【高齢者に多い骨折】骨粗しょう症とは?薬を飲みたくない人向けの予防法や治療法はある?

公開日:2022.12.02 更新日:2023.12.25



骨粗鬆症(骨粗しょう症)とは、骨の強度が低下して弱くなり、骨折しやすくなる病気です。

主に女性ホルモンが不足する、あるいは運動不足などに関連する生活習慣が原因として考えられています。

一般的に認識されている骨粗鬆症では、加齢や女性ホルモンのエストロゲンが不足するため、特に閉経後の高齢女性が発症しやすくなっています。

骨粗鬆症になってしまうと些細なことで骨折しやすくなるだけでなく、身体全体の不調を招きかねない病気ですので十分に注意することが必要です。

今回は、高齢者の骨折原因となる、骨粗鬆症とはどのような病気なのか薬を飲みたくない人向けの予防法や治療法はあるかなどを詳しく解説していきます。



骨粗鬆症の原因



骨粗鬆症

世界保健機関によると「骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴としており、骨の脆弱性が増大して骨折の危険性が増大する疾患である」と定義しています。

一般的に骨粗鬆症とは、骨の強度が低下することで引き起こされると考えられています。

骨の強度を規定する要因としては、骨密度と骨質が挙げられ、約70%が骨密度、残りの30%前後は骨質に影響されると言われています。

通常、骨粗鬆症の原因には、原発性と続発性の2種類があります。

原発性の骨粗鬆症では、その原因となる明らかな疾患などはありません。

主に女性ホルモンの低下や加齢によって引き起こされるものであり、全体の約9割を占めます。

健康的な骨の維持には骨の形成や吸収といった代謝のバランスが鍵となります。

しかし、加齢に伴うビタミンDや副甲状腺ホルモンの働きの異常性変化によって骨の代謝のバランスが崩れていきます。

女性の場合は、閉経や加齢によって骨の分解を抑制するエストロゲンというホルモンの分泌が急速に低下していきます。

その結果、骨の形成が吸収に追いつかなくなり、より骨が脆弱になる方向性へと傾くということです。

これら以外にも、無理なダイエットや偏食により栄養バランスが崩れてしまうと、カルシウムやタンパク質、ビタミン群などが不足して骨量が減りやすくなってしまうので注意が必要です。

その一方で、続発性の骨粗鬆症とは特定の病気や薬の影響によって起こるとされています。

具体例には、甲状腺機能亢進症(*1)やクッシング症候群(*2)などの内分泌疾患、あるいは胃切除や吸収不良症候群(*3)など栄養に関連した疾患が影響している場合です。

それ以外にも、ステロイドなどの薬剤、先天性疾患など多種多様な原因によって続発的に骨粗鬆症が引き起こされます。

また、糖尿病を抱えている方では、同じ骨密度であっても骨折のリスクが高くなることが知られており、骨質の変化が発症に関わることが判明しています。

骨粗鬆症は女性に多い病気ですが、男性が発症した場合には生活習慣病が原因となっている場合が多く、症状が重くなりやすいとされています。

甲状腺機能亢進症(*1)=甲状腺が活発に活動し、血中に甲状腺ホルモンが多く分泌される病気
クッシング症候群(*2)=副腎で合成・分泌されるコルチゾール(副腎皮質から分泌されるホルモンの一種)の作用が過剰になることで、体重増加や、顔が丸くなったり、血糖値や血圧が高くなったりという症状を引き起こす病気
吸収不良症候群(*3)=食べたものに含まれる栄養素が様々な理由により小腸で適切に吸収されない状態

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骨粗鬆症の症状


骨粗鬆症

骨粗鬆症とは、骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。

一度背骨に骨折が生じると、再び骨折する危険性も上昇します。

気になる症状があれば、放置せずに速やかに医療機関を受診しましょう。

特に、直近で4cm以上身長が縮んだ場合には、前向きに専門医療機関で骨密度検査やレントゲン検査を受けることがお勧めです。

骨粗鬆症は基本的に自覚症状が乏しく、背中が丸くなる、身長が縮むなどの症状が少しずつ認められていきます。

そのため、気」と気付かずに放置する。

あるいは気付いた時には病状がかなり進行していたということも多い疾患です。

年齢を重ねるごとに身長が縮むことはよくありますが、加齢の影響だけではなく、身長低下の主な原因は骨粗鬆症であると指摘されています。

骨粗鬆症では骨が弱くなり、背骨がつぶれてしまい身長が縮むことがあります。

骨粗鬆症における初期段階では、特に痛み症状も強くなく、外観などにも明らかな変化は見られません。

ですが、背中から腰部にかけて重苦しく疲れやすいという症状を自覚する場合があります。

これらの症状は、骨が減少するところを見ると、特に背骨に引き起こされやすくなっています。

弱くなった背骨の負担を周囲の筋肉で補おうとするために、異常な緊張がかかり筋肉の疲労が生じることによって症状が出るのです。

病状が進行すると腰、背部痛が出現して、外観的にも背中や腰が曲がって円背(*1)の姿勢になっていきます。

そのため、身長も低くなり、X線レントゲン検査でも明確に骨の粗鬆化、背骨の椎体(*2)の変形、あるいは背骨が上下から押しつぶされる圧迫骨折もよく見受けられるようになります。

骨粗鬆症により、高齢者が股の付け根を骨折すると治療に時間がかかり、その間に全身機能が衰弱して、寝たきり状態になるリスクもあります。

軽く転んで尻もちをついただけで圧迫骨折を引き起こします。

圧迫骨折を起こすと、通常であれば激しい痛みを自覚します。

特に高齢者においては痛みの感度が低く、症状に気付きにくいこともあるため注意が必要です。

骨粗鬆症かどうかが判断できるチェック方法として以下のようなものがあります。


自分の背中が曲がっていないかどうかを確認です。

まっすぐな正常な姿勢になり、鼻が胸より前方に突出していて、背中が曲がっている場合には、骨粗鬆症が隠れているかもしれません。


円背(えんばい)=脊柱が前に倒れた状態。一般的に猫背と呼ばれている。
椎体(*2)=椎骨の円柱状の部分

 

高齢者に骨粗鬆症が多い理由



骨粗鬆症

高齢になると骨を作るスピードや機能が低下していきます。

そのため、骨密度が減少して骨粗鬆症を発症しやすくなると言われています。

生活習慣が乱れ食事バランスが悪くなると、骨を形成するために必要なカルシウムやビタミン群などの栄養素が十分に摂取できなくなっていきます。

骨粗鬆症は、基本的に男性より女性に多く、65歳以上の女性の約半分が発症していると言われています。

前述のとおり、主に加齢によって引き起こされると同時に女性は特に閉経をきっかけとして骨密度が低下し、骨粗鬆症を発症すると考えられています。

女性の骨密度は、加齢によって腸からのカルシウムの吸収力が悪くなる影響で50歳前後から急速に低下します。

閉経期に骨を破壊する細胞の働きを抑制する女性ホルモンの分泌が低下することも大きな要因となっています。

以上のことは、高齢女性に骨粗鬆症の罹患率が高い理由と言えます。

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骨粗鬆症の治療について



骨粗鬆症の治療には、背中の痛み症状などを認める際に、まずは患者さんの苦痛である痛みの症状を緩和することが基本となります。

特に急性期治療では、以下などが使用されることになります。

  • 安静
  • 湿布
  • 消炎鎮痛剤の内服
  • 痛み止めの坐薬

骨粗鬆症における治療おいて、腰、背部痛など痛みがあまりない場合には、骨量の減少を少しでも改善して、骨折を予防することが治療の大原則となります。

骨粗鬆症になった場合に、圧迫骨折などを伴う場合には、骨折の治療が最優先となり、保存的治療で治療ができる際にはギプス固定や体幹コルセットを装着することになります。

また、大腿骨頚部(*1)骨折など手術治療が求められるケースでは、早めに起き上がれること目標として、骨接合術(*2)(ヒップスクリュー)や人工骨頭置換術(*3)などの根治的治療が実施されます。

慢性期になると、自覚症状としては激しい痛みはあまり認められないため、湿布や軟膏などを含む外用薬での治療が中心となります。

その他、腸管からのカルシウム吸収を促進する作用のある活性型ビタミンD剤や、女性ホルモン剤が主に内服薬として活用されています。

注射薬としてはカルシトニン剤(骨吸収(*4)を抑制)が用いられます。

カルシウム成分は基本的に食事内容から摂取するのが通常です。

大量のカルシウム剤を内服した場合、不整脈を誘発したり、吐き気などの胃腸症状に関連した副作用も出現しやすいので一定の注意が必要になります。

大腿骨頚部(*1)=太ももの骨(大腿骨) の脚の付け根に近い部分
骨接合術(*2)=骨を金属などの器具で固定して,折れた部分をくっつける手術
人工骨頭置換術(*3)=大腿骨頭を切除し人工骨頭に置換する手術
骨吸収(*4)=骨が壊されること

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▶︎骨粗鬆症の薬が危険といわれる理由|副作用や注射治療について解説 | 横浜内科・在宅クリニック


薬を飲みたくない場合の治療は?



骨粗鬆症

薬剤治療に抵抗がある場合には、治療方法の一つとして、ストレッチや筋力強化体操などを始めとする理学療法が挙げられます。

理学的な運動リハビリの中には、全身の血流を良くし、筋肉の緊張を和らげるマイクロ波を利用した温熱療法や、低周波治療を実施することも含まれます。

また、骨粗鬆症を改善するためには、日々の生活習慣を見直すことも大切な要素です。

例えば、喫煙行為は胃腸の働きを抑えてカルシウムが効率よく吸収できないだけでなく、女性ホルモンが減少して骨粗鬆症になりやすいと指摘されています。

そのため、タバコを吸っている場合には禁煙することをお勧めします。

また、アルコールは過度に摂取しすぎると尿と一緒にカルシウム成分が体外に排出されてしまいます。

どうしても飲みたい場合には適量に抑えるようにしましょう。

以上のことから骨粗鬆症は、薬物治療以外に食事療法や運動療法を地道に続けていくことによって、骨折のリスクを減らすことが期待されているのです。

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骨粗鬆症にならないためにできる予防法



骨粗鬆症

骨粗鬆症の予防には、日々の食事や運動といった生活習慣の改善が重要なポイントです。

骨粗鬆症は、全身を構成している骨組織が、粗く弱くなり、骨の質量や密度が少なくなる病気です。

発症を予防するためには、毎日の食事からカルシウムを摂取する、運動を行うことによって骨芽細胞(*1)を活性化して骨量の増加や筋力の増強に努めることが重要となります。

食事内容としては、以下の成分の多い食物をバランスよく摂取することが大切です。

  • カルシウム
  • たんぱく質
  • ビタミンD

特にカルシウム成分は、日本では摂取不足の傾向であると指摘されています。

カルシウム成分は、最低1日あたり約600mg以上取り入れることが望ましいと考えられています。

また、マグネシウムを中心にビタミンD、ビタミンK、リン、適量のたんぱく質を摂取することも必要です。

マグネシウムはミネラル成分のひとつであり、体内で多くの酵素の働きを助けています。

特に骨を作る骨芽細胞(*1)に働きかけ、骨の中に入るカルシウム量を調節する役割を有しています。

マグネシウムは、以下のものに多く含まれています。

  • 大豆製品
  • 海藻
  • ナッツ類
  • ゴマ類

特に海藻類や大豆製品などは、体に大切なミネラルやビタミンの宝庫と言われています。

ひじきや昆布はカルシウム・マグネシウムともに豊富に含んでいます。

成人では、1日に必要なマグネシウムの摂取推奨量はおよそ270~340mgとされています。

マグネシウムが日常的に不足してしまうとせっかく摂取したカルシウムが骨形成に役立ちません。

普段からカルシウムとあわせてマグネシウムをバランス良くとることが重要な視点となります。

カルシウムだけ摂取していても、マグネシウムが不足していると血中カルシウム濃度が低下してしまいます。

そのため、日常的な食事において、カルシウムとマグネシウムは2対1の比率でバランスよく摂取することがお勧めです。

また、骨を強く発育させるためには、骨に負荷がかかる運動を実践することが重要です。

高齢者でも実施しやすい運動としては、背筋運動や片脚立ちなどが挙げられます。

背筋運動は、うつぶせに寝て、クッションなどをおなかに入れた状態で両手を腰に置き、背筋の力で胸が少し浮く程度に上体を持ち上げて10秒間維持するものです。

加齢に伴う腰椎の骨密度の低下を抑えて、背骨の骨折の発症頻度を減らす効果があります。

片脚立ちは、机や手すりの横で片方の足を5~10cm程度上げた状態にして、反対側の脚で1分間立つエクササイズです。

反対側の足も同様に行うことによって、歩行の安定性が増加して転倒を予防する効果が発揮できます。

また、大腿骨頚部の骨密度が負荷によって上昇します。

骨芽細胞(*1)=骨を作る細胞

骨粗鬆症の検査について


骨粗鬆症

背中や腰が湾曲している高齢者は、ほぼ外見だけで骨粗鬆症であると判断されます。

しかし、確実に診断するためには、レントゲン検査による骨密度の減少や椎体(*1)の変形が認められることが必要です。

補助的な診断ツールとして、他の病気が原因となって起こる骨粗鬆症を調べるためにも血液検査によってカルシウム、リンなどを測定します。

その他、尿検査や内分泌検査などを実施されることもあります。

最近では、骨密度の測定が一般的に用いられ、診断や治療経過を評価するために有用な手段です。

しかし、骨密度の測定値のみでは、測定部位や医療機関によって測定結果の誤差もあるために慎重に結果を判断する必要があります。

もし外出が厳しく診療所や病院に毎回通院できない場合には、2010年7月23日に骨粗鬆症治療薬として承認されたテリパラチド(商品名:フォルテオ皮下注カート600μg、同皮下注キット600μg)を在宅治療のための薬剤として使用できることが可能となりました。

フォルテオ皮下注キット600μg(日本イーライリリー製造販売)は、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者に1日1回20μgを皮下注射することになっています。

その主成分は、遺伝子組換えヒト副甲状腺ホルモン(PTH)のテリパラチドです。

作用の仕組みとしては、骨の元となる細胞への変化を促すと同時に、定期的に投与を繰り返すことで、骨形成を促進し、骨密度を速やかに増加させて骨折するリスクを減少させる効果が期待されています。

椎体(*1)=椎骨の円柱状の部分

西春内科在宅クリニックができる対応


骨粗鬆症と診断された場合、通常は内服薬や注射薬による治療を組み合わせ、以下などが処方されることになります。

  • 骨吸収(*1)を抑える骨吸収抑制剤
  • 骨形成を助ける骨形成促進剤
  • 骨合成を補助するビタミンD製剤

西春内科在宅クリニックでは、患者さんに対してどの薬を使用するかを医師が判断して、年齢や病気の程度、骨密度や副作用の有無などを評価しながら状況に応じて適切に治療に当たることができます。

骨粗鬆症では、薬による治療が中心となっており、薬物治療が奏功すれば、骨折するリスクは半減します。

今以上に骨が弱くなってしまわないように飲み薬や注射薬を処方してもらって医師の指示通りに治療を実践することをお勧めします。

骨吸収(*1)=骨が壊されること




まとめ


骨粗鬆症は、骨の強度が低下して、骨組織が弱まり、骨折しやすくなる病気です。

骨の単位容積当たりの質量が減少した状態で、以下など様々な原因によって骨からカルシウム成分が少なくなり、骨が脆くなるすべての要素を総称した病気と位置付けられています。

  • 加齢
  • 栄養状態
  • 女性ホルモン分泌量
  • 内分泌機能
  • 遺伝
  • 生活習慣

骨粗鬆症は、それ自体では直接的に死に直結する疾患ではありません。

骨粗鬆症に陥った場合には、骨折しても治癒しにくくなってしまうだけでなく、高齢者が寝たきり状態になって認知機能が低下します。

さらに、様々な内科的疾患を合併し、結果的に寿命が短くなってしまうと言われています。

骨粗鬆症は、以下のことに注意して予防することが肝心です。

  • 日常的にたんぱく質などバランスの良い食事を取り入れる
  • 骨の材料となるカルシウムやカルシウムの吸収を助けるビタミンDの摂取
  • 骨を造るのを助けるビタミンK、リン、マグネシウムなどのミネラル成分の摂取

また、心配な症状がある場合や骨粗鬆症の検査・治療でお困りの際には、最寄りのクリニックや診療所を受診して相談するようにしてください。


参考文献

J-STAGE 理学療法の歩み「理学療法士から広める骨粗鬆症の予防」

健康長寿ネットHP「骨粗鬆症」

この記事の監修医師

監修医師: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)

プロフィール

平成19年に現大阪公立大学医学部医学科を卒業。初期臨床研修修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科勤務、平成26年より国家公務員共済組合連合会大手前病院で勤務、令和3年より同院救急科医長就任。どうぞよろしくお願い致します。

専門分野

救急全般(特に敗血症、播種性血管内凝固症候群、凝固線溶異常関連など)、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域

保有資格

日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、厚生労働省認定緩和ケア研修会修了医、厚生労働省認定臨床研修指導医など

監修医師: 西春内科・在宅クリニック 院長 福井 康大


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経歴

三重大学医学部医学科 卒業
三重県立総合医療センター 
N2 clinic