生活習慣病の方は注意!動脈硬化が引き起こす命に関わるリスクについて
動脈硬化とは、食事、運動、喫煙、飲酒などに関する生活習慣が影響して血管の状態が悪くなり血流が十分に健全に全身に送れなくなる病気のことを指しています。
動脈硬化を引き起こす代表的な原因としては、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。
また、そのような動脈硬化の状態になれば発症リスクが高まると考えられている疾患の種類として、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞に関連する病気などが考慮されます。
今回は、動脈硬化はどんな病気なのか、その具体的な危険因子や関連する病気の種類、動脈硬化が引き起こす命に関わるリスクなど生活習慣病による動脈硬化の危険性について詳しく解説していきます。
目次
動脈硬化をまねく原因とは
動脈硬化をまねく原因はさまざまです。
1つ1つ見ていきましょう。
生活習慣病の危険因子
肥満
動脈硬化を引き起こす原因の1つに肥満が挙げられます。
いまや世界人口の約3分の1は「肥満者」であると言われています。
わが国でも多くの肥満患者が存在しており、肥満が生活習慣病や動脈硬化の危険なリスクファクターであることはこれまで多くの報告で明らかにされてきております。
肥満症は身体に過剰な脂質が蓄積している状況を指します。
この蓄積が引き金の一つとなって身体の末梢組織に膵臓から分泌されるインスリンの抵抗性を誘発し、インスリン抵抗性になると、食後の血糖値を処理しにくくなる耐糖能障害が現れます。
日本肥満学会による肥満症の診断基準ではBody mass index(以下、BMI)が25を超える場合に肥満としています。
糖尿病
動脈硬化を引き起こす原因の1つに糖尿病が挙げられます。
糖尿病は現代の疫病ともいわれ、糖尿病予備軍まで含めると全人口の約3割程度が発症していると考えられています。
糖尿病は、体内のインスリンと呼ばれる血糖を一定の範囲におさめる働きを担っているホルモンが十分に働かずに血中に存在するブドウ糖が増加する病気です。
血糖値が高い状態が続くと、血液中に多量に存在するブドウ糖が血管の壁を傷つけて動脈硬化が進行して、心筋梗塞や脳卒中のみならず目や腎臓、神経領域にも十分な血液が供給されにくくなります。
その結果、網膜症や腎機能傷害、そして末梢神経障害など、いわゆる糖尿病の三大合併症を引き起こすことが知られています。
末期レベルまで糖尿病の病状が進行すると、最悪の場合には失明、人工透析、足の切断など日常生活に極めて大きな支障をきたす状態に陥ります。
高血圧
動脈硬化を引き起こす原因の1つに高血圧が挙げられます。
現在、高血圧症は我が国において約4000万人以上にも及ぶ国民が罹患していると指摘されています。
高血圧を制御することによって本邦における脳血管障害や心臓病の発症を抑制することが大いに期待されています。
高血圧症が長期的に持続することで動脈硬化が知らぬ間に進行して、脳卒中や心筋梗塞が引き起こされ、また心機能が低下して心不全に罹患しやすいと考えられているため、十分に注意を払うことが重要な視点となります。
軽度の高血圧であれば無症状で経過することも少なくありませんが、様々な合併症を未然に防止するためにも早期から意識的に治療介入することが肝要です。
高血圧の状態を放置していると、動脈硬化を悪化させて脳卒中や心疾患など死に至る病気を発症させる引き金となります。
脂質異常症
動脈硬化を引き起こす原因の1つに脂質異常症が挙げられます。
脂質異常症とは、血液中に存在する脂肪分が多すぎる、あるいはその逆に少なすぎる状態を指しています。
従来では高脂血症と呼ばれていましたが病態を適切に表現していない理由から2007年に日本動脈硬化学会が診断名を「脂質異常症」に修正した経緯が存在します。
脂質異常症の多くは、不規則な生活習慣によって起こると言われており、ほとんどが日々における運動不足、油物など過剰に摂取する偏った食事、肥満体形などが主たる原因とされています。
特に、脂質異常症の中でも要注意だと認識されているのは、高LDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症、低HDLコレステロール血症の場合であり、これらの状態は心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化に関連した疾患を引き起こします。
なぜ動脈が硬化してしまうの?
動脈硬化とは、動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態を指しています。
正常の動脈血管は、心臓から送り出される血液を介して酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を持っていて通常であれば弾力性がありますが、加齢に伴って老化や様々な危険因子が影響して硬くなってしまうのが動脈硬化であると考えられています。
動脈硬化になった血管では、血管の内側にコレステロールなどの粥腫が付着して血管が狭くなり、血液の流れが悪くなります。
一般的には、糖尿病や高血圧、高脂血症、肥満、喫煙などが原因で動脈硬化は進行します。
動脈硬化は、全身の血管に生じますので脳梗塞、心不全、心筋梗塞や狭心症など多彩な健康障害を引き起こして命に関わる病気を発症させることも時に経験されます。
動脈硬化は放置すると命に関わる危険性も?
動脈硬化は放置すると命に関わるさまざまな病気を引き起こす可能性があります。1つ1つ確認しましょう。
心筋梗塞
大動脈が心臓の左心室の部屋から出たところでちょうど枝分かれしている左右の冠動脈が心臓の筋肉を養っております。
心筋梗塞は、高血圧などが誘因となって形成される冠動脈の硬化性変化に伴って冠状動脈の血行障害をきたすことによっても発症します。
この疾患は、心臓を養う冠動脈という血管が突然ふさがり、冠動脈疾患を起こすことによって心筋の一部への血液供給が大きく減少し遮断されることで発症します。
生命に必須である心臓への血液供給が数分以上にわたって大きく減少するか中断されると、心臓の横紋筋の筋肉組織が壊死することに繋がります。
心臓のポンプ機能は、心筋が収縮と拡張を繰り返すことで維持されていますので、心筋梗塞を起こして心筋の一部が機能しなくなって死んでしまうと、ポンプ機能が正常に働かなくなって、心不全などを引き起こします。
また、急性心筋梗塞では、同時に心室細動という危険な不整脈を合併しやすく、そうなった場合には特に迅速で適切な治療の有無が生死を分けることになります。
実に、亡くなる人の半数以上が、発症後1時間以内に集中しているという統計もあります。
心筋梗塞を引き起こすとされている主な要因としては、高血圧、肥満、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、ストレス、喫煙、家族歴などが挙げられます。
心筋梗塞は、主要な自覚症状として急に胸に激痛が起こり、胸に締めつけられるような圧迫感を覚える危険な心臓の病気であることが知られています。
発症した場合には、すぐに救急車で病院に担ぎ込んで早急に治療を施さないと、死亡率約40%と死を招きやすいことでも広く知られており、多くの人を前触れもなく突然襲う恐ろしい病気と言えます。
実際には心筋梗塞が起こる前には前兆があるとされており、この病気を適切に治療する方法もあります。
>>【生活習慣病の方に知ってほしい】心筋梗塞の症状や前兆について
狭心症
狭心症は、心臓の筋肉組織に重要な酸素成分や栄養要素を供給する冠動脈という血管と多大に関与しています。
狭心症では、冠動脈の内側に微小な血栓やコレステロール成分が貯留することで血管の内径が狭くなると、当然のことながら血液の流れが悪くなることで心臓に十分な栄養分を供給できなくなることで胸痛症状や胸の圧迫感が出現します。
狭心症の原因はほとんどが動脈硬化であることが知られており、加齢に伴って誰にでも発症する可能性があります。
狭心症の種類には、発作の現れる様式や胸部症状が出現する頻度やタイミングなどによって主に以下の4種類に分けることが出来ます。
労作性狭心症
冠動脈の動脈硬化による狭心症で労作時に胸痛症状が起こるもの
不安定狭心症
労作性狭心症と同様の機序で安静時にも発作が引き起こされるもの
異型狭心症(冠攣縮性狭心症)
冠動脈の攣縮によるもの
微小血管狭心症
微小血管の調節異常によるもの
狭心症という病気においては、動脈硬化などによって冠動脈の血管の内径が狭くなることで締め付けられるような胸の痛み、あるいは冷や汗や息苦しさなどが伴うことがありますので、そういった症状を認めた際には当院またはすぐにかかりつけの医師などへ相談して下さい。
>>狭心症の原因や症状、治療について|心筋梗塞との違いは何?前兆がある?
脳梗塞
脳梗塞の主な危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常症などであり、本疾患もいわゆる生活習慣病のひとつであり動脈硬化と密接に関連しています。
一般に脳梗塞などの脳卒中は、何の症状の前触れもなく、突然に起こるのが特徴的です。
脳への血管が閉塞して詰まってしまうと、その先に存在する大切な脳細胞へ血液が流れなくなって、脳細胞が死滅してしまい脳梗塞に繋がることになります。
脳梗塞においては、脳に酸素や栄養を送っている動脈に血行不良により、神経細胞が死滅してさまざまな症状をきたします。
脳梗塞は突然に起こる病気であり、かかってからしまったと後悔しても手遅れですので、健常人でも普段から脳梗塞を予防しておく方法を知って身に付けておくことが重要です。
>>知ってほしい脳卒中の危険な前兆・症状や脳梗塞との違いは?
心不全
動脈硬化が原因で発症率が高まる心臓病の一つとして心不全が挙げられます。
一般的に、心不全とは心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める命に直結する病気と定義されています。
心不全の病状が進行して体の中で血液が滞るうっ血状態が進むと、呼吸が苦しくて横になって眠れない起坐呼吸といったような危険な容態になることもあります。
このような心不全症状を予防するには、心臓にダメージを与えないような生活習慣を心がけることが重要です。
心不全は生活習慣病に関連する動脈硬化によって引き起こされることが多いため、普段から食生活や運動習慣を整えて、疲れやストレスをためない生活を意識して続けていくことが重要な視点です。
>>心不全について!もしものために知っておきたい心不全の症状や治療について
動脈硬化の症状について
動脈硬化疾患の一つである心筋梗塞の症状として最も特徴的なのは、
- 脂汗が出るほどの激しい胸の痛み
- 胸が締め付けられるような圧迫感
- 焼けつくような違和感
と表現する人もいます。
狭心症とは違って、症状が一時的(数分から15分程度)ではなく30分以上続くので、しばしば恐怖感や不安感を伴います。
疼痛部位は、主に胸の中央部から胸全体が多いですが、左胸から顎のあたり、左肩から左腕にかけて広がる場合もあるため、心臓から由来される痛みとは思わず、胃痛や歯痛などと勘違いする人もいます。
それ以外にも、呼吸が苦しい、冷や汗が出る、吐き気がする、といった症状を訴える人もいます。
顔面が蒼白となり、脱力感を覚えて、動悸やめまい、失神、ショック症状を呈する場合もあります。
動脈硬化に関連している末梢動脈疾患における初期症状の代表例としては、手足の冷感やしびれが挙げられます。
末梢動脈疾患を抱えた患者さんの約2割は無症状であると言われていますが、これは患者自身が下肢の虚血症状を誘発するほどのスポーツ運動や日常的活動を送っていないことが主たる要因であると思われます。
末梢動脈疾患を発症した一部の患者様では、前兆症状として運動耐容能が低下する、あるいは股関節痛や他の関節部の疼痛症状を認めることがあります。
また、しばらく歩行した後に主に腓腹部や臀部、あるいは太ももなどの筋肉レベルで血流不足による疼痛症状が自覚され、安静にすれば症状軽減することが特徴的な間欠性跛行と呼ばれる症状を呈することも知られています。
そして、末梢動脈疾患の病状がさらに進行して悪化しますと、痛みなどの症状を自覚することなく日常生活において歩行できる距離が段々と短くなると言われています。
症状の進行と共に、末梢動脈における動脈硬化が重症化すると安静にしている時から患部に痛みが生じ、特に安静時痛は下肢遠位部でより強くなり下肢挙上によって悪化することが知られています。
また、虚血状態の悪化に伴って足趾部または踵部などに潰瘍性病変が出現することもありますし、潰瘍病変は黒ずんだ壊死組織に取り囲まれる傾向が認められて、通常であれば強い疼痛症状を自覚することになります。
動脈硬化の改善方法とは
人間の血管は、主に内側から内膜、中膜、外膜の3層構造で構成されており、血管自体が老化すると血管壁が硬くなる影響で血液の通り道が狭くなる、あるいは場合によっては血管が閉塞して血流不全を来します。
これらの血管の老化現象を動脈硬化と呼んでおり、日常生活において塩分の過剰摂取や肥満、過度なストレス、運動不足などの要素によって引き起こされると考えられています。
血管の健康状態を考慮するうえで、食生活における重要ポイントは塩分と脂質、糖質の過剰な摂取を控えることであり、動脈硬化を改善・予防するためには、「食事」に関する生活習慣を見直すことが大前提となっています。
動脈硬化を改善させるお勧めの食事内容としては、生野菜のサラダ、海藻類、野菜炒め、きのこ炒め、野菜スープなどが挙げられます。
野菜類に多く含まれている食物繊維は、腸管内で糖質や脂質の吸収を抑制してくれますし、きのこや海藻類には血圧を安定化させる効果を有するマグネシウムやカルシウムなどのミネラル成分が含まれているので動脈硬化改善という点で有用であると伝えられています。
また、たんぱく質が含まれる脂身の少ない鶏肉、EPA(エイコサペンタエン酸) やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれているいわしやさば、さんまといった魚介類、豆腐や納豆などを代表とする大豆製品を食べると動脈硬化を予防改善することが期待できます。
動脈硬化を改善させるにはウォーキングなどの有酸素運動が効果的であると考えられており、習慣的に運動を行うことによって運動習慣がない場合に比べて加齢に伴う血管の老化現象を3分の1以下に抑えることが出来ると伝えられています。
運動を実践することで身体内の血流量が増えると血管内皮細胞に摩擦応力が働いて、血管を柔らかくする機能を有する一酸化窒素の成分が増加すると同時に、強力な血管収縮作用を持つエンドセリン物質を減少させる効果も期待されています。
このように、定期的に運動を実行することは食生活の見直しとは機序の異なる動脈硬化を改善させる効果があると信じられているのです。
有酸素運動によって動脈硬化を最大限に抑制する効果が期待できるのは、活発なウォーキング、あるいはジョギングなどを1日に数十分から1時間程度を週に4〜5日かけて少なくとも1か月間に渡って継続的に実践した場合であると考えられています。
動脈硬化の病院での検査と治療について
ここでは病院でできる検査について紹介します。
動脈硬化の検査方法
一般的に、高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリック・シンドローム、喫煙歴、肥満体形などは動脈硬化の有名な危険因子であることが知られており、動脈硬化に関する検査ではこれらに関連した精密検査を実施することになります。
Cardio Ankle Vascular Index(略称:CAVI)
Cardio Ankle Vascular Index(略称:CAVI)とは、いわゆる心臓から足首にかけての動脈壁の硬さを反映する指標であり、一般的に動脈硬化の状態が悪化するほど高値となる傾向があります。
その検査範囲には人体の大血管である大動脈も含まれており、これらの動脈壁における進展性や弾力性の低下指標が将来的な心疾患の発症や生命予後を規定する要素となることが広く知られており、動脈硬化の早期診断に貢献する精査であると考えられています。
実際の検査場面では、検査を受ける人が仰向けに寝た状態で、両腕および両足首の血圧と脈波を測定することでCAVI指標を算出することになります。
頚動脈エコー検査
頚動脈エコー検査では、首に走行している動脈に対して超音波装置を用いて観察することで頚動脈壁の厚みを測定して、血管に狭窄部位や閉塞病変がないかどうか、あるいは動脈硬化の進行と共に形成されるプラークの有無や浮遊性などを評価できます。
この超音波検査では、頚部に検査用のゼリーを塗布して器具を首に密着させて頚動脈を観察し、万が一動脈硬化が進行している場合にはコレステロールなどによって形成された塊が視認できて動脈が実際に狭窄している様子が認められます。
これらの動脈硬化を早期発見できる各種検査を上手く活用して、動脈硬化の程度を調べて関連疾患の発症を予防することを念頭に置きながら、健康診断を毎年確実に受診して動脈硬化の危険因子を有しているか否かをチェックすることが重要な観点です。
動脈硬化の治療について
動脈硬化に関連している血管疾患を予防するためには、全症例で積極的に動脈硬化に関する危険因子を是正する必要があります。
具体的に列挙すると、
- 日常生活において禁煙を励行する
- 糖尿病や脂質異常症、高血圧を患っているケースではそれらの病勢を良好に制御する
- 習慣化された運動療法、塩分や油物を控える食生活スタイルの変更などを実践する
ことが重要な観点となります。
また、そういった生活習慣を改善しても著効しない場合には、薬物治療が検討されます。
例えば、冠動脈や頚動脈、末梢血管における血流を少しでも改善させるために、
- バイアスピリンⓇやリバーロキサバンⓇなどを始めとする血液をサラサラにする抗血小板剤や抗凝固薬
- ACE阻害薬やβ遮断薬を代表とする血管を拡張させる作用を有する血管拡張薬
が用いられます。
これらの薬物療法でも、仮に下肢の症状が改善せずに病勢がますます進行するケース、あるいはすでに重症虚血肢状態に陥っている場合には、血行再建術を考慮することになります。
特に、重症虚血肢を有している患者さんでは、迅速に適切な治療を介入しないと近い将来に約3割の人が下肢大切断を余儀なくされると言われています。
そのため、血行再建術は必要不可欠な治療策となります。
血行再建術とは、カテーテルを用いて行う血管内治療や外科的なバイパス手術のことを指しています。
血管内治療
血管内治療では血管内にガイドワイヤーを通して病変部を血管壁の内側からバルーンという風船で広げたのちに金属ステントを患部に挿入することで、再度同じ部位が狭窄をきたさないように治療します。
外科的バイパス手術
外科的なバイパス手術は大伏在静脈など手足に走行している静脈や人工血管グラフトを使用して、血流障害を起こしている血管の代替になる新たな血液迂回路を作成することで末梢動脈の血流を改善する治療方法となります。
血管内治療では皮膚表面を大きくメスで切開することなく、局所麻酔のみで施行できるために一般的には身体への負担は少ないと考えられています。
ところが、病変部の部位や範囲、狭窄度などの重症分類によっては治療介入できないことも考えられますし、治療完了した血管が将来的に再度狭くなる、あるいは閉塞するなどの課題もありますので注意が必要です。
外科的なバイパス手術は全身麻酔下で基本的には実施されますので身体への負担は血管内治療と比較しても大きいと思われますが、治療終了後の血流改善効果は甚大です。
また、自家血管や人工血管グラフトが再狭窄する可能性も低率であると考えられています。
さらに、内頸動脈は主に脳の前頭葉、側頭葉、頭頂葉という重要な部分を栄養している血管であり、その根元の部分である起始部の狭窄は将来的に大変広範囲な脳を損傷させて、重篤な脳卒中後遺症を引き起こす潜在的な危険性があります。
そのような場合には、頚動脈狭窄症に対するステント留置術が考慮されます。
動脈硬化によって細くなってしまった頚動脈を、風船のついたカテーテルで押し広げた後に、ステントという形状記憶合金でできた筒を内張のように留置する治療が普及しています2)。
いずれにしても、個々のケースで病変の状態は異なりますので、その患者さんにとって最適な治療方法を主治医と相談して選択決定することが重要な視点です。
動脈硬化は治る・完治するの?
動脈硬化は、老化現象であって、誰しもが年齢を重ねるうちに起こりうる疾患と認識されており、一度病状が進行した動脈硬化は完全に治癒させることは難しいです。
高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満症などを代表とする様々な疾患や要因が複合的に絡み合って、動脈硬化は初期段階では無症状で進行していき、自覚症状が認められる際には、長年の沈黙のなかで動脈硬化の進行があったものと考えられます。
しかし、動脈硬化を進行させる危険因子を理解して対策を講じることで一定程度の予防ができて、病状の進行を抑えることが可能となります。
その対応策の一つとして、
- 食事や運動など日常的な生活習慣の改善
- 生活習慣病に対する積極的な治療を実行すること
で動脈硬化に関連する危険因子を除去して動脈硬化の治療や予防に繋げることが非常に重要なポイントです。
食事療法
実際の食事療法では、動脈硬化の進行を早めるコレステロールを多く含む肉などの食品、あるいは卵やバターなどを多量に用いて動物性脂肪成分が多い揚げ物を過剰に摂取するなど暴飲暴食をしないように十分に注意しましょう。
また、過度な塩分の摂りすぎは高血圧の発症リスク因子となりますし、糖分の過多摂取は糖尿病を発症する原因となるために一定の注意が必要です。
普段の生活の中で、血液中のコレステロールを低下させる働きを有する食物繊維が含まれる食品、抗酸化作用のあるビタミン群が含有される野菜や果物は日々適度に取り入れるように努めましょう。
運動療法
運動療法としては、常日頃からラジオ体操、水中歩行、ウォーキングや過剰な負担とならない程度の軽いジョギングなどの有酸素運動を15分~30分程度かけて定期的に実践するように心がけましょう。
運動習慣を持つことは決して難しいことではなく、それぞれ個々のライフスタイルに応じて楽しく長く継続できるエクササイズを日常生活でも前向きに取り入れて身体を動かすと心身ともに体調が安定して良好になります。
高齢者など足腰の弱い人の場合は、椅子に座って簡単に実行できるストレッチ体操などを行うことも出来ますし、もともと基礎疾患を有しており、現在治療中の場合は、それぞれの主治医や担当医と相談して無理をしない範囲で運動習慣を保つように工夫しましょう。
適度な運動を実践することで、中性脂肪成分が減って善玉コレステロールが増えて動脈硬化に対する予防に一定の効果が期待できますし、筋肉量を増加させて基礎代謝を上げることで、糖分や脂肪分の代謝効率を改善させることに繋がります。
薬物療法
動脈硬化の進展を予防する薬物療法としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを始めとする生活習慣病に関する投薬治療を行うことが非常に重要な要素となります。
ただし、薬物療法のみに頼って、日々の生活習慣が不規則で悪い状況であれば動脈硬化は進行していきますので、今一度自分のライフスタイルや生活習慣を見直して、動脈硬化に伴う様々な合併症を予防できるように認識しておきましょう。
また、動脈硬化の悪化を促進させる肥満症の場合は、適性体重を知って至適範囲に体重を維持できるように努めることも肝要です。
タバコに含まれるニコチン成分はあらゆる全身の血管に悪影響を及ぼすことが知られているため、普段の生活で喫煙を続けている場合には禁煙治療を受けるようにしましょう。
さらに、適度に日常生活のなかで休息の時間を設けるように意識して、自らストレスを効率よく発散できる周囲の環境整備に注力するように心がけましょう。
一般的に、脂質異常症や高血圧などを背景にして動脈硬化は様々な形で進行して血管を傷つけて生活習慣病を発症させることに繋がります。
それらのリスク因子となる疾患を抱えている際には専門医に相談して少しでも動脈硬化が治るように前向きに治療を受けましょう。
西春内科在宅クリニックができる動脈硬化の対応
生活習慣病による動脈硬化は、早期発見により様々な対応策を講じることが出来る病気です。
日常生活における些細な変化を出来る限り見逃さずに、心配事や不安点などがあれば専門の医療機関で主治医に気になる症状や状態を具体的に説明して相談を受けましょう。
西春内科・在宅クリニックでは、常勤の内科医師の診察により生活習慣病や動脈硬化関連疾患の診断、治療をサポートすることが出来ます。
まとめ
動脈硬化とは血管が硬くなって柔軟性が失われている状態です。
動脈硬化は、喫煙歴や運動不足などの危険因子が重なることによって発症し、なおかつ肥満、高血圧、脂質異常、糖尿病などのリスク要素によって動脈硬化の病状は進行します。
動脈硬化は自覚症状なく進行して、ある日突然に心不全、脳梗塞を始めとする脳卒中、急性心筋梗塞や狭心症などの心臓病などを引き起こすリスクが懸念されています。
本来の血管の仕組みや働き、あるいは動脈硬化進行の原因や発症リスクに関連する病気の種類などを知ることで、動脈硬化の予防や進行防止に努めるように心がけましょう。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
1)ニューハート・ワタナベ国際病院HP
https://newheart.jp/glossary/detail/cardiovascular-surgery_007.php
2)内頸動脈起始部狭窄に対する内頸動脈ステント留置術
https://ainomiyako.net/e/e-09/x-2/
3) NHK HP:動脈硬化は治る!予防・治療法、薬と食事による改善
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_152.html
監修医師: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)
プロフィール
平成19年に現大阪公立大学医学部医学科を卒業。初期臨床研修修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科勤務、平成26年より国家公務員共済組合連合会大手前病院で勤務、令和3年より同院救急科医長就任。どうぞよろしくお願い致します。
専門分野
救急全般(特に敗血症、播種性血管内凝固症候群、凝固線溶異常関連など)、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
保有資格
日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、厚生労働省認定緩和ケア研修会修了医、厚生労働省認定臨床研修指導医など