老人性うつとは?|原因や特徴・認知症との違いを解説
年齢を重ねると、体のあちこちに変化を感じることは増えてくると思います。
以下などの加齢に伴い若いころに比べて衰えを感じることは、とても自然なことではあります。
- 階段を上るのが辛くなった
- 脂っこいものが食べられなくなった
- 髪の毛が白くなった
当然ながら脳の細胞にも、見えないところで色々な変化が現れます。
以下などは高齢者に特有の病気に繋がる事象であり注意が必要です。
- アルツハイマー型認知症の原因となっているタンパク質(脳のゴミ)が溜まってくる
- 体の症状には表れない小さいな脳梗塞ができる
- 転んで頭を打った所から少しずつ出血している
今回は、高齢者特有の精神疾患として、老人性うつについて原因や治療方法などを詳しく解説していきます。
目次
老人性うつとは
老人性うつは通称で、精神科領域での正式名称は老年期うつ病といいます。
うつ病の一つに分類されています。
うつ病は、以下の症状などを伴う、気分障害と言われる病気の一つです。
- 1日中気分が落ち込んでいる
- 何をしても楽しめない
- 食欲がわかない
- 眠れない
- 疲れやすい
- 集中できない
- 不安でソワソワする
- 死んでしまおうと繰り返し考える
うつ病自体は、年齢問わず誰にでも起こりうる病気です。
うつ病の中でも特徴的なものには名前が付いています。
老年期うつ病の他、産後1~3か月に起こりやすい産後うつ病や、特定の季節(冬に多い)に発症する季節性うつ病などがあります。
老年期うつ病(以後は老人性うつ)は、一般的には65歳以上の方を対象に用いられるうつ病です。
単に年齢で分けているわけではなく、若い人のうつ病と違い、高齢者に特有の症状がみられるため分類されています。
◆【認知症外来監修】高齢者に多いせん妄とは?認知症との違いや症状、原因について解説
老人性うつの症状の特徴(わがまま・攻撃的・食べない等)
一般的なうつ病の診断基準については、以下を確認してみてください。
【参考1:うつ病(DSM5)】
以下のA~Cをすべて満たす必要がある。
A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起している。
これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注: 明らかに身体疾患による症状は含まない。
1. その人自身の明言 (例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる) か、他者の観察 (例えば、涙を流しているように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
注: 小児や青年ではいらいらした気分もありうる
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 (その人の言明、または観察によって示される)
3. 食事療法中ではない著しい体重減少、あるいは体重増加 (例えば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加
注: 小児の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 (ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではなく、他者によって観察可能なもの)
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 (妄想的であることもある) がほとんど毎日存在(単に自分をとがめる気持ちや、病気になったことに対する罪の意識ではない)
8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日存在 (その人自身の言明、あるいは他者による観察による)
9. 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はない反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
C: エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない
うつ病では、基本的に、気分が落ち込む、何をしても楽しくないといった状態が延々と続きます。
様々な研究で、うつ病かどうかは別としても、高齢者では約10~15%でその様な抑うつ症状がみられると報告されています。
年齢自体がうつ病の危険因子となっているわけではありません。
配偶者を失うなどの大きなショックを受けやすかったり、様々な体の病気に悩まされていたりといったことが、うつ病へのなりやすさと関係があるのではないかと推測されています。
そのような背景から、老年期うつ病では、気分の落ち込みを訴えると言うよりも、身体的な訴えが目立つ場合があるのが特徴と言えます。
また、うつ病では思考力や集中力が低下するのですが、高齢者ではその様子が認知症と間違われることもあります。
老年期うつ病の指標の一つに、老年期うつ病尺度 (GDS)があります。
以下15個の質問のうち、 が引いてある方の回答の数が、5個以上ある場合は、うつ病の可能性があるので、是非最寄りのクリニックへ相談する様にしましょう。
【老年期うつ病尺度(GDS)】
毎日の生活に満足していますか | はい | いいえ |
毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思いますか | はい | いいえ |
生活が空虚だと思いますか | はい | いいえ |
毎日が退屈だと思うことが多いですか | はい | いいえ |
大抵は機嫌よく過ごすことが多いですか | はい | いいえ |
将来の漠然とした不安に駆られることが多いですか | はい | いいえ |
多くの場合は自分が幸福だと思いますか | はい | いいえ |
自分が無力だと思うことが多いですか | はい | いいえ |
外出したり何か新しいことをするより家にいたいと思いますか | はい | いいえ |
何よりもまず、もの忘れが気になりますか | はい | いいえ |
いま生きていることが素晴らしいと思いますか | はい | いいえ |
生きていても仕方がないと思う気持ちになることがありますか | はい | いいえ |
自分が活気にあふれていると思いますか | はい | いいえ |
希望がないと思うことがありますか | はい | いいえ |
周りの人があなたより幸せそうに見えますか | はい | いいえ |
◆物忘れがひどくなる原因は?|認知症との違いや物忘れ対策について
老人性うつが起こる原因とは?
高齢者にみられるうつでは、他の年齢層とは異なる特徴がいくつかあります。
その原因の一つに、高齢者はその他の年齢に比べて、加齢に伴う心身の機能低下、社会的な役割喪失への不安が生じやすい社会的な背景があります。
以下などが、心身機能の低下と孤独を受け入れられないことが発症に関わってくることが多いとされます。
- 昔の様に体が動かせない
- 配偶者や友人などが亡くなってしまった
- 周囲から必要とされていない気がする(もしくは、周囲のお荷物になっている気がする)
高齢者では、加齢に伴う脳の機能低下に加えて、様々な身体疾患の合併があることも、発症の原因と言えます。
特に、糖尿病や高血圧といった生活習慣病との関連が認めらます。
うつ病と糖尿病の発症はお互いに影響を与え合っています。
うつ病において糖尿病の発症リスクは1.6倍に上がり、糖尿病例ではうつ病発症リスクが1.15倍高いことが報告されています。
高齢者においてうつを予防するためには、このような生活習慣病に対する身体管理への意識を高めることも重要です。
◆アルツハイマーと認知症の違いは?原因や初期症状、なりやすい人の特徴について
老人性うつと認知症の違い
うつ病では思考力や集中力の低下がみられ、時に周囲から認知症と誤解されます。
正確に区別することはとても難しいです。
いつもと様子が違うなと感じたら、まずは最寄りのクリニックに相談していただくことがお勧めです。
簡単に両者の違いについて説明します。
まず、病気の発症の仕方に違いがあります。
認知症(今回は特にアルツハイマー型認知症を指す)の場合、進行はとても緩やかで、そもそも認知症が発症したことに気づくこともとても難しいと思われます。
「いつからかわからないけど、そういえば○○ができなくなった様な気がする」と言ったイメージです。
一方で、老人性うつでは、症状は比較的短い期間で現れます。
物忘れ(思考力や集中力が低下している影響によるもの)以外にも、診断基準にもあるような複数の症状がみられることが多くあります。
「〇月頃から何かおかしいんです」と、おおよその発症日が分かるケースが多い印象です。
また、認知症(アルツハイマー型認知症)の場合、徐々に物忘れが悪化していった結果、例えば「財布をどこにしまったかを忘れた」のではなく、「財布をしまったとこと自体」を忘れてしまうようになります。
一方で、老人性うつの場合では、自分の記憶力が落ちているという自覚があり、財布をしまったこと自体を忘れるということもありません。
気分の落ち込みに加えて、そういった記憶力の低下などの症状をさらに思い悩み、よりうつの症状を悪化させる可能性もあります。
また、質問への返答の仕方にも違いがみられます。
認知症(アルツハイマー型認知症)では、分からない質問であった場合に、とりつくろいがみられます。
例えば日付を聞かれて分からない場合に、「新聞を読まないから」「気にしていないから」などと返事することがあります。
一方で、老人性うつの場合は、一生懸命考えるのですが、返答できずに黙ってしまったり、分かりませんと困惑した様子がみられます。
◆認知症における顔つきが変わる理由と初期症状や代表的な種類など医師が解説
老人性うつの介護認定とは
老人性うつの場合も、日常生活に支障を来し、介護を要するようになった場合は、介護保険を申請することが可能です。
介護保険制度は、平成12年4月からスタートしました。
ご自身が住んでいる市区町村(保険者といいます)が制度を運営しています。
私たちは40歳になると、被保険者として介護保険に加入しており、介護保険料を支払っています。
65歳以上の方は、市区町村(保険者)が実施する要介護認定において介護が必要と認定された場合、いつでもサービスを受けることができます。
介護保険申請には、主治医意見書という書類が必要になります。
まずは最寄りのクリニックを受診し相談してみましょう。
家庭内の老人性うつの治療方法
老人性うつに限らず、うつ病の治療の基本や、休養と薬物療法になります。
とにかく頑張らないこと、無理をしないことが大切です。
そして、薬が効果を発揮し、うつの症状が軽くなるのをじっくり待ちましょう。
もしも、日常生活に支障を来すほどの症状であれば、介護保険申請を行い、生活の手助けをしてもらうのも良いかもしれません。
また、老人性うつと診断された場合、どのように関わってよいか分からないという方は、以下をぜひ参照してください。
【参考2 共感】
自分の思いや考えを相手に聞いてもらうには、相手が自分に対して“心を開いていなければならない”ということです。
例えば、夫婦喧嘩やカップルの喧嘩を想像してみましょう。
自分の思いを必死に話しても、相手に伝わらず、言い争いが続いた経験は少なからずお持ちではないでしょうか。
精神科を受診してくれる患者さんは、もちろん医師に対して自分のことを話に来てくれてはいるのですが、それでも「この人に話しても大丈夫だろうか」とためらうことも多いはずです。
しかし、私たちとしては状況や心情を正確に理解するためにも心を開いてもらう必要があります。
さあ、このように、自分の思いを相手に届けたいとき、相手に心を開いてもらいたいとき、どのようにしたらいいのでしょう。
その時に用いられる技術が“共感”です。
共感とは何か。
例を出しますので、共感について学んでいきましょう。
あなたの妻(彼女)は、体型に悩んでいる女性であったとします。
ダイエットに真面目に、そして真剣に取り組んではいますが、なかなか成果がでず、非常に落ち込んでいます。
こんな時、あなたはどんな声かけをしますか?
きっと多くの人が、「こんなダイエット方法がいいらしいよ」などのアドバイスをしたり、「太っていてもかわいいよ」など慰めたりしているのではないでしょうか。
それも決して悪いわけではないですし、手っ取り早くアドバイスが欲しい場合もあります。
しかし、せっかくの自分のアドバイスに乗り気でなかったり、全然慰められていない表情をしている、なんてことありませんか?
それはなぜか。
自分の気持ちを理解してもらえていないと感じているからです。
もし、あなた自身が、必死に頑張っても報われないことがあったとしたら、どのような気持ちになりますか?
悲しい、悔しい、そういった心情ではないでしょうか。
共感とは、相手の立場に立ち、相手の気持ちを想像し寄り添うことです。
このケースで言うと、「毎日頑張っていたのを知ってるよ。結果がでないとつらいよね。」と声をかけたならどうでしょう。
この人は自分のことを分かってくれていると思うと、その人の意見を聞いてみようと思うものです。
このような場面は、日常に数多く存在します。
医療の現場での一例です。
あなたが糖尿病患者で、今回も血糖値(正確にはHbA1c)が悪かったとします。
医者から「糖質を控えろ」「運動しろ」と言われるのと、その前に一言「甘いものを我慢するのは辛いですよね」「毎日運動するのは、案外難しいですよね」などと共感の姿勢があるのでは、どちらが相手に心を開きますか?
夫婦喧嘩においても同様です。
自分は怒っている、そして相手も怒っている。
そこで、自分の意見を言う前に、相手がなぜ怒っているのか、相手の立場にたって考えてみたとします。
そして、「あなたは○○で怒っていたんだね。それはよく分かった。でも、僕(私)は、こう思うんだけど、どうだろう」と共感を交えれば、もちろん○○があっていることが前提ですが、結果は変わってくるのではないのでしょうか。
言い争いがなぜ起こるのか、その多くが、自分の思いが相手に伝わっていないと感じるイライラに起因しています。
逆に言えば、相手に十分伝わっているならば、そんなに興奮して話さなくても会話は進んでいくはずです。
西春内科在宅クリニックできる治療方法
西春内科在宅クリニックでは、精神科専門治療はできません。
しかし、老人性うつはこれまでご説明したように、認知症と間違われやすい特徴があります。
また、気分の落ち込みに関しても、体の病気の影響や薬の影響で生じることもあります。
西春内科在宅クリニックでは、常勤の内科医がおり、認知症検査や、体の病気についての診察、治療が可能です。
精神科医としても、認知症や、その他の体の病気が隠れていないか、もしくは合併していないかについては、非常に注意を払っています。
そのため、普段と様子が違うことに気づいた場合は、最寄りのクリニックや、かかりつけ医に相談することをお勧めしています。
まとめ
高齢者では、加齢による脳の機能低下に加えて、様々な人生のイベントにより、抑うつ症状を来しやすい背景があります。
また、老人性うつは、認知症に間違われやすい疾患でもあります。
適切な治療に加えて、介護保険などの福祉サービスを利用することで、生活状況を改善することも可能です。
普段と様子が違うなと感じたら最寄りのクリニックへ相談する様にしましょう。
参考文献
・カプラン臨床精神医学テキスト第2版
・国立長寿医療研究センター「高齢者「うつ」の原因は? 」