脳出血の前兆となる危険な症状や原因、後遺症について解説
公開日:2023.3.06 更新日:2024.10.08
脳出血は1人で身の回りのことができなくなる要介護の状態となった原因の第2位として知られる脳卒中に分類される主要な疾患の1つです。
人は誰しも亡くなる直前まで元気に活動して病に苦しむこと無く生きたい、いわゆる「ピンピンコロリ」の人生を望むものかと思います。
よく患者さんから「脳出血でコロリと死ねるならそれでいいです!」なんて言われることがあります。
しかし、残念ながら多くの方の認識とは異なり、脳出血で亡くなる方はごく一部です。
ほとんどの方は脳出血を発症すると月単位での入院が必要となり、退院後も後遺症が残って病前通りの生活ができなくなってしまいます。
リハビリすれば…なんていう声も聞こえてきそうですが、リハビリは原則的には残された機能を生活に活かすためのものです。
脳の細胞は一度脳出血で壊されてしまうと再生しないので要介護の主要な原因となっているわけです。
ではどうすれば良いのか…
今回は、脳出血になる原因や、治療方法、後遺症などについて詳しく解説していきます。
目次
脳出血になる原因
脳出血の原因として最も多いのは高血圧症です。
成人の脳出血の80%程度はこの高血圧が原因です。
高血圧状態が続くと、脳の1mm以下レベルの微小な血管が傷つけられて脳の血管のダメージが蓄積します。
他の言葉でいうと動脈硬化と同じようなイメージです。
このようにして傷つけられた脳の血管は血管壁がもろくなり、通常よりも破れたり裂けたりしやすい状態となります。
このような状態が進行するとある日突然血管が破綻して脳出血を引き起こすのです。
高血圧症があっても全員がなるわけではありません。
適切に血圧の管理をしている方が脳出血は起こりにくくなります。
逆に高血圧症があるのに気がついていなくて放置してしまっていたり、適切な治療をされていない場合のほうが脳出血が起こりやすいと言えます。
また血液をサラサラにする抗血栓薬を内服されている場合には、全身が出血しやすくなりますので、脳出血のリスクも内服していない場合よりは高まります。
他の原因としては脳出血を起こすような脳の病気が存在する場合です。
以下などがその原因として知られています。
- 脳腫瘍
- もやもや病
- 脳動静脈奇形
- 脳動脈瘤
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脳卒中の原因、どんな人がなりやすいか、脳卒中の症状や前兆症状、予防対策をご紹介
脳梗塞との違い
一言で言うならば脳の血管が詰まるのが脳梗塞、破れるのが脳出血ということになります。
どちらの疾患もなんの予兆もなく突然発症する病気です。
脳出血のほうが脳梗塞と比べるとその症状が重篤であることが多いと言われています。
そのため、発症からより早期に亡くなってしまったり、発症直後から重度の意識障害を伴ったりする頻度は脳出血のほうがより多いと言えます。
また、脳梗塞に関しては血管に詰まっている血栓を溶かしたり、カテーテル治療で除去する治療が発展してきています。
これらの治療によって一部の患者さんは発症前と同様の生活が送れるようにまで回復することが近年増えてきました。
しかし、脳出血の場合はそうはいきません。
脳出血の場合は発症時の重症度でその予後が決まると言って過言では無いほどです。
出血の程度によって生死・後遺症の程度が決まり、残念ながら現代の医療で劇的な回復を得られるような治療というものは存在しません。
脳梗塞の急性期治療は、近年の医学の発展により、後遺症をできるだけ残さないようにするための治療になってきたといえます。
しかし、脳出血に関しては、我々が行う手術は、あくまで命を助けるためのものです。
後遺症を軽くするものではないと言っておくべきでしょう。
このことに関しては【脳出血の治療について】で詳しくお話します。
関連記事:脳卒中について知ってほしい危険なサインとは|症状や後遺症、脳梗塞との違いについても
脳出血をまねくかもしれない前兆や初期症状
脳出血の前兆というのは基本的にありません。
脳出血が起こるときは突然で、その初期症状としては、以下など様々です。
- 頭痛
- 嘔気嘔吐
- 顔面麻痺
- 片麻痺
- 構音障害(ろれつが回らない)
- 意識障害
この初期症状として疑うべき重要な初見と取るべき行動は国際的にACT-FAST: Face(顔), Arm(腕), Speech(言葉), Time(すぐに救急搬送)として知られています。
日本脳卒中協会でも下図のような呼びかけを行っています。
これらは脳出血でも脳梗塞でも脳卒中全般似共通していることです。
これだけで脳出血ということはできませんが、強く疑う症状です。
脳出血をより強く疑う症状は何か?ということになりますと、これらの症状に加えて、以下などが上げられます。
- 強い意識障害(大きな声で呼んだり叩いたりしても起きない)
- 頻回の嘔吐
- 強い頭痛の訴えが直前にあったこと
いずれも脳出血と断定することはできず、脳卒中を疑う症状ですので速やかに救急要請して正確な診断を受ける必要があります。
(図)公益社団法人日本脳卒中協会HPより引用
関連記事:狭心症の原因や症状、治療について|心筋梗塞との違いは?前兆がある?
脳出血になったときの後遺症
脳出血の後遺症は多種多様です。
基本的には、発症時に出た症状が、そのまま後遺症になると覚悟していただいて良いと思います。
例えば片麻痺で発症したら、同じ片麻痺が後遺症として残る可能性が高いです。
脳出血の後遺症で問題となるのは、その「程度」です。
片麻痺にも軽度から重度までありますし、上肢のほうが重度なのか、下肢のほうが重度なのかで退院後の生活の様式、社会復帰に必要な支援などが変わります。
ただ、残念ながら高血圧性脳出血の多くは運動神経の通り道の近くに発生します。
多くの患者さんは様々な程度の片麻痺を中心とする後遺症と付き合いながら社会復帰することになります。
関連記事:【生活習慣病の方は注意】心筋梗塞の症状や命を落とすかもしれない危ない前兆について|狭心症との違いは?
脳出血の治療について
脳出血の初期治療は、保存的治療と手術治療の2つに大別されます。
いずれも発症早期に治療を開始することが重要となります。
脳出血の保存的治療
保存的治療というのは点滴による治療です。
高血圧性脳出血の場合はもちろん、そうでない場合も脳出血の初期には血圧が異常に高いことが多いです。
これ以上出血を悪化させずに止血が得られるような血圧以下に降圧剤を使用して管理します。
これとともに、止血剤や胃薬などの点滴を行います。
脳出血の手術治療
手術治療を行うのは、生命の危機が迫っているような以下が判明した場合です。
- 重症高血圧性脳出血
- 脳出血の原因が高血圧ではなく、脳出血を生じるような原因(脳腫瘍、もやもや病、脳動静脈奇形、脳動脈瘤など)
今回は、高血圧性脳出血で手術が必要となる場合についてご説明します。
高血圧性脳出血で手術が必要なのは、基本的には手術をしなければ命を落としてしまうような重症の脳出血の場合のみと考えていただいて大丈夫です。
脳神経外科の世界では後遺症を軽減するために初期の手術治療でなんとか良くしようという試みが世界中で行われています。
しかし、残念ながら今の所日本の治療指針を大きく変えるほどの成果は出ていません。
命を落とすほどの脳出血は多くの場合、脳ヘルニアと呼ばれる重篤な状態に陥っています。
この状態になるとどんなに強い刺激を与えても目を開けない重度の意識障害、瞳孔の散大、異常な呼吸などが見られます。
これは硬い頭蓋骨に囲まれた脳の中に出血が起こることによって通常時よりも頭蓋内の容積が拡大し、生命維持の中枢である脳幹が圧迫をうけてしまっていることで生じます。
この状態で保存的治療を行っていてもやがて脳ヘルニアによって脳幹の生命維持機能が障害され命を落としてしまいます。
この圧迫を取るために原因となっている脳出血を除去する手術が行われます。
これを開頭血腫除去術と言います。
先に申し上げたように、基本的にはこの手術が行われることがほとんどですが、例外もあります。
それは比較的若い方で中等度の意識障害があるような場合です。
この場合に出血の場所によっては内視鏡下血腫除去術を行うことがあります。
脳出血の治療で重要となるのは、次の項でご説明するリハビリです。
一定以上の意識障害がある場合、その意識障害が改善し、十分にリハビリが行えるようになるまで時間がかかります。
リハビリは早期から取り組むほうが効果的です。
より早期からリハビリが行えるように、比較的軽い侵襲で意識障害の原因となっている脳出血を除去してあげる内視鏡下血腫除去術が行われる場合があります。
このように脳出血は症状が様々である分、治療方法も状態により異なります。
我々脳神経外科医は常に最善の治療ができるように判断して治療を選択しています。
(図)MDSマニュアル家庭版より引用
>>動脈硬化で起きる症状とは|改善方法や治すことはできる?
手術後のリハビリについて
先程の手術のお話で少し出てきたように、脳出血の治療で最も重要と言っても過言ではないのがリハビリです。
脳出血で壊れてしまった脳の細胞は再生しないので、それによって生じている症状(初期症状)は後遺症となります。
この後遺症を補い少しでも軽くして社会復帰に近づけてくれるのがリハビリです。
人間は、例え病気でなくても何日も横になって過ごしていればどんどん体力や筋力が落ちていくので、その後普段どおりの生活に戻していくのはとても大変です。
なるべく早く、少しずつでも体を動かしていくことが重要なので、脳出血を起こした場合でも、出血が止まって落ち着いていれば早期からリハビリを始めていきます。
例えば、手術を行わず保存的治療を行った場合では、発症翌日のCT検査で出血の拡大がなく止血していると判断されれば、その翌日からリハビリは始まります。
といっても、いきなり歩いたりすることは難しい場合が多いです。
リハビリのセラピストの先生と一緒に以下などをその時の症状に応じて行います。
- 手足を大きく動かす体操
- 手指を動かす細やかな運動
- 認知機能の訓練
- 言葉を話す訓練
最初に入院した病院で急性期治療を含めリハビリを行う期間はおよそ1ヶ月程度であることが多いです。
症状の程度にもよりますが、その後リハビリの専門病院に転院してさらに数ヶ月リハビリを行った上で退院となる方がほとんどです。
このようにリハビリは早期から始まる上に長丁場です。
しかし、失われてしまった脳の機能を回復させるのではありません。
残っている機能で補うことで少しでも病前に近い生活を取り戻すのに重要な治療となります。
>>心筋梗塞の危険な前兆と症状|後の生活や後遺症について
脳出血の再発について
高血圧性脳出血以外の原因のある脳出血では再出血率のデータは多く存在しています。
一方、高血圧性脳出血については確立された再発率のデータはありません。
しかし、適切に予防を行えばそれほど高いリスクではありません。
以下などには高血圧性脳出血の再発リスクは高くなります。
- 高血圧性脳出血発症後も血圧の管理が適切になされない
- 脳梗塞や心筋梗塞などの理由で血液をサラサラにする抗血栓薬を内服している場合
また、脳出血後には身体の機能障害が後遺症として残る事が多いです。
これにより肺炎や尿路感染症などの感染症を併発しやすくなったり、活動量が低下するために心肺機能が衰えます。
このようなことが原因で脳出血を再発しなくても他の合併症によって命を落とすリスクは高まるので予後は不良であると言えます。
もし身内が脳出血患者になったら
ご家族が脳出血になってしまわれた場合、まずできることは本人の気持ちに寄り添ってあげること。
そして本人が「これをしてくれると助かる」と思うことを積極的に助けてあげて、過剰に干渉しすぎないことではないかと思います。
発症直後というのは意識が朦朧としていることも多いです。
本人も十分理解できていないのですが、週を追うごとに意識が回復し、だんだん自分の置かれた状況を理解するようになります。
この時期に大半の人が多少なりとも落胆するのは想像に難くないと思います。
そのような状況の中でも毎日リハビリは行われますし、治療は続きます。
このような精神状態のときに毎日の治療に向き合えるように、心から本人の苦しみに耳を傾け支えてあげられるのはご家族しかいないと思います。
「病は気から」とはよく言ったもので、これは経験則でしかありませんが、このリハビリを前向きに継続的に行える方ほどよく回復される印象さえあります。
少しでも本人が前向きに取り組めるようにしていただけるとよいのではないでしょうか。
また、退院後の生活にも様々な困難が伴います。
リハビリを行っていく中で、自分でできることと、助けてもらわないといけないことがある程度わかってくる方もいます。
このような場合には自分でできないことはもちろん助けてほしいのですが、自分でできることにある程度自信を持ってやっていることも多くあります。
そのため、過剰に助けてしまうことは本人の自信喪失につながってしまう恐れもあるかと思います。
自分の後遺症を障害として受け入れ社会復帰しようとしている本人に対してベストなサポートができると良いですね。
西春内科在宅クリニックができる対応
脳出血は頭部CTによる精査、必要に応じてMRIやカテーテル検査などの追加の検査を行い、適切に治療する必要があります。
発症早期に脳神経外科や脳神経内科の専門医のいる病院で診察・治療を受けることで症状の悪化を最小限に防ぐことができる可能性があります。
そのため、西春内科在宅クリニックでは脳出血の急性期治療を行うことはできません。
しかし、急性期治療を終えて内服薬での再発予防を行う状況となりましたら、引き続き外来で治療を継続することは可能です。
また、後遺症などにより外来通院が困難になった場合には往診での対応も行っております。
この他、症状が出現した際に救急要請を行うべきか困った場合など、何かお困りの際のご相談は受け付けております。
お気軽にご相談ください。
まとめ
脳出血は重篤な病気ですが、第一にその予防として高血圧を治療することが大切です。
また発症した場合は、その症状に早期に気がついて対処することで少しでも後遺症を軽減し、より病前に近い状態で社会復帰することができる可能性もあります。
FASTの症状に注意してご家族にその症状を認めた場合はすぐに医療機関を受診するようにしてください。
また発症してしまった場合はリハビリが重要です。
リハビリをしっかり行うことがより良い回復に繋がります。
参考文献
・脳神経外科学 第12版 太田富雄ら 金芳堂
・令和元年版高齢社会白書(内閣府)
・公益社団法人日本脳卒中協会 「ACT-FAST(アクト・ファスト)をぜひ覚えてください」
・MDSマニュアル家庭版 「ヘルニア:脳の圧迫」
この記事の監修医師
監修医師: 臨床医 中島 拓真
出身
熊本大学医学部医学科がん研究センター研究所の所属
脳腫瘍連携研究分野