高齢者が肺炎球菌のワクチン接種をするべき理由とは?副作用も解説
肺炎球菌とは成人の肺炎の原因として最も多い細菌であり、成人の肺炎の約20%は肺炎球菌を原因として発症すると報告されています。
また肺炎以外にも中耳炎や気管支炎の原因にもなり、時に血液や髄液に侵入して敗血症や髄膜炎を引き起こします。
今回は、肺炎球菌のワクチンを接種するべき理由や、肺炎球菌ワクチン接種の注意点などについて詳しく解説していきます。
目次
なぜ肺炎予防が必要なのか、どのように予防するのか
肺炎は2017年までは死因の第3位、現在も死因の第5位を占める疾患です。
新型コロナウイルス感染症では肺炎から呼吸困難となり亡くなった方も多数みられたことから、肺炎は命に係わるような疾患で予防が必要な疾患であるということはご理解いただけると思います。
では、肺炎の予防としてはどのような方法があるでしょうか?
まず、肺炎の予防のお話をするにあたって、肺炎と風邪症候群の違いについて説明いたします。
肺炎は発熱、咳、鼻汁と風邪症候群と同じような症状です。
新型コロナウイルス感染症では風邪症状で発症して、重症化すると肺炎になることから、肺炎は風邪が悪化すると発症する疾患と思われている方も少なくないと思います。
しかし、実は肺炎と風邪症候群は原因となる微生物は大きく異なり、治療法も異なります。
風邪症候群はライノウイルスやRSウイルスなどのウイルスが主な原因です。
肺炎に至ることはほとんどなく、多くの場合には自然に治癒します。
一方で肺炎は肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌が原因であることが多く、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの一部のウイルスも原因となります。
肺炎を起こす微生物に感染した場合でも免疫力が強ければ風邪症状のみで改善します。
非常に紛らわしいですが、肺炎を起こすような微生物、特に細菌感染は自然には治りにくく、治療に抗菌薬が必要となることも多くあります。
肺炎の予防としては手洗いやうがいなどの感染予防に加えて、予防接種などにより肺炎の原因となる微生物に対しての予防も重要となります。
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高齢者が肺炎球菌のワクチン接種をするべき理由
前項で記載したように肺炎の予防には手洗いやうがい、マスク着用などの感染予防に加えて、肺炎の原因となる微生物に対しての予防も重要です。
肺炎球菌は肺炎の原因として最も多い細菌で、成人の肺炎では肺炎球菌が原因の約20%を占めると報告されています。
そのため、肺炎球菌への対策は肺炎の対策として重要であると言えます。
加えて、肺炎球菌は莢膜(きょうまく)という膜を持っており、白血球などによる異物を細胞内に取り込んで消化する働きを回避する性質を持っています。
その他の菌よりも重症化しやすく、時に敗血症や髄膜炎などの重症感染症を併発します。
このため、免疫力の弱い人では肺炎球菌に対する予防をすることが望ましいです。
加齢などで免疫力が低下し、痰の排出が不十分になることで高齢者は肺炎を発症しやすいため、肺炎球菌のワクチン接種が望ましいと考えられます。
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肺炎球菌のワクチン接種を推奨する人の特徴
高齢者以外ではどのような人がワクチン接種を受けたほうが良いのでしょうか?
肺炎球菌のワクチンは以下に該当する人は受けることが望ましいです。
- 乳幼児や免疫力が低下するような基礎疾患のある人
- 症状が重症化しやすい人
- 免疫を抑制するような治療を受ける予定のある人
特に乳幼児では、4歳までの小児は小児用肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されています。
小児用肺炎球菌ワクチンは公費により無料で接種をうけることができます。
成人では以下に該当する人はワクチン接種を受けることが推奨されます。
- 脾機能(ひきのう)が低下している人
- 免疫不全となる先天性・後天性疾患のある人
- 狭心症などの心疾患のある人
- 喘息などの呼吸器疾患のある人
- 肝機能障害や腎機能障害のある人
- 糖尿病のある人
- 二分脊椎や髄液漏などの髄膜炎に罹患しやすい疾患のある人
肺炎球菌のワクチン接種について
効果
肺炎球菌には95種類以上の血清型があり、肺炎球菌ワクチンはその中で重症感染症の原因となる頻度の多い一部の血清型を予防するものです。
7価肺炎球菌結合型ワクチン(プレベナー7Ⓡ)では7種類、13価肺炎球菌結合型ワクチン(プレベナー13Ⓡ)では13種類の血清型を予防します。
小児における肺炎球菌ワクチン接種に関しては、7価肺炎球菌結合型ワクチンの公費助成を開始したことで、小児の肺炎球菌による重症感染症が57%減少しました。
また高齢者に関しては、オランダでの研究になりますが、13価肺炎球菌結合型ワクチンの接種によりワクチン血清型の肺炎球菌による重症感染症が75.0%減少したと報告されており、その有効性が示されています。
種類
2023年11月時点日本では、以下の3種類のワクチンがあります。
- 13価肺炎球菌結合型ワクチン
- 沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(バクニュバンスⓇ)
- 23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスⓇ)
過去には7価肺炎球菌結合型ワクチンもありましたが、13価肺炎球菌結合型ワクチンが発売されたことで使用されなくなりました。
副作用
肺炎球菌ワクチンによる副作用はその他のワクチン接種したときの副作用とほとんど変わりません。
稀に蕁麻疹やアナフィラキシーなどのアレルギー症状が出現することがあります。
副作用のほとんどは注射部位の発赤や熱感、痛みなどの注射部位反応であり、注射部位反応に加えて発熱や倦怠感を伴うこともありますが、基本的には数日以内に消失します。
回数・間隔
① 13価肺炎球菌結合型ワクチン、沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン
生後2か月以上の小児では1回0.5mLずつを3回、いずれも27日間以上の間隔で皮下に注射します。
追加で接種する場合には60日以上あけて、再度1回0.5㎎を皮下に注射します。
成人では1回0.5mLを筋肉内に注射します。
※沈降15価肺炎球菌結合型ワクチンでは注射は皮下でも筋肉内でも可。
※追加接種後の小児、成人ではその後の追加接種は不要です。
② 23価肺炎球菌ワクチン
1回0.5mLを筋肉内または皮下に注射します。
※5年程度で効果が弱くなってくるといわれており、5年以上あけて繰り返し接種することが推奨されます。
費用
ワクチン接種は保険適応外となるため医療機関ごとに費用は異なりますが、金額の目安としては以下の通りです。
13価肺炎球菌結合型ワクチン | 10000円前後 |
沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン | 10000円前後 |
23価肺炎球菌ワクチン | 8000円前後 |
※4歳までの小児では13価肺炎球菌結合型ワクチン、沈降15価肺炎球菌結合型ワクチンは無料で接種できます。
※23価肺炎球菌ワクチンの接種を受けたことがない定期接種に該当する年齢(65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳)の方は接種費用の助成が受けられます。助成の適応範囲や金額については各自治体により異なるため、各自治体のHPをご参照ください。
コロナやインフルのワクチンと同時接種できる?
コロナウイルスやインフルエンザのワクチンなど、その他のワクチンとの同時接種は可能です。
心配なことがある場合は直接医師に相談を行いましょう。
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肺炎球菌のワクチン接種をした後の注意点
肺炎球菌ワクチンは不活化ワクチンです。
不活性化ワクチンとは、病原体の毒性をなくし、免疫をつくるのに必要な成分のみで作られたワクチンです。
そのため、肺炎球菌のワクチン接種を行ったからと言って、肺炎球菌を発症することはありません。
ワクチン接種後に注射部位の腫脹や熱感が出たり、倦怠感や発熱が出現したりすることがあります。
基本的には数日で自然に消失するため経過観察をしていただいて問題ありません。
ワクチン接種同日に蕁麻疹や下痢、息苦しさが出現する場合にはアナフィラキシーの疑いがあります。
そのような場合は、すぐに医療機関を受診してください。
西春内科在宅クリニックができる対応
西春内科在宅クリニックでは肺炎球菌のワクチン接種に対応しております。
肺炎球菌ワクチンの公費助成に関する相談や任意接種の際にどの肺炎球菌ワクチンを選択すべきかのご相談など、肺炎球菌ワクチンに関するご相談も受け付けております。
肺炎球菌のワクチン接種をご検討の場合にはお気軽にご相談ください。
当院の肺炎球菌ワクチン接種ご案内については以下をご確認ください。
まとめ
肺炎球菌は肺炎の最も多い起因菌です。
また、敗血症や髄膜炎などの重症感染症を引き起こし、死亡の原因ともなりうる細菌です。
肺炎は特に65歳以上の高齢者では比較的多い感染症です。
しかし、ワクチン接種により肺炎球菌の感染を予防し、重症化を防ぐことは健康を維持するための大きな手助けになると考えられます。
名古屋市では23価肺炎球菌ワクチンが未接種であれば、定期接種に該当しない人でも65歳以上の方は肺炎球菌ワクチンの公費助成の対象となります。
年度ごとに公費助成については見直しが行われるため注意が必要です。
公費助成に関するご相談も承っておりますので、肺炎球菌のワクチン接種をご検討される場合には西春内科在宅クリニックでご相談ください。
参考文献
NIID 国立感染症研究所【成人肺炎球菌性肺炎の疫学】
NIID 国立感染症研究所【侵襲性インフルエンザ菌・肺炎球菌感染症 2014年8月現在】
王子総合病院HP
五本木クリニックHP
厚生労働省HP
日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会ワクチン WG/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会 提言
ニューモバックスの添付文書
オランダの高齢者を対象としたPCV13の効果を検証した研究:
Bonton MJM, et al. Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults. N Engl J Med 2015; 372:1114-1125