【高齢者の筋力低下】サルコペニアとは?症状やフレイルとの違い、診断基準について
現代では、超高齢化社会に突入している日本において、加齢による筋力の低下状態を指す「サルコペニア」は特に問題となっています。
65歳以上の高齢者のなかでも約20%程度の方々がサルコペニアに該当していると言われています。
サルコペニアになると、ふとした拍子に転倒して骨折することにより寝たきり状態に陥ってしまうリスクが伴い、日常生活の質を著しく低下させる危険性があります。
今回は、サルコペニアとはどのような状態なのか、症状やフレイルとの違い、診断基準などについて解説していきます。
目次
サルコペニアとはなにか
サルコペニアとは、高齢に伴って筋肉量が減少していく現象を指しています。
一般的に、加齢にしたがって筋肉量は低下しますが、サルコペニアは筋肉量が減少して筋力が低下、あるいは身体機能の低下を表しています。
そして、その低下のレベルが日常生活に多大な支障が生じるほどに影響を受けている状態です。
サルコペニアは、筋肉量が減少していく老化現象と捉えられています。
大体、25~30歳頃ぐらいから病状の進行が始まって生涯を通じて「筋線維(*1))」と「筋肉の横断面積(*2)」の減少が進んでいくものと考えられています。
サルコペニアは、筋肉量や握力が低下することで身体の様々な機能が障害されて転倒などのリスクが上昇する要因になります。
一方で、フレイルとは加齢に伴って身体の予備能力が減少し、精神機能や社会性の低下なども含めて健康に影響を及ぼしやすくなった虚弱状態のことです。
また、介護が必要になる前段階の概念であると考えられています。
筋線維(*1)=筋肉を構成する線維状の細胞の数 筋肉の横断面積(*2)=筋肉を輪切り にした際の面積 |
関連記事:【高齢者に多い骨折】骨粗しょう症とは?薬を飲みたくない人向けの予防法や治療法はある?
参考記事:サルコペニア(筋肉減少症)について|イノルト整形外科
サルコペニアになる原因
サルコペニアになる原因としては、主に日々の不活動習慣や加齢に伴う様々な変化が直接的な原因と考えられています。
しかし、そのメカニズムはいまだ明確にはわかっていません。
サルコペニアは、入院生活など環境的な外的変化が発症契機になることがあり、数日から1週間といった単位で急激にサルコペニアを発症することがあります。
主に加齢が原因で起こる一次性サルコペニア、加齢以外にも原因がある二次性サルコペニアに分かれます。
二次性サルコペニアとは、生活スタイルに関連する栄養不足の原因や、悪性腫瘍などを始めとする身体的疾患がきっかけなどの場合で起こることです。
サルコペニアは、慢性的な炎症状態、酸化ストレスに関連して筋肉の代謝に関わる
- ステロイドホルモン
- 成長ホルモン
- 炎症性サイトカイン
上記などが健康時から変化し、筋肉の分解量が生成量を上回ることから発症すると考えられています。
肥満や若年層にも注意が必要
近年ではサルコペニアと肥満が重なった状態が心配されています。
サルコペニアであり肥満が重なると、通常の肥満状態よりも生活習慣病などになりやすくなります。
併発すると、身体能力の中でも特に歩行能力を低下させて寝たきりや廃用症候群(*)になる危険性を上昇させると伝えられています。
サルコペニアは筋肉量の減少している状態を意味していると考えられていました。
そのため、これまで糖尿病や高血圧、脂質異常症などを含めた生活習慣病と強く関連している肥満とは直接的に結び付けられていませんでした。
若年層と体重があまり変わらずに体格指数が標準的であっても、筋肉部分が脂肪に置き換わって知らぬ間に生活習慣病などに進展しやすくなるとも指摘されています。
また、ダイエットや運動不足によって筋肉が減少しても、脂肪は燃焼されずに体内に残っていることがあります。
その場合、高齢者のみならず若年層の方たちにもサルコペニアの予備軍が認められます。
年齢に関係なく、日々の食事で必要な栄養素を摂取して運動することが重要です。
廃用症候群(*)=寝たきり状態が長期間継続することで活動性が低下して生じる身体の変化 |
サルコペニアに多い症状
サルコペニアになると以下などの症状が現れます。
- 歩くのが遅くなり信号機が青から赤に変わる間に交差点を渡りきることができない
- 手の握力が弱くなってドアノブやペットボトルのふたを回せない
- 階段の昇降時に支障が生じて手すりが不可欠となる
サルコペニアは、広背筋、腹筋、下肢筋群、臀部の大殿筋や小殿筋など抗重力筋において筋肉量の減少が顕著に認められます。
日常生活において立ち上がる動作や歩行運動が徐々に出来なくなっていくのです。
そこから、放置してしまうと歩行困難に陥って寝たきりの状態になることがあります。
ふくらはぎを測ってサルコペニアかどうかわかる?
サルコペニアは、両手の親指と人差し指を結び、ふくらはぎの周囲の長さを測定する「指輪っかテスト」という検査法によって簡単にセルフチェックを行うことが可能です。
指輪っかテストでは、体格にある程度比例する手の大きさを活用することで、ふくらはぎの筋肉量が体格に比べてどの程度維持されているかを自己判断できます。
ふくらはぎの一番太い部分が両手の親指と人差し指で囲まれる輪よりも小さければ、サルコペニアである疑いがあります。
また、サルコペニアは以下の3つを、問診や身体診察によって判断していきます。
- 筋肉量の減少
- 筋力の低下
- 歩行速度の低下
1と2もしくは、3のどちらかに該当する際に、サルコペニアの可能性が非常に高いと考えられています。
具体的には、筋肉量に以下の低下が認められる際にサルコペニアと判断されます。
- BMI値が18.5未満
- 下腿範囲が男性34cm未満、女性33cm未満
- 握力が男性28kg未満、女性18kg未満
- 歩行速度が1.0m/秒以下
また、問診以外に行われる検査としては、筋肉量を測定するためのDXA法(*1)やBIA法(*2)と呼ばれる方法があります。
DXA法(*1)=微量なX線をあてて正確な骨密度を測定する *2BIA法(*2)=微弱な電流を流し、その際の電気の流れやすさ(電気抵抗値)を計測することで体組成を推定する方法 |
関連記事:パーキンソン病になりやすい人の特徴や症状とは?|原因から治療、社会サービスの解説
サルコペニアが引き起こすかもしれない危険な病気
サルコペニアは、認知症やフレイルを引き起こす原因としても注目され始めています。
フレイルとは、年齢を重ねて身体の様々な役割が衰えて日常における生活能力が低下して介護が必要になる状態です。
栄養状態の不良が原因で起こるサルコペニアが、フレイルを発症させる原因となる可能性があります。
また、サルコペニアに伴って身体機能が低下すると、認知機能が低下して認知症を発症するリスクが上昇します。
その逆に認知機能が低下すれば身体機能が衰えてフレイルの状態が進行する危険性も考えられています。
筋力が下がるサルコペニアになれば、高齢者において転倒して骨折を起こすことによって寝たきりの状態になる恐れがあります。
筋肉の組織は「作る」と「壊される」という変化を繰り返しています。
主に若い人ではこれらの筋肉のバランスがほぼ一定に保たれています。
若い頃には特に運動をしていなくても、食事内容に気を使っていなくても、筋肉量が目立って減ってしまうことはほぼありません。
しかし、高齢になって同じような生活をすれば筋肉が減少してしまうことにつながります。
普通の生活を送っているだけでは年齢を重ねるごとに筋肉の量が自然と落ちてきてしまうのです。
そのため、身体機能が低下する「サルコペニア」になりやすくなります。
関連記事:介護が必要になる原因で多いフレイル(高齢による衰弱)とはどんな状態なのか?
サルコペニアを改善する治療と予防法は?
サルコペニアを改善するために、食事や運動による治療介入が有効であることが判明してきました。
なるべく前向きに運動を実践し、普段の生活のなかでたんぱく質の摂取を積極的に心掛けることが重要です。
以下のことを前向きに行うことでサルコペニアを改善していきましょう。
- 筋肉組織は良質なたんぱく質を確実に摂取することで産生されるので、動物性たんぱく質である赤身の肉や魚類などのたんぱく質を多く含有する食事メニューを心がけること
- 分岐鎖アミノ酸と呼ばれるタンパク成分は身体の内部で産生することができず、鶏肉やマグロ、牛乳など食事として摂取する
- 骨粗鬆症を予防するためにもカルシウムやビタミンDの摂取
また、サルコペニアでは、筋肉に負荷をかけて筋肉量や機能を改善する効果に優れている以下の運動を日々の生活に無理なく取り入れることも大切な要素となります。
- レジスタンス運動(筋肉に負荷をかける運動を繰り返し行うこと)
- ウォ―キング
- ラジオ体操
- テレビを見ながら椅子から立ち上がる運動
前述のとおり、サルコペニアを事前に予防するためには、栄養バランスの優れた食事と適度な運動を意識的に心がけて日常生活を送ることが重要です。
関連記事:骨粗鬆症の薬が危険といわれる理由|副作用や注射治療について解説 | 横浜内科・在宅クリニック
もし家族がサルコペニアかもしれないと思ったときは
もし家族のなかで、以下の症状を認める方がいる場合は、かかりつけの医師や最寄りの内科医に相談して下さい。
- 最近になって特に手足が細くなり重い荷物が持てなくなった
- 身体機能が低下して下半身に力が入りにくく、椅子からスムーズに立ち上がれない
骨粗鬆症の薬が危険といわれる理由|副作用や注射治療について解説 | 横浜内科・在宅クリニック
西春内科在宅クリニックができる対応
西春内科在宅クリニックなどの診療所では、筋肉量が減少するサルコペニアに対して、薬物療法、食事療法、運動療法、心理療法を包括した専門的な治療を実践することができます。
医師が患者さんの診察や握力・歩行速度の測定、あるいは認知機能検査を実施するとともに管理栄養士などを中心に普段の栄養摂取状況などを調査していきます。
そして、その結果からサルコペニアに至った原因を診断し、治療計画を立てます。
定期的に検査を繰り返して行って治療効果を判定するだけでなく、各種検査結果に基づいて、望ましい生活状況や服用薬などに関して保健指導を行います。
必要に応じて、理学療法士による運動指導や臨床心理士・公認心理師による心理的カウンセリングを実践することができます。
まとめ
サルコペニアは、高齢に伴って筋肉量が減少して筋力が低下していきます。
そして、立ち上がる、歩くなど日常生活における基本的動作のなかでも特に移動に関連する動作が困難に陥る状態を指しています。
サルコペニアは、認知症、骨粗鬆症、糖尿病など、高齢者の健康を左右する病気と密接な関連があることが知られています。
日常的に必要な動作に悪影響が生じて介護が必要になる、あるいは転倒して骨折しやすくなったりする可能性が増加します。
サルコペニアの予防や治療には、継続的に適度な運動を行って、優れた栄養成分を取り入れることが重要なポイントです。
人生100年時代の近年において、要介護状態にならずに健康長寿を楽しむために、サルコペニアを常日頃から予防するように努めて、不安や疑問を感じたら最寄りの内科クリニックなどで相談することが大切になります。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
・厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトHP|サルコペニア
・エーザイの肝疾患サポートサイトHP|サルコペニアは自分でチェックできる?
監修医師: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)
プロフィール
平成19年に現大阪公立大学医学部医学科を卒業。初期臨床研修修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科勤務、平成26年より国家公務員共済組合連合会大手前病院で勤務、令和3年より同院救急科医長就任。どうぞよろしくお願い致します。
専門分野
救急全般(特に敗血症、播種性血管内凝固症候群、凝固線溶異常関連など)、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
保有資格
日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、厚生労働省認定緩和ケア研修会修了医、厚生労働省認定臨床研修指導医など