せん妄になると死期が近い?原因や認知症・妄想との違いについて解説
せん妄という病気を聞いたことがある方は少ないと思います。
せん妄は、病気などによって生じる意識の障害のことです。
認知障害や幻覚、妄想を伴うため、ときに認知症と間違われてしまう ことがあります。
特に高齢者に起こりやすく、もともと認知症を患っている人の2/3でせん妄を発症するという報告もあります。
本記事ではせん妄の原因や認知症・妄想などとの違いについて解説していきます。
目次
せん妄とはなにか
せん妄とは、全身状態の影響によって生じる脳の機能不全であり、意識障害に分類されます。
脳波検査を行うと、徐派化といって脳の機能が低下していることを示す所見が得られます。
脳の機能低下が起こった結果、注意の障害や認知の障害が引き起こされ、幻覚や妄想といった精神症状も見られます。
これだけではとても難しい様に感じますが、多少の語弊はあるかもしれませんが「ねぼけのひどい状態」をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
一見起きているようには見えるのだけれど、
- なんどかぼんやり、もうろうとしている印象を受ける
- つじつまの合わない話をする
- 夢の中のようなあり得ない話
などをするといった状態です。
せん妄は一般病院の入院患者さんでは10-30%程度に発症する といわれており、決して珍しい病気ではありません。
典型的には、比較的高齢の患者さんが何らかの病気で入院したり、手術を受けた後に、
- 急におかしなことを言い出したり
- 幻覚が見えたり
- 興奮したり
- 安静にできなくなってしまいます。
私が良く経験するのは、施設入所中の認知症患者さんが、「急に認知症が悪化しました」と相談を受け診察したところ、実は体の病気がきっかけでせん妄を発症していたというケースです。
関連記事:アルツハイマーと認知症の違いは?原因や初期症状、なりやすい人の特徴について
せん妄になる原因
せん妄の原因は多岐に渡りますが、以下の3つに分けられます。
準備因子 | 高齢であることや、すでに認知症であること、脳血管障害の既往などが挙げられます。 大雑把に言うと、せん妄になりやすい人ということです。 |
直接因子 | その名の通り、せん妄の直接的な原因となる因子です。 体の病気、せん妄を誘発する可能性のある薬、そして大きな手術、アルコールの離脱などが挙げられます。 体の病気と言うと範囲が広すぎると感じられるかもしれませんが、直接脳を傷つける頭部外傷以外にも、心不全や不整脈などの循環器系、低酸素や肺炎などの呼吸器系、ホルモンの代謝異常などなど、とても多くの病気でせん妄はみられます。 そのため、大病を患った時には、幻覚をみることや、認知症の様な状態になってしまうことは、誰にでもあり得るということです。 また、せん妄を誘発する可能性の薬についても、細かくみればたくさんあるのですが、特に脳に作用する薬はよりハイリスクと言えます。 例えば、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や安定剤が挙げられます。 |
促進因子 | 睡眠覚醒リズムに影響を与えて、せん妄を誘発したり、長引かせてしまったりする要因のことです。 入院環境はそれ自体が促進因子に挙げられています。 慣れない病院の環境や、病気に対する不安などから、睡眠のリズムが乱れてしまいます。 その他にも、激しい痛み(疼痛のコントロールが不十分)だったり、部屋の照明などから昼と夜の区別がつきにくい環境であったり、過度なストレス などが挙げられます。 |
これらのことはよく、焚火に例えられます。
すなわり、準備因子が薪、直接因子がライターやマッチ、そして促進因子が油です。
薪をくべるにしても、燃えやすい木や燃えにくい木がある様に、せん妄になりやすい条件があります。
また、その薪は自然発火するわけでは無く、体の病気や薬、手術といった火が着く原因があります。
さらに、そこに油がかかる様なことがあれば、より状態は悪化する のです。
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せん妄の症状
せん妄では、注意障害がみられます。
つまり、周囲に注意を向けたり、何かに集中して取り組んだりすることが難しくなる、周囲の状況をきちんと理解することが難しくなるといった症状がみられます。
それらの症状は、一般的には短時間のうちに出現し、変動する傾向がみられます。
一般的には数時間から数日で起こり、1日の中で症状の強弱があります。
特に夕方から夜間にかけて症状は悪化するケースが多い です。
さらに、幻覚や妄想を伴うことがあります。
しかし、それらはせん妄以外の病気でも見られるため注意が必要です。
せん妄の症状について説明しましたが、せん妄の診断基準の最後には、「身体疾患や物質の中毒などが原因となっている」という但し書きがあります。
せん妄は、健康な人にある日突然起こる病気ではなく、認知症や全身の病気、お酒や薬といった物質の影響が原因となって生じる ということです。
以下は、国立がん研究センターの記事より引用した「せん妄の主な症状のチェックリスト」です。
どれか一つ当てはまったらという事ではなく、せん妄であればほとんど全てに当てはまる場合が多いとされます。
□意識がくもってぼんやりしている
□もうろうとして話のつじつまが合わない
□朝と夜を間違える、病院と家を間違える、家族のことが分からない
□治療していることを忘れて点滴のチューブ類を抜いてしまう
□怒りっぽくなる、興奮する
□見えないものを見えると言ったり(幻視)、あり得ないことを言う(妄想)
□夜、眠らない
□症状は急に生じることが多く、夜になると症状が激しくなる
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せん妄になると死期が近いって本当?
終末期のがん患者さんでは、その8~9割でせん妄を生じ、さらにそのうち5~7割の方は回復せずに死に至るという報告があります。
体の状態が悪ければ、それだけせん妄となるリスクは当然高くなります。
せん妄による幻覚や妄想によって興奮状態となってしまったり、点滴類を自己抜去するなどがでしょ起こりうるでしょう。
そういった場合は、本人の安全を確保するため薬物療法による鎮静をかけることもあります。
しかし、鎮静がかかると残された時間での患者-家族間のコミュニケーションが難しくなってしまうという問題もあり、慎重な対応が求められます。
せん妄と認知症の違い
認知症は、せん妄発症のリスクを高めますが、認知症とせん妄は別の疾患です。
その違いについて、いくつか説明しましょう。
発症の仕方に違いがあります。
せん妄は急に発症するのに対して、認知症はゆっくりと時間をかけて発症します。
そのため、「ある日突然物忘れが出た」「急に物忘れが悪くなった」といった場合は、認知症や認知症の悪化というよりも、せん妄を発症している可能性が高い と言えるでしょう。
せん妄は症状に日内変動(1日の中での症状の変化)がみられます。
一般的には、特に夕方から夜間にかけて症状が悪化する傾向にあります。
「お昼ごろは普通に話ができたのに、夕方になったら急に変な話をはじめた。」といった具合です。
認知症では、ゆっくりと少しずつ症状が進行していくため、特別に時間の影響をうけることはありません。
せん妄は、せん妄の原因を取り除くことや、治療を行う事で、症状が改善する可能性があります。
通常は、全身性の内科疾患や、せん妄を起こしやすい薬剤が原因ですので、それを取り除くことができれば、せん妄が消失する可能性は十分にあります。
しかし、認知症 (ここではアルツハイマー型認知症)は、現時点では根治する治療法はないため、症状は持続していくことになります。
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せん妄の治療
せん妄の3つの因子、「準備因子」「直接因子」「促進因子」についてお話しました。
せん妄の治療で最も大切なのは、やはりせん妄の直接的な原因となっている「直接因子」を取り除く ことになります。
体の病気でせん妄になっているのであれば、それをきちんと治療することです。
しかし、その改善に時間がかかる場合は、せん妄を抑えるための薬物療法 を行います。
一方で、せん妄を悪化させないためには、「促進因子」に対しても目を向ける必要があります。
つまり、療養環境を整え、睡眠覚醒リズムを良い状態で保つことが大切です。
例えば以下などの工夫も有用です。
- 日中はカーテンを開けてしっかりと光を浴び、夜には照明を暗くするなどして、昼夜のメリハリをつける。
- 時計やカレンダーを愛用品や身近な物などの目のつくところに置いて、時間や曜日の感覚を保つ。
また、病気の不安を取り除くため、家族との十分な会話や、馴れ親しんだ医療スタッフとの接触を頻回にすることで安心感を与えることも、せん妄対策になります。
身内がせん妄になったときはどう対応すればいいか
まず、一般の方がせん妄と診断するのはとても難しいということを、最初にお伝えしておかなければなりません。
そのため、せん妄かなと思ったら可能な限り「医療機関を受診する」「往診依頼をする」などして、医師の診察を受けるようにしましょう。
次にせん妄の予防についてお話します。
せん妄の原因には「準備因子」「直接因子」「促進因子」の3つがあることを既に解説しました。
「準備因子」には、高齢者や認知症を患っている方などが挙げられますが、こういったことは予防することはできません。
「直接因子」はどうでしょうか。
体の病気、特に全身の病気はせん妄を引き起こしやすいですが、病気にならないということはできませんね。
お薬もせん妄を引き起こす一つの要因ではありますが、せん妄を予防するために、他の持病を悪化させてしまってはいけません。
また、急な薬の中止もせん妄の原因となりえるので、注意が必要 です。
ただし、以下のようなことは行うことができるのではないでしょうか。
- 自分の飲んでいる薬にせん妄を起こしやすい薬が無いか確認しておく
- もし薬が増えすぎてしまったと感じた場合は主治医と相談して整理をしておく
最後に「促進因子」ですが、ここが予防には最も重要と言えます。
まず、高齢者では睡眠覚醒リズムが崩れやすくなっているので、昼間によく活動をし、夜はしっかり眠れるような工夫が大切です。
また、夜間頻尿など体の不調から睡眠不足にならないように注意が必要です。
環境の変化によるストレスも睡眠の質を下げるので、住み慣れた環境は大きく変えない方が良いでしょう。
幻覚妄想といった精神症状がみられる場合は、看護や介護をされているご家族は、怪我をしないように十分注意が必要です。
また、ご本人もケガをしないように、危険物は近くに置かないようにしましょう。
点滴や酸素投与など、治療器具がある場合、取り外してしまう可能性もあるため、見守りも必要になります。
関連記事:認知症の検査方法と費用について|治療の副作用は?|検査を拒むときはどうすればいい?
西春内科在宅クリニックができる対応
せん妄は高齢者に起こりやすく、認知症と間違われやすい病気です。
しかし、せん妄であれば、せん妄の原因を取り除くことで症状が改善する可能性があります。
そのため、認知症かな、せん妄と言う病気があったなと不安に感じた方は、早めの受診をお勧めします。
西春内科在宅クリニックでは、常勤の内科医師の診察、及び頭部CT検査などを用いて、早期の介入が可能です。
また、当クリニックはオンライン診療も行っております。
ご自宅にいながら診察からお薬の処方まで受けることが出来ます。
予約の仕方や費用など詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
せん妄とは、高齢者に多く発症する意識障害の一種であり、症状が認知症と似ていますが、異なる病気です。
一見認知症のように感じられたとしても、せん妄の特徴として、突然発症すること、症状が時間とともに変化すること、幻覚や妄想を伴うことなどが挙げられます。
せん妄は以下のようなことが原因で生じることが多くあります。
- 認知症や体の病気
- 薬やアルコール
原因が取り除かれることで、症状が改善する可能性が十分にある病気です。
疑問に感じたら、最寄りのクリニックに相談するようにしましょう。
参考文献
がん治療のために重要な「せん妄 もう 予防」と「心のケア」|国立がん研究センター (ncc.go.jp)