せん妄と認知症の違いとは?回復の可能性と家族の対応ポイント
せん妄とは不穏や幻覚、妄想、睡眠リズム障害、活動性低下などをきたす、意識障害を本態とした病態です。
せん妄は入院中に発症しやすく有病率は高いですが、基礎疾患として認知症がある場合などには過小評価されやすく、診断・治療が遅れるケースがあります。
またせん妄の治療においては医学的な治療と同等にご家族の対応が非常に重要となります。
ここではせん妄と認知症の違いを中心に解説していきます。
目次
せん妄と認知症の見分け方
せん妄 | アルツハイマー型認知症 | |
発症時の特徴 | 急に発症する、数時間〜数日単位 | 緩徐に発症しゆっくり進行、数か月〜数年単位 |
意識の状態 | 意識障害あり、注意が散漫になる | 意識ははっきりしている |
回復の可能性 | 原因の除去にて回復可能性あり | 基本的に進行性に緩徐に悪化する |
症状の現れ方 | 昼と夜で変動し、日によって差が大きい | 日によって変動がでることは少ない |
発症時の特徴
せん妄は「急に数時間〜数日単位で始まる」のが大きな特徴です。
一方で、認知症は「ゆるやかに発症し、少しずつ進む」ことが多いです。
認知症の場合は発症してから数年経過して受診されるケースもしばしばみられます。
ただし一部の認知症では急性発症することもあり注意が必要です。
意識の状態
せん妄の病態は意識障害であり、意識がぼんやりしたり、周囲の状況がわからなくなることがあります。
一方で認知症の病態は認知機能の低下であり、基本的に意識は保たれています。
回復の可能性
せん妄が発症するにはなんらかの原因がある場合が多いため、原因を特定し治療すれば改善する可能性が高いです。
一方で、認知症はさまざまな要因にて発症しますが慢性進行性の病気であるため、回復の可能性は低く、進行を遅らせる治療が中心となります。
症状の現れ方
せん妄は「日によって症状が変わる」ことが多いです。
一方で認知症は緩やかに悪化していき、日による変動は少ないことが多いです。
ただしせん妄でも認知症でも1日の中で、朝と夜では変動が出る場合があります。
医療機関での診断
症状の経過を確認し、認知症なのか、せん妄なのか、認知症であればどのタイプに分類されそうか、推定していきます。
そして血液検査、画像検査などにより、他の疾患の除外を行っていき、必要に応じて認知機能検査を行い、最後は総合的に判断し診断します。
せん妄とは?基本的な特徴と原因
せん妄の主な症状
次のような症状が、突然でた場合、せん妄の可能性があります。
- 急に混乱し、時間や場所がわからなくなる
- 夜に興奮し眠れなくなったり、昼に眠そうにしている
- 家族のことがわからなくなる
- 話が支離滅裂になったり幻視・幻聴などの幻覚が見える
せん妄が起こる主な原因
せん妄には、以下のような原因が考えられます。
- 薬の副作用:一部の睡眠薬や医療用麻薬などの副作用で発症することがあります
- 脱水や電解質異常:高齢者によるみられる原因です
- 感染症:高齢者では単なる風邪でもせん妄を起こすことがあります
- 癌などによる全身状態の低下
- 手術後や入院中の環境変化:一般的に自宅よりも入院中に発症しやすいです
せん妄の進行パターン
原因を取り除く、あるいは原因の治療を行うことができれば、数日〜数週間で回復する可能性がありますが、せん妄であると気づかれないケースが多いため、診断までに時間がかかってしまうことがあります。
せん妄を疑い、原因の精査を行うことが大切です。
関連記事:せん妄になると死期が近い?原因や認知症・妄想との違いについて解説
認知症とは?進行性の特徴とリスク
認知症の主な症状
次のような症状が、慢性的に進行する場合、認知症の可能性があります。
- 同じことを何度も聞く
- 財布や物をよく失くし、誰かに取られたと勘違いする
- 道に迷うことが増えた
- 言葉が出にくくなった
- 以前できていた家事や計算が難しくなった
- 人格が変わって怒りっぽくなった
認知症の原因
代表的にはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症がよく知られる認知症です。
それぞれ脳の萎縮や異常タンパクの蓄積、脳卒中などが原因となり発症するとされています。
認知症の進行パターン
一般には緩徐に発症し、数か月~年単位で徐々に悪化します。
進行とともに記憶障害だけでなく行動・感情にも影響するようになり、以下などが出現する場合があります。
- 幻覚
- 妄想
- 興奮
- 抑うつ
- 徘徊
- 焦燥
記憶障害に関しては機能を回復させることは難しく、進行を遅らせる治療が中心となります。
関連記事:認知症が一気に進む原因とは?入院すると急激に悪化する?
せん妄・認知症の疑いがある場合の受診のタイミング
せん妄の場合
以下のような症状が突然でた場合、せん妄の可能性があります
- 急に混乱し、会話が成り立たない
- 夜に興奮し眠れず、昼夜逆転が強い
- 幻覚・妄想が出現した
認知症の場合
以下のような症状がゆるやかにでた場合、認知症の可能性があります
- もの忘れが半年以上続いている
- 道がわからないなど生活に支障が出てきた
- 金銭管理や服薬ができない
関連記事:認知症の検査方法と費用について|治療の副作用は?|検査を拒むときはどうすればいい?
医療機関の選び方
まずは内科やかかりつけ医へ相談することが第一歩となります。
認知症あるいはせん妄の疑いが強い場合は、神経内科・精神科・認知症外来が専門科となりますので、最初からそれらを受診することも有力な選択肢となります。
せん妄・認知症の治療の流れ
診断方法
症状の経過をまず詳細に聴取し、必要に応じて認知機能検査を行います。
そして血液検査、画像検査などにより、原因検索や他の疾患の除外を行っていき、最後は総合的に判断し診断します。
せん妄の治療方法
原因を取り除き、原因の治療を行うことが基本となります。
症状に応じて、抗精神病薬を使用し症状の軽減を図ることがあります。
認知症の治療方法
薬物治療(認知症治療薬および症状に合わせた各種薬剤)および生活支援が中心となります。
介護保険の申請を行い、社会的なサポートを受けることもできる場合があります。
日常生活での注意点
環境を整えること、規則正しい生活を送ることが大切です。
社会的なサポートを受けたり、家族のサポートによって安心できる環境づくりを行いましょう。
西春内科・在宅クリニックでできる対応
当院では「認知症・もの忘れ外来」を設置しております。
当院のもの忘れ外来ではまず最初に詳細な病歴聴取を行い、どのような経過でどのような症状があり、ご本人およびご家族が何に困っているのか考えます。
そのうえで、必要に応じて、血液検査・画像検査・認知機能検査を実施します。
せん妄の可能性についても早期に見極め、在宅医療でのサポートも行っていますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
今回はせん妄と認知症について解説させていただきました。
せん妄は「急に始まり、回復の可能性がある」、認知症は「ゆっくり進み、進行性」というおおまかな違いがありますが、どちらも早めの受診・診断が大切となります。
治療においては家族の観察とサポートが治療の第一歩です。
監修医師: 西春内科・在宅クリニック 院長 島原 立樹

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経歴
名古屋市立大学 医学部 医学科 卒業三重県立志摩病院
総合病院水戸協同病院 総合診療科
公立陶生病院 呼吸器・アレルギー疾患内科