高齢者に多い骨折の部位を解説|治癒期間や手術ができない場合について
公開日:2023.1.27 更新日:2024.11.13
高齢になると転びやすくなったり…
骨粗しょう症で骨がもろくなったり…
骨折のリスクが高まってしまいます。
自分や家族がもし実際に骨折してしまったら…?
わからないこともたくさんあるかと思います。
今回は、
- 高齢者に多い骨折の部位
- 保存治療(手術をしない治療)や手術を含めた治療内容
- 治療期間
などを含めつつ、高齢者の骨折について詳しく解説していきます。
目次
高齢者に多い骨折の部位
高齢の方によくみられる骨折の部位は、以下の4か所です。
- 背骨
- 脚の付け根
- 腕の付け根
- 手首
どの骨折も、原因としては転倒が一番多く、打撲と比べて強い痛みがあり動かせないといった症状が特徴です。
それぞれ順番に説明していきます。
1.背骨
背骨の骨折は「圧迫骨折」や「いつの間にか骨折」とも呼ばれています。
体重がかかることによって、症状がなくてもじわじわと起こっていることがあります。
また、中腰の姿勢や重いものを持った時、あるいは尻もちをついただけでも骨折を起こしてしまうことがあります。
手術は必要ないことがほとんどです。
しかし、進行すると腰がどんどん曲がって腰痛が悪化し、姿勢が悪くなることによって持続的に胸焼けを起こしたり、バランス能力が低下したりすることもあります。
2.脚の付け根
大腿骨という太ももの骨が股関節に近い部分で折れてしまう骨折です。
大腿骨の一番上の部分は球形をしており、 そのすぐ下の部分は細くなっています。
そのため、とても折れやすい構造となっています。
股関節は歩く際に体重がかかるので、多くの場合骨折すると痛みがひどくて歩けないといった症状が出ます。
そのまま放置すると、歩けないために筋肉が衰え、寝たきりやそれに伴う誤嚥性肺炎を起こす危険性があります。
3.腕の付け根
上腕骨と呼ばれる腕の骨が肩関節の近くで折れてしまう骨折です。
打撲とは違い、腫れや内出血が強く出たり、痛みがひどく動かすことができないといった症状が出ます。
骨が比較的くっつきやすいため保存治療となる場合が多いのです。
しかし、折れた骨のズレが大きい場合や骨がバラバラになっている場合は手術も考慮されます。
4.手首
前腕の骨は2本あるのですが、そのうち橈骨(とうこつ)という骨が手首の近くで折れてしまう例がよくみられます。
玄関の段差やたたみ・布団の縁などでつまずいて手をついた際に骨折が起きます。
高齢者に多い骨折ですが、40〜50代など比較的若い方でも起こることがあります。
その場合は骨折の原因となり得る骨粗しょう症などの病気がないかどうか調べることもあります。
高齢者の骨折が起こる主な原因
主な原因として、以下の2つが挙げられます。
- 加齢によって骨がもろくなる病気(骨粗しょう症)が進行する
- バランスをとる力が落ちて転びやすくなる
1.骨粗しょう症
骨粗しょう症は日本に約1000万人以上いるとされ、高齢化の進行に伴いさらに増加傾向にあります。
骨は骨形成(新たに作る)と骨吸収(溶かして壊す)を繰り返しています。
骨粗しょう症はこのバランスが崩れることで起こり、骨の形成よりも吸収の方が多くなってしまった結果、骨がスカスカになっていきます。
特に閉経後の女性に多くみられ、女性ホルモンの減少や老化と関わりが深いと考えられています。
その他、糖尿病などの病気でも起こることがあるので注意が必要です。
◆【高齢者に多い骨折】骨粗しょう症とは?薬を飲みたくない人向けの予防法や治療法はある?
2.バランス能力の低下
バランス障害は病気による影響のほかに、加齢による運動機能の低下によって起こる場合があります。
バランス能力とは、立っている・動いているときなどに姿勢を維持する能力のことを指します。
感覚・中枢司令・筋力などの様々な要素によって成り立っています。
脳卒中など脳の病気を起こしてしまったり、筋力が落ちてしまったりすることでバランスをとる力が落ちてしまい、転倒しやすくなってしまうのです。
バランス能力をあげる方法として、日本整形外科学会では片脚立ちやスクワットを推奨しています。
日々の生活に是非取り入れてみてください。
🔻こちらも合わせてご覧ください。
▶︎骨粗鬆症の薬が危険といわれる理由|副作用や注射治療について解説 | 横浜内科・在宅クリニック
骨折によって起こり得る合併症
1.せん妄
認知症は記憶や判断力が低下する病気ですが、骨折をした際に「せん妄」という状態となり、認知症と同じような症状が出ることがあります。
せん妄の原因として、骨折による痛みや入院などによる環境の変化、手術による身体への負担などが挙げられます。
せん妄では以下など様々な症状が出てきます。
- 注意力や判断力、記憶力が低下
- 眠れなくなる
- 幻覚や妄想を起こす
- 気分が変動する
また、安静期間が長くなることで認知機能が低下する場合もあります。
できるだけ早く普段の生活に戻れるような治療を考える必要があります。
◆【認知症外来監修】高齢者に多いせん妄とは?認知症との違いや症状、原因について解説
2.骨粗しょう症
骨粗しょう症は骨折の原因であるとお伝えしましたが、逆に骨折によって骨粗しょう症が進行することもあります。
一般的に、骨折を起こした高齢の方には元々骨粗しょう症があることが多いです。
しかし、骨折をして体を動かさなくなり、骨に負荷がかからない状態になると、筋肉と同じく骨もどんどんと痩せ衰えてしまい、より骨折を起こしやすくなってしまうのです。
◆【高齢者に多い骨折】骨粗しょう症とは?薬を飲みたくない人向けの予防法や治療法はある?
3.筋力低下・寝たきり
特に背骨や脚の付け根の骨折では、安静期間が長くなることによって筋力が落ちてしまい、寝たきりの原因となることがあります。
寝たきりの原因として、筋肉が衰えて歩けなくなることや活動意欲が低下することなどが挙げられます。
腕や手首の骨折であれば歩くことができますが、背骨や脚の付け根の骨折では痛みで動けないため、安静が必要となります。
しかし、ベッドの上での安静は1週間で10~15%も筋力低下が起こると言われています。
さらに高齢者では、2週間のベッド上安静で脚の筋肉が2割も萎縮するとされています。
そのため、痛みの程度に応じた足の筋力訓練が必要です。
また、脚の付け根の骨折では、早めに手術して筋力訓練・歩行訓練を行い、寝たきりにならないようにすることが大切です。
腕や手首の骨折では、片手が使えないのは不自由ですが、寝たきりにならないように普段通りの生活を心がけましょう。
◆【加齢による筋肉量の低下】サルコペニアとは?症状やフレイルとの違い、診断基準について
◆介護が必要になる原因で多いフレイル(高齢による衰弱)とはどんな状態なのか?
高齢者の骨折の手術・治療について
骨折における治療は部位ごとに違うので、先ほど説明した4つの部位ごとに解説します。
1.背骨
背骨の骨折の場合、ほとんどは保存治療です。
保存治療では腰のバンドや硬いコルセットなどを使用し、痛みに応じて安静を保ちます。
自宅での療養で構いませんが、動けないほどの痛みがある場合は入院も考慮されます。
手術治療は、数週間経っても痛みがひどい場合や、骨折によって脊髄という神経が圧迫されている場合に行われます。
方法は色々あり、骨折した部分に専用のセメントを入れる方法や、ネジや金属の棒で骨折している部分を固定する方法などがあります。
いずれの場合も入院した時の期間はおよそ2〜4週間程度です。
2.脚の付け根
基本的には手術治療となります。
保存治療では骨がつくまで数ヵ月の間ベッド上での安静が必要となります。
また、その間に筋力低下や褥瘡(床ずれ)、肺炎などの合併症が起こりやすくなってしまいます。
手術は骨折した部位によってそれぞれ方法があります。
ねじや金属の板、棒などで固定する方法と、人工物に入れ替える方法があります。
どの手術の場合でも、早期から筋力訓練を開始して寝たきりにならないようにすることを目標にします。
入院期間は大体2〜4週間程度です。
持病などで手術ができない場合は保存治療が選ばれることもあります。
3.腕の付け根
骨のズレが少ない場合は、保存治療が選ばれることがほとんどです。
保存治療ではまず三角布などで腕を固定し、肩関節を安定させるためにバストバンドを使用して腕を体に固定します。
痛みや腫れが少なくなってくる約1週間後から症状に応じて動かし始め、3週間程度は固定を続けます。
骨が大きくずれていてくっつきにくい場合や、肩が上がらなくなってしまうようなバラバラな骨折の場合は手術による治療を考えます。
手術は以下など様々です。
- ワイヤーなどを用いる方法
- 金属の棒やプレートで固定する方法
- 人工物に置き換える方法
入院期間はおおむね2週間程度です。
4.手首
手首の骨折は、ズレが少なければギプスを巻いて治します。
ズレが大きければ、麻酔をして痛みを取ってからずれた骨を元に戻す整復操作を行った上で、ギプスで固定します。
ズレが戻らないときや関節の軟骨に骨折があるときは手術となります。
手術はワイヤーで固定する方法やプレートで固定する方法などがあります。
入院期間は、ブロック麻酔を用いて日帰りで行う場合と、全身麻酔で手術をして数日〜1-2週間程度入院する場合があります。
高齢者の骨折で手術ができない場合の治療
残念ながら手術ができない場合があるのは事実です。
しかし、絶対に手術をしてはいけないと決めるのは難しく、患者さんの状態をみながら担当医をはじめとした複数の医師、患者さん、ご家族で相談して決めることが多いです。
手術は保存治療を選んだ時と比べてメリットが大きいと判断したときに勧められますが。
全身の状態が悪いときには手術が勧められない場合があります。
手術をした方がいい場合とは、骨のズレが大きく保存治療では機能が落ちる場合や、手術をしなければ寝たきりとなってしまうリスクがある場合などです。
逆に、手術ができない場合とは、麻酔や手術に身体が耐えられず、より状態が悪くなってしまう可能性がある場合などです。
最近では、麻酔技術の進歩により全身麻酔のほかに脊髄麻酔やブロック麻酔などで手術を行うことが可能になっています。
しかし、麻酔の合併症としてアレルギー反応や肺炎、脳卒中・心筋梗塞などといった血管系の病気の発症が少なからずあります。
また、手術そのものが身体を傷付ける行為であるため、出血や感染症などのリスクがあります。
加えて、麻酔や手術で身体に負担がかかった結果、持病が悪化してしまうこともあります。
患者さんの心臓や肝臓、腎臓の機能、持病などを踏まえながら、手術のリスクとメリットを考えたうえで患者さんとそのご家族で決定していきます。
骨折が治るまではおよそ3〜6ヶ月程度とされています。
保険診療では手術後150日(約5ヶ月)までのリハビリが認められています。
骨折では大体3週間で仮骨という弱い骨ができて、3ヶ月程度かかって硬い骨になっていきます。
その間もしっかり動かせるように手術を行います。
どの程度動かしてよいか、負担をかけてよいかは骨折した部分と手術の内容について決まってきます。
そのため、治るまでの期間やリハビリの内容については担当医とよく相談するようにしましょう。
ほとんどの場合、手術翌日から動かしていき、数週間程度入院しながらリハビリを行い、リハビリのやり方を覚えていきます。
その後はリハビリ専門の病院や施設、自宅へと戻り、ご自身でリハビリを続けていくという方が多いです。
リハビリにはやはり痛みを伴いますので、この間に鎮痛薬などを使って痛みをとりながらリハビリを行いましょう。
🔻こちらも合わせてご覧ください。
▶︎骨粗鬆症の薬が危険といわれる理由|副作用や注射治療について解説 | 横浜内科・在宅クリニック
高齢者の骨折を防ぐのに効果的な日常生活の過ごし方
骨折を予防するために効果的なものは以下のような方法があります。
- カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、リン、マグネシウム、適量のタンパク質などをとる
- 運動、日光浴をする
- 禁煙し、アルコールは控えめにする
それぞれ説明します。
1.栄養補給
骨はカルシウムやリン、マグネシウムなどでできているため、不足しないように十分摂取することが重要です。
ビタミンDはカルシウムの吸収を良くして骨を強くする作用があり、ビタミンKも骨を強くするのに必要な栄養素です。
骨を強くするには筋肉もつけることが重要なので、筋肉をつけるために適量のタンパク質を摂りましょう。
2.運動・日光浴
宇宙飛行士が宇宙に行った後に骨がスカスカになってしまうように、骨を強くするためには運動などで骨に負荷をかける必要があります。
また、日光浴をすることで身体の中でビタミンDが生成されるので、一日に数十分程度は日光にあたるようにしましょう。
3.禁煙・節酒
タバコやアルコールはそれ自体が骨を弱くしてしまいます。
また、必要な栄養素が不足してしまうため、骨にとっていいことはありません。
楽しむ程度であればいいのですが、可能な限り控えるようにしましょう。
参考記事:骨粗鬆症の初期症状は気づきにくい?骨粗鬆症の原因も解説|イノルト整形外科
西春内科在宅クリニックができる対応
ご自宅でできる対応として痛みのコントロールがあります。
手術後も痛みが続く場合が多く、患部の痛みに対しては痛み止めが効果があります。
また、傷口からの感染がないかどうか確認することも必要です。
骨粗しょう症がある場合は骨粗しょう症のお薬も必要になってきます。
このような症状に対し、西春内科在宅クリニックでは診察や症状に応じた薬の処方をすることができます。
まとめ
今回は高齢者に多い骨折について骨折の多い部位や、治療方法、治療期間などについて解説しました。
高齢者の骨折は手術だけでなく保存治療という選択肢もあります。
また骨折の原因となる骨粗しょう症の治療も必要となってきます。
今回の記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。
お困りの症状がある場合にはぜひご相談ください。
参考文献(accessed on January 23rd, 2023)
・日本整形外科学会「骨粗鬆症」
・渡部欣忍「大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折 ~高齢者の脚の付け根の骨折~”」日本骨折治療学会
・井上尚美「上腕骨近位端骨折」日本骨折治療学会
・日本整形外科学会「橈骨遠位端骨折」
この記事の監修医師
監修医師: 整形外科医 三浦 隆徳
専門領域
股・膝関節資格・業績
日本整形外科学会整形外科専門医医学博士
2017年 第66回東日本整形災害外科学会 学術奨励賞受賞
2019年 第68回東日本整形災害外科学会 学術奨励賞受賞