尿路感染症に高齢者がなりやすい理由|原因と症状について解説

公開日:2023.7.24 更新日:2024.2.27

尿路感染症

尿路感染症とは、尿道、膀胱、尿管、そして場合によっては腎臓にまで及ぶ感染症の総称です。

高齢者にとってはよく見られる問題であり、特に注意が必要です。

高齢者が尿路感染症になりやすい理由は、免疫機能の低下や基礎疾患の存在、膀胱の筋力の低下などが挙げられます。

これらの要因により、尿路感染症のリスクが増加します。

尿路感染症の症状には、頻尿、尿の切迫感、腹痛、腰痛、尿の異常、発熱などがあります。

ただし、高齢者ではこれらの症状が明確に現れない場合があります。

今回は、高齢者が尿路感染症になりやすい具体的な理由と、症状について詳しく解説していきます。

 

関連記事:尿管結石で石が出る前兆は?バナナやポカリスエットが効果的?

 

 

尿路感染症になる原因


尿路感染症

尿路感染症の原因として最も一般的なのは、細菌が尿道から尿管や膀胱に進入することです。

一般的な細菌の源は、通常、自身の腸内や周囲の環境から来ます。

高齢者の場合、以下の要因が尿路感染症の原因となる可能性があります。

尿路の排出機能の低下


高齢に伴い、尿の排出機能が低下することがあります。

尿が十分に排出されず、尿路に滞留することで細菌の増殖が促されます。

 

尿道の緩み


高齢者は尿道の筋肉や組織の弾力性が低下することがあります。

このため、尿道が緩んでしまい、細菌が尿道に侵入しやすくなります。

 

女性の更年期の変化


更年期を迎える女性では、エストロゲンの減少により尿道の粘膜が薄くなります。

これにより、細菌が尿道に侵入しやすくなり、尿路感染症のリスクが増加します。

 

前立腺肥大症や尿路結石


男性の場合、前立腺肥大症や尿路結石などの尿路の問題が尿流の妨げとなり、細菌の増殖を引き起こす可能性があります。

 

カテーテルの使用


高齢者の一部は、尿の排出を助けるために尿カテーテルを使用しています。

カテーテルは尿路に直接挿入されるため、細菌の侵入経路となります。

これらの要因が高齢者において重なることで、尿路感染症の発症リスクが増加します。

 

関連記事:膀胱ろうとは?在宅でのカテーテル交換時の注意点を解説

 

 

高齢者が尿路感染症になりやすい理由


尿路感染症

免疫機能の低下


加齢により免疫機能が低下するため、感染症への抵抗力が減少します。

免疫システムの機能低下により、細菌や他の病原体が尿路に侵入しやすくなり、尿路感染症のリスクが高まります。

 

基礎疾患の存在


高齢者は多くの場合、慢性的な疾患や健康問題を抱えています。

例えば、糖尿病や腎臓疾患などの基礎疾患は、免疫機能の低下や尿の排出機能の障害を引き起こす可能性があります。

これにより、細菌が尿路に滞留しやすくなり、尿路感染症の発症リスクが高まります。

 

尿路の構造的変化


高齢に伴い、尿路の構造や機能に変化が生じます。

例えば、女性では更年期以降にエストロゲンの減少により尿道の粘膜が薄くなり、細菌の侵入が容易になる傾向があります。

男性では前立腺の肥大や尿道の狭窄が尿の流れを妨げ、細菌の増殖を促す可能性があります。

 

膀胱の機能低下


高齢者は膀胱の筋力や収縮能力が低下することがあります。

膀胱が完全に排尿しきれない場合、尿が滞留し、細菌の繁殖を引き起こす可能性があります。

膀胱の収縮力が弱まることで、尿路感染症のリスクが増加します。

 

尿路の衛生状態の変化


高齢者は個人の衛生状態を維持することが困難になる場合があります。

例えば、認知機能の低下や運動能力の低下によって、適切な尿道の清潔さを維持することが難しくなることがあります。

これにより、細菌が尿道に留まりやすくなり、尿路感染症の発症リスクが高まります。

 

薬物使用


高齢者は複数の薬物を服用している場合があります。

一部の薬物は尿路感染症のリスクを増加させる可能性があります。

例えば、免疫抑制剤や抗生物質の長期使用は、免疫機能の低下や細菌の耐性形成により、尿路感染症の発症リスクを高めることがあります。

これらの要因が高齢者において重なることで、尿路感染症の発症リスクが増加します。

高齢者は、予防策や適切なケアを通じて尿路感染症に対する注意が必要です。

定期的な医療チェックアップや、医師の指導に従い、適切な衛生習慣や予防策を実践することが重要です。

 

関連記事:高齢者の便秘は危険?主な原因や解消方法、病院での治療を解説

関連記事:高齢者がなりやすい肺炎の症状|急変したときの対応や治療について

関連記事:高齢者に多い誤嚥性肺炎は治るのか|急変したときの対応法について

 

 

尿路感染症の症状


尿路感染症

以下に一般的な尿路感染症の症状について解説していきます。

 

排尿痛や灼熱感


尿路感染症では、排尿時に尿道や膀胱の炎症による痛みや灼熱感を感じることがあります。

尿道や膀胱が刺激されることで起こります。

 

頻尿


尿路感染症になると、膀胱が刺激されて頻繁な尿意を感じることがあります。

通常よりも頻繁にトイレに行く必要があります。

 

尿の混濁


尿路感染症では、尿が濁って見えることがあります。

細菌や炎症によって尿中に異常な量の細胞や粒子が存在するためです。

 

血尿


尿路感染症によって、尿中に血液が混じることがあります。

血尿は尿の色が異常に赤くなることを意味します。

 

熱の上がり下がり


尿路感染症が進行すると、熱が上がることがあります。

感染による免疫反応や炎症が原因です。

一部の患者様では、熱が周期的に上がったり下がったりすることがあります。

 

下腹部の圧迫感や不快感


尿路感染症により、下腹部に圧迫感や不快感を感じることがあります。

膀胱や尿道の炎症によるものです。

これらの症状は尿路感染症の典型的な症状であり、注意が必要です。

ただし、個人によって症状の程度や出現頻度は異なる場合があります。

症状が現れた場合は、早期に医師の診断と適切な治療を受けることが重要です。

 

関連記事:尿漏れの原因は男性と女性で違う?予防になるトレーニング対策も紹介

 

 

尿路感染症はうつる可能性があるのか


尿路感染症

尿路感染症は、一般的に他の人に直接感染する可能性は低いです。

しかし、特定の条件や状況下では、感染が他の人に広がるリスクが存在します。

尿路感染症は通常、尿中に存在する細菌が尿道を経由して膀胱や腎臓に進入し、感染を引き起こします。

感染は個人の尿路に限定される傾向がありますが、以下のようなケースでは感染が他の人に広がる可能性が考えられます。

 

性行為


性行為によって、尿路感染症の原因となる細菌が性器から尿道に侵入することがあります。

感染した性パートナーとの性的接触によって感染が広がる可能性があります。

 

感染源との密接な接触


尿路感染症の原因となる細菌は、感染した個人の体液や尿に存在します。

感染源となる個人の体液に触れたり、感染した尿を介して感染が広がる可能性があります。

例えば、介護者が感染した高齢者の排尿の介助を行う場合などが該当します。

一般的に、尿路感染症は感染した個人の尿に含まれる細菌が他の人に直接感染するリスクは低いとされています。

ただし、性的接触や密接な接触がある場合は感染が広がる可能性があります。

感染リスクを最小限に抑えるために以下の予防策が重要です。

 

適切な衛生習慣の実践


個人的な衛生に注意し、手洗いを含む適切な衛生習慣を実践します。

特に性的接触の前後や、感染源との接触後には手洗いを行うことが重要です。

 

安全な性行為の実践


性行為を行う場合は、適切な予防方法(コンドームの使用など)を実践することで感染リスクを減らすことができます。

 

感染源との適切な距離の保持


感染源となる個人との密接な接触を避けることが重要です。

特に感染が疑われる場合や感染リスクが高い場合は、距離を保ちながら適切な予防策をとることが必要です。

介護や看護の場面では、適切な感染対策を行いながら作業を行うことが重要です。

 

 

尿路感染症は自然治癒するのか


尿路感染症

尿路感染症は自然に治癒する場合もありますが、一般的には適切な治療を受けることが推奨されます。

尿路感染症は、細菌感染によって引き起こされる疾患です。

軽度の感染や早期の段階では、免疫系の働きや自然治癒力によって感染が克服される場合があります。

しかし、自然治癒までには時間がかかる上、感染が進行するとより深刻な合併症を引き起こす可能性があるため、早期の適切な治療が重要です。

尿路感染症の治療には一般的に抗生物質が使用されます。

抗生物質は細菌の成長を阻止し、感染を鎮める効果があります。

症状の軽い場合や初期段階の場合、抗生物質の処方を受けて自宅で治療を行うことが可能です。

しかし、重症な症状や高齢者など免疫力の低下が見られる場合は、病院を受診することが勧められます。

病院では、医師が正確な診断を行い、適切な抗生物質の処方や治療方針を立てることができます。

また、重症化や合併症の予防のためにも、早期の医療機関への受診が重要です。

病院では適切な検査や評価が行われ、必要に応じて点滴治療や追加の検査が行われることもあります。

自己判断で治療を中断したり、症状が出ているのにも関わらず放置することはやめましょう。

自己判断や自己処理では感染の根本的な原因を取り除くことができず、感染の悪化や再発のリスクが高まる可能性があります。

また、尿路感染症は膀胱や腎臓など尿路全体に広がることがあるため、適切な検査や診断を受けることで感染の範囲や重症度を把握することが重要です。

なお、近年では在宅診療という選択肢も増えています。

在宅診療では、医師が自宅を訪問し、必要な処置や薬物治療を行います。

特に高齢者や身体的な制約がある患者様にとっては、病院への移動や長時間の待ち時間を避けることができ、負担が軽減されるでしょう。

在宅診療の検討も、尿路感染症の治療において一つの選択肢となり得ます。

 

関連記事:前立腺肥大は自然に治る?原因と症状、予防対策について解説

 

 

尿路感染症の治療について


尿路感染症

尿路感染症の治療は、感染の種類、重症度、患者様の状態に応じて個別に決定されます。

尿路感染症を疑った場合、医師は患者様の症状を詳しく聞き、身体検査を行います。

尿検査や血液検査などの検査も実施され、感染の診断と重症度の評価が行われます。

尿路感染症の主な治療法は抗生物質の使用です。

一般的に、感染の原因となる細菌に効果的な抗生物質が処方されます。

処方される抗生物質の種類や投与方法、治療期間は、感染の重症度や患者様の個別の要因に基づいて決定されます。

また、症状の重症度や合併症のリスクに応じて入院が必要な場合があります。

高齢者や免疫力の低下した患者様、合併症のリスクが高い患者様は入院が推奨されることがあります。

入院期間は、患者様の状態や治療の進行によって異なります。

 尿路感染症の治療期間は一般的に7日から14日程度です。

個別の症状や感染の進行具合によって変動する場合があります。

重症度が高い場合や合併症のリスクがある場合は、治療期間が延長されることがあります。

治療後、医師は患者様の症状の改善を評価し、必要に応じて追加の検査やフォローアップを行います。

治療が効果的であれば、症状は徐々に軽減し、感染は治癒に向かうでしょう。

ただし、完全な治療を終えるまで、抗生物質の使用を継続することが重要です。

治療期間中は、処方された抗生物質を正確に服用し、医師の指示に従って終了することが必要です。

治療を途中で中断したり、処方された薬を適切に使用しないと、感染の再発や抗生物質耐性の発生のリスクが高まります。

抗菌薬の使用に関しては、医師の指示に従いましょう。

抗菌薬は感染を改善するために必要ですが、適切な種類と投与量が重要です。

自己判断で抗菌薬を使うことは避け、必ず医師の指示に従ってください。

在宅診療の場合、医師が患者様の自宅を訪問し、必要な処置や抗生物質の投与を行います。

在宅診療の利点は、病院への通院が難しい患者様がご自宅で診察を受けられることです。

在宅診療の適応や詳細は、医師との相談や状況に応じて決定されます。

尿路感染症の治療には、適切な診断と早期の治療が不可欠です。

自己処理や自己判断をせず、医師の指示に従いましょう。

治療期間中は、抗生物質の正しい使用や処方薬の終了を守ることが大切です。

また、治療後もフォローアップに従い、感染の再発を防ぐための予防策を講じることが重要です。

 

関連記事:尿管結石で石が出る前兆は?バナナやポカリスエットが効果的?

 

 

尿路感染症の予防対策


尿路感染症

尿路感染症を予防するためには、以下の予防対策を実施することが重要です。

 

十分な水分摂取


水分を十分に摂取することで、尿の量が増え、排尿回数が増えます。

これにより、細菌が尿路に滞留する時間が短くなり、感染のリスクが低下します。

1日に推奨される水分摂取量は個人によって異なりますが、通常は1.5〜2リットルを目安にしましょう。

 

適切な排尿


排尿は尿路感染症の予防に重要です。

尿を長時間ため込まず、頻繁に排尿しましょう。

また、排尿時には十分な時間をかけて完全に尿を排出し、残尿がないことを確認します。

 

適切な衛生習慣


常に適切な衛生習慣を実践しましょう。

トイレ使用後は、トイレットペーパーを前から後ろに向かって拭き取ることで腸内細菌が尿道に入るリスクを減らします。

また、清潔な下着やパッドを使用し、頻繁に交換することも重要です。

 

衛生的な性行為


性行為は尿路感染症のリスクを増加させる場合があります。

適切なコンドームの使用や清潔さに注意し、性行為後には排尿を行うことで、細菌の排出を促すことができます。

 

健康な生活習慣


免疫力を高めるために、バランスの取れた食事を摂取し、適度な運動を行い、十分な睡眠をとることが重要です。

免疫力が低下すると感染症への抵抗力が弱まるため、健康な生活習慣を維持することが予防につながります。

以上の予防対策を実施することで、尿路感染症のリスクを低減できます。

特に高齢者や免疫力の低下した人々にとっては、予防対策が重要です。

尿路感染症の予防には、日常生活での意識と適切なケアが欠かせません

医師の指導やアドバイスに従いながら、予防対策を実施しましょう。

西春内科在宅クリニックができる対応


西春内科在宅クリニックでは、尿路感染症の患者様に対して診察・治療を行うことが可能です。

また、当クリニックでも在宅診療を行っていますので、通院が難しい患者様・ご家族様がいらっしゃればお気軽にご相談ください。

患者様、お一人お一人に合わせた、治療を行っていきます。

 

 

まとめ


尿路感染症は、尿道や膀胱、腎臓などの尿路に細菌が感染し、炎症が生じる疾患です。

高齢者は免疫力の低下や基礎疾患の存在などから感染しやすく、重篤な合併症のリスクも高いです。

症状としては排尿痛、頻尿、尿混濁などがあり、発熱も見られることがあります。

尿路感染症の主な原因は腸内の大腸菌が尿道に侵入することであり、女性では尿道の短さや尿道口の近さなどがリスクとなります。

高齢者では排尿困難や尿路の機能低下などが加わり、感染のリスクが増大します。

尿路感染症は感染性があり、他の人にも感染する可能性があります。

しかし、一般的には直接的な感染経路ではなく、自己感染が主な要因とされています。

尿路感染症は、自己判断だけでは自然治癒しないこともあり、専門医による早期の診断と適切な治療が必要です。

抗菌薬の処方や症状管理が行われ、入院期間や治療期間は個人の状態によって異なります。

予防対策としては、適切な衛生習慣の実践や水分摂取量の確保が重要です。

高齢者の場合は定期的な健康管理や免疫力の維持も重要です。


参考文献

Gupta K, Hooton TM, Naber KG, et al. International clinical practice guidelines for the treatment of acute uncomplicated cystitis and pyelonephritis in women: A 2010 update by the Infectious Diseases Society of America and the European Society for Microbiology and Infectious Diseases. Clin Infect Dis. 2011;52(5):e103-e120.
Nicolle LE, Gupta K, Bradley SF, et al. Clinical Practice Guideline for the Management of Asymptomatic Bacteriuria: 2019 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2019;68(10):e83-e110.
Hooton TM. Clinical practice. Uncomplicated urinary tract infection. N Engl J Med. 2012;366(11):1028-1037.
Juthani-Mehta M, Quagliarello V. Infectious diseases in the nursing home setting: challenges and opportunities for clinical investigation. Clin Infect Dis. 2010;51(8):931-936.

この記事の監修医師

監修医師: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)

プロフィール

平成19年に現大阪公立大学医学部医学科を卒業。初期臨床研修修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科勤務、平成26年より国家公務員共済組合連合会大手前病院で勤務、令和3年より同院救急科医長就任。どうぞよろしくお願い致します。

専門分野

救急全般(特に敗血症、播種性血管内凝固症候群、凝固線溶異常関連など)、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域

保有資格

日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、厚生労働省認定緩和ケア研修会修了医、厚生労働省認定臨床研修指導医など

監修医師: 西春内科・在宅クリニック 院長 福井 康大


▶︎詳しいプロフィールはこちらを参照してください。

経歴

三重大学医学部医学科 卒業
三重県立総合医療センター 
N2 clinic