こちらの感情を述べてそれに対するアクションを要求するという手法がうまくいくことがあります。


「最近、物忘れがひどいから病院行った方がいいよ。」


というようにアドバイスするのではなく、


「最近、日常生活でうまくいかないことがあるよね。私、心配でたまらないから一緒に受診してくれない?」


と感情を出しながらお願いすることで、うなずいてもらえることがあります。

また薬の中には飲み込まなくても、すぐに溶けてなくなる速崩錠、口腔内崩壊錠というのもあります。

生活シーンに合わせてうまく利用することで抵抗なく服用できることもあります。

在宅治療での検討も考える


拒否が強い場合や、うつ、
無気力の症状が強い場合には訪問診療による在宅医療という選択肢もあります。


在宅であれば周囲の目が気になることはありませんし、住み慣れた環境でストレスなく診療を受けることができます。


また、「自分が受診する」ということには抵抗を訴える方でも、
「お客さんをもてなす」ということには意欲を示してくれる方も見受けられます。

お客さんとの会話を通して診察を受けることができて、スムーズに進むこともあります。

>>西春内科在宅クリニックの在宅診療について

西春内科在宅クリニックができる対応


当院では、今回ご紹介した検査のうち、
血液検査や頭部CT検査を行うことができます。


認知症の診断がついた場合には、内服薬での通院治療
が可能です。


また通院が困難な場合には、訪問診療による在宅治療にも対応することができます。


一人一人の状況に合わせてベストなサポート体制を目指しています。そしてご本人、
ご家族みなさんに寄り添った診察で症状の改善とQOLの向上のお手伝いができると考えています。


何か気になることがあれば、お気軽に相談にお越しいただければと思います。

>>西春内科在宅クリニックの健康診断について

まとめ


今回は、認知症の検査や治療について解説してきました。


物忘れの症状などについてはなんとなくイメージがあったけど認知症の検査や治療については詳しく知らなかったという方も多いのではないでしょうか。


日々進歩する医療のことについて少しでもわかりやすく解説できればと思いこの記事を作成しました。


当院では患者様ご本人はもちろんのこと、
サポートするご家族様にも寄り添った診察で、症状の改善とQOLの向上に努めています。


この記事がその一つとしてお役に立てればなによりです。最後までご覧くださりありがとうございました。

>>アルツハイマーと認知症の違いは?原因や初期症状、なりやすい人の特徴について


参考文献

1) World Alzheimer Report 2015: The Global Impact of Dementia http://www.alz.co.uk/research/world-report-2015 (Accessed on October 30, 2015).

2) Lewis H Kuller, et al. Risk of dementia and death in the long-term follow-up of the Pittsburgh Cardiovascular Health Study-Cognition Study. Alzheimers Dement. 2016 Feb;12(2):170-183.

3) Recognition and initial assessment of Alzheimer’s disease and related dementias. Clinical Practice Guidelines, Number 19, AHCPR; U.S. Department of Health and Human Services Agency for Health Care Policy and Research, 1996.

4) Kelvin K F Tsoi, et al. Cognitive Tests to Detect Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Intern Med. 2015 Sep;175(9):1450-8.

5) Bob Woods, et al. Cognitive stimulation to improve cognitive functioning in people with dementia. Cochrane Database Syst Rev

. 2012 Feb 15;(2):CD005562.

6) C Wolfson, et al. A reevaluation of the duration of survival after the onset of dementia. N Engl J Med. 2001 Apr 12;344(15):1111-6.

7) Ron Brookmeyer, et al. Survival following a diagnosis of Alzheimer disease. Arch Neurol. 2002 Nov;59(11):1764-7.

この記事の監修医師

監修医師: 福井 康大