知ってほしい脳卒中の危険な前兆・症状や脳梗塞との違いは?

公開日:2022.5.20 更新日:2024.4.18

■はじめに

 

脳卒中とは、脳の血管障害(脳梗塞や脳出血など)により、突然倒れてしまったり、様子がおかしくなったりする病気です。

 

三大疾病の一つとしてよく知られており、生活習慣病と関わりが深く、予防には禁煙や食生活や運動習慣に気をつけることが大事であることも有名です。

 

脳卒中は後遺症により介護が必要となる病気としても知られており、漠然と怖いというイメージがあると思いますが、脳卒中がどのような病気であるか、どんな症状の時に医療機関への受診が必要であるのかなどについてはあまり知らない方も多いと思います。

 

ここでは脳卒中がどんな病気であるのかについて詳しく説明したいと思います。



脳卒中とは


脳卒中とは“脳梗塞”、“脳出血”、“くも膜下出血”などの脳血管疾患を指す言葉です。

 

脳卒中の「卒」は「突然に」、「中」は「中る(あたる)」という意味があり、脳卒中は「脳の病気で突然に何かにあたったようになる(倒れる)」という意味です。


(※「卒」は「突然に」という意味があり、卒倒や卒然などで使われます。「中」は「中る(あたる):物事に直面する、身体などにぐあいの悪い触れ方をする」という意味があり、中毒などで使われます。)

 

 三大疾病の一つ


脳卒中(脳血管疾患)は悪性新生物、心疾患、老衰に続いて、日本人の死因の第4位となっている病気です。

 

脳卒中は現在では死因の第4位となっていますが、1940年代に結核での死亡が少なくなって以降の1970年代までは死因の第1位であり、その後に悪性新生物や心疾患による死亡数が脳血管疾患を上回るも2011年までは死因の第3位であったことから、現在でも 疾病の一つとされています。

 

再発率が高く、後遺症が残ることも


脳卒中(脳血管疾患)は、後遺症を残す病気としてもよく知られています。

 

脳梗塞や脳出血では障害を受ける部分によって、麻痺や感覚障害、認知機能低下などに代表される高次機能障害などの様々な症状が出現し、後遺症として症状が残ることで日常生活に大きな影響を与えます。

厚生労働省による平成28年国民生活基礎調査の概要によると、介護が必要となる主な原因の第2となっています。

 

また、再発も起こしやすい病気であり、軽い症状で発症したとしても十分な再発予防ができていない場合には、より重い症状で再発してしまい、重度の後遺症を残すこともあります。

 

近年は治療法の発達により、発症してすぐに治療を行うことで後遺症を軽くできることも増えてきましたが、何かしらの後遺症が残ることも多いため、発症予防や再発予防が特に重要です。

 

今後、高齢化に伴い患者数は増加される


脳卒中は、動脈硬化や微小血管の障害、不整脈、動脈瘤などが原因となって発症する病気で、高齢になるほど発症しやすくなります。

 

高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、罹病期間(発症してからの期間)が長くなるほど血管への障害は大きくなりますし、心臓などの他の臓器の機能低下によっても脳卒中は発症しやすくなります。

 

近年も健康への意識の高まりや治療の発達、介護の充実などにより平均寿命は徐々に延長し、高齢化は徐々に進行しています。

 

今後は高齢化の進行に伴いさらなる患者数の増加が想定されますが、高齢者の脳卒中では多くの場合に介護が必要となり、転倒もしやすくなるため、若いときから生活習慣などを意識して健康維持に努めることが重要です。

 

脳卒中の種類について


前述のように脳卒中とは脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などを含んだ病名で、脳血管疾患の全般を指します。

 

ここでは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血について詳しい説明とその原因について解説していきます。

 

脳梗塞


脳梗塞とは、脳に血流を送る動脈が動脈硬化などにより狭くなったり、血栓などにより閉塞したりすることで、酸素や栄養が足りなくなって脳細胞が壊死してしまう病気です。

 

脳梗塞はその によって大きく以下のように分けられます。

 

「ラクナ梗塞」

→脳内の小動脈病変が原因

 

「アテローム血栓性脳梗塞」

→頸部~頭蓋内の比較的大きな動脈のアテローム硬化(動脈硬化)が原因

 

「心原性脳塞栓症」

→不整脈や心筋梗塞、心臓弁膜症など心臓が原因となる

 

「その他」

→先天性な要因や悪性腫瘍などにより血の固まりやすさが亢進することや静脈の血液が動脈に流れ込む病気(肺動静脈瘻や卵円孔開存症など)などが原因

 

原因によって治療法が異なりますが、脳梗塞の90%以上がラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞のどれかにあてはまり、そのどれもが高血圧や糖尿病などの生活習慣病との関わりが大きく、生活習慣の改善や生活習慣病の治療が予防に有用です。

 

脳出血


脳出血とは、脳内を走行する動脈が破れて脳の中に出血をしてしまう病気です。

 

脳出血は交通事故などの高エネルギー外傷で起こりますが、高血圧による血管障害やもやもや病、アミロイドアンギオパチーなどの疾患を背景に発症する非外傷性のものもあります。

 

非外傷性の脳出血の原因のほとんどは高血圧であり、もやもや病やアミロイドアンギオパチーなどの疾患がある場合も血圧を下げることで脳出血の発症リスクを下げることができます。

 

症状は脳梗塞も脳出血も麻痺や感覚障害、認知機能障害や空間無視などの高次機能障害など、障害を受ける部位により様々ですが、脳梗塞では基本的には頭痛を感じない一方で、脳出血では多くの場合に頭痛を伴います。

 

くも膜下出血


くも膜下出血とは、脳の動脈が破れて脳の周りのくも膜下腔に出血をしてしまう病気です。

 

脳出血とは異なり、脳の内部に分岐する前の脳の周りを走行する動脈が破れて出血することで発症し、その原因の多く (脳の血管にできる“こぶ”)の破裂です。

 

脳動脈瘤は破裂するまでは症状がなく、脳ドックなどでの検査で偶然に見つかることも多いです。

 

脳動脈瘤ができる原因は今のところ不明ですが、大きさが5mm以上では1年間あたりの破裂率が1%以上といわれており、予防的に血管内治療や開頭術などの手術などを行うこともあります。

 

バッドで殴られたような突然の強い頭痛で発症することが多く、意識障害を伴います。

脳梗塞や脳出血とは異なり、麻痺や感覚障害などは出ないことが多いです。

 

脳卒中の原因と予防


脳卒中には、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などが含まれること、各疾患の原因などについて前項で説明しました。

 

原因には様々なものがあるため一概にはいえませんが、脳梗塞や脳出血の原因の多くに、高血圧やその他の動脈硬化のリスクファクター(高脂血症、糖尿病、喫煙、飲酒、メタボリックシンドロームなど)が深く関わっており、脳卒中の発症予防には生活習慣の改善と生活習慣病の治療が非常に重要です。

 

ここでは脳卒中の原因と関与の深い生活習慣病や改善すべき生活習慣について説明します。

 

動脈硬化


動脈には、心臓の収縮に伴う圧力に耐えるため、動脈壁(内膜・中膜・外膜)が存在します。

 

血液と細胞との酸素やエネルギーのやりとりは内膜を介して行われますが、エネルギー源としてのコレステロールなどの脂質が変性したりあふれたりすることで、内膜の下にたまった状態を動脈硬化といいます。

 

動脈硬化が起こること自体での症状などはありませんが、動脈硬化により血管が狭くなることで冠動脈疾患や脳卒中の原因となったり、血管の弾性が乏しくなって高血圧を悪化させたりと、動脈硬化は全身に様々な問題を引き起こすため、予防や治療が必要です。

 

予防には、食事療法や運動療法、禁煙、節酒(日本酒1合/日以下)、肥満の改善(BMI:25未満の維持)などの生活習慣改善が重要です。

 

食事については塩分や脂質を控え、魚や野菜、果物などを中心とした食事を心がけましょう。

運動については過度な負荷をかけた運動では骨や筋肉を痛める可能性もあるため、ウォーキングや軽いランニング、水泳などの中強度の有酸素運動を1日30分以上行うことが推奨されています。

 

高血圧症


高血圧は脳出血と脳梗塞に共通の最大の危険因子です。

 

血圧の値と脳卒中の発症率との関係は正の相関関係にあり、血圧が高いほど脳卒中の発症リスクは高くなります。

高血圧治療ガイドライン2019では、診察室血圧で140/90 (mmHg)、家庭血圧で135/85 (mmHg)を超えると高血圧という診断になること、75歳未満の人や冠動脈疾患や脳血管疾患の既往があるなどのリスクのある人は診察室血圧で130/80 (mmHg)以下、家庭血圧で125/75(mmHg)以下にコントロールすることが好ましいとされています。

 

一方で、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳卒中のリスクの高い人では血圧は120/70 (mmHg)以下にコントロールをすることが好ましいとされており、低血圧の副作用が出ない範囲でできるだけ血圧を下げることが脳卒中の予防に重要です。

 

非薬物療法としては、動脈硬化の項で記載した予防に準じますが、その中でも減塩(推奨は塩分摂取量6g/日)が特に重要とされており、食事には特に注意が必要です。

その他にストレスを避ける、冬季には防寒をしっかりと行うなども有効とされています。

 

▼高血圧・脂質異常症については以下の記事を参考にしてください。

気づきにくい高血圧と脂質異常症は定期的な健診が大切です

 

高脂血症


高脂血症は、コレステロールまたはトリグリセリドが高値である状態であり、動脈硬化を引き起こす大きな要因の一つです。

 

特にアテローム血栓性脳梗塞の大きな危険因子であり、脳梗塞や糖尿病で治療中の人ではLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が正常値であっても、スタチンを内服してLDLコレステロール 80 mg/dl未満にすることで脳梗塞の発症率や再発率が下がるという報告もあります。

 

非薬物療法としては、動脈硬化の項で記載した予防に準じます。

食事では豚や牛の油に多く含まれる不飽和脂肪酸の摂取を控え、野菜や魚(特にDHA/EPAを多く含む青魚など)の摂取を心がけると良いでしょう。


▼高血圧・脂質異常症については以下の記事を参考にしてください。

気づきにくい高血圧と脂質異常症は定期的な健診が大切です

 

糖尿病


糖尿病は脳梗塞の独立した危険因子であり、日本糖尿病学会ではHbA1c 7%未満(非薬物療法のみで可能であれば、HbA1c 6%未満)を目指すことを推奨しています。

 

非薬物療法としては動脈硬化の項で記載した予防に準じますが、その中でも食事療法が特に有用で身長や活動量に応じて適正なエネルギー摂取量としつつ、バランスをとれた食事をすることが推奨されます。

 

力仕事をしているなど運動量が多い場合にはその限りではないですが、

1日の目安としては

身長150cmでは1300~1800kcal

身長160cmでは1400~2000kcal

身長170cmでは1600~2300kcalが目安となります。

また適度な運動や減量も重要です。

 

▼糖尿病については以下の記事を参考にしてください。

関連記事:知らないと危ない糖尿病の症状と合併症について

喫煙


喫煙も高血圧や動脈硬化などのリスクとなるため、禁煙を心がけましょう。

ただちに禁煙をしたいのに禁煙ができないという場合には、ニコチン依存症のスクリーニングテストで5点以上など一定の条件を満たす必要はありますが、禁煙外来の受診も可能です。

 

飲酒


過度な飲酒は高血圧や動脈硬化、脳卒中の危険因子となります。

個人差はありますが、エタノール換算で20-30ml(日本酒1合、ビール500ml)/日以下であれば、血圧の上昇を抑えるなどの良い影響も与えるとされており、節度を持った飲酒であれば大きな問題はないとされています。

 

睡眠時無呼吸症候群


睡眠時無呼吸症候群は、脳卒中や心疾患の危険因子であり、高血圧などの生活習慣病も悪化させます。

睡眠時無呼吸症候群がある場合にはマウスピースの装着やC-PAP(持続陽圧呼吸療法)などで治療を行うことが好ましいです。

 

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は肥満との関連性が強く、減量などにより改善することもあります。

 

脳卒中の前兆、症状


脳卒中では主に以下の症状が突然出現します。

  1. 呂律が回らない、うまく話せない
  2. 様子が明らかにおかしい、意思疎通ができない
  3. 左右のどちらかの麻痺(顔や手足)
  4. 左右のどちらかの感覚障害、しびれ(顔や手足)
  5. 視野がかける(左右の眼のどちらで見ても、同じ場所の視野がかける)


※片目のみ視野がかける場合には網膜剥離などの眼科疾患が疑われます。

  1. 激しい頭痛、嘔吐
  2. 安静時でも持続するめまい、ふらつき
  3. 意識障害、共同偏視(両側の眼が左右の同じ方向に偏って位置する状態)

 

脳卒中は発症早期に治療を行うことで、症状の悪化を防いだり、後遺症を軽くしたりできる可能性があり、発症後の迅速な受診が重要です。

 

突然これらの症状が見られた場合には救急要請するなどをして迅速に医療機関に受診しましょう。

 

 西春内科在宅クリニックができる対応


脳卒中は診断にCTやMRIなどの画像検査が重要です。

発症早期では症状を改善したり、悪化を予防したりする治療が行える可能性もあることから、脳神経内科や脳神経外科のいる急性期病院への緊急の受診が必要です。

 

また、診断後も再発したり、症状が悪化したりするリスクもあることから入院での検査や治療が必要となります。

 

そのため、西春内科在宅クリニックでは脳卒中の急性期治療を行うことはできませんが、急性期治療を終えて内服薬での再発予防を行う状況となりましたら、引き続き外来で治療を継続することは可能です。

 

後遺症などにより外来通院が困難になった場合には往診での対応も行っております。

 

また、症状が出現した際に救急要請を行うべきか困った場合など、何かお困りの際のご相談は受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。

 

まとめ


脳卒中は突然に発症し、後遺症を残したり、死亡したりすることがある緊急性の高い病気です。

 

脳梗塞では詰まった血管を再開通させる血栓溶解療法や血管内治療(血栓回収術や血管拡張術)、脳出血やくも膜下出血では血管内治療(コイル塞栓術)や開頭手術(血腫除去術や減圧術)など、発症早期であれば症状を改善したり、症状の悪化を防いだりする治療を行える可能性があります。

したがって、脳卒中を発症した場合には、すぐに脳神経内科や脳神経外科のある急性期病院への受診をしましょう。

 

医療の発達や十分なリハビリテーションにより、脳梗塞発症後も大きな後遺症を残さずにすむ人は増えてきていますが、それでも多くの方が介護を要したり、仕事内容を変更する必要が出てきたりと元の生活に戻れない人も多くいらっしゃいます。

 

そのため、脳卒中にならないための予防も非常に重要です。

生活習慣の改善や生活習慣病の治療が発症予防に重要ですので、食事や運動、喫煙、飲酒などの生活習慣について、改めて考えてみてください。

 

 

【参考文献】

脳卒中ガイドライン「Ⅱ.脳梗塞・TIA

東京大学脳神経外科

脳卒中ガイドライン「Ⅴ.無症候性脳血管障害」

日本動脈硬化学会

糖尿病診療ガイドライン2019

大塚製薬

脳神経外科高瀬クリニック

 

大塚製薬:https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/stroke/about/
脳卒中ガイドライン:https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_02.pdf
東京大学脳神経外科:https://www.h.u-tokyo.ac.jp/neurosurg/rinsho/SAH.htm
脳卒中ガイドライン:https://www.jsts.gr.jp/guideline/235_240.pdf
日本動脈硬化学会:https://www.j-athero.org/jp/general/2_atherosclerosis/
糖尿病診療ガイドライン2019:http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-03.pdf

この記事の監修医師

監修医師: 脳神経内科 中村医師

監修医師: 福井 康大