麻疹(はしか)の症状|感染力が強い?予防接種や風疹との違いも
麻疹は、非常に強い感染力を持つ感染症です。
一例発症すると集団感染へとつながるリスクがあります。
今回は麻疹の症状や見分け方について解説していきましょう。
麻疹(はしか)の感染力について
麻疹は麻疹ウイルスによって起こる感染症です。
以下のようなさまざまな感染経路で感染が広がります。
- 5μm以下の非常に小さな飛沫核という状態で感染が広がる空気感染(飛沫核感染)
- 咳やくしゃみで飛ぶ体液で感染する飛沫感染
- 手などを介して感染する接触感染
麻疹ウイルスは100-250nmというサイズで、空中に漂い飛沫核感染も起こすします。
そのため、マスクをしただけでは感染は防ぐことはできません。
1人の感染者が何人に感染させうるかの指標となるR0(基本再生産数)は12-18とされています。
インフルエンザのR0が2-3であることと比較すると、非常に強い感染力といえます。
関連記事:麻疹(はしか)とは何か? | 横浜内科・在宅クリニック
麻疹(はしか)の主な症状
カタル期
麻疹は感染後10-12日間の無症状の潜伏期をへて発症します。
以下の症状などが2-4日間継続します。
- 高熱
- 咳や痰などの上気道症状
- 目の充血
- 目やに
これをカタル期といいます。
カタル期が最も周囲への感染力が強い時期といわれています。
発疹期
カタル期の後に一旦解熱しますが、半日くらい後に再度高熱になります。
さらに、耳うしろ、首、前額部あたりから発疹が出始めて、その後全身に広がります。
発疹は、最初は鮮やかな赤い発疹です。
その後はボツボツと盛り上がり、全体が合わさり、まだらな斑状の湿疹になるのが特徴的です。
発疹期にも以下の症状を伴うこともあり、強い症状が続きます。
- 高熱
- 激しい咳
- 目の症状
- 子どもの場合は下痢や嘔吐
- 腹痛などの消化器症状
回復期
発疹がでてきて3-4日後に解熱し、徐々に症状や発疹は改善していきます。
通常は回復期を経て発疹も消失します。
しかし、重症化した場合、麻疹によるウイルス性肺炎や別の細菌、ウイルスによる肺炎を起こすことがあります。
麻疹患者の6%に肺炎を合併します。
特に、1歳未満の乳児ではさらにリスクが高く、死亡例の60%は肺炎が原因といわれています。
麻疹により脳炎を起こすこともあります。
発疹期から2-6日ごろに頭痛、意識障害などの脳炎症状が出ることがあります。
約60%の方は完全に回復し後遺症を残しません。
しかし、約25%で精神発達遅滞や痙攣、異常行動、麻痺などの後遺症を残すといわれています。
麻疹肺炎と麻疹脳炎は、麻疹の二大死亡原因といわれています。
合併すると死亡率が高くなってしまうのです。
その他の麻疹の合併症としては中耳炎、喉の炎症が強くでるクループ症候群、心筋炎や心外膜炎などの心臓合併症が起こることもあります。
少し特殊な合併症としては亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん)というものがあります
亜急性硬化性全脳炎とは、麻疹にかかった後、4-8年(平均7年)ほど経ってから知能障害、運動障害で発症し、筋肉がぴくぴく痙攣するミオクローヌスなどの症状がおこる重篤な合併症です。
麻疹は感染力も高いですが、死亡率も高く、医療技術の発達した先進国でも麻疹は1000人に1人の割合で死亡する可能性がある病気です。
麻疹(はしか)と似ている感染症との見分け方
麻疹と同じく発熱と発疹を起こす以下の感染症などがあります。
- 風疹
- 水痘(みずぼうそう)
- 手足口病
- 突発性発疹
風疹は風疹ウイルスによる感染症で、14-21日の潜伏期を経て発症します。
発熱、発心、耳の後ろや後頭部、後頚部のリンパ節が腫れるのが特徴的な症状です。
風疹でも咳や痰、喉の痛みなどのカタル症状や目の充血、目やにの症状がでます。
麻疹と比べると軽い症状になります。
水痘(みずぼうそう)は水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染した時におこる感染症状です。
水痘・帯状疱疹ウイルスも麻疹ウイルスと同じく空気感染、飛沫感染、接触感染を起こします。
潜伏期は2週間程度です。
全身に痒みのある紅斑、丘疹が出て、短期間で水脹れ(水疱)となり、かさぶたができるのが特徴的です。
頭皮に最初にでて、体、手足に広がっていきますが、新しい紅斑、丘疹やかさぶたを形成した古い発疹がいりまじります。
手足口病(てあしくちびょう)はその名の通り、手、足、口周りや口の粘膜に発疹を起こすウイルス感染症です。
コクサッキーウイルス16、エンテロウイルス71、エンテロウイルスが病因となります。
飛沫感染や便に排泄されたウイルスによる経口感染や水ぶくれの内容物からの接触感染なども起こることがあります。
潜伏期は3-5日です。
口の粘膜、手のひら、足のうらなどにも水脹れのような水疱性発疹が出現します。
発熱は軽度で38℃以下であることがほとんどで、発疹も3-7日の経過で消失し痕は残りません。
発熱と発疹を起こすウイルス感染症はいくつかありますが、初期の発熱と発疹だけでは判断が明らかにつかないこともあります。
それぞれのウイルス性感染症の特徴(麻疹は強い症状で発疹前に一旦解熱することや風疹のリンパ節腫脹など)や詳しい経過をきくことで判断することができます。
関連記事:風疹(風しん)はどんな症状が出る?妊娠時に気をつけるべき理由と感染経路について
麻疹(はしか)で受診に行くべき目安
発熱や発心などの麻疹を疑う症状がる場合には、かかりつけ医やお近くの病院に電話で麻疹かもしれないとお伝えください。
受診の可否や受診の際の注意点を確認し、病院の指示にしたがってください。
直接来院してしまうと、空気感染で病院の外来でまっている周囲の方へ感染を拡大させてしまうことになります。
以上のことにご注意ください。
麻疹(はしか)の抗体検査について
麻疹の抗体検査は、血液検査によって行います。
母子手帳などでワクチン接種が確認できない場合などには麻疹の抗体検査を行うことができます。
麻疹は1978年10月から1歳児(第1期)と小学校入学前の幼児(第2期)に麻疹風疹混合ワクチンによる2回接種が定期接種として導入されています。
定期摂取によって麻疹の交代保有率は95%以上保たれています。
以下の方は、麻疹に対する抗体が十分ではなく感染のリスクがあります。
- 定期接種になる前の年代の方や1回のみの接種になっている方
- 定期接種になったのちもワクチン接種を受けていない方で麻疹に感染をしたことがない方
一部の自治体では抗体検査の費用を無料で行うことができるように補助しているところもあります。
自治体のホームページなどを確認ください。
抗体価が低い場合には、麻疹ワクチンの接種を受けましょう。
関連記事:【秋から冬にかけて注意】ノロウィルス感染症になる原因や症状、消毒方法を解説
麻疹(はしか)の予防接種について
麻疹のワクチンは2回接種が基本で、1回での免疫獲得率は93-95%、2回で97-99%以上と報告されています。
現在日本で使用されている麻疹ワクチンは風疹と合わさった麻疹風疹ワクチンになっています。
麻疹風疹ワクチンを接種することで、麻疹・風疹の抗体を獲得することができます。
西春内科・在宅クリニックでの対応
西春内科・在宅クリニックでは発熱、発疹の患者さんの診察や治療が可能です。
麻疹の合併症で肺炎や脳炎を合併している場合には、入院施設のある病院にご紹介させていただくこともあります。
まとめ
今回は、麻疹の症状や見分け方について解説しました。
麻疹は非常に感染力が強いですが、ワクチン接種の普及で予防できる感染症の一つです。
ぜひ麻疹について知っていただき、気になる方は抗体検査や追加予防接種をご検討くださいね。
参考文献
・ 国立感染症研究所「麻疹とは」
頭痛で吐き気やめまいがする原因と対処法や、こわい頭痛の見分け方!
頭痛は緊急性の高い頭痛と緊急性の低い頭痛(一次性頭痛)があります。
この記事では緊急性が高いものはもちろん、痛く辛いけれど緊急性の低い頭痛についてもご紹介しています。
頭痛は放置しておくと良くない症状もありますので、ご自身の症状が緊急性が高いものなのか、そうでないのかの参考にしてください。
痛くて辛いけど、緊急性は低い頭痛の原因
緊急性の低い頭痛(一次性頭痛)は大きく分けて緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛の3種類に分けられます。
それぞれの詳細は以下からご覧いただけます。
偏頭痛については
緊張型頭痛については
群発頭痛については
命にかかわる緊急性の高い頭の病気と症状や原因
くも膜下出血
脳実質を包み込んでいる3層の膜の隙間である「くも膜下腔」に出血が生じることにより引き起こされるものです。
吐き気の症状に加え、経験したことのないような突発的な激しい頭痛(雷鳴頭痛などとも言います)を特徴としますが、症状が軽い場合もありこのような特徴がないからと言って完全に除外することはできません。
出血量が多い場合、脳実質の圧迫による意識障害、突然死の原因ともなります。
脳出血
脳血管の破綻により出血が生じ、脳実質を破壊・圧迫を引き起こすものです。
小脳、後頭葉、皮質下といった部位で生じやすいとされています。
ただし、どのような症状が現れるかは出血量(血腫の大きさ)や部位によっても大きく異なり、頭痛や吐き気の症状に加え、最悪の場合、意識障害や呼吸不全に至ることもあります。
関連記事:慢性硬膜下血腫を放置するとどうなる?認知症などの症状や手術について
脳腫瘍
脳腫瘍の種類に関する詳細は本項では割愛いたしますが、脳腫瘍による頭痛の原因は大きく2つあり、一つは頭蓋内圧亢進による症状、もう一つは局所神経刺激によるものです。
前者には早朝の起きがけに最も症状が強くなるという特徴があります。
後者は脳腫瘍の成長などに伴って痛覚につながる神経を刺激することにより引き起こされます。
吐き気の症状に加え、発熱を伴うことも多くあります。
高血圧性脳症
異常な血圧上昇により脳浮腫をきたし、頭痛などの症状を引き起こすものです。
もともと高血圧症、妊娠高血圧症候群、慢性腎不全などの基礎疾患をお持ちの方に生じやすいとされています。
後頭葉が呼応発部位とされており、この場合、後述する視覚障害につながることがあります。
主な症状は激しい頭痛、吐き気、嘔吐、全身けいれん、意識障害などで、視覚障害が生じることもあります。
脳動脈解離
外傷性やその他の何らかの原因で脳動脈壁の内部に出血が生じ、動脈壁が裂けるものです。
一側性(片側)に突然発症する頭痛を特徴としますが、それだけでは診断ができず、「延髄外側症候群」などのような様々な随伴症状を参考に診断することとなります。
また吐き気の症状も出てきます。
これまでに経験したことのない新規頭痛の場合には積極的に疑います。
本疾患によってくも膜下出血を来すことや、脳梗塞などの虚血性脳血管疾患を来すこともあります。
髄膜炎
脳および脊髄の表面を覆う髄膜に細菌、ウイルス、真菌などが感染することによって炎症を引き起こした状態です。
発症すると発熱、頭痛、吐き気・嘔吐・嘔吐などの症状を引き起こし、重症化すると意識消失やけいれんなどの神経症状を引き起こすこともあります。
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
大動脈およびその分岐した動脈に炎症を生じることにより、頭痛、吐き気、倦怠感、発熱、食欲不振など様々な症状を引き起こします。
側頭部にある動脈に炎症が生じることが多いため以前は「側頭動脈炎」という病名でした。
50歳以上の女性に多いとされており、頭痛の性状としては側頭部の拍動性(ずきずきとした)頭痛を特徴とします。
急性緑内障発作
何らかの原因で眼圧が急上昇する緑内障(閉塞偶角緑内障)を発症し、眼痛を伴う頭痛、視力・視野異常、吐き気、嘔気、嘔吐などの症状を引き起こします。
場合によっては速やかに失明してしまう可能性もあります。
頭部外傷後
文字通り、頭部外傷後に生じる頭痛を指します。
国際頭痛分類においては頭部外傷から、もしくは、意識の回復から7日以内に頭痛が発生していることが診断基準となります。吐き気の症状も引き起こします。
その他
これらの他にも下垂体卒中、脳炎、顎関節症、頭痛薬剤乱用性頭痛、高山性頭痛、飛行機頭痛、潜水時頭痛、精神疾患に起因する頭痛などがあります。
関連記事:慢性硬膜下血腫を放置するとどうなる?認知症などの症状や手術について
今すぐ病院に行くべき症状まとめ
全章に挙げました疾患を踏まえ、危険な頭痛の兆候には下記のようなものがあります。
- めまい・吐き気・嘔気・嘔吐を伴う頭痛
- 突然発症した頭痛
- かつて経験したことのない頭痛
- 強くなくとも普段とは特徴や性状、頻度が急に変化した頭痛
- 寒気、発熱、咳嗽、運動負荷により悪化する頭痛
- 眼痛、視力・視野障害を伴う頭痛
- 頭部外傷後の頭痛
家庭や自分で出来る対処法
- もともと使用している頓用薬があれば服用する
- ストレスを軽減する
- 首や腕を動かす体操をする(激しい頭痛、片頭痛、頸部痛がある、発熱がある場合は禁忌です)
関連記事:休日や夜間に頭が痛くなってしまった場合の対処法と病院を受診するべき基準について
西春内科・在宅クリニックでの対応
診察のうえ一時的な症状の軽減を目的とした処方を行うことができますが、緊急度が高いと考えられる際にはその場で専門の医療機関への紹介を行っています。
なお、緊急度が低い場合でも、中長期的なコントロールが重要な頭痛がほとんどですので、外来診察を推奨します。
いつ頃から、痛みの頻度、強さ、部位、持続時間、頭痛以外の症状の有無、薬の使用の有無
などを詳しくお聞かせくださいますと、より適切な判断が可能となりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
まとめ
頭痛の原因は非常に多岐に渡ります。
原因のおおまかな見当がつくこともありますが、最初はなかった症状が後から顕在化してくることも多くあります。
医療機関であっても、初期の段階で正確な診断がつかないことはけっして珍しくありません。
上記の「今すぐ病院に行くべき症状まとめ」に該当せずとも、対応に迷われた場合には、ぜひ、西春内科・在宅クリニック、かかりつけ医、救急病院へご相談ください。
サル痘(さるとう)とは?原因・症状・ワクチン・治療などについて解説
2022年7月に患者が報告されてから、現在も患者の発生が続いている「サル痘」をご存じですか?
世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を出したこのサル痘ですが、日本でも247例の症例が確認されています。
(現在は世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言を修了しています。)
患者には首都圏の在住者が多く報告されており、最近では首都圏以外の地域でも報告をされています。
今回はこのサル痘とは何かについて詳しく解説します。
サル痘(さるとう)ウイルスとは

サル痘ウイルスの電子顕微鏡写真
(参照:NIID 国立感染症研究所「サル痘とは」)
サル痘(mokeypox)は、ウイルス性の人獣共通感染症(動物からヒトに感染するウイルス)で天然痘と同じオルソポックスウイルスの仲間です。
天然痘とは感染してから約2週間後に、39℃以上の高熱・倦怠感・頭痛・嘔吐などの全身症状が現れます。
また、解熱し3~4日後に顔や四肢を中心に強い痛みや灼熱感を伴う斑状の皮疹が現れるのが特徴です。
しかし、天然痘は根絶が確認されていますので、現在ではサル痘が最も重要なオルソポックスウイルスといわれています。
サル痘は、自然界では、リス・ネズミ・ヤマネ・霊長類(サルなど)が保有している可能性があることがわかっています。
サル痘に感染した動物の肉などの動物性食品を十分に調理せず食べることがヒトへの感染の原因です。
ヒトへの感染は、1970年にアフリカのコンゴ民主共和国で初めて確認され、その後は中央〜西アフリカでたびたび感染が確認されています。
アフリカ以外では2003年にアメリカで70人以上の感染を起こしたほか、2018年以降もアメリカ、イギリス、イスラエル、シンガポールなどの国で感染が確認されてきました。
関連記事:いんきんたむし(股部白癬)はうつるのか?原因や湿疹との見分け方について解説
サル痘(さるとう)は欧米を中心に感染者数が増えている?
サル痘は欧米を中心に感染者数が増えています。
今回のサル痘の感染増加について調査された大きな研究が2つありますのでご紹介しながら、欧米を中心に起こる感染者の増加について説明していきます。
サル痘の研究において、感染者は合計で725人(数人重複)が確認されています。
感染者の背景で特徴とされているものは、以下の通りです。
- 年齢中央値は38歳
- 感染者はほぼすべてが男性(1人のみトランスジェンダー、女性は無し)
- 99%(715人)がゲイ、バイセクシャルなどの男性間性行為者
- 40%(288人)がHIV感染を併発している
男性間性交渉に始まり、男女間での性交渉で女性にも広がり始めたことで大きな感染の波になってしまったのではないかと考えられています。
日本におけるサル痘(さるとう)の感染者数の推移
2022年5月以降、欧州や米国等、これまで流行がみられなかった複数の国で、渡航歴もなくサル痘患者との疫学的な関連が不明な患者が確認されています
日本国内においては、2022年7月25日に、1例目のサル痘患者発生が報告されました。
その後、患者数は東京都を中心に徐々に増加し、厚生労働省の発表によれば2023年2月2日時点までに報告された感染者数は合計18名です。
全員が男性で、20代が2名、30代が10名、40代が5名、60代が1名でした。
渡航歴のある方は4名(欧州3名、北中米1名)で、1名は在日米軍関係者の方、残りの13名は渡航歴のない方でした。
2024年6月現在も2023年8月をピークに減少しているものの、報告は継続しています。
関連記事:クラミジアは男性も女性もかかる?潜伏期間や感染経路、症状や治るまでの期間について
サル痘(さるとう)の症状や感染力について
では、サル痘はどこから感染するのか、どんな症状が出たらサル痘を考えるべきなのか、どうしたらサル痘にかからないのかについても詳しく説明していきます。
サル痘の原因や感染経路
サル痘のヒトへの感染経路は、「ヒトからヒトへの感染」と「動物からヒト」への感染の2つが存在します。
「ヒトーヒト感染」は以下のような状況で起こるとされています。
- 発疹、かさぶた、滲出液との直接接触
- 感染者の発疹や体液に触れたシーツやタオル、衣類に触れること
- キス、ハグ、セックス(オーラルセックス、アナルセックスを含む)などの接触
- 長時間(数時間)の対面での会話、接触
- 胎盤を介しての胎児への感染
また、精液や膣分泌液を介して広がることは確認されていません。
コロナウイルスのようなエアロゾルによる感染を起こすこともないと考えられています。
一方で、「動物―ヒト感染」は以下のことをすることで感染します。
- 感染した動物の肉や製品を食べる
- 感染した動物に引っ掻かれたり噛まれたする
輸入した動物が感染していた場合には、一緒に飼育されていた動物には感染が広がる可能性があります。
感染した動物をペットとして飼育した場合には「ペットからヒトへ感染」する場合があります。
サル痘(さるとう)の症状
サル痘の症状としては、ニキビや水ぶくれのような発疹が全身に出ることが特徴的です。
特に他の発疹が出にくい手のひらや足のうらにも出現します。
サル痘の潜伏期間は 5~24日とされています。
また、サル痘はその他感染に伴う様々な症状を呈します。
サル痘による症状は以下の通りです。
- 発疹→陰部(73%)、体幹手足(55%)、顔(25%)、手掌足底(10%)
- 発熱
- リンパ節腫脹→頸部(85%)、鼠径部(20%)、わき(1%)
- 粘膜病変→陰部(71%)、口腔内(30%)、目鼻(1%)
- 疲労感
- 筋肉痛
- 頭痛
- 咽頭痛
- 直腸肛門炎・痛
- 倦怠感
サル痘の症状と発生率をグラフにすると以下の通りです。

また、発疹は感染初期から徐々に形態を変えて進行していきます。

発疹の形態の期間とその経過
(参照:CDC「Clinical Recognition」)
サル痘(さるとう)の重症化リスク
サル痘はときに重症化することがわかっています。
サル痘が重症化した場合、
- 脳炎
- 二次皮膚感染
- 肺炎
- 眼病(視力低下)
などが引き起こされます。
サル痘の重症化の高リスクとなるのは、以下のような方となります。
- 免疫不全の人(HIV、血液がん、抗がん剤治療中、など)
- 小児(特に8歳以下)
- アトピー性皮膚炎
- 妊娠、授乳中
今回のサル痘の流行で、アフリカやインド、スペインなどで死者が発生したとのニュースもありますが、致死率は3~6%程度とされています。
サル痘(さるとう)の致死率
サル痘ウイルスは、コンゴ盆地型(クレードⅠ)と西アフリカ型(Ⅱa及びⅡb)の2系統が確認されています。
従来の報告では、コンゴ盆地型による感染例の死亡率は10%程度であるのに対し、西アフリカ型による感染例の死亡例は1%程度とされています。
2022年1月1日から2023年1月15日までに、WHO管轄である全6地域の110か国・地域から報告された累積感染者数は84,733人、累積死亡者数は80人です。
今回の流行では、これまでの報告よりも致死率は低い可能性が示唆されます。
2022年以降の流行は西アフリカ型によるものですが、従来の流行で報告されてきた症状とは違う点も見られています。
今回の流行では、男性間の性交渉を行う者での感染事例が多く報告されています。
しかし女性の症例も報告されており、性別によってサル痘の可能性を除外できるわけではありません。
また、
- 異なる段階の皮疹が同時にみられる
- 発熱やリンパ節腫脹などの全身症状がなく会陰部や肛門周辺の皮疹のみで発症する
- 肛門痛、排便時の痛みや下血など直腸炎症状がみられる
といった症状も報告されています。
サル痘(さるとう)になったときの後遺症について
サル痘は発症から2〜4週間で自然によくなることがほとんどです。
しかし、時に皮膚の二次感染、気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜炎などの合併症を引き起こすことがあります。
皮膚に痕が残る、合併症による後遺症(脳炎後のてんかんや角膜炎後の視力障害など)が起きる可能性はあります。
関連記事:トリコモナスになる原因と症状は?においの特徴や検査方法について解説
サル痘と天然痘の違いは?
サル痘は天然痘と症状はよく似ていますが、サル痘は天然痘よりも感染力が弱く、重症化する可能性も非常に低い病気ということが知られています。
また、サル痘と天然痘は共にオルソポックスウイルス属に属するウイルスによって引き起こされる病気ですが、天然痘は1980年に根絶が宣言されています。
サル痘(さるとう)は性感染症と似た症状が出る?
サル痘は、発症初期に見られる発熱・陰部の皮疹や粘膜病変などの症状は性感染症、特に梅毒とよく似ている場合があります。
また、一部のサル痘患者にはHIVだけでなく、淋菌・クラミジア・ヘルペスウイルスなどの性感染症に同時に感染していることがわかっています。
そのため、合併している性感染症に伴う症状が出る可能性もあります。
関連記事:ヘルペスはうつる?原因や症状、感染力は?|口唇・性器ヘルペス・帯状疱疹について
サル痘(さるとう)の予防法は?
サル痘の予防法としては、天然痘ワクチンの接種があります。
天然痘ワクチンには約85%の猿等予防効果があることがわかっています。
現在、天然痘ワクチンは国家備蓄されている状況で、厚生労働省は7月29日にサル痘ワクチンとして承認しました。
1976年まで天然痘ワクチンは接種を実施していましたので、40代後半以上の方は接種歴があると思います。
接種歴がある方はもしかしたらサル痘への免疫が残っている可能性があります。
また、ワクチン以外での私生活での予防法としては以下のものがあります。
- サル痘感染者・疑い患者や、その使用物に接触しない
- 石鹸あるいはアルコール消毒を行う
- アフリカでは動物(げっ歯類、霊長類)との接触を避ける
サル痘の病院での検査や治療・治療薬は?
サル痘の確定診断は、皮膚病変を採取しPCR検査を行なってウイルスのDNAを確認することで診断します。
コロナウイルスで多く用いられている抗原・抗体検査はサル痘の検査として推奨されておりませんので、間違った情報に惑わされないように注意が必要です。
現在、サル痘に対する治療薬はありませんが、天然痘に対する抗ウイルス薬である「テコビリマット(TPOXX)」が有効と言われています。
アメリカの製薬会社が天然痘の治療薬として開発したオレンジ色のカプセル型の飲み薬です。
すでにアメリカやヨーロッパではサル痘の抗ウイルス薬として承認されています。
しかしながら、日本では臨床研究での投与を検討している段階ですので、一般的に使用することは残念ながらできません。
つまり、現在国内で使用できる治療薬はないということです。
また、もし感染が発覚してしまった場合は次のようにして過ごしましょう。
- 発疹の全ての部分を衣服、手袋、包帯などで覆う
- 発疹とその他全ての症状がおさまるまで、マスクを着用する
- 身につけたり、扱ったりしたものは絶対に共有しない
- 他人との性的接触、身体的接触を避ける
- 人混みや集会を避ける
- 発疹に触れた後は石鹸でしっかりと手を洗うか、アルコール消毒を使用する
関連記事:女性に多いカンジダ症ってどんな病気?男女別の症状や原因、治療について
まとめ
サル痘について理解いただけましたでしょうか。
男性に多く、また感染者も特徴的であることはわかったと思います。
サル痘は性感染症ではありません。
また、サル痘患者=ゲイ、バイセクシャルというわけでもありません。
誰にでもかかりうる感染症になってきていると考えられます。
現在、日本ではサル痘の患者数も減少してきています。
しかし、欧米のように数千人あるいは数万人の感染者が出る可能性もあります。
患者が触れた場所に触れると間接的に感染リスクがあるため、アルコール消毒などが対策として有効となるしょう。
今後の動向に注目して新たな情報が出た際は、再度記事を書かせていただきます。
【おまけ】根絶された病気「天然痘」のワクチンが存在する理由とは
天然痘は根絶されたはずなのになぜかワクチンは世界中の国々が確保しています。
なぜだと思いますか?
それは、「バイオテロ対策」です。
バイオテロとは、人に害を及ぼすウイルス、細菌、真菌などの病原体及びその産生する毒素を用いて無差別に大量殺人をしようとする行為です。
天然痘は感染力と致死率が非常に高く、致死率は20~50%もあるとされています。
1980年に地球上で初めて人類が根絶させた感染症なのですが、政府レベルの実験室では天然痘はいまだ保管されています。
このように致死率が高いウイルスが実験室から流出してしまった場合やバイオテロに用いられた場合、世界中でパンデミックになることは予想がついていました。
そのための対策として各国は天然痘ワクチンを製造、備蓄しているのです。
天然痘ワクチンの再接種が必要となるかはまだわかりません。
今後、欧米では感染ハイリスクな人々への接種が進んでいくと思われます。
天然痘ワクチンはコロナワクチンと違い、古くから使用されており安全性は担保されています。
必要となった場合は、天然痘ワクチンの接種することをおすすめします。
参考資料
・WHO(世界保健機関)
ttps://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox
・厚生労働省:
・CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
・Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries — April–June 2022
・Clinical features and novel presentations of human monkeypox in a central London centre during the 2022 outbreak: descriptive case series
ヘルペスはうつるの?口唇・性器ヘルペス・帯状疱疹について
ヘルペスウィルスについて皆さんご存じでしょうか。
ヘルペスは僕らの身近にあるウィルスで、非常に感染力が強いウィルスになります。
ヘルペスという単語のみを知っている方は多いですが、実際の症状や危険性について知っている方は少ないのではないでしょうか。
今回は、出来る限り、わかりやすくお話しさせて頂きますね。
ヘルペスとは

まず大前提でヘルペスウィルスには複数の型があります。よく知られているのが口まわりに出来る口唇ヘルペスですね。
口唇ヘルペスを起こすウイルスは1型、2型があります。
他には水痘・帯状疱疹ウィルスといわれる3型、4型などがあります。
それぞれの型に併せて病気の名称が変わるので、今から詳しく説明します。
単純ヘルペスウイルス(HSV感染症)について
HSV(Herpes simple virus)とは単純ヘルペスウイルスのことを指します。
HSVが皮膚や粘膜に感染をすると小さな水ぶくれが集まった状態になり、『単純疱疹』と呼ばれる病気になります。
HSVにはHSV-1型、HSV-2型が存在します。
主にHSV-1型は口や皮膚に症状を認め、口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、カポジ水痘様発疹症を引き起こします。
またHSV-2型では性器に感染することで性器ヘルペスが生じます。
どの型でも水疱(すいほう)といった水ぶくれ状態になることが特徴で痛みやかゆみを伴います。
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV感染症)について
VZV(Varicella zoster virus)とは水痘・帯状疱疹ウイルスのことをさします。
水痘(すいとう)は急性期の感染症であり、帯状疱疹(たいじょうほうしん)は潜伏期を持って再活性化によって起きる病気になります。
水痘
水痘とは水疱瘡(みずぼうそう)のことを指し、予防接種にて罹患(病気になること)する方は少なくなりましたが、いまだに水疱瘡になる子供は多くいます。
また予防接種の抗体がなくなり、大人になり再罹患される方も増えています。
水疱瘡は全身に文字通り水疱がポツポツと出来る病気で、発熱もきたすことがあり、感染力が高い病気になります。
帯状疱疹
帯状疱疹は神経節や関連する皮膚分節の皮膚において、再活性化し症状をきたします。
疱疹といった皮疹が顔面に生じたり、耳に生じたり、体に生じることがありますが、基本的には片側といった特徴があります。
関連記事:おりものが臭う、量や色に違和感・異常を感じたときに考えられる病気とは
ヘルペスの感染力は?どうやってうつるの?
ヘルペスは水疱を皮膚にきたしている状態において、水疱の中にウィルスが含まれています。
破れることなどで人に移ったりとさまざまな経路で他人に感染を及ぼします。
空気感染、飛沫感染、接触感染を感染経路として認めており、中でも空気感染は日常生活で避けるのが難しく、入院での隔離が必要な場合があります。
単純ヘルペスウイルス(HSV感染症)の原因や症状
口唇ヘルペスの原因や症状
主な感染ルートとして傷のある手などで、他の人のヘルペスで生じた、水泡やびらんに直接ふれることで起きる接触感染によって感染します。
他にはくしゃみやせき、会話による唾液による飛沫感染も一つの原因と考えられています。
症状としては痛み、ムズムズ感、チクチク感といった違和感を認め、身体上は口が赤く腫れた後に水ぶくれ(水疱)ができます。
この水疱の中にウィルスがたくさん入っており、破れた部分に他人が触れることで感染する危険があります。
水疱が破れた後に痂疲(かさぶた)ができ、正常状態に移行していきます。
痂疲(かさぶた)の状態になると感染力がなくなったと考えます。
性器ヘルペスの原因や症状
主な感染ルートとしてはコンドームを使用しないことでの性行為感染になります。
昨今ではオーラルセックスといった口腔性交が原因で感染が広がっているとも考えられています。
新生児においても一定数単純ヘルペス感染症を認めることがわかっています。
新生児単純ヘルペス感染症は、後遺症や死亡率が高いことがわかっており発生率は出生した3000~20000人に1人といわれており、妊婦の経胎盤感染が原因と考えられています。
症状としては口唇ヘルペスと同様で痛みやかゆみ、違和感などが生じます。
口唇と違い、性器はデリケートゾーンにあたるため、このような感覚は非常につらいと訴える方が多いです。
免疫力の低下で再発することも
単純ヘルペスウィルスは、一度感染すると、神経節といわれる神経細胞に潜伏し続けることがわかっています。
風邪などを引いたり、過剰にストレスがかかっていたりすることで免疫が低下すると、潜伏していた単純ヘルペスウィルスが再活性化され症状を引き起こします。
なので口にヘルペスが出来ると一般的に体調が悪いかもしれないと思うのは理解できますよね。
関連記事:梅毒の初期症状はしこり?皮膚の湿疹になる原因や感染経路、治療、検査について
水痘・帯状疱疹ウイルス( VZV感染症)の原因や症状

水痘(水ぼうそう)の原因や症状
水痘(水ぼうそう)は水痘・帯状疱疹ウィルス(VZV感染症)に初めて感染したときに発症する感染症になります。
水痘に対する免疫がなければ感染後2週間程度の潜伏期間をもって、発疹が出現し、発熱を引き起こします。
日本では過去に小児を中心に年間100万人が水痘に罹患していましたが、2014年に水痘ワクチンの定期接種を期に5歳未満の患者数は少なくなりました。
水痘の感染力は非常に強いです。感染経路としては空気感染、飛沫感染、接触感染によってウィルスが上気道から侵入し、2週間前後の潜伏期間を経て発疹が出現します。
空気感染するということは水痘を発病している人と同じ空間を共有した場合、感染するということです。
空気感染を予防するのは困難であり、発病を防ぐことの出来る唯一の方法はワクチン接種による予防のみになります。
帯状疱疹の原因や症状
帯状疱疹の原因は水痘・帯状疱疹ウィルスが過去に感染したことで神経節に潜伏し、そのウィルスが再活性化することで生じます。
中高年で症状が起きることが多いです。
皮疹は浮腫性紅斑から小丘疹・小水疱へと変化し、5日ほどで痂皮化、3週間程度で治癒します。
免疫抑制状態と関連があるとされていますが、実は9割以上の患者で免疫機能は正常であることがわかっています。
皮疹は単一の神経領域に分布することが原則であるので、片側の症状が基本になります。
よって全身に汎発性皮疹を呈した場合は、免疫抑制がしっかり認めている危険な状態と考えます。
各神経節で起きる症状によって病気の名称が変わります。
耳介帯状疱疹
顔面神経節で生じる場合は耳介帯状疱疹と呼び、顔面神経麻痺(Ramsey Hunt症候群)を起こすことがわかっています。
Hutchinson徴候
また三叉神経第1枝領域でおきる帯状疱疹では顔面に発疹が生じ、外眼筋麻痺が出る可能性がでてきます。これをHutchinson徴候と呼びます。
単純ヘルペスと帯状疱疹の違いは?
口唇ウイルスや性器ヘルペスなどの単純ヘルペスは単純ヘルペスウイルスの感染によって起こります。一方、帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの感染によって起こります。
この2つのウイルスはとてもよく似ていて、一度感染すると一生涯体の中に潜み免疫力が落ちたときに症状が出るという特徴を持っています。
水ぶくれや痛みが出る症状も同じですが、単純ヘルペスは口の周りや性器などにで切るのに対して、帯状疱疹は主に上半身の片側に帯状にできます。
一般的に、帯状疱疹の方が症状の範囲が広く、痛みも強く、後遺症が残ることがあるといわれています。
また、帯状疱疹にはワクチンがあり予防できますが、単純ヘルペスに対するワクチンは現時点ではありません。
関連記事:放置すると危険?毛じらみの原因や症状、肉眼での見つけ方などについて解説
ヘルペスかもと思った時の対処方法
こんな症状が見られた場合はすぐに病院へ
口唇ヘルペス、性器ヘルペスも水疱が見られたら、可能な限り早く受診されることをおすすめします。
再発を繰り返す病気にはなりますが、早期加療により、再発抑制もされやすくなるといった報告や初期症状を抑えられる利点があるためです。
何科に行けば良い?
主に内科、皮膚科、泌尿器科に受診されることをお勧めします。
基本的にはよくある病気ですので、診断自体は採血含めた診察で行われることが多いです。
市販薬でも治る?
自然治癒でも症状自体は数週間で治まることがあります。
治療としては抗ヘルペスウィルス薬を内服または外用するといった対応、または重症例では抗ヘルペスウィルス薬の点滴加療も必要になる場合があります。
市販薬で痛みなどの症状の軽減はできますが、なるべく早期より抗ウィルス薬での加療をすることをお勧めします。
関連記事:女性に多いカンジダ症ってどんな病気?男女別の症状や原因、治療について
家族や身近な人がなった場合は?
親や兄弟などの家族や恋人など身近な人が感染した場合はできる限り症状出現時に治療の早期介入をすることをオススメします。
感染を広げる可能性があるため、マスクをすることや、手袋での対応を心がけることも必要になります。
西春内科・在宅クリニックでの対応
病院に受診することで診断をつけることができ、薬の治療を受けることができます。
治療においては基本的には内服薬、外用薬での対応になり症状出現時に早期加療が患者予後につながることがわかっております。
早期診断を行い、治療薬の処方が可能なため患者様の予後がよくなると考えております。
まとめ
ヘルペスウィルスは身近にある病気でありますが、早めに加療を行うことで、改善を得やすく、合併症が起きにくくなる病気になります。
西春内科・在宅クリニックでも積極的にヘルペスウィルスによる病気の治療も行っていますのでお気軽にご相談ください。
クラミジアは男性も女性もかかる?潜伏期間や感染経路、症状や治るまでの期間について
今回のテーマは「クラミジア」です。
クラミジアは最も多い性感染症であり、リスクは比較的高いものとなります。
クラミジアについて、正しい知識を持っていただきたいので、男女別にクラミジア症状や治療についてわかりやすく解説します。
クラミジアとはなにか
クラミジア感染症は「クラミジア・トラコマティス」という病原菌が感染することによって症状が起こります。
日本で最も多い性感染症であり、感染者数は100万人以上といわれています。
特に10代後半から20代にかけての感染者が多いことが特徴です。
感染者数は10年程前から急増しており、20代前半では性交経験のある女性の10~20%に感染しているとされています。
健常成人のクラミジアの保有率は男女とも3~5%といわれているため稀な感染症ではなく、無症状患者も多いと考えられています。
また、クラミジアに感染していると、HIV(エイズウイルス)への感染率リスクを3~5倍に増加させるといわれています。
関連記事:女性に多いカンジダ症ってどんな病気?男女別の症状や原因、治療について
身に覚えがない?クラミジアの感染経路と潜伏期間
感染経路や原因
クラミジアに感染する原因は性行為です。
性行為にはオーラルセックス、アナルセックスも含まれます。
クラミジアは粘膜から粘膜へと感染するため、感染者との粘膜レベルでの接触や分泌物を介して性器や咽頭に感染します。
クラミジア感染者と性交渉を行うと、30~50%の程度の確率で感染するため1回の性行為によって感染する可能性が高いです。
性行為での感染は、女性の方が男性に比べて感染のリスクが高いとされています。
また、性行為だけでなく、キスもクラミジアに感染する原因の一つです。
一方で、プールや温泉など、性行為以外の場で感染することはほとんどありません。
潜伏期間について
感染から発症までの潜伏期間は、およそ1~3週間となります。
この潜伏期間でも、性行為によって感染を起こします。
潜伏期間を超えた場合でも、およそ半数は無症状であるため感染に気付くことなく周囲に感染させてしまう可能性もあります。
男性のクラミジアの症状
男性がクラミジアに感染した場合、初期は主に尿道を中心とした症状が見られます。
代表的な症状として、尿道のかゆみ、排尿時痛、尿道からの分泌物(透明や膿)があります。
治療を行わず放置していった場合は症状が悪化したり、精巣の脇にある精巣上体に炎症を起こしたりすることがあります。
精巣上体炎の症状としては、陰嚢の腫れや痛み、高熱、悪寒などがあります。
さらに悪化すると、陰部全体の炎症や、前立腺の炎症などを引き起こし、男性不妊や、歩行困難となることもあります。
女性のクラミジアの症状
女性がクラミジアに感染した場合、初期は主に子宮の入り口である子宮頚管を中心とした症状が見られます。
代表的な症状として、おりものの増加、不正出血、下腹部の痛み、排尿痛、性交痛などがあります。
女性は男性と比較すると症状は軽症である場合が多いです。
治療を行わず放置した場合は、卵管、卵巣、骨盤内そして腹腔内へと感染が広がっていくことがあります。
卵管、卵巣に炎症を起こした状態を付属器炎、感染が広がり骨盤内下腹部に及んだ状態を骨盤腹膜炎と呼び、症状としては発熱や強い下腹部痛が見られます。
ここまで炎症が及んでしまった場合、炎症によって卵管の周囲が癒着で硬くなってしまうため、卵管の機能不全を引きおこす可能性が高くなります。
卵管は卵巣から出てきた卵子をキャッチして子宮に運ぶ機能がありますので、機能不全に陥ってしまうと不妊の原因となります。
炎症がひどい場合は手術によって卵巣や卵管を切除しなければならない可能性もあります。
さらに炎症が広がって上腹部まで及んだ場合、肝周囲に炎症を起こしてしまうことがあります。
このように骨盤内の炎症が肝臓まで及んでしまう病態を総じてFitz-Hugh Curtis(フィッツフューカーティス)症候群と呼びます。
症状としては発熱に加え右上腹部痛や季肋部痛といった消化器疾患とよく似た症状を示します。
消化器科を受診しても、なかなか原因までたどり着くことができず、診断や治療が遅れてしまうことがあります。
淋病との違いは?
淋病は、クラミジアと症状がよく似ているため、症状だけでどちらの菌に感染しているかを判断することは非常に難しいです。
どちらの疾患も無症状患者が多いことも特徴的です。
また、20~30%程度の患者さんでは淋病とクラミジアを合併しているとされています。
しかしながら、症状は似ていますが、治療については全く異なります。
クラミジアは抗生剤の内服で完治することがほとんどですが、淋病に対してクラミジア治療薬は効果がなく抗生剤の点滴や筋肉注射が必要となります。
そのため、ご自身で判断して間違った治療をおこなってしまうと全く効果がないうえに、どんどん悪化していってしまいます。
ですので病院で診断をつけて、正しい治療をおこなう必要があります。
クラミジアかな?と思った時の対処方法
「おや?おかしい、クラミジアかな?」と思ったときは病院を受診しましょう。
病院では次のような検査や治療がおこなわれます。
女性が行くべき診療科
女性が症状からクラミジアを疑った場合は、産婦人科あるいは性病科を受診しましょう。
男性が行くべき診療科
男性が症状からクラミジアを疑った場合は、泌尿器科あるいは性病科を受診しましょう。
どんな検査をするのか
女性の場合は膣分泌液を、男性の場合は尿を採取し、クラミジアの菌を確認することで感染を判断します。
方法としては、培養法、抗原検出法(PCR法など)があります。
培養法は採取物を特殊な培地の上に広げて菌を増殖させて観察することで診断します。
診断までは少し時間を要します。
抗原検出法(PCR法)は採取物中に含まれる菌の遺伝子を見つけることで診断します。
1-2日で診断をつけることが可能です。
また、血液検査で抗体価を測定する方法もあります。
血液検査の場合は過去の感染も反映してしまい、治療が終わっている患者さんでも陽性となるため行われない場合も多いです。
どんな治療をするのか
クラミジアは細菌であるため抗生剤が有効となります。
そのため、主な治療としては抗生剤の内服となります。
マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系の抗生剤が用いられます。
治療期間は長くて1週間程度となります。
ただし、炎症が広がってしまっている場合には、点滴で治療を行う必要があります。
内服期間を終えたのちに再検査を行って細菌がいないことを確認して完治と判断されます。
症状がなくなったためご自身で治療をやめてしまう患者さんもいますが、必ず内服を完遂し、再検査を行ってください。
また、近年、薬剤耐性菌が増えてきており、抗生剤の効果がみられない場合があります。
そのため、再検査を行って完治の確認をすることは非常に重要となります。
市販薬での対応は可能?
抗生剤は市販されていませんので、市販薬で完治することはありません。
症状が落ち着いてしまう場合がありますが、この場合でも菌は感染部位に残っているため、周囲への感染を引き起こしてしまいます。
不妊の原因となりますので、必ず病院に受診してください。
クラミジアの予防方法
前述のとおり、クラミジアは粘膜接触による感染です。
コンドームの使用で予防することができます。
オーラルセックスやアナルセックスのときにも使用することで予防できます。
一度感染した場合でも、正しい内服を行えば治癒できます。
感染予防だけでなく、再発の予防も重要となります。
感染が判明した場合はパートナーにも検査を受けてもらいましょう。
パートナーが無症状感染状態である場合、治療をおこなっても、再度感染を起こしてしまいます。
感染を交互に繰り返すため「ピンポン感染」と呼ばれています。
関連記事:ヘルペスはうつるの?原因や症状、治し方や口唇・性器ヘルペス・帯状疱疹について
まとめ
今回はクラミジア感染症について説明させていただきました。
無症状の患者も多いですが、不妊の原因になるなど放置しておくことが危険な病気であることがわかっていただけたでしょうか。
病院を受診していただければ治癒する可能性が高い病気です。
悪化する前の受診と治療を行いましょう。
性感染症は病院を受診することが恥ずかしいと思われる方も多いと思います。
正しい治療が必要ですので、パートナーと一緒に病院を受診していただくことが大切です。
また、一度かかって治癒した場合も、再発リスクを避けるような生活を送ってください。
急増中『梅毒』はどんな病気?の原因と初期症状について
昔の病気というイメージがある梅毒。
しかし、ここ数年は患者として報告される人数が急激に増加しています。
今回は、そんな梅毒の感染経路や、症状、予防方法などについて詳しく解説していきます。
梅毒とはどんな病気?
梅毒は、性的な接触(他人の粘膜・皮膚と直接接触すること)などにより感染するもので、性感染症に分類されます。
症状のひとつである赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることからこの病名がついています。
かつては不治の病といわれていた
抗生物質が登場するまでは決定的な治療法が存在しませんでした。
水銀やヒ素を用いたものなど現在では否定された治療が行われていた時代で、人々からは不治の病と恐れられていました。
この時代には改善を認めないまま重症化するケースがほとんどでした。
現代では、早期治療を受けることで、完治が可能な病気になります。
しかし、治療を受けずに放置していると、原因菌が血行性全身に行き渡り、さまざまな臓器に障害を引き起こします。
ここ数年で感染者増加傾向
日本では1948年から梅毒の発生件数が集計されています。
報告された患者数は、1967年の11000人を最多とし、その後何回かの小さな流行はあったものの、おおむね減少傾向にありました。
しかし、2010年以降は梅毒患者の報告数が増加に転じています。
2019年~2020年は減少したものの、2021年以降、再び大きく増加しました。
さらに、2022年には感染者数が1万人超える報告がありました。
患者を年代別にみると男性は20代から50代まで幅広く、女性は20代が突出して多くなっています。
特に、若い世代を中心に梅毒の感染リスクが急速に高まっています。
症状は一時的に消えることがあるが自然治癒することはない
梅毒は早期の薬物治療を受けることに完治が可能な感染症です。
検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。
時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。
また完治しても、感染を繰り返すことがあり、再感染の予防が必要です。
関連記事:女性に多いカンジダ症ってどんな病気?男女別の症状や原因、治療について
梅毒の原因や感染経路
原因は、梅毒トレポネーマ(treponema pallidum)という細菌です。
主な感染経路は、感染部位と粘膜・皮膚の直接の接触(接触感染)になります。
具体的には、性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口の接触(オーラルセックス)です。
キスや、傷口からも感染します。
梅毒の症状について
主な症状は皮膚のしこりや発疹です。
後述しますが、感染(接触)後の経過期間により、症状や発現部位が変わってきます。
また、時期によっては症状が全くないこともあります。
治療しないまま放置していると病気が進行します。
第1期症状(初期症状)
感染後3~6週間の潜伏期の後に感染部位(主に陰部、口唇部、口腔内、肛門など)に「しこり」ができることがあります。
また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れることもあります。
この時期は痛みがないことも多く、治療をしなくても症状は自然に軽快します。
しかし、体内から病原体が消失したわけではないため、他人に感染させる可能性があるため注意が必要です。
自身が感染した可能性がある場合には、この時期に梅毒検査を受けることが推奨されます。
第2期症状(3ヶ月経過)
治療を受けないまま感染後3か月を経過すると、病原体が血液によって全身に運ばれます。
この時期になると手掌(手のひら)、足底(足の裏)などの皮膚や粘膜に赤い発疹が出ることがあります。
これらは小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(ばらしん)」という名で呼ばれています。
これらの発疹もまた、治療を受けないまま放置していても数週間以内に消える場合があります。
その一方で、再発を繰り返すこともあります。
しかし、第1期症状と同様、抗菌薬による治療をしない限り、原因菌である梅毒トレポネーマは体内に残存しています。
この状態を潜伏梅毒といいます。
なお、これらの皮疹はアレルギー・風しん・麻しんなどの症状と区別がつきにくい場合があります。
この時期までに適切な治療を受けられなかった場合は、数年後に複数の臓器障害につながることがあります。
第3期症状(3年から10年経過)
感染後3年以上が経過すると、晩期顕症梅毒としてゴム腫と呼ばれる腫瘍が皮膚や筋肉、骨などに発生することがあります。
現代であれば、この時期までには治療を受けられることがほとんどです。
しかし、治療を受けずに放置すると腫瘍があらわれます。
第4期症状 (10年以上末期症状)
感染後10年以上が経過すると、末期症状として以下のような症状などが認めらることがあります。
- 多くの臓器に腫瘍が発生
- 脳・脊髄・神経などが侵されることによる麻痺性認知症
- 脊髄瘻梅毒が発生
- 心血管症状
- 目の炎症
現代は検査と治療で3期や4期はほとんど見られない
現代では、ペニシリン系などの抗菌薬が有効で、このような病期にまで至ることは稀です。
ただし、医師の許可を得るまでは症状がよくなっても治療を中断せずに継続することが大切になります。
関連記事:ヘルペスはうつるの?原因や症状、治し方や口唇・性器ヘルペス・帯状疱疹について
梅毒かな?と思った時はどうしたらいい?
性的接触の後、いつもと違う症状が現れるなど、梅毒に感染しているか不安な場合には、早めに医療機関を受診し、検査を受けましょう。
少しでも不安があれば検査
梅毒は、診察と血液検査(抗体検査)で診断することができます。
地域によっては、保健所で匿名検査や無料検査を受けられるところもあります。
詳しくは、最寄りの保健所にお問い合わせください。
治療薬について
現在では抗菌薬を使用することにより治癒が期待できます。
抗菌薬(抗生物質)の内服、もしくは、入院のうえ点滴することにより治療を行います。
処方された内服抗菌薬は、医師が治療終了と判断するまで確実に服用することが大切です。
途中で止めてしまうと効果がありません。
なお、2022年1月には、厚生労働省の要請により、早期梅毒(第1~2期)では1回、後期梅毒では3回の筋肉注射だけで投与が完了できる抗菌薬も登場しました。
何科に行ったらいい?
|
男性
| 女性 |
|
泌尿器科・性病科・皮膚科
| 産婦人科・皮膚科・性病科 |
なお、検査結果を正確に判断するために、以下などについて医師に正確に伝えることが大切です。
- 感染(が疑われる)機会の有無
- その際の感染予防状況(コンドームの使用の有無など)
また、梅毒に感染していたと分かった場合は、周囲で感染の可能性がある方(パートナーなど)にも医療機関の受診・検査を奨めましょう。
パートナーも感染していた場合は、並行して治療を受けることが大切です。
梅毒の予防方法
梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマ(treponema pallidum)は、傷口からの浸出液、精液、膣分泌液、血液などの体液に含まれています。
これらが非感染者の粘膜や傷口などと直接接触することで感染します。
感染経路の多くが、性器、肛門、口などの粘膜を介する性的な接触です。
梅毒への感染を防ぐためには、コンドームを適切に使用し粘膜の直接の接触を避けるようにしましょう。
避妊のためにピルは性感染症の予防には役に立ちません。
オーラルセックスやアナルセックスでは妊娠の可能性がないためコンドームを使わない方が多いかもしれません。
しかし、使用しないままでは梅毒を含む性感染症のリスクになります。
多数の相手と性的接触を持つと、感染する・させるリスクが高まります。
また、早期梅毒(第1~2期)の方が感染性の高い状態であること、再感染は何度でも起こりうること、梅毒感染による粘膜病変が存在するとHIVなどの他の性感染症にも感染しやすくなります。
関連記事:気づきにくい【最も多い性感染症】クラミジアについて
まとめ
今回は、梅毒の感染経路や、症状、予防方法などについて、詳しく解説しました。
梅毒は感染に気づきにくいこともあり、検査・治療の遅れや感染拡大につながりやすい感染症でもあります。
あなた自身のみならず、大切なパートナーを守るためにも、正しい知識を身につけ、必要に応じて医療機関を早めに受診しましょう。
※参考文献 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201712/3.html
【秋から冬にかけて注意】ノロウィルス感染症になる原因や症状、消毒方法を解説
寒い季節になると流行するのが感染性胃腸炎。
その一番の原因となるのがノロウイルスです。
- ノロウイルスってなに?
- どんな症状が出るの?
- 予防法は?
今回は、このような疑問にお答えしつつ、ノロウイルスについて詳しく解説していきます。
ノロウィルス感染症とは
ノロウイルスとは
ノロウイルスはヒトの小腸粘膜で増殖するウイルスです。
感染性胃腸炎(急性胃腸炎)の代表的なウイルスですが、食中毒の代表的なウイルスとしても知られています。
ヒトに感染すると主に胃腸炎症状を引き起こします。
感染者は冬を中心に、年間を通じてみられます。
1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークという街の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者の便からウイルスが検出され、その土地の名前からノーウォークウイルスと呼ばれていました。
その後、2002年8月に国際ウイルス学会で「ノロウイルス」と命名されました。
ノロウイルスの特徴
直径30~40nm(ナノメートル)前後の丸いカップ状のタンパク質の中に遺伝子が包まれた構造をしています。
多くの遺伝子型が存在し、培養した細胞や実験動物でウイルスを増やすことができないことから、ウイルスを分離して特定することは困難とされてきました。
しかし、近年新しい検査法(PCR法)の開発および普及によってウイルスの検査が可能になっています。
ノロウイルスの感染経路
ほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられています。
- 感染者のノロウイルスが大量に含まれた便や吐物から手などを介して二次感染する
- ヒト同士の接触する機会が多いところ(家庭や共同生活施設など)でヒトからヒトへ飛沫感染などによって直接感染する
- 食品を取り扱う人(食品製造に関わる人、飲食店や家庭で調理を行う人など)がノロウイルスに感染しており、その人を介して汚染した食品を食べる
- ノロウイルスに汚染されていた二枚貝(特にカキなど)を、生あるいは十分に加熱調理されていない状態で食べる
- ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道の水を消毒が不十分な状態で飲む
また、ノロウイルスは飛沫感染だけでなく、比較的狭い空間などでの空気感染によって感染が拡大したとの報告もあります。
こんな一例があります。
2006年、東京都内の某ホテルでノロウイルスの集団感染が起きました。
保健所の調査では、ホテルで提供された食事そのものからはノロウイルスは検出されず、また、厨房の調理者は無症状であり、検便からもノロウイルスは検出されませんでした。
しかも、ホテルで調理された食事を食べていない利用客やホテルの従業員からも同時期に多数の発症者が出ていました。
さらに調査を続けると、集団感染が起こる数日前に利用客の一人が通路のじゅうたんの上に嘔吐していたことがわかりました。
その通路は換気が悪く、吐物の処理は消毒剤ではなく洗剤で行われていました。
そのため、じゅうたんに付着していたノロウイルスが乾燥し、さらにその上を多数の人が歩いたり掃除機で掃除することによって空中にノロウイルスが舞い上がり、それを吸い込むことによって多くの人が感染してしまったのです。
ちなみに、この場合の空気感染とは、結核・麻疹(はしか)などのような広範囲に広がる空気感染(飛沫核感染) ではなく、ホコリとともに周辺に散らばるような比較的狭い範囲での空気感染と考えられます。
ノロウイルスの潜伏期間
およそ24〜48時間程度と言われています。
他のウイルスと比べて、感染すると比較的早く発症します。
ノロウイルスの感染の強さ
ノロウイルスの特徴として知られるのが、その感染力の強さです。
ノロウイルスは非常に小さいウイルスである上に、10~100個程度というわずかな量が体内に侵入するだけでも感染・発症してしまうとされています。
感染者の下痢便1g中には100万~10億個ものウイルスが存在すると言われているので、その少なさは歴然ですね。
発症率は、感染した人のうち約半分程度の人(およそ50%)しか発症しないとされています。
ところがこのウイルスの怖い点は、以下のような点です。
- 発症していない人でもウイルスを排出している可能性がある
- 症状がある人では、症状がなくなっても1週間〜1ヶ月程度はウイルスを排出している(=この期間中は感染源になりうる)
関連記事:子供に流行中のRSウィルス感染症(ライノウィルス)とは?症状や保育園の登園はどうすればいい?
ノロウィルス感染症が冬の時期に流行る理由
ノロウイルスに限らず、多くのウイルスは低温と乾燥を好みます。
そのため、冬では長く生存し感染力が強くなります。
また、空気が乾燥していることによって、ウイルスを含んだ飛沫などが素早く乾燥して小さくなり、より長く空中に浮遊することで感染範囲が広がります。
そのため、寒くて乾燥する冬に流行するのです。
ノロウィルス感染症の症状
吐き気・嘔吐・水のような下痢が出現します。
その他に、腹痛・頭痛・発熱・寒気・筋肉痛・喉の痛み・全身のだるさなどを伴うこともあります。
特効薬はなく、基本は数日でよくなりますが、乳幼児や高齢者などは重症化したり、嘔吐による窒息や下痢による脱水を起こすことがあるため注意が必要です。
関連記事:子供がお腹を痛がるときはどうすればいい?考えられる腹痛の原因や危険なサインとは?
ロタウィルス感染症との違い
症状や感染経路はノロウイルスと似ており、有効な抗ウイルス薬がないのも同じです。
とはいえそれぞれ違う点があるため、そのポイントを見ていきましょう。
それぞれの症状
ノロウイルスは吐き気や嘔吐が激しく、ロタウイルスは水のような下痢が長期間続く傾向があります。
時には白い便がみられることもあり、下痢によって重い脱水症状が出ることもあります。
さらに、ノロウイルスでは軽い発熱で済むことが多いですが、ロタウイルスでは39℃を超える高熱が出ることがあります。
ロタウイルスは、初めて感染した時に強く症状が現れる傾向があるため、乳幼児が感染した場合は特に注意が必要です。
感染した乳幼児の約半数が重症化して入院が必要になると言われています。
また、ノロウイルスの後遺症はほぼないとされていますが、ロタウイルスの場合は、繰り返すけいれんや急性脳症、多臓器不全などの後遺症がまれに残ることがあります。
二次感染について
ノロウイルスもロタウイルスも、感染した人の便に大量に含まれているため、それらを介して感染してしまう危険があります。
特に、ロタウイルス感染者の下痢便には、1gあたり1000憶〜1兆個のウイルスが含まれ、その数はノロウイルスの100万倍にもなります。
感染力はノロウイルスと同じで非常に強く、10~100個程度のわずかなウイルスが口に入っただけでも感染してしまいます。
さらに、症状が治まった後も1週間~10日間は便中にウイルスを排出し続けます。
再感染について
ノロウイルスは遺伝子型の種類が多く進化が速いため、一度感染してもまた別の型のウイルスにかかるなどして何度も感染し発症します。
一方、ロタウイルスは感染自体は繰り返すものの、2回目以降の感染では症状が軽くなる傾向があります。
5歳までにほぼ全ての子どもがロタウイルスへの感染を経験し、その後は大人になって感染してもほとんどの場合無症状です。
予防接種について
現時点ではノロウイルスを予防するワクチンはありません。
しかし、ロタウイルスのワクチンは既に開発されており、日本では2011年に承認されています。
2回接種と3回接種の2種類があり、どちらも生後6~32週までの乳児にしか接種できません。
しかも、いずれも1回目の接種は14週6日までに済ませることが推奨されています。
乳幼児は他の予防接種も受ける必要があるため、接種スケジュールを早めに相談して決定しましょう。
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ノロウイルス |
ロタウイルス | |
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好発年齢 |
主に成人 |
5歳未満の 乳幼児 |
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潜伏期間 |
1〜2日 |
2〜4日 |
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流行時期 |
11〜2月 |
3〜5月 |
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症状の特徴 |
吐き気・嘔吐 |
下痢(時に白色便)・高熱 |
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再感染 |
何度も同じ強さの症状が出現 |
徐々に症状が軽くなり大人は無症状 |
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後遺症 |
ほぼなし |
まれにけいれん・急性脳症など |
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ワクチン |
なし |
あり |
ノロウィルス感染症になったら何日休めばいい?
ノロウイルス感染症に関しては出席・出勤停止期間は設けられていないため、下痢や嘔吐などの症状がおさまれば登校・出勤可能です。
しかし、前述の通り症状が落ち着いてもウイルスを排出しているため注意が必要です。
なお、飲食店や給食センターなどで調理に従事する人が感染した場合、検便検査でノロウイルスを保有していないことが確認されるまで調理に従事させないようにすることが望ましい(=出勤停止)とされています。
このような職業に就いている方は下痢や嘔吐などの症状が出たらすぐ管理者に相談しましょう。
関連記事:子供がインフルエンザになった時の親の対応|風邪や似ている病気との違いについても解説
ノロウィルス感染症の検査・治療について
ここからは、ノロウイルス感染症の検査と治療について詳しく解説していきます。
ノロウイルス感染症の検査
通常、症状や周囲の感染状況などから総合的に判断してノロウイルス感染症と診断されることが多いです。
しかし、本当にノロウイルスが原因かどうかは臨床症状からだけでは特定できません。
ノロウイルス抗原検査は便中のノロウイルスを検査キットで検出するもので、3歳未満および65歳以上の方などを対象に保険が適用されています。
医療機関で医師が医学的に必要と判断した場合に行われ、診断の補助として用いられています。
なお、この検査は結果が早く出るというメリットがありますが、ノロウイルスに感染していても陽性とならない場合(偽陰性)もあります。
より確実なのは、患者の便や吐物を用いてPCR検査などでウイルスの遺伝子を検出する方法です。
便には通常大量のウイルスが排泄されるので、比較的容易に検出することができます。
こうした検査は通常医療機関では行われず、食中毒や集団感染の原因究明などの目的で行政機関や研究機関などで行われています。
ノロウイルス感染症の治療
ノロウイルスに対する抗ウイルス薬は現時点で開発されておらず、通常は対症療法が行われます。
特に乳幼児や高齢者は脱水症状を起こしやすいので、十分な水分補給を行いましょう。
脱水症状が重い場合は点滴などの治療が必要になります。
下痢止めは、ウイルスの排出を抑えて回復を遅れる場合があるので使用しないようにしましょう。
ノロウィルスを消毒する方法はある?
一般的な感染症対策としてアルコール(エタノール)などが用いられますが、ノロウイルスに対しては無効です。
完全に失活化させるには、次亜塩素酸ナトリウムや加熱による処理が必要です。
洗剤などで十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水で拭いたり浸けたりすることにより、ウイルスを失活化させることができます。
また、85℃~90℃で90秒以上加熱することでウイルスは感染力を失うとされています。
なお次亜塩素酸ナトリウムは、次亜塩素酸ナトリウムを含んだ家庭用の塩素系漂白剤でも代用できます。
使用にあたっては製品に記載されている「使用上の注意」をよく確認しましょう。
日常生活での注意点
次に日常生活でできる注意点について、食べ物と手洗い・うがいにわけて解説していきます。
食べ物
二枚貝(特にカキ)からの感染が多いと言われています。
できるだけ生食を避け、十分に加熱(食材の中心温度が85〜90℃以上で90秒以上)してから食べるようにしましょう。
なお二枚貝などを取り扱うときは以下を守り、他の食材への二次汚染を防止するよう心がけましょう。
- 専用の調理器具を使用する
- 調理器具を使用するたびに洗浄・消毒
手洗い・うがい
手洗いは、手指に付着しているノロウイルスを減らす最も効果的な方法です。
以下などを行った後などには必ず行いましょう。
- 調理を行う前
- 食事を提供する前
- 食事をする前
- トイレに行った後
- 感染者の汚物処理
- オムツ交換
石けんをしっかり泡立てて手指を洗浄したあと流水で十分にすすぎ、清潔なタオルやペーパータオルで拭きます。
常に爪を短く切っておき、指輪などの装飾品を外してから洗うのもポイントです。
石けんそのものにはノロウイルスを直接消毒する効果はありませんが、手の汚れを落とすことでウイルスも一緒に剥がしやすくします。
なお、アルコールによる手指消毒は、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりませんが、すぐに石けんによる手洗いができない場合、あくまで一般的な感染症対策として補助的に行ってください。
うがいも口や喉に入ったウイルスを排出するのに有効です。
積極的に行いましょう。
関連記事:家族内での感染を防ぐために|ウイルスや病原菌から家族を守る
西春内科・在宅クリニックでの対応
前述の通り、ノロウイルス感染症は対症療法が基本となります。
西春内科・在宅クリニックでは、整腸剤などの処方が可能です。
親子や、ごきょうだいで同じ症状で困っている場合などにもお気軽にご相談ください。
脱水症状がひどい場合は、点滴などによる治療を行う場合もあります。
まとめ
いかがでしょうか。
今回はノロウイルスについて解説しました。
手洗い・うがいをしっかり行い、感染予防に努めましょう!
緊張型頭痛の原因や治し方は?頭痛の特徴や対処方法について解説
この記事を読んでいるみなさんは、
「頭が痛くてなんだかスッキリしない」
「いつも肩が凝っていて頭が重い」
などといった悩みを抱えている方がたくさんいることと思います。
緊張型頭痛は、多くの人が経験する頭痛といわれています。
一般的に、医療機関でCTやMRIなどの画像検査や血液検査などをしても、異常は認められません。
頭痛があらわれるには、なんらかの背景要因があることが多く、その要因は何かを考えてみる必要があります。
頭痛に関する知識が深まり、その背景を知ることで、ご自身で適切な対処法を選択できるようになることもあります。
今回は緊張型頭痛について、症状の特徴や、予防法、対処法などを解説していきます。
緊張型頭痛とは?
頭痛には様々な種類があり、一次性頭痛と二次性頭痛の2つに分けることができます。
一次性頭痛は、機能性頭痛とも呼ばれます。
頭痛自体が病気とされるもので、主に片頭痛、緊張型頭痛、群発性頭痛などのことです。
二次性頭痛とは、器質性頭痛とも呼ばれます。
頭部外傷による急性頭痛や、くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎などの病気が原因で、症状のひとつとして頭痛があらわれるというものです。
一次性頭痛に比べ、二次性頭痛の割合は少ないものの、場合によっては生命や後遺症に関わることもあるため注意が必要になってきます。
緊張型頭痛は、一次性頭痛の中で最も多い頭痛のひとつで、10〜50歳代女性に多くみられます。
また、緊張型頭痛には種類があり、反復性と慢性に大別されます。
反復性と慢性は以下のように見分けられます。
反復性:月15日未満
慢性:平均して月15日以上、3ヶ月を超える場合
さらに反復性緊張型頭痛は、頭痛頻度により稀発型と頻発型に分けられます。
1ヶ月に1回未満の発作であれば、稀発型に分類されます。
稀発性のように頻度が少なく、かつ日常生活に支障がない場合には治療は必要ありません。
しかし、頻度が多い場合や慢性的な痛みにより、日常生活に支障がでる場合には治療が必要になってきます。
このように、多くの方を悩ませている緊張型頭痛ですが、医療機関を受診するほどではないごく軽いものから、生活の質(QOL)を大きく低下させる厄介なものまで、その程度はかなりの個人差があります。
加えて、緊張型頭痛を引き起こす原因や背景も多様化しており、さまざまです。
緊張型頭痛-反復性:月15日未満-稀発型(1回/月未満)、頻発型(1回/月以上)
慢性:月15日以上、3か月以上
緊張型頭痛の原因
緊張型頭痛の原因としては、以下があげられます。
ストレスからくる頭痛
以下などの精神的ストレスにより引き起こされる頭痛です。
- 心理的ストレス
- 社会的ストレス
- 不安
- うつ
- 妄想
精神的ストレスが関与している場合、特異的な身体症状がみられないことが多いです。
特異的な身体症状とは、痛む部位や症状がはっきりとしていないことです。
頭の右側が痛い、いつから痛み出したか、痛みの強弱に変化があるか等の症状の特徴がはっきりとしていない方が多くみられる傾向にあります。
関連記事:こわい頭痛の見分け方!頭痛で吐き気やめまいがする原因と対処法!
首や肩こりからくる頭痛
首や肩の筋肉が収縮し、こりがひどくなることにより引き起こされる頭痛です。
かつて緊張型頭痛は、筋収縮頭痛と呼ばれていたこともあり、日本人に一番多いタイプがこの頭痛になります。
休息や睡眠時間はしっかりと取れているにも関わらず、仕事中や休暇中関係なく、頭がスッキリしないといった症状がみられる傾向にあります。
また首から肩の筋肉にかけて、つっぱり感や痛みがみられたりします。
主な原因を2つあげましたが、上記一方だけに該当する場合もあれば、両者が混在している場合もあります。
他にも、頭痛に対する薬剤乱用などにより頭痛を引き起こすこともあります。
また、ストレスからくる後頚肩部の筋緊張が原因により頭痛が引き起こされたり、ストレスや長時間動かないことが原因で頭痛が起きるといった症例もあります。
緊張型頭痛の診断と特徴
緊張型頭痛の主な症状としては、以下になります。
両側性にみられることが多く、非拍動性である
痛みのほとんどが両側性もしくは頭全体にわたります。
緊張型頭痛はジワジワとした痛みです。
その痛み方は均一で、同じ強さの痛みが反復または継続して続きます。
頭重感、圧迫されるような、あるいは締め付けられる感じがあります。
肩こり、目の疲れ、耳鳴り、めまいなどを伴うことがあります。
日常的な動作により痛みが強くならない
日常生活における歩行や階段昇降などの動作により、痛みが強くなったと感じることはありません。
また日常生活に支障が出ることはあっても、通常寝込んでしまうことはありません。
悪心や光過敏、音過敏を伴うことはなく、あっても軽度
反復性緊張型頭痛に関しては、悪心や嘔吐なく、光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみになります。
それに対し、慢性緊張型頭痛は軽度の悪心、光過敏、音過敏はあってもいずれか一方のみの症状があらわれます。
緊張型頭痛の特徴の一つとして、頭蓋骨の周りの筋肉を圧迫することで、圧迫した部位に痛みが誘発されることがあります。
また、慢性的な緊張型頭痛(慢性緊張型頭痛)では、頭痛自体がストレス要因となり、二次的にうつや不安症の症状を伴うことがあります。
これらの心理的要因は、さらに痛みを強くさせる原因となる場合があります。
このような場合は、心療内科や精神科を併診することを検討してください。
また、緊張型頭痛は、稀に片頭痛との区別が困難なときがあります。
若い頃からもともと片頭痛であったものが、加齢や薬の影響により病像が変わり、片頭痛の特徴的な症状がみられなくなり、緊張型頭痛と区別がつきにくくなった場合もあります。
片頭痛と緊張型頭痛が間違われやすいケースとして、肩こりの症状があります。
肩こりがあると緊張型頭痛と考えられがちですが、片頭痛の予兆のひとつとしての、肩こりもあります。
さらに片頭痛発作というストレスから肩こりを引き起こすこともあるため、片頭痛発作が頻繁に起こるほど肩こりが持続的になります。
片頭痛は若い年齢層で働き盛りの世代にあることが多いため、慢性的ストレスにより肩こりを引き起こしやすい状況にあります。
しかし、緊張型頭痛と片頭痛の症状は対照的な部分が多くみられるのも事実です。
例えば、前述のとおり緊張型頭痛は、「両側性、非拍動性」が特徴的ですが、片頭痛は「片側性、拍動性」です。
緊張型頭痛はジワジワとした均一な痛みですが、片頭痛は脈を打つようなズキンズキンとした痛みで、痛みの強さや変化がはっきりとしています。
また、痛みが頭全体にわたる緊張型頭痛とは対照的で、片頭痛は痛みが片側にあらわれたり、両側で痛む場合でも痛みの強さに左右差があります。
緊張型頭痛はほとんど左右差がありません。
「日常的な動作」に関しても、緊張型頭痛は日常的な動作により痛みに影響はしないですが、片頭痛は日常的な動作をすることで、痛みが増したり寝込んでしまうこともしばしばあります。
また補足ですが、一次性頭痛には緊張型頭痛、片頭痛の他に群発頭痛があります。
群発頭痛の特徴として、片側の眼がえぐられるような激しい痛みがあります。
その痛みは、数週間〜数ヶ月の間、連日のように”群発して”起こる頭痛です。
20〜40歳代の男性に多くみられます。
痛みはほぼ毎日同じ時間に起こる傾向にあり、頭痛が起きている期間(群発期間)以外には頭痛はみられません。
群発頭痛発作中は、痛みと同じ側の眼だけが充血したり、涙が出たり、鼻水を伴います。
このような自律神経症状が顕著にあらわれていれば、区別は難しくありませんが、それらの症状に気づいていない場合など、片頭痛との区別が難しいことがあります。
片頭痛との区別としては、痛みが比較的短時間であること(15〜180分)と寝込んでしまう片頭痛とは異なり、痛すぎて居ても立ってもいられない、じっとしていられないというような落ち着かない状態になります。
このように身近な頭痛であるからこそ、痛みがどのような時にあらわれることが多いのか、どのような痛み方をするのかなど、ご自身でしっかり把握することが大切になってきます。
関連記事:片頭痛(偏頭痛)持ちの人特徴|原因や症状についての対処法
緊張型頭痛の対処方法について
緊張型頭痛は、以下の3つに分類されています。
- 稀発反復性緊張型頭痛
- 頻発反復性緊張型頭痛
- 慢性緊張型頭痛
頻発反復性緊張型頭痛と慢性緊張型頭痛に関しては、頭痛発作頻度が高いだけでなく、日常生活に支障をきたすことがあるため、治療が必要になってきます。
基本的には、頭痛発作時は鎮痛薬が治療の中心になりますが、不安を取り除いたり、心を落ち着かせる効果のある薬(抗不安薬・抗うつ薬)や筋緊張を緩和させる薬(筋弛緩薬)を併用することで高い効果が期待できます。
また、発作頻度の多い頻発反復性緊張型頭痛や慢性緊張型頭痛の場合、抗不安薬などの予防療法のほかにも、薬を使わない非薬物療法が推奨されています。
非薬物療法には、精神行動療法(認知行動療法、催眠療法など)、理学療法(運動プログラム、マッサージ、超音波など)、鍼灸、タイガーバームなどがあります。
中でも精神行動療法の筋電図バイオフィードバックなどが有効とされています。
筋電図バイオフィードバックとは、筋電図により筋の緊張度を測定し、これを観察しながら緊張度をコントロールできるようにする方法です。
この筋電図バイオフィードとリラクゼーションを併用することで、長期的な効果が得られることがあります。
また、慢性緊張型頭痛の場合、鎮痛薬などの飲みすぎによる”薬剤の使用過多”が多くみられる傾向にあります。
これにより頭痛がさらに悪化する場合があります。
そのため、鎮痛薬の服用頻度には注意が必要になります。
非薬物療法は薬による副作用も少なく、手軽に始められるものも多くあるため、慢性緊張型頭痛には適しています。
家庭でできる対処方法
ご家庭でできる対処方法として、以下があります。
ぬるめのお風呂に入りましょう。
日頃シャワーだけですませるという方は、ぬるめのお湯にゆっくりと入ることをおすすめします。
同じ姿勢を長時間続けないようにしましょう。
デスクワークなどで同じ姿勢をとる時間が長い方は、1時間に10〜15分ほど休憩を入れ、両手を回したり、背伸びなどで体をほぐすようにしましょう。
運動不足やうつむき姿勢は、緊張型頭痛を引き起こす要因でもあります。
家の周りをウォーキングしたり、ストレッチ、軽い筋力トレーニングをするのも効果的でしょう。
枕の高さを調節しましょう。
肩こりや頭痛、首の不調は、枕の高さが合わないことが原因でも起こります。
また高さが高すぎる枕は、頭痛を悪化させることがあります。
自分に合う枕の高さや、タオルを代用して枕を作ってみるのもいいでしょう。
リラックスする時間をつくりましょう。
適量のお酒やマッサージ、首や肩へ蒸しタオルなどをして温めることは効果的です。
また趣味や好きなことをする時間を作ったり、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
関連記事:後頭部頭痛の原因は?ズキズキとした痛みや吐き気は危険?
西春内科・在宅クリニックでの対応
西春内科・在宅クリニックでは、症状に応じて鎮痛薬などを処方することが可能です。
心理的な要因が頭痛の原因となっている場合は、抗うつ薬、抗不安薬などでの治療で頭痛が改善することもあります。
症状の程度や頻度、原因次第では、病院での診察や、精密な検査を行った上での継続的な治療が望ましい場合もあります。
まとめ
緊張型頭痛は、ありふれた頭痛の一つです。
その多くは、ストレスや生活様式などの環境的なものが原因と言われています。
治療には、対症療法として、まずは鎮痛薬が用いられます。
繰り返す場合は、頭痛を引き起こすもととなる原因や背景をしっかりと突き止める必要があります。
個々人で最も効果的な治療法は異なります。
抗うつ薬、抗不安薬、筋弛緩薬などの内服薬による治療の他に、薬物を用いない治療が必要な場合もあります。
治療ばかりに目をとらわれることなく、生活習慣などを見直すことで発作を予防できることもあります。
緊張型頭痛の特徴を知ることで、より適切な介入ができるでしょう。
また、緊張型頭痛と思われるような症状であっても、中には重篤な疾患が隠れている可能性もあります。
これまでに経験のないような痛み、突然起こる激しい痛み、発熱、手足の麻痺やしびれ、しゃべりにくさなどがみられる場合は、二次性頭痛の可能性があります。
二次性頭痛では、少しの診断や治療の遅れが命取りになる病気の可能性もあるため、救急車を呼ぶことを検討してください。
また、このような症状を伴わない場合でも、頭痛自体が日常生活に影響を及ぼすほど強い場合や頻繁に起こる場合は、医療機関を受診し、診察・検査を受けるようにしましょう。
参考文献

監修:楯 直晃 医師
プロフィール:医師,救急科専門医、抗加齢医学専門医、プライマリ・ケア認定医、内科認定医、産業医、健康スポーツ医
2013年 熊本大学病院 初期臨床研修医
2015年 熊本大学病院 総合診療専門修練医
2018年 国立熊本医療センター 救急集中治療部医員
2020年 リアラクリニック名古屋院院長
2021年 メディカル・テート株式会社 CEO
蕁麻疹(じんましん)によっておこる症状と対処法、原因について解説
蕁麻疹(じんましん)はよくみられる疾患ですが、突然出て、かゆみも強いので驚きます。かゆみで仕事に集中できなかったり、夜眠れなかったりします。
小さなお子さんがなられた場合、不安に感じられる親御さんは多いです。食べ物などのアレルギーをイメージされる方が多いと思います。
蕁麻疹の原因や対処法などを解説します。
蕁麻疹(じんましん)とは?
蕁麻疹は、皮膚に散らばっている肥満細胞が、何らかの理由でヒスタミンというかゆみを引き起こす化学伝達物質を放出することで起こります。
ヒスタミンは皮膚の血管を一時的に膨らませ、皮膚に赤みをおこし、血液中の血漿成分を周囲に漏れ出しやすくし、皮膚を盛りあがらせます。
このため、典型的な蕁麻疹の症状は、膨疹といわれるミミズばれのような赤い発疹が急激に一過性に出てきます。
かゆみを伴うことが多く、顔や首、全身のどこにでも出現し、目のはれをおこすこともあります。
関連記事:蕁麻疹の対処法は?全身が痒くて夜寝られないときはどうする?
蕁麻疹の原因について
| 特発性蕁麻疹 | 明らかな原因がない、最も多く7割を占める |
|---|---|
| 物理刺激による蕁麻疹 | 機械刺激、寒冷・温熱、日光など |
| コリン性蕁麻疹 | ピリピリ、チクチクし、数mmの細かい発疹 |
| アレルギー性蕁麻疹 | 食物や薬剤などに対するアレルギー反応 |
上の表は、分類・原因について簡単ですが、一覧にまとめたものです。
蕁麻疹がでると、ほとんどの方が「原因は何?」と質問されます。
意外に思われるでしょうが、7割近くが特発性と言われる直接の原因がないタイプなのです。
地図状、環状の蕁麻疹の方はこの特発性蕁麻疹のことが多いです。
かばんを持つと赤くなる人や、背中や腕をペンでこすると赤くなる人に多いです。
一度でると数日間毎日じんましんが出たり入ったり繰り返すこともよくあります。
発症してからの期間が 6 週間以内のものを急性蕁麻疹、6 週間以上を慢性蕁麻疹と呼びます。感染、疲労、ストレスなどが悪化因子となることもあります。
原因がある蕁麻疹として、圧力や、寒冷・温熱、日光などによる物理刺激による蕁麻疹や、ピリピリ、チクチク特徴的な痛痒さを伴い、蕁麻疹とは思えない数mmの細かな発疹がでるコリン性蕁麻疹、食物や薬物などに対するアレルギー反応である、アレルギー性蕁麻疹などがあります。
ここからは、原因がある蕁麻疹についての詳細を説明していきます。
アレルギーが原因
アレルギーが原因の蕁麻疹は、食物、薬、ラテックス(ゴムに含まれる)などに対するアレルギー性の蕁麻疹です。
食物や薬剤などを食べて数分から数時間で蕁麻疹がおきます。
ラテックスが入ったゴムや、エビにふれるだけで、じんましんがでる場合もあります。
蕁麻疹だけでなく、顔や口がはれるような感じがしたり、症状が強いと、呼吸が苦しくなったり、血圧が低下しアナフィラキシーショックというショック状態になり、亡くなる場合もあります。
食べ物が原因
食べ物が原因の蕁麻疹の中で、有名なのが花粉食物アレルギーと食物依存性誘発アナフィラキシーです。
花粉、食物アレルギーとは、元々花粉症をもっている方におきます。花粉のアレルゲンと、果物や野菜のアレルゲンが交差反応を起こすことが原因です。
花粉症がどの種類の植物の花粉なのかによって、花粉植食物アレルギーを起こす果物や野菜が推測できます。
花粉の種類はハンノキ、シラカンバ、スギ、ヒノキ、カモガヤ、オオアワガエリ、ヨモギ、ブタクサなどがあり、血液のアレルギー検査で調べることができます。
例えばハンノキに対して花粉症をもっている場合は、リンゴ、桃、豆乳などにアレルギーを起こす可能性があると推測できます。
スギ、ヒノキの場合はトマト。
オオアワガエリ、カモガヤの場合は、メロン、スイカ、キウイなど。
ヨモギはセロリ、ニンジン、マンゴー。
ブタクサはメロン、スイカ、キュウリ、バナナなどです。
花粉症をもっている方で、特定の食品をたべると口がはれるような感じがしたり、いがいがする違和感がある場合は花粉食物アレルギーがないか調べてみるといいでしょう。
また食物依存性誘発アナフィラキシーは、小麦とエビが有名です。
小麦、エビを食べるだけでは蕁麻疹がでなくても、食べてから運動をすると蕁麻疹が出現するので、なかなか原因がわからないことがあります。
その他の原因
圧力や、寒冷・温熱、日光などによる物理刺激により蕁麻疹が出現する物理性蕁麻疹というものもあります。
皮膚の表面をこすってでる機械製蕁麻疹、冷たい風にあたることでじんましんがでる寒冷じんましん、日光にあたることで蕁麻疹がでる日光じんましんなどが含まれます。
汗に対するアレルギーの関与が考えられている蕁麻疹としてコリン性蕁麻疹があります。
運動をしたりお風呂に入った時、緊張した時など、汗をかく場面で蕁麻疹がおきます。
ピリピリ、チクチク特徴的な痛痒さを伴い、蕁麻疹とは思えないほど小さな、数mmの細かな発疹がでるのが特徴です。
ストレスは蕁麻疹の直接の原因になるわけではないですが、蕁麻疹がでやすくなる閾値を下げるため、ストレスをため込むと蕁麻疹が出やすくなる可能性があります。
蕁麻疹でおこる症状
皮膚症状は赤い発疹が起こります。手足全体に及ぶ大きなものから、1,2mmほどの小さなものまであり、形も円形・地図上・線状など様々です。
見た目のみで蕁麻疹と診断するのは難しく、特に薬疹や中毒疹と言われる発疹との鑑別は皮膚科専門医でも、とても難しいと言われています。
見分け方のポイントは、赤い発疹1つ1つが数十分から数時間以内に消えることを確認することです。長くても半日から1日くらいで消えます。
蕁麻疹を疑うときは、一個一個の赤い発疹がでたり入ったりしながら、まるで移動しているようにみえないか観察してみてください。
皮膚症状以外に息苦しさや、話しにくさといった呼吸器症状、腹痛・嘔吐といった消化器症状を伴う場合は注意してください。
一般的なじんましんでは、呼吸器症状や消化器症状は通常起こりません。食物アレルギーなどが原因となり、アナフィラキシー症状を起こしている場合があります。
重症な場合、アナフィラキシーショックといい、呼吸困難が進行し窒息をおこしたり、血圧低下や意識障害がおき、亡くなってしまう場合もあります。
ポイント
- 発疹は数十分から数時間以内に消える
- 息苦しさや腹痛・嘔吐、意識障害などがみられた時は注意!
対処法や治療・治し方について
抗ヒスタミン薬というアレルギーを止めるの薬が一番大切です。
花粉症でも使用される薬剤です。
ステロイド外用薬・内服薬を使うこともあります。
アナフィラキシー症状が強くでている場合は、アドレナリンという注射薬が必要な場合があり、中には入院治療となる場合があります。
家庭でできる対処方法
蕁麻疹を見分けるのは難しいので、赤い発疹がでてきたら、慌てずにアナフィラキシーを示すような息苦しさや、腹痛・気持ち悪さ、意識状態の悪化がないか確認してください。
小さなお子様でしたら、元気があるか、普段通りに会話ができるか、話しにくそうでないか、呼吸が早くないか、お腹を痛がってないか観察してみるといいでしょう。
体が温まると、蕁麻疹がでやすくなくなるので、浴槽には入らず、シャワー浴とするといいです。蕁麻疹がでている場所をタオルで巻いたアイスノンで冷やすのも有効です。
蕁麻疹の予防方法
蕁麻疹は一旦起きると、数日続くことが多いので、蕁麻疹が消えても数日間は抗ヒスタミン薬を予防的に継続するのがコツです。
また通常の蕁麻疹に見えても、食物アレルギーが隠れていることも稀ですがあります。
食物アレルギーの特定の仕方について簡単に説明します。
食物アレルギーは原因となる食べ物摂取後、1、2時間以内におこることが多いです。
蕁麻疹を繰り返す場合は共通する食べ物がないか推測し、病院で検査をし、特定することができる場合があります。
ただし納豆、牛肉、豚肉、アニサキス(魚介類の寄生虫)に対するアレルギーの場合はかなり遅れてアレルギー症状がでる場合があるので注意が必要です。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーといって、食べ物を摂取して運動をしたときだけアレルギーが生じる病気もあり、小麦・エビが原因であることが多いです。
またアスピリン蕁麻疹といって、ロキソニン、イブ、バファリンなどの市販されている解熱鎮痛薬が原因であることもあります。
まとめ
蕁麻疹は診断が難しく、アナフィラキシーという命に係わる病気が隠れている場合があります。
ご不安な場合やかゆみが強い場合は、かかりつけ医、西春内科・在宅クリニックへ御相談ください。息苦しさや意識状態が急激に悪化する場合は、救急車を呼ぶことを検討ください。
参考文献
秀道広,森桶聡,福永淳ほか:日本皮膚科学会ガイドライン 蕁麻疹診療ガイドライン2018,日皮会誌,2018; 128: 2503―2624
田中稔彦,亀好良一,秀 道広:広島大学皮膚科外来での蕁麻疹の病型別患者数,アレルギー,2006; 55: 134―139
休日や夜間に頭が痛くなってしまった場合の対処法と病院を受診するべき基準について
いきなりですが、休日や夜間に急な頭痛に悩まされることはありませんか?
休日診療、夜間診療に行くべきか迷われる方は多いと思います。
今回はそんな頭痛についてお話します。
頭痛とは
頭痛が起きると非常に辛いですよね。
「いつもの頭痛だから大丈夫だ」と簡単に判断されないほうが良いことがあります。
頭痛は、それを引き起こす原因となる疾患がない場合とある場合に分かれます。
原因のないものを一次性頭痛、あるものを二次性頭痛といいます。
一次性頭痛とは
一次性頭痛には、片頭痛(へんずつう)、群発頭痛(ぐんぱつずつう)、緊張型頭痛(きんちょうがたずつう)が代表的です。
これらは二次性頭痛でないことを証明した上で、その特徴的な症状から診断されます。
またタイプによって治療方法が異なるため、専門の医師に詳しく診てもらった方がいいです。
片頭痛については以下の記事でも詳しくご説明しています。
関連記事:片頭痛(偏頭痛)持ちの人特徴や原因、症状の治し方や対処法をご紹介
二次性頭痛とは
一方、二次性頭痛は、何らかの原因が存在し起こる頭痛を指します。
代表的な原因として、脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)、脳腫瘍(のうしゅよう)、脳出血、くも膜下出血、髄膜炎(ずいまくえん)、脳炎、目の病気である緑内障(りょくないしょう)などが挙がります。
このほかにも様々な疾患で頭痛が引き起こされることがあります。
頭痛発症時どのように対応すれば良い?
一次性頭痛であっても二次性頭痛であっても、症状の強弱はまちまちです。
特に一次性頭痛であっても強い症状である患者様が多い印象です。
よって頭痛の強弱だけでは判断できるものではなく、頭痛以外の症状の有無も含めて評価します。
すでに頭痛に関して専門医によって一次性頭痛と診断がなされており、いつもと同じ症状であれば、経過観察とします。
頭痛に加えて血圧、体温、意識、呼吸、麻痺などの異常を伴う場合、脳出血、くも膜下出血、髄膜炎、脳炎など速やかに治療を施さなければならない疾患が隠れていることがあります。
意外だと思いますが、目の病気である緑内障も発作が起きると頭痛として発症し、そのまま放っておくと失明する可能性のある怖い病気です。
おわりに
普段悩まされる頭痛の背景には何かしらの疾患が隠れていることがあります。
速やかに診察を受けたほうが良い頭痛もあるため、かかりつけ医、救急病院へご相談ください。
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