心筋梗塞の前兆や症状について|生活習慣病の方は必見!
☑ この前の健康診断でコレステロールの値が高いと言われた
☑ 血圧高いから塩分に注意するように言われた
このようなことに心当たりはありませんか?
高血圧や脂質異常症(高コレステロール血症などとも表現します)を放置していると、心筋梗塞で命を落としてしまう危険があることをご存じですか?
今回はそんな怖い心臓の病気、心筋梗塞について解説していきます。
心筋梗塞について
心筋梗塞とは、心臓自体に血液を届ける血管である冠動脈が詰まったりすることで心臓の筋肉が死んでしまう病気のことです。そもそも心臓は全身の臓器に血液を送り届けるためのポンプの役割を果たしている臓器です。
心臓がドックン、ドックン、と規則正しく動くことにより全身に血流が行きわたり、そして筋肉を動かしたり食べ物を消化吸収出来たりするのです。ただその心臓自体にも血液が行きわたらないと心臓が動くことができなくなってしまいます。そのための血管が冠動脈という
血管で心臓をぐるっと取り囲むように表面を走っています。この冠動脈がさまざまな原因で狭くなったり、最終的には詰まったりすることがあります。
このようにして冠動脈の血流が途絶えたり、急激に不足することにより心臓の筋肉が壊死していく病気が心筋梗塞です。
心筋梗塞のほとんどが突然くる急性心筋梗塞
さて、心筋梗塞はどのようにして起こるのでしょうか。血管は水道管と同じで、経年劣化もしますし、流れるものによってはぬめりが起きやすかったりします。そのような要因から血管の多くは時間をかけて徐々に硬く、狭くなっていきます。
この時点で心臓が血流不足のサインを出してくれれば狭心症と診断することができるのですが、不運にもSOSが出ず、最終的に急激に進行したり詰まったりしたときに心筋梗塞になってしまいます。ですので心筋梗塞のほとんどが急激な胸痛をもたらします。
急性心筋梗塞を含む急性冠症候群において7割以上の患者に胸痛の症状があったと報告されています。
なかでも心筋梗塞の胸痛は急激に発生し、特に長く続くことが特徴です。痛み始めてから数分以内にピークに達し、その後20分以上続くと、かなり心筋梗塞が疑わしい痛み方になります。
日本人に多い死因でがんの次に心疾患その中でも急性心筋梗塞の割合が高い
急激な胸痛に加えて心筋梗塞が怖いのは、死亡率が高いということです。
厚生労働省の2020年の集計では、がんに次いで2番目に多い死因(15%)と報告されています。
3) そして我が国における様々な研究で、典型的な心筋梗塞の患者のうち7~10%が入院中に亡くなってしまうと報告されています。
4-6) そして初回の治療を乗り切って退院した後も油断できないのが心筋梗塞の怖いところです。
血流が不足して壊死してしまった心臓の筋肉は多少は回復するものの、元通りにはなりません。全身に血流を送るポンプの機能が弱くなってしまい、さまざまな合併症を引き起こしてしまう恐れがあります。
典型的な心筋梗塞を患った患者において、退院後6か月以内の死亡率は4.8% 7) 、退院後2年での死亡率は6.3% 8) と報告されており、20人に1人以上が亡くなってしまう恐ろしい病気なのです。
心筋梗塞は突然死してしまうこともある
多くが急激な胸痛を生じる心筋梗塞ですが、怖いことに突然死してしまうこともあります。
特に怖いのが不整脈と心臓破裂です。激烈な胸痛により神経がたかぶり、身体は興奮状態となります(交感神経の作用です)。これにより興奮ホルモンが多量に分泌され、刺激された心臓がリズムを取り損ねてしまった状態が不整脈です。
不整脈にも種類がありますが、なかでも心室細動という不整脈は左心室がけいれんしており、有効な拍出がなくなってしまうため数分で命を落としてしまいます。
また、壊死してボロボロになった心臓に興奮ホルモンの刺激が強すぎて心臓が破裂してしまうこともあり、これも同じように突然死の原因になります。
あとで述べますが、このような怖い合併症を起こさないようにということも含めて、心筋梗塞は時間との闘いなのです。
心筋梗塞と狭心症との違いは?
「うーん、心筋梗塞が怖い病気だってことはわかったけど、よく耳にする狭心症とも違うの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
狭心症と心筋梗塞という分け方は少し古い言い方であり説明が難しいのです。語弊を恐れずにざっくりと言うならば、血管が狭くなってきていて運動したときなどに一時的にギューッと痛むものが狭心症、完全に詰まったり急激に細くなったりすることで長時間痛みが生じたり心臓の筋肉が壊死したりするものが心筋梗塞と思っていただいてよいと思います。
狭心症とは
狭心症といっても、不安定狭心症は(ST上昇型)心筋梗塞と並んで急性冠症候群という概念に含まれます。
安定した労作性狭心症や冠攣縮性狭心症などについて別の記事を作成しています。狭心症についてもっと知りたいという方はこちら(現在、作成中)の記事をご参照ください。
心筋梗塞は狭心症に比べて胸の痛みが強い
急性心筋梗塞を含む急性冠症候群において、最も典型的な症状は胸痛です。
痛みは主観的な指標であり断言はできませんが、狭心症に比べて心筋梗塞の方が痛みが強く、長い傾向にあります。
また、顎、肩、背中などにも痛みが広がることがあります。中にはモルヒネを必要とするような激しい痛みを生じることもあります。
心筋梗塞は痛みが長く続く(30分ほど)
先ほど少し触れましたが、狭心症であれば胸痛は長くは続きません。
数分程度が多く、長くても15~20分程度です。
胸痛が20分以上続く場合には心筋梗塞の可能性が高いです。
心筋梗塞は冷汗や意識が遠のくことも
また、随伴症状として冷や汗、呼吸困難、吐き気、嘔吐、失神などを生じることもあります。
とくに糖尿病を患っている方や高齢者は痛みを感じにくいことがあり、意識消失などが唯一の症状として搬送されることもあります。
心筋梗塞を引き起こす原因は
ではこのような心筋梗塞はなぜ起こってしまうのでしょうか。繰り返しになりますが、心筋梗塞は冠動脈という血管が詰まったりすることが問題です。
いわゆる「パイプのトラブル」です。水道管と同じように、経年変化で硬くなってヒビが入ったり、どろどろしたものが流れたことで内部にぬめりなどが生じることが原因になります。
心筋梗塞は冠動脈硬化が原因
血管が硬く脆くなることを動脈硬化といいます。動脈硬化は全身のあらゆる血管に起こりますが、冠動脈が硬化することで狭心症や心筋梗塞の原因になります。
動脈硬化の初期には血管の内側の膜が分厚くなったり脂肪分などが沈着したりすることでプラーク(粥腫とも言います)と呼ばれるものが発生します。プラークが成長して血管の中を狭めてしまうのです。
心筋梗塞は冠動脈硬化を招く危険因子
日本人の心筋梗塞において危険因子は、高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴、脂質異常症(高コレステロール血症)です。
高血圧・脂質異常症
血圧が高いと、血管に負担がかかることはご想像いただけると思います。医学的には血管内皮細胞が障害されやすく、動脈硬化の原因になります。
また血液中の脂肪分が増えることでプラークの生成が促進され、これも粥状硬化症という動脈硬化の一つのパターンになります。
高血圧、脂質異常症に関してはこちらの記事に詳しくまとめていますので、ご参照ください。
糖尿病
糖尿病においても、末梢の細い血管において血管内皮細胞が障害されやすいことが知られています。また血液の粘性が高くなり、より閉塞しやすい状態になるとも考えられます。
糖尿病についてはこちらの記事に詳しくまとめていますので、ご参照ください。
肥満
目に見えるもので注意していただきやすいのが、肥満です。体重が増えると、血圧が高くなりやすくなり動脈硬化のリスクが増えます。
また肥満の原因には食生活の乱れや運動不足が背景にあると想像されます。塩分、糖分、脂肪分の多い食事をしていると、高血圧や糖尿病、脂質異常症の原因になります。
喫煙
生活習慣病と並んで、心筋梗塞のリスクが高くなるのが喫煙です。
余談ですがDick Cheney 元アメリカ副大統領はヘビースモーカーで37歳から狭心症発作を繰り返し、このような重要職に就くのは不適切と言われたそうです。特に現在吸っていることが危険で、やめるのが早ければ早いほど良いです。欧米諸国では禁煙により心筋梗塞などが激減していると報告されています。
ストレス
意外に侮れないのが、ストレスです。慢性的なストレスにより緊張状態が続いたりすることで自律神経がバランスをとりにくくなることがあります。
血圧の上下が激しくなったりすることが考えられます。
遺伝
心筋梗塞自体が遺伝するとは言えませんが、家族歴は非常に重要な要素の一つです。
特に若くして発症した心筋梗塞などは生活習慣病だけでなく、血管それ自体になんらかの遺伝的異常が隠れている可能性があります。
Marfan症候群では血管が裂けやすいため大動脈解離などの血管の病気を発症しやすくなります。
また、家族性高コレステロール血症という病気もあり、調べてみると実は遺伝的要素が隠れていたということがありえるのです。
もし心筋梗塞を発症してしまったら
発症してから1~2時間が予後を決める、すぐに救急車を呼ぶ
先ほど少し述べましたが、心筋梗塞の治療は時間との戦いです。血流が得られなくなった心筋細胞は虚血の時間が長くなればなるほど壊死が進んでいきます。
壊死が進むほど、破裂などの合併症のリスクも上がりますし、心臓の機能が足りなくなり心不全を起こしやすくなります。
また急性期を乗り切った後の心臓の機能も悪くなる可能性が上がります。
心筋梗塞は一分一秒を争う病気なのです。
発症から3時間以内に治療すれば、後遺障害なく退院できることも
心筋梗塞の予後は、ズバリ発症からいかに迅速に血流を再開(再灌流)させるかに依存します。
本邦における大規模研究でも、発症から3時間以内の早期に再灌流できた症例では良好な成績が得られたのに対し、総虚血時間が長くなるに連れて治療成績が悪化していました。
ただし、発症2時間以内の早期来院例では、来院から再灌流までの時間が90分以内を達成していれば、長期臨床成績は有意に良好でした。
90分、2時間、3時間など様々な指標が出ていますが、「血流の悪い時間をなるべく短くする」ことが重要なのは間違いありません。早期治療ができれば、元通りの生活ができる可能性が十分にあります。
発症する前に循環器内科などで定期的な受診を
1分1秒を争う心筋梗塞ですが、時間は刻々と過ぎていきます。
仮に症状が出てすぐに119番通報して救急要請をしても、状況の説明、救急車の移動時間などでも時間はとられていきます。
我々医療者としては診断から治療(血流再開)までの時間を少しでも削ることができるよう日夜努力していますが、残念ながら患者さま全員に確実に早急な血流再開をもたらすには至っていません。
心筋梗塞は、起こさないように血管のトラブルを早期発見しておくことが重要な病気なのです。
生活習慣病を見直すことが大事
「せんせー、結局予防と早期発見が大事なのはわかったから、何に気を付けたらいいか教えてよ~!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
繰り返しになりますが狭心症や心筋梗塞といった血管のトラブルは、水道管のぬめり・つまりと同じようなものです。身体中に張り巡らされた水道管にあたる血管に負担をかけないことが重要になります。
具体的に気を付けるべきことは、ズバリ、血圧、血糖値、コレステロール、喫煙です。生活習慣病を見直すことが非常に大事なのです。
当院でも高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を早期に発見、介入することで、少しでも皆さんが元気でお過ごしいただけるよう努めています。当院の健康診断でコレステロールや血糖などを測ることもできます。心当たりのある方は、一度相談に来てみてはいかがでしょうか。お気軽にご相談ください。
西春内科在宅クリニックができる対応
上で少し触れましたが、当院では様々な生活習慣病の早期発見・早期治療に努めています。
健康診断も実施しており、血圧やコレステロール、血糖値などを検査することができます。
また心電図検査や胸部レントゲン検査も行っております。CTや超音波検査の設備もあり、様々な角度から検査を行うことができます。
まとめ
今回は恐ろしい心臓の病気、心筋梗塞についてまとめてみました。
がんや脳卒中などと並んで死亡率の高い非常に怖い病気です。
予防と早期発見がとても大事ですので、この機会に生活習慣病の見直しをしてみてはいかがでしょうか。
血圧、コレステロール、糖尿などに関して不安をお持ちの方、それ以外にも気になることがある方は一度受診してみることをお勧めします。この記事が皆様のお役に立てれば嬉しく思います。最後までご覧くださりありがとうございました。
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