新型コロナの味覚障害はいつからいつまで?治るまでの期間や治し方を解説
日本での新型コロナウイルス感染者の中で味覚障害の発生数は、過去の全国調査で年間約24万人と報告されています。
決して少ない人数ではなく、味覚障害は誰にでも生じる可能性のある症状です。
新型コロナウイルス感染症に罹患した後、ほとんどの方は時間とともに症状が改善します。
しかし、後遺症として味覚障害になってしまう人が存在しています。
新型コロナウイルス感染症にかかると回復した後にも後遺症として、以下の症状などが見受けられる場合もあります。
- 微熱・発熱
- 呼吸困難
- 咳
- 倦怠感
- 脱毛
- 集中力の低下
- 精神症状
厚生労働省が改訂した後遺症についての診療の手引きによれば、日本で新型コロナウイルスの代表的な後遺症として以下の症状を含む約20種類の症状が挙げられています。
- 疲労感・倦怠感
- 関節痛
- 嗅覚障害
- 味覚障害
- 睡眠障害
後遺症に関して現時点でも不明なことが多く、国内外を含めてさまざまな調査が行われている段階です。
今回は、新型コロナウイルス感染症の後遺症である味覚障害や嗅覚障害に関する発症原因や治療方法などについて解説していきます。
目次
新型コロナによる味覚障害の原因
新型コロナウイルス感染症や、その後遺症の特徴的な症状として話題になった嗅覚障害は、「嗅細胞」と呼ばれるにおいを感じる細胞がダメージを受けることによって出現することが段々とわかってきました。
新型コロナウイルスは、細胞の表面にあるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体という細胞と結合して細胞内に入り込んで増殖します。
このACE2受容体は鼻の上皮細胞で多く発現しています。
また、このACE2受容体の発現は小児では少なく、年齢を重ねるにしたがって多くなることが報告されています。
味覚障害自体の症状は匂いの感覚が弱くなる、あるいは匂いをまったく感じなくなる嗅覚障害に伴う風味障害も同時に発生することによって出現する場合が多くあります。
味覚障害のセルフチェック
新型コロナ後遺症では、味覚障害がみられることがあります。
味覚障害とは味に対する感度が低下して、味を感じなくなる状態のことです。
特に30歳代以下の若年者に多いといわれています。
味覚障害には、以下のチェック項目のなかで1つでも該当すれば、味覚障害である可能性があります。
- 味を感じない
- 食べ物がおいしくない
- 本来の味と違って感じる
- 常に口の中が苦い
- 甘みや酸味、塩味など特定の味が分からない
- 調味料をいつもより多く使うようになった
軽度の嗅覚障害は自覚されにくいことから、客観的な嗅覚検査を行い嗅覚障害の早期診断につなげることが重要です。
「簡易嗅覚確認キット」では、嗅覚のみを刺激するニオイ物質を選択して、1キットで複数回利用できる検査手段となっています。
以下の症状など嗅覚異常を感じた場合は、ウイルス感染により嗅粘膜がダメージを受けている可能性が考えられます。
- 急に匂いを感じなくなる
- 何もないところで匂いがする
- いつもと同じように匂いが感じられない
味覚障害はいつからいつまで?治るまでの期間は
新型コロナウイルス感染症での味覚障害自体は自然に回復することも多くあります。
症状を有する人の60〜80%は2週間以内に改善するとの報告が多く、決して治療を急ぐ必要はありません。
味覚障害が出る際には、以下のケースがあります。
- 新型コロナ後遺症として病気になりはじめの時期から持続するケース
- 発症直後から回復した後に新たに出現するケース
症状の程度は変化しやすくいったん症状が治まった後に再び症状が現れることもあります。
味覚障害や嗅覚障害が治るまでの期間については、症状の経過は個人差があり、一般的に感染後1か月程度で自然に治癒する例が多いと考えられています。
後遺症全般では、半数以上が5か月以内に症状の改善を自覚する一方で、1年以上後遺症が続くケースも見受けられます。
そもそも味覚障害とは?
味覚障害とは
味に対する感度が鈍くなり、味を感じなくなったり、味が分かりづらくなったりする症状全般を「味覚障害」と呼んでいます。
味覚障害を発症する人の数は、高齢化やストレスを感じやすい社会のなかで増加傾向を示しています。
通常、口に入れた食べ物の味を脳に伝達する「味蕾(みらい)(*1)」という味覚受容器の数が減少すると、味覚が減退して、味覚障害を生じます。
味覚異常の原因のうち、ほとんどが味蕾の減少によるものです。
しかし、脳腫瘍や外傷などが原因で神経に異常が生じて味が分からなくなる、神経性の味覚障害も存在します。
味覚障害の症状は「味覚低下」と「異味覚」の大きく2種類に分けられています。
味覚には甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5種類が存在しています。
味覚低下とは、これらの5つの味覚が減退したり、全く感じなくなったりする症状のことです。
稀にある特定の味だけを感じなくなることもありますが、ほとんどの例では5つの味覚全てにおいて感度が低下すると言われています。
異味覚とは、本来は感じるはずのない味を感じる症状を指しています。
例えば口の中で常に渋味が感じられるといった症状が認められます。
味蕾(みらい)(*1)=味細胞の集まりで、甘味・苦味・塩味・酸味などを感じることができる |
味覚障害の原因
味覚障害を引き起こす原因について、未だ解明されていない点も多いです。
特定の原因だけでなく、複雑な要因が影響し合っている例もあると考えられています。
現時点で判明している代表的な原因として、以下のようなものが挙げられます。
- 加齢
- 栄養不足
- 薬の副作用
- 慢性的な病気
特に、加齢に伴って味覚障害が多くみられるといわれています。
高齢者では加齢によって味蕾の数が減少し、味蕾が味を感じる機能自体も年齢を重ねるごとに低下してしまうのです。
そのため、高齢者では味覚障害を生じやすい傾向にあります。
若い世代でも、ストレスや偏食などのさまざまな要因によって、味覚障害を起こす場合があります。
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味蕾の減少を予防するには
味蕾の新陳代謝に必要不可欠なのが、「亜鉛」という栄養素です。
食事から亜鉛の摂取量が不足すると、味蕾に機能低下が生じて味覚に異常が出現する場合があります。
亜鉛以外にも、鉄分の摂取不足で鉄欠乏性貧血の状態になると、舌の表面が赤くつるつるになり、味覚障害が起こる場合もあると言われています。
さらに、鉄の吸収には「ビタミン」が関連しています。
亜鉛や鉄だけでなく、ビタミン不足にも注意することが必要です。
ビタミンの中でも「ビタミンB12」の摂取が不足すると、舌の粘膜に異常を生じて味覚障害の原因になることがあります。
ビタミンB12以外にも、ビタミンB2の摂取不足によって、口内炎や舌炎といった症状が引き起こされることで味を感じにくくなる場合もあります。
病気の薬の副作用や病気自体が原因になることも
以下の病気などの薬の副作用でも味覚障害を生じることもあります。
しかし、多くの場合には服薬の中止と共に徐々に味覚が改善します。
- 糖尿病
- 高血圧
- 関節リウマチ
- パーキンソン病
- 消化性潰瘍
その他、がんや中耳炎、精神疾患などの病気そのものが原因で味覚障害が生じる場合もあります。
特に心身症、神経症、うつなどが関連している心因性の味覚障害については、60代の女性に圧倒的に多く発症するといわれています。
新型コロナウイルス後遺症以外での嗅覚障害の原因として最も多いのは慢性副鼻腔炎です。
慢性副鼻腔炎は、鼻汁が漏出して鼻づまりを引き起こすなどの慢性的な症状が12週間以上に渡ってなかなか改善しない状態を指しています。
この病気は、風邪症状に関連して細菌感染をベースにして急性副鼻腔炎の状態から続発することが知られています。
成人では鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)(*2)、小児ではアデノイド肥大(*3)なども発症のリスク因子と捉えられています。
鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)(*2)=鼻中隔が強く曲がっているために、いつも鼻がつまったり、鼻出血が多くなったり、口呼吸やいびきなどの症状 アデノイド肥大(*3)=鼻の突き当たりの部分であり、鼻からのどに移行する部分でもある上咽頭にあるリンパ組織のかたまりをアデノイドいい、このアデノイドが色々な原因で大きくなり、鼻や耳に様々な症状を引き起こすこと |
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亜鉛が味覚障害に効果がある?
新型コロナウイルス感染症の後遺症としての味覚障害では亜鉛を摂取することで有効性があるかどうかはケースバイケースです。
亜鉛不足での味覚障害と診断された場合には、亜鉛を含む薬が処方されるケースが多くなっています。
栄養不足が原因の味覚障害では、不足している栄養素を補給することで、すぐに症状の改善がみられるケースもあります。
亜鉛の内服薬には、飲み合わせに注意が必要な薬もあります。
市販薬などを併用する場合は、事前に医師や薬剤師に相談しましょう。
亜鉛を多く摂取できる食べ物は?
亜鉛は、以下の食材などに多く含まれています。
- 生かき
- 煮干し
- しらす
- かつお節
- ほたて
- うなぎ蒲焼き
- 豚レバー
- 鶏肉
- 枝豆
- たけのこ
- ごぼう
- 納豆
- あずき
- そば
- 牛乳
- チーズ
亜鉛とは体内に存在する量が最も多いミネラルであり、生命維持に欠かせない役割を担っている栄養素のひとつです。
18歳以上の亜鉛の推奨摂取量は男性では10〜11mg、女性では8mg程度です。
厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査」によると、亜鉛の平均摂取量は20歳以上の男性で9.2mg、女性で7.7mgになります。
そのことから、男女共に推奨されている摂取量よりも実際の摂取量が下回っていることがわかります。
亜鉛は主に骨格筋・皮膚・肝臓・膵臓・前立腺・脳・腎臓などの臓器に存在しています。
約300種類以上の酵素の構成要素として重要な働きを担っている必須ミネラルの1つです。
人の身体は基本的には亜鉛を作り出すことができませんので、普段の食事やサプリメントなどから亜鉛を摂取する必要があります。
味覚障害予防のためには、日々の食生活が重要です。
普段の食生活で心がけたいことは、以下などが挙げられます。
- 栄養バランスよく亜鉛や鉄分が多く含まれる食品を積極的に摂取する
- たんぱく質やビタミンを同時に摂取して鉄分の吸収率を上げる
漢方による味覚障害の治し方
新型コロナウイルス感染症の後遺症、あるいは原因が特定できない味覚・嗅覚障害に対しては、漢方薬の使用が検討されることもあります。
漢方薬のなかでも、特に当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) という漢方薬が味覚・嗅覚障害の症状に対して有効だということがわかってきています。
過去の調査では、風邪症状後に特に嗅覚障害を訴える患者さんに当帰芍薬散を服用してもらったところ、3か月で3割以上の人に症状の改善がみられました。
同時に、1年の期間に漢方薬の服用を続けた場合は約8割が症状改善したという報告があります。
当帰芍薬散を服用した場合は、自然治癒の場合と比べて、特に嗅覚障害に対する高い治療効果が得られています。
さらに、通常嗅覚障害の治療で使用されるステロイド薬と比較しても、当帰芍薬散のほうが高い治療効果を示したとも言われています。
味覚障害や嗅覚障害が短期間で劇的に改善する治療法は、現状見つかっていません。
しかし、当帰芍薬散の服用を中心に効果的な治療を地道に続けるのが、症状改善に向けた一番の近道と考えられます。
その場合は、病院での治療とコロナ専門外来を受診されることをお勧めします。
西春内科在宅クリニックができる対応
味覚・嗅覚障害は通常、自然治癒するとされているため、休息を取ったり生活習慣を整えたりして過ごすことが大切です。
しかし、これらの症状が2週間以上続くなど気になる症状がある場合は、西春内科・在宅クリニックを始め、かかりつけ医や近隣の医療機関に相談してください。
西春内科・在宅クリニックでは、後遺症に悩む患者さんの症状をお伺いして後遺症が少しでも早く改善されるよう症状に合わせた治療や処置を行っています。
新型コロナウイルス感染症に関連した味覚・嗅覚障害が疑われる場合には、嗅覚刺激療法、漢方薬、ステロイド点鼻などの治療を組み合わせて対応します。
もし、ご家族や自身について気になる症状がある場合はお気軽にご相談ください。
また、当クリニックはオンライン診療も行っております。
ご自宅にいながら診察からお薬の処方まで受けることが出来ます。
予約の仕方や費用など詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
新型コロナウイルスは肺炎などの呼吸器感染症を発症するとともに味覚障害や嗅覚障害を認めるケースもちらほら見受けられています。
後遺症が起こるメカニズムがわかっても、長い間、味覚や嗅覚の異常に悩まされている人は、希望が持てなくなることもあるでしょう。
新型コロナウイルス感染症に感染していから、以下の気になる症状などがある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
- 味を感じにくい
- 変な味がする
- 食べ物の味が以前と変わった
- においを感じない
- 変なにおいがする
- 何をかいでも嫌なにおいがする
味覚障害や嗅覚障害を認める際には、新型コロナウイルスに感染して後遺症を患っている可能性も想定されます。
速やかに最寄りのクリニックや診療所を始めとする医療機関や相談窓口に足を運ぶことをお勧めします。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
・厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について」
・eHealth clinic HP「新型コロナウイルス感染症の後遺症にある味覚障害の特徴とは? ~特に30歳代以下の方に多く発症している~」
監修医師: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)
プロフィール
平成19年に現大阪公立大学医学部医学科を卒業。初期臨床研修修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科勤務、平成26年より国家公務員共済組合連合会大手前病院で勤務、令和3年より同院救急科医長就任。どうぞよろしくお願い致します。
専門分野
救急全般(特に敗血症、播種性血管内凝固症候群、凝固線溶異常関連など)、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
保有資格
日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、厚生労働省認定緩和ケア研修会修了医、厚生労働省認定臨床研修指導医など