脳挫傷で後遺症は残る?症状やその後の回復について

公開日:2022.3.16 更新日:2023.12.25

もし身内が脳挫傷になってしまったら心配ですよね。 

後遺症や病院での検査、治療について解説します。



脳挫傷について

 

原因


脳挫傷は、頭部を強く打撲したり、直接的に打撲していなくても強く揺さぶられたりするなど、
何かしらの強い外力が頭部に加わった場合に生じる外傷性の脳損傷です。

 

原因として多いのは交通事故や階段からの転落外傷などですが、ご高齢の方になるほど脳は外力に弱くなるため歩行中の転倒でも頭のぶつけ方によっては脳挫傷が生じることがあります。
 

症状について


脳挫傷の症状は脳のどこに損傷が生じるかによって異なり、
非常に多彩です。

 

どの部位を損傷した場合にも起こりうる症状としては、頭痛、嘔気、嘔吐、けいれん発作、意識障害などがあり、損傷した場所によって顔面および四肢の麻痺、感覚障害、言語障害、高次脳機能障害(記憶力低下や集中力低下・注意力低下)などがあります。

 

脳挫傷の場合は受傷後1〜2日してから、脳が徐々に腫れてくるとともに遅発性に意識障害が出現することがあり注意が必要です。

 

脳震とうとの違い(症状や回復期間)


脳震とうとは画像検査で明らかな脳の損傷を伴わない継承の脳損傷のことを指します。

 

脳震とうの場合は麻痺や感覚障害を伴うことは無く、意識消失や記憶障害が生じることがありますが数分から数日以内に回復し、後遺症が残ることは殆どありません。脳震とうは、このように軽症の脳損傷なので入院になる方はごく一部で、ほとんどの方は自宅での経過観察が可能です。

 

一方、脳挫傷の場合には明らかな脳損傷が画像検査で指摘でき、損傷の場所と程度によって先にお示ししたような様々な症状をとり、場合によっては命に関わる状態になる可能性や後遺症が残る可能性があるため、入院治療が必要となります。

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病院での検査と治療について

 

CT検査やMRI検査


脳挫傷が疑われる場合にはまず
CT検査で診断をします。ほとんどの脳挫傷はCT検査で診断することが可能です。

 

CT検査では通常灰色に描出される脳の中に異常に黒い脳浮腫の部分と異常に白い出血の部分が混在する”Solt and Pepper (塩コショウ)”と表現される所見が認められます。

 

この浮腫や出血がどの程度広がっているのか、脳のどの部分に生じているのか、CT検査ではではわからない併発病変が無いかをより詳細に調べるためにMRI検査が追加されることが多いです。

 

MRI検査では様々な条件で撮影した画像を見比べて、重症度および症状や経過を推定することが出来ます。またこれらの検査は必要に応じて、受傷後の経過観察の目的で数カ月後まで繰り返し行われることもあります。


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保存的治療


脳挫傷で手術が必要になることは多くはなく、
ほとんどの場合は点滴による保存的治療となります。脳の出血と浮腫を伴うのが脳挫傷ですので、これらの症状を押さえる止血剤や抗浮腫薬を点滴で投与することが一般的です。

 

止血剤は最初の1〜2日、抗浮腫薬は1週間程度継続されます。またこのような出血を伴う脳損傷は胃潰瘍を合併して吐血や下血を生じることがあるので、予防的に胃薬も投与されることが多いです。

 

これらの他にけいれん発作を併発している場合には、抗けいれん薬が投与されますし、最初のうちは十分に食事が取れないことも多いので体が必要とする水分も点滴で補うことになります。

 

体が回復し、十分に食事がとれるようになってくると点滴は終了し、退院にむけたリハビリテーションが治療の主体となります。

 

外科的治療


脳挫傷で手術が必要になるのは、「
保存的治療を行っているにも関わらず手術を行わなければ命に関わる状態に陥った」場合のみです。これ以外の理由で手術を行うことは基本的にありません。

 

命に関わる状態というのは、意識障害が進行しているかどうかで予見することができ、意識障害がどんどん進行する場合は手術が必要になります。

 

脳挫傷は出血と浮腫が混在する病変ですが、手術が必要になる意識障害は浮腫の進行が抑えられないことが原因となります。この浮腫を改善させるためには、

  1. 脳出血や挫傷により傷ついた脳組織を除去することによって圧を逃がす内減圧術
  2. 大きく開頭して頭蓋骨を除去することで外にも圧を逃がす外減圧術


の2つの方法があります。

基本的にはまず①内減圧術だけでコントロールすることを試み、それでも圧を十分逃がすことが出来ず治療効果が不十分だと判断される場合に②外減圧術を追加することになります。

 

この2つの手術は同時に行われることも多いですが、①内減圧術をやって経過を見てみたがやはりまた悪くなってきてしまうので②外減圧術を追加するという判断がされることもあります。

 

①内減圧術ではすでに出血や挫滅によって傷つい正常な機能が残存していない脳組織を除去するのみで、正常な脳組織は除去しないように手術を行います。

 

また②外減圧術を行った場合、一定期間(1〜2ヶ月程度)は一部の頭蓋骨が無い状態で過ごすことになりますが、この期間は専用のヘルメットをかぶっていただくことで頭蓋骨が無い部分の脳損傷が生じないように保護します。

 

十分に脳の腫れが引いてリハビリテーションに専念できる状態になる頃に冷凍保存しておいた頭蓋骨を元に戻す手術を行います。場合によっては人工的にデザインして作られた人工骨を補填することもあります。

  

後遺症は残ってしまうのか?


脳挫傷は全く後遺症を残さないものもありますが、残念ながら軽度のものを含めると比較的後遺症が残りやすい頭部外傷ということができるかもしれません。

 

脳挫傷は脳のどの部分を損傷したかによらず起こりうる高次脳機能障害・外傷性てんかん、遷延性意識障害などがあり、この他に損傷した場所によっては片麻痺や構音障害(しゃべりにくさ)などが後遺症となることもあります。

 

これらの程度によっては急性期の治療が落ち着いてからもすぐに自宅退院することはできず、リハビリテーションを継続する必要がある場合もあります。

 

今回は一般的に後遺症として生じることの多い高次脳機能障害・外傷性てんかん・遷延性意識障害の3つと、リハビリテーションが必要になる可能性について順番に解説します。


高次脳機能障害


高次脳機能障害とは、本来ヒトに備わっている高等な機能のうち、
言語能力、記憶力、注意力、物事を順序立てて実行する力(遂行機能)、人格や情動行動などが障害された状態を指します。

 

高次脳機能障害の方は、一見健常人と変わりないのですが、なんだかうまく会話が成立しない、以前よりも性格が怒りっぽくなってしまった、記憶力が低下して約束を思い出せない、1つのことに集中できず仕事を頼んでもすぐに違うことをしてしまうなど、日常生活において非常に困る症状であることは多いのですが、なかなか家族や友人・職場の方に理解していただきづらく、本人にとっても周りにとっても非常に辛い症状であることが多いです。

 

高次脳機能障害が後遺症となった場合には、日常生活や仕事において患者さんが少しでも安全に、本人に残されている能力を活かしながら生活できるように配慮する必要があります。

 

能力が完全に失われるほどの重症であることは多くはなく、部分的にかけているけど訓練で補えることが多々あります。たとえば記憶力の低下が問題になった方ならリハビリテーションでメモをとる癖をつけます。

 

これによって「自分は記憶が苦手である→メモをとる→そのメモを見たら大事なことを思い出せる」という体験をどんどん重ねていきます。こうすることで、脳挫傷による後遺症を患いながらもそれまでと殆ど変わらない形で社会復帰される方もいらっしゃいます

 

外傷性てんかん


外傷性てんかんは比較的よくある後遺症の1つです。人間の体は脳から電気信号による司令が体のあちこちに発信されることで生命活動を維持しています。

 

外傷性てんかんは脳の一部が脳挫傷により損傷を受けることで、通常の司令とは異なる異常な電気活動が脳で生じることがあります。この異常な電気活動が生じると、意図していないのに勝手に体が震えるけいれんを起こし、意識を失うこともあります。

 

これを「てんかん」と言います。頭部外傷後に生じる外傷性てんかんは二次性てんかんと呼ばれ、一般的には意識が保たれたまま口や手・足が小刻みに震えだす部分発作から始まって、数十秒から数分のうちに全身性のけいれんに移行することが多いです。

 

外傷性てんかんの8割は2年以内に出現し、その後徐々に発生率は減少しますが、10年以上経過しても年間1%程度の確率で発症する可能性があります。

 

脳挫傷が脳の表面近く(脳皮質)に生じた人は外傷性てんかんを発症しやすいとされ、この他にも、重症頭部外傷(受傷時の意識障害が強い)だった方、65歳以上の高齢者、受傷後24時間以上にわたり外傷性健忘(もの忘れ)が続いた方などは外傷性てんかんを発症しやすいと言われています。


ほとんどの外傷性てんかんの方は、1〜2種類の抗てんかん薬という薬を内服することによってこのてんかん発作が起こるのを抑制することができますので、
ちゃんと治療していただければそれほど怖がる必要はなく日常生活を送ることが出来ますが、最後にてんかん発作を起こしてから2年間は法令により自動車の運転ができなくなりますので少し日常生活が制限されることになる方もいらっしゃいます。

 

遷延性意識障害


脳挫傷の中でも意識障害が強い重症頭部外傷に該当する方では、何日立ってもなかなか目が覚めず、重度の意識障害(昏睡状態)が続くことがあります。これを遷延性意識障害と言います。

 

遷延性意識障害は一般的に予後不良で、このような状態になられると残念ながらいつまで待っても回復することはほとんどありません。確立された有効な治療法も無く、生命が維持される場合には寝たきりの生活となります。

 

遷延性意識障害の方の中には、けいれんを伴わない非けいれん性てんかん発作を発症している方がいるということが近年明らかになってきており、もし脳波検査が行われていないようであれば検査を行って、てんかんを疑うような異常な電気活動がないかを確認することが推奨されますが、非けいれん性てんかん発作の頻度は決して高くはありません。

 

このように遷延性意識障害は、頭部外傷後の後遺症の中でも最も重いものとなります。

 

リハビリが必要になる場合も


高次脳機能障害のある方や麻痺が残存して日常生活に支障の出る方はリハビリテーション(リハビリ)を行う必要があります。

 

脳挫傷によって生じる後遺症が完治することはほとんどなく、生涯に渡り上手に付き合っていく必要がありますが、リハビリテーションを早期から適切に行うことで、後遺症を少しでも軽くしたり、後遺症を補う能力を身につけたりすることによって、より良い日常生活に復帰できる可能性があります。

 

重い後遺症が残っている場合にはまず入院でリハビリテーションを継続し、その間に後遺症を踏まえて自宅あるいは施設で生活できるように環境の調整も行います。こうして体と環境の調整が整った段階で退院となりますが、退院後も引き続きリハビリテーションを継続される方もいます。

 頭を強く打った人はCT検査をおすすめ


強く頭をぶつけ、頭痛や嘔気がある方、一定時間意識消失していた方、頭部打撲後しばらくの記憶が無い方、あるいは頭部打撲後にしゃべりにくい、麻痺がある、注意力や記憶力が低下し改善しないなどの症状がある方は一度頭部CT検査を受けることをおすすめします。

 

また、普段持病のために血液をさらさらにする薬を内服されているような方で特にご高齢の方には、特段の症状が無くても頭部CT検査を受けられることをおすすめします。

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 西春内科在宅クリニックができる対応


西春内科在宅クリニックにはCT機器を導入しており、常勤医にはレントゲンやCT画像の読影の専門家である放射線科専門医がおります。

 

頭部外傷後不安な方はご受診いただけましたら、頭部CT検査により脳挫傷を含む治療が必要な頭部外傷が無いか正確に診断することが可能です。もし治療が必要な病変が見つかった場合には、脳神経外科の診療が可能な病院をご紹介させていただきます。

 

まとめ


脳挫傷は、怪我をされた時の重症度や脳の損傷場所により大きくその後の経過が変わる病気ですが、他の疾患と同じく、早期発見早期治療が少しでも良い治療につながることに違いありませんので、ご心配な方はいつでもご相談ください。


参考文献

脳神経外科学第12版と頭部外傷ガイドライン第4版

この記事の監修医師

監修医師: 外科専門医 梅村 将成

資格

外科専門医/腹部救急認定医

監修医師: 福井 康大